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2022年3月

2022年3月21日 (月)

米子ホテル強盗殺人差戻審判決

広島高裁H31.1.24
鳥取地裁R2.11.30

<事案>
被告人が、約2週間前まで店長を務めていたホテルの事務所で金員を物色中、支配人Cに発見された⇒金員を強取しようと考え、殺意をもってCの頭部を壁面に衝突させ、頸部をひも様のもpので締め付けるなどして犯行を抑圧し、現金約43万2910円を強取し、その際、前記暴行により、Cに遷延性意識障害を伴う右側頭骨骨折、脳挫傷、硬膜下血腫等の傷害を負わせ、6年後に死亡させて殺害した強盗殺人の事案で、犯人性が争われた。

第1次上告審判決によって破棄された第一次控訴審判決(第一次一審判決の有罪部分を破棄して被告人を無罪とした)の差戻後の広島高裁の①事件判決(差戻後控訴審判決)と、同判決によって差し戻された鳥取地裁の②事件判決(第2次一審判決)
①事件判決は第一次一審判決の有罪部分(殺人罪及び窃盗罪による懲役18年)を破棄して鳥取地裁に本件を差し戻し、
②事件判決はこれを受けて強盗殺人罪の成立を認めて被告人を無期懲役に処した

●①事件判決(差戻後控訴審判決)
◎弁護人の事実誤認の主張
第一次一審判決が有罪の根拠として間接事実の認定及びその間接事実の総合判断としての有罪認定には論理則・経験則等に照らし不合理な点はない。

間接事実:
①被告人は犯行現場であるホテルの店長を務めていたことがあるところ、犯行現場の事務室は部外者には容易には分からない場所にある
②被告人は犯行時間帯に犯行現場近くに居た
③犯人は事務所から二百数十枚の千円札を持ち去っているところ、被告人は事件の翌日に自己の預金口座に230枚の千円札を入金し、かつその原資についての供述が信用し難い
④被告人は事件後に逃走するかの如き行動をしている

◎検察官の事実誤認の主張
第一次一審判決:
強盗殺人の公訴事実に対し、被告人の犯人性は肯定。
but
Cが犯行場所である事務室に入ったのは被告人の入室よりも前(=被告人はCの居る事務室に侵入したのであって、C不在時の物色行為はない)
⇒何らかの事情でそこに居たCを殺害しその後に金員を盗取した⇒殺人罪と窃盗罪が成立。

判断:被告人の侵入時刻を午後9時34分頃、Cの帰室時刻を午後9時40分以降と判断⇒被告人の物色中にCが帰室したと認定。

第一次一審判決には事実誤認があるとして、
①事件判決は、第一次一審判決の有罪部分を破棄し、鳥取地裁に差し戻した。

●②事件判決(第2次1審判決)
◎破棄判決の拘束力(夕食終了時刻の認定)
①事件判決が破棄した点は、夕食終了時刻に関する3のつの証拠(㋐従業員の証言、㋑コンピュータ記録からの推定、㋒従業員の救急隊員に対する時刻の説明)の評価の誤り。
㋑㋒については、その後の証拠調べや弁護人の主張に照らしても差戻後控訴審判決段階と実質的変動は生じていないからその判断に拘束される。
検討不十分とされた㋐の証拠と合わせて、夕食終了時刻を判断し、9時40分頃と認定。

◎被告人の犯人性
被告人を犯人と認定し、強盗殺人罪の成立を認めた。

<解説>
第一次上告審が第一次控訴審無罪判決を破棄したのは、
①被告人が事件の翌日に被害品と同種の230枚の千円札を所持していたのに、
②その千円札の入手経路に関する被告人の説明の信用性の検討が不十分であり、かつ、
③犯行時刻前後に被告人が犯行場所付近に居たことを含めた総合評価の仕方に問題あり。
「情況証拠によって認められる一定の推認力を有する間接事実の総合評価という観点からの検討」(最高裁H30.7.13)

より一般的な問題として、
被告人に不利益な間接事実についての被告人自身の説明に虚偽があると認められたときの「一定の推認力」については、形式的には一定の推認力といいながら、実質的には「決め手」となり、心証形成上のなだれ現象を引き起こすひきがねになりかねないとの指摘。

判例時報2505

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2022年3月18日 (金)

過労死で、一部の取締役の会社法429条1項の責任も認められた事例

東京高裁R3.1.21

<事案>
亡A(昭和35年生の男性)は、Y1社の従業員であり、B支社に勤務。
Aは平成23年8月6日に脳出血を発症し死亡。

X1はAの妻、X2、X3はその間の子。
Y2~Y4は、亡A死亡当時、Y1社の取締役。
Xらが、亡Aが脳出血を発症して死亡したのはY1社から長時間の時間外労働を強いられたことによるもの

Y1社には債務不履行(安全配慮義務違反)が、
Y2ないしY4には悪意又は重過失による任務懈怠がそれぞれあった

Y1社に対しては民法415条に基づき、
Y2ないしY4に対しては会社法429条1項に基づき、
総損害額からXらの自認する損益相殺をした後の残額及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めた。

<1審>
亡Aの死亡はY1社での長時間の時間外労働によるもの⇒Y1社の債務不履行責任を肯定。

その取締役であるY2ないしY4については、
B支社の工場長であえり、亡Aの直属の上司であったY4に限って軽過失あったにとどまり、
Y2ないしY4のいずれにも悪意又は重過失があったとは認められない⇒民法429条1項の責任を否定。

弁護士費用以外の損害額について、
亡Aの身体的素因等を理由とする過失相殺の類推適用⇒7割を減じた額をXらが相続、損益相殺をした後の残額に弁護士費用を加算した額と遅延損害金の限度で一部認容。

<判断>
亡Aの直属の上司であった取締役Y4について、
B支社に専務取締役工場長として常駐し、B支社における実質的な代表者というべき地位にあり、残業時間の集計結果の報告を受けて亡Aに過労死のおそれがあることを容易に認識することができ、実際にもかかるおそれがあることを認識していた
but
従前行っていた一般的な対応にとどまり、亡Aの業務量を適切に調整するための具体的な措置を講ずることはなかった。

亡Aの過労死のおそれを認識しながら、従前の一般的な対応に終始し、亡Aの業務量を適切に調整ために実効性のある措置を講じていなかった⇒Y4の重過失による任務懈怠を肯定し、会社法429条1甲所定の責任を肯定。

Y1社における業務とは無関係に脳出血の発症につながる要因を有していた亡A自身も、Y1に高血圧につき治療中である旨の虚偽申告を複数年にわたってしなければならないほど、自らの高血圧の症状が医師による治療を要する重篤なものである旨を十分認識していた。
亡Aが営業技術係の係長として同係の人員に業務を割り振ることができる裁量を有していたのに、自らの仕事を割り振らずに抱え込んでいたことがあるとしても、
会社としては自らの健康状態を十分に省みることなくその職責を果たそうとする職務に熱心な労働者が存在することも考慮した職務環境を構築すべき
⇒亡Aによる業務遂行方法に健康管理の観点から見て相当ではない点があったとしても、これを過失相殺の類推適用の考慮要素として過大評価すべきではない。

過失割合を5割とした。

<解説>
会社従業員が長時間労働により疾病を発症し、悪化し、又は死亡した場合に会社の債務不履行責任(又は不法行為責任)のみならず取締役の会社法429条1項(旧商法266条の3)所定の責任を認めた高裁の裁判例。

労災事故による損害賠償請求においても被害者に対する加害行為と加害行為前から存した被害者の疾患とが共に原因となった損害が発生⇒損害賠償の額を定めるに当たっては過失相殺の類推適用を肯定するのが判例。
近時の裁判例は、労働者側に損害の発生や拡大の要因が認められる場合であっても、使用者の安全配慮義務違反等を比較的緩やかに認めた上で、労働者側の事情を損害の公平な分担の観点から使用者側の損害賠償額を減額する場面(過失相殺の類推適用ないし訴因減額)で考慮する傾向。

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第三者によるなりすまし投稿の削除請求等

大阪地裁R2.9.18

<事案>
Y(グーグル)が設置、管理及び運営している「Googleの口コミ」というインターネット上のウェブサイトに、Xの氏名を逆に表記した投稿者名で記事が投稿されたことについて
自身になりすまして第三者に本件記事を投稿された⇒人格権に基づき本件記事の削除を求める
Yが、本件記事によってXの人格権が侵害されていることを知ったのに削除しなかった⇒民法709条に基づき損害賠償請求

<判断>
●争点①
人格権の一内容として、他人に氏名を冒用されない権利が認められ第三者に指名を冒用された者は、人格権を違法に侵害されたものとして、人格権に基づき、現に存在する侵害行為を排除するために氏名を冒用された投稿記事の削除を求めることができる
②本件記事は、Xの氏名が第三者に無断で使用されて投稿されたもの
⇒人格権に基づく本件記事の削除請求を認容。

●争点②
別件保全事件において、本件記事がXのなりすましによるものであることをYにおいて最終的に判断し得る情報が提供されたとまではいえない⇒その時点でXが他人に氏名を冒用されて本件記事が投稿されたことを認識できたとはいえない。
②別件保全事件における答弁書提出時点で本件記事を削除する条理上の義務を負っていたいとはいえない。

その後削除しなかったことに過失があるとは認められない。

<解説>
●最高裁昭和63.2.16:
氏名を正確に呼称されることの法的な利益性を認める判断をする前提として、氏名を他人に冒用されない権利も人格権の一内容を構成することを承認したものとされたと解されている。

最高裁H18.1.20:
一般論として、氏名を他人に冒用されない権利が違法に侵害されたときには、同権利に基づき侵害行為の差止めを求めることができる

●どのような判断枠組みで判断するか?
A:氏名を他人に冒用された場合には、氏名を他人に冒用されない権利が違法に侵害されたものと直ちに認められて、その侵害行為の排除を求めることができる。
B:プライバシーに属する事項に関する表現や名誉毀損に関する表現がされた場合などと同様に比較衡量を経て侵害行為の排除を求めることができる

本判決:
①氏名を他人に冒用されない権利が強固なものとして保護されている
②氏名を他人に冒用されない権利に優先すべき利益が投稿者や閲覧者にあつとは想定し難い
⇒Aの枠組みをとっている。

●投稿記事を削除しなかったことについて不法行為を認めた裁判例もある。

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2022年3月17日 (木)

保険金請求で免責事由の「重大な過失」が問題となった事案

福岡高裁R2.8.27

<事案>
AはYとの間で、Yを保険者とし、Aを保険契約者及び被保険者とする積立保険契約(本件保険契約)を締結。
Aは交通事故により傷害を追い、その治療のため入院して手術を受けた⇒本件保険契約における指定代理請求人であるXが、Yに対し、本件保険契約の総合医療特約、入院保障充実特約及び障害損傷特約による給付金合計160万円と遅延損害金の請求をした。

保険約款には「被保険者または保険契約者の故意または重大な過失」により給付金の支払理由に該当したときは、給付金を支払わない旨の免責条項。

<争点>
Aの重大な過失(免責事由該当性)の有無

<原審>
Aの重大な過失があった⇒Xの請求を棄却。

<判断>
Aに重大な過失があったということはできない⇒原判決を取り消し。

●重大な過失の意義
「重大な過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見するすることができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すべきもの。
「重大な過失」を基礎づけるに足りる被保険者等の行為(作為・不作為)は、保険事故発生の認識・認容があれば故意に保険事故を招致したともいえるようなものである必要があり、その立証責任は保険者にある。

●当てはめ
・・・現場周辺が暗い時間帯に前記のように車道を歩行した過失はある
but
①本件事故現場は、見通しのよい片側2車線の一般道路上の地点である
②当時の交通は菅さんとしていた
③前記の横断をしたとしても中央分離帯に沿って2分も歩けば防護柵の端に到達するこtが可能
④車道の第2車線の中央分離帯寄りを歩行していた可能性も高い

Aにおいて、前記の道路状況の下でAの後方から接近してくる車両の運転者が、前方を注視して走行することにより、Aの存在を認識して、僅かのハンドル操作により容易にAを回避して側方を通過すると期待することにも一定に客観的合理性があった。

Aには、ほとんど故意に近い著しい注意欠如という状態と評価することはできず、「重大な過失」があったということはできない。

<解説>
●車両の第2車線の中央分離帯寄りの位置で歩行又は一時的に佇立していた歩行者が交通事故に遭遇した保険事故に係る保険金請求。

●重大な過失について、
最高裁昭和32.7.9:
重大な過失について、「ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態」と表現し、
「ほとんど故意に近い」とは「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかな注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた」のに「漫然これを見すごした」場合

最高裁昭和57.7.15:
養老生命共済契約における災害給付金及び死亡割増特約金給付の免責事由である「重大な過失」とは、損害保険給付についての免責事由を定める当時の商法641条及び829条にいう「重大な過失」」と同趣旨のものと解すべき。

養老生命共催契約の被共催者が酩酊のうえ普通乗用自動車の運転を開始し、事故発生時に血液1ミリリットル中0.98ミリグラムのアルコールを保有しており、アルコールの影響のもとに道路状況を無視し、かつ制限速度40キロメートルの屈曲した路上を前方注視義務を怠ったまま漫然時速70キロメートル以上の高速度で運転し、レッカー車に衝突して死亡
⇒災害給付金および死亡割増特約金給付の免責事由である被共済者の「重大な過失」に当たる。

重大な過失の意義につき、
注意義務違反の程度が顕著である場合をいい、著しい注意義務違反(重大な過失)というためには、結果の予見が可能であり、かつ、容易であること、結果の回避が可能であり、かつ、容易であることが要件となるとする裁判例(東京高裁H25.7.24)。

過失は、客観的注意義務違反
注意義務違反は、結果の予見可能性及び回避可能性が前提となる。

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証拠調べの必要性及び民訴法220条4号ロ該当性について判断した事例

広島高裁R2.11.30

<事案>
自死した中学生の両親である抗告人らが、相手方(東広島市)に対し、公立中学校教員らによる過度の指導に原因がある⇒国賠法等に基づく損害賠償を求めた。

本件:抗告人らが、相手方に対し、自死の原因を調査するために、相手方の教育委員会が設置した調査委員会が、調査の過程で収集した資料について、抗告人が文書提出命令を申し立てた。
その資料の中には、生徒や保護者に対するアンケートの回答書や関係職員への聴取記録が含まれていた。

そもそも公表されることを予定していないことを前提として行われた⇒秘匿の必要性も高く、特別な配慮を要する情報が含まれている⇒対象文書の全てが民訴法220条4号ロのうちの「公務員の職務上の秘密に関する文書」に該当。

<原決定>
抗告人らが提出を求めた対象文書の全てについて、証拠調べの必要性がないか、あるいは、民訴法220条4号ロ(特に「その提出により公共の利益を害し、又は公務の執行に著しい支障を生ずるおそれあがるもの」の要件)に該当⇒文書提出義務を否定し、抗告人らの申立てを却下。

<本決定>
対象文書の一部にについて提出を命じた。

<規定>
民訴法 第二二〇条(文書提出義務)
次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。

四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書
ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)
ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書

<解説>
民訴法220条の4号ロの「その提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれ」の該当性について、

最高裁H17.10.14:
単に文書の性格から公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずる抽象的なおそれあがることが認められるだけでは足りず、その文書の記載内容からみてそのおそれの存在することが具体的に認められることが必要。

原決定及び本決定は、同判断基準に依拠して、いずれもインカメラ手続を行い、証拠調べの必要性を勘案して、当該文書の意味内容について分析検討し、その当てはめをする。
対象文書の記載内容ごとに要証事実との関連性を踏まえつつ、対象文書の収集過程にも踏み込み、他の証拠と代替性、文書所持者側の不利益性(第三者に対する権利侵害の有無を含む。)を分析検討する点は同じ。
but

本決定:
内容をより個別具体的に検討して、民訴法220条4号ロの該当性を判断
1通の文書を一体のものとして概括的に検討するのではなく、その意味内容を子細に検討し、文書の一部について提出を命ずべき部分を特定して命じている。

従来:
文書提出義務の判断については、証拠調べの必要性とは峻別した上で、文書の種類、性質から類型的に判断できる。
but

近時:
220条4号イないし二の各該当性の判断に当たっては、
文書の種類、性質から類型的に判断するのではなく、
当該文書の意味内容を踏まえつつ、証拠としての代替性の有無の個別事情も考慮に入れなかが、個別に検討
提出義務の存否について最終的な結論を導く際には、
真実発見、公正な裁判の実現との関係で、証拠調べの必要性についても勘案しながら、当該事案ごとに個別・相対的に判断されている。
その際には、開示を余儀なくされる文書所持者側の不利益について実質的で具体的なものが求められる当該文書に第三者の秘密やプライバシーが含まれている場合においては、真実発見と第三者の利益保護をいかに調整すべきかの配慮も併せて、当然、求められる

1通の文書の一部であっても、証拠調べの必要性のない部分又は提出義務のない部分を除外することができ、1通の文書内でも記載された情報の性質によって、提出を命ずる部分を限定することがでこいる(民訴法223条1項後段)
1通の文書を一体のものとして概括的に検討するのでは足りない。

判例時報2505

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2022年3月16日 (水)

都市計画を変更しないまま、公園の計画区域内に一般廃棄物処理施設への運搬車両のための専用道路を設置⇒市長が損害賠償義務を負う。

東京地裁R2.11.12

<事案>
東京都日野市の住人であるXらが提起した住民訴訟の事案
本件各契約の締結が違法⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、Y(日野市の執行機関である日野市長)を相手に、A視聴に対して損害賠償請求をすることを求めた。

<争点>
本件各契約の締結が財務会計法規上違法であるか否か
Xら:都市計画の変更をせずにされた本件通行路の設置は都計法21条をはじめとする関係各法令に違反し、本件各契約の締結は財務会計法規上違法
Y:本件通行路は、新クリーンセンターの稼働期間である30年間に限り暫定的に利用されるもの⇒その設置は都市計画の変更を要するものではない⇒本件各契約の締結に財務会計法規上の違法はない

<判断>
●本件通行権の設置が都計法上違法であるか?
いったん決定された都市計画につき、これを変更しないまま、当該都市計画と異なる都市施設をその計画区域に設置することは、その設置が当該都市計画の実質的な変更と評価されるものである場合には、都市計画法上違法の評価を免れない。

本件通行路は、廃棄物を運搬する車両のための専用道路であり、その設置が都市公園の効用を有するものとはおよそ認め難いところ、本件通行路が暫定的な利用に供されるものであるといえず、本件通行路の設置は本件都市計画の実質的な変更と評価すべきもの

本件都市計画と異なる都市施設である本件通行路をその計画区域に設置することは、都市計画法上違法。

●本件各契約の締結が財務会計法規上違法であるか?
本件各契約の締結に係るA市長の判断は、その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用となるものであることが明らかであり、地方公共団体の事務につき不必要な経費を負担させるものとして地自法2条14項及び地方財政法4条1項に違反
⇒A市長がその職務上負担する財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものと評価されるべき。

<解説>
●本件通行権の設置が都計法上違法であるか
◎ 都市計画は、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であり、これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられている(最高裁H18.11.2)。
都市計画の変更について、都計法21条1項は、都道府県又は市町村は、都市計画を変更する必要が生じたときは、遅滞なく、当該都市計画を変更しなければならない旨を規定するところ、都市計画の変更についても同様。

都市計画の変更に関する訴訟:
①都市計画を変更したことやその内容が争われることが典型的であるが、
②都市計画に係る事業を実施しない状態が長期間継続しているにもかかわらず、都市計画が変更又は廃止されないこと(不作為)について争われることもある。
本件は、①②のいずれの類型にも位置付けることができないもの。

●本件各契約の締結が財務会計法規上違法であるか
住民訴訟の対象は、地自法242条1項所定の財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものであり(最高裁昭和53.3.30)、住民訴訟で住民が主張し得る財務会計行為の違法は、財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる(最高裁H4.12.15)。

「財務会計法規」は手続上、技術的な狭義の財務会計法規のみを意味するものではなく、これらを含むところの当該職員が職務上負担する行為規範一般を意味すると考えられており、
非財務会計行為上の原因行為における一般行政上の違法との区別を明確にする趣旨の概念であるとされる。
道路を整備するという判断そのものは、財務会計行為に当たらない。
本件各通行路の設置のための本件各契約の締結が財務会計行為として本件の対象とされているところ、本件通行路の設置の判断に係る都計法違反が、契約締結に係る財務会計法規の違反を直ちに基礎付けるものとはいえないと考えられる。

本判決:
A市長は、日野市の執行機関として、本件都市計画の変更の手続を行うことにより本件通行路の設置に係る都市計画法上の違法を是正する権限を有していた。それにもかかわらず、A市長は、その権限を行使せず、上記の違法を是正しないまま、都市計画法上許されない本件通行路の設置をするため、債務負担行為である本件各契約の締結をしたことが、財務会計法規である地自法2条14項及び地財法4条1項に違反する。

◎財務会計法規上の義務違反について
・・・原因行為たる行政処分を取り消し得る権限を有している場合には、当該行政処分が違法なものであれば、長はこれを取り消すべきものと解され、これを取り消すことなく、当該行政処分を前提とする財務会計上の行為をすれば、長は財務会計法規上の義務に違反する

◎財務会計法規の適用条項について
地自法2条14項:地方公共団体がその事務を処理するに当たって、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない旨を規定
地財法4条1項:地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要かつ最小の限度を超えて支出してはならない旨を規定

当該職員が財務会計上の行為につき裁量権を有することを前提に、裁量権の行使について規律するもの。
契約締結に関する長の判断について裁量権の範囲の逸脱又は濫用が認められる⇒財務会計法規である前記各条項の違反が問題となる。

裁判例:
契約締結そのものは違法ではないが、契約代金額が適正額を超え高額にすぎるとして、適正額以上の部分の支出が不必要でありゆるあsれないという趣旨の主張が採用され、財務会計法規の違反として、前記各条項の違反が認められることがある。
廃棄物処理施設等に関する住民訴訟では、支出の対象とされる事業等の必要性や合理性がないからその費用の支出が不要であるとの趣旨で、地自法2条14項及び地財法4条1項の違反の主張がされることがある。

本件:
通行路の設置に当たり都市計画の変更の手続を経ていなかったことから、通行路の設置の合理性そのものではなく、都市計画を変更しないで当該都市計画と異なる都市施設をその計画区域に設置するという方法が都計法に違反しないかという形で争点化し、同法の違反が認められた。
都計法上の違法を是正しない状態における本件通行路の整備のための請負契約等の締結そのものが職務上の義務に違反するものとして許されない⇒裁量権の範囲の逸脱又はその濫用にものとして地自法2条14項及び地財法4条1項に違反すると判断。

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2022年3月13日 (日)

黙秘権・接見交通権の侵害での国賠請求(肯定事例)

熊本地裁R3.3.3

<事案>
当時19歳の少年Xは、当時11歳の女子児童に対して18歳未満であることを尻ながらその面前でわいせつな動画を見せたという、熊本県長年保護育成条例違反の被疑事実により逮捕。

Xが、前記逮捕・勾留中の取調べの際に熊本県警察の巡査部長であったAが黙秘権を告知せず、Xに対し黙秘権侵害となる発言をし、弁護人との接見内容に関する質問を行った⇒Y(熊本県)に対し国賠法1条1項に基づき慰謝料及び弁護士費用の支払を求めた。

<規定>
憲法 第三八条[不利益な供述の強要禁止、自白の証拠能力]
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
②強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
③何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

憲法 第三四条[抑留・拘禁に対する保障]
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

刑訴法 第三九条[被疑者・被告人との接見・授受]
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。

<判断>
●取調べにおけるAの黙秘権の告知及び発言
①Xが逮捕直後に弁護士から被疑者ノートを差し入れられ、取調べが終わった直後にその内容を同ノートに記載、同ノートに記載された各取調べの日付及び時間は概ね正確。
②同ノートにはXにとって有利な事実のみが記載されたものではない。
③Xが主張するAの取調べ中の発言のうち、Aが同趣旨の発言をしたことを認める部分もある。

同ノートにおいて黙秘権の告知の記載がない日の取調べについてはAから黙秘権の告知がなされなかったこと、Aが同ノートに記載された発言をしたことを認めた。

●黙秘権の侵害
憲法38条1項は、警察官が被疑者を取り調べるに当たりあらかじめ理解させなければならない手続上の義務を規定したものではない⇒警察官が被疑者を取調べるに当たり前記手続を執らないで取調べをしたからといって直ちに黙秘権侵害あるということはできない。
but
・・・逮捕権や捜索差押権等の強制力のある公権力を背景とする自らの立場を自覚し、黙秘権や接見交通権等の被疑者の権利に留意しつつ、取調べの目的や必要性に照らして相当といえる限度で取調べを行うことが義務付けられている。
・・・その後の取調べにおいてAがした「調べるうちにどんどん不利になるものばかり出てきている」、「黙ってても何にも前に進まんぞ」等の発言は、AがXにとって不利な証拠を既に捜査機関が多数収集していると誤認させ、黙秘権の行使がXにとって不利益ないし社会的な非難を受けるに値するとの誤解を与えかねないものであり、当時未成年であったXを精神的に圧迫なしい困惑させるもの
取調方法として相当性を欠き、Xの黙秘権を実質的に侵害

●Xの接見交通権の侵害
刑訴法39条1項に規定される接見交通権は、憲法34条の保障に由来し、接見内容を知られない権利を保証したものと解すべきであり、
捜査機関は、刑訴法39条1項の趣旨を尊重し、被疑者が有効かつ適切な弁護人等の援助を受ける機会を確保するという同項の趣旨を損なうような接見内容の聴取を控えるべき注意義務を負っており、捜査機関がこれに反して接見内容の聴取をすることは、捜査妨害行為等接見交通権の保護に値しない特段の事情がない限り、国賠法上違法

AがXに対し「弁護士さんと接見したときに目撃者がいてどうすればいいのか相談とかしてるんだろう」と発言

弁護士との接見の具体的内容を質問及び聴取する内容であることが明らかであり、X及び弁護士の側に捜査妨害的行為等接見交通権の保護に値しない事情等も見いだせない。
⇒Xの接見交通権を侵害。
but
AがXに対し「自分勝手なことを言って弁護人も聞いてくれるなら大したもんだな」と発言

Xと弁護士との接見の具体的内容を聴取するものではなく、自らの感想を述べたにすぎない
⇒前記注意義務に違反したとまではいえない。

<解説>
裁判例

判例時報2504

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自動車運転者を利用した殺人未遂の間接正犯が認められた事例

最高裁R3.1.29

<事案>
老人ホームで准看護師をしていた被告人が、
(1)同僚のAにひそかに睡眠導入剤を摂取させ、A車を運転して帰宅するよう仕向けた⇒走行中のAを仮睡状態等に陥らせ、A車を対向車線に進出させ、B運転車両に衝突⇒A死亡、B傷害
(2)同僚のC及びその夫のDに睡眠導入剤を摂取⇒D車事故でC、D、E傷害

自働車運転者を利用した間接正犯の事案。

被告人は、傷害罪のほか、
Aに対する殺人罪、
BCDEに対する各殺人未遂罪
で起訴され
A~Eに対する殺意を争う。

<1審・原審>
1審:各殺意を認め、懲役24年
⇒控訴

原審:対向車の運転者であるB及びEに対する殺意を認めた1審には事実誤認があるとして、差し戻し

当事者双方から上告
検察官:B及びEに対する殺意が認められるとし、刑訴法382条にいう事実誤認の意義等について判示した最高裁H24.2.13等の判例違反、同条の解釈適用の誤り、事実誤認等を主張。
弁護人:ACDに対する殺意を争うなどとして、刑法199条の解釈適用の誤り、事実誤認等。

<判断>
いずれも適法な上告理由に当たらないとしつつ、
職権により、検察官の上告趣意をいれ、
原判決には刑訴法382条の解釈適用を誤った違法がある⇒破棄して、被告人の控訴を棄却。

<解説>
●未必の故意と認識ある過失の区別
判例・実務:

認容説
死の結果に対する認識・認容を殺意と評価。
but
消極的認容に実質はなく、認容説を採用しているとは限らないとする見解。

第1審:
被告人の行為は、運転者、同乗者のみならず、巻き込まれた第三者を死亡させる事故を含め、あらゆる態様の事故を引き起こす危険性が高く、被告人はその危険性を現実のものとして認識していた。
⇒Aら及び事故に巻き込まれた第三者が死亡するかもしれないがそれでもやむを得ないという未必の殺意があった。

原判決:
・・・・死亡の可能性は低かった。
人が死亡する危険性が高いとはいえない行為についての殺意を認めるためには、人の死亡の危険性を単に認識しただけでは足りず、その人が死亡することを期待するなど、意思的要素を含む諸事情に基づいて、その人が死亡してもやむを得ないと認容したことを要する」という判断の枠組み。

Aらと事故の相手方を区別することなく、認識の対象となる危険性の程度を引き下げ、あらゆる態様の事故を引き起こす危険性の認識のみに基づいて殺意を認めた第1審判決は、判断枠組みないし認定手法を誤っている。
結果発生の認識・認容を要求する判例・実務の立場を前提としても、殺意の存否にとっては、死亡結果発生の危険性を十分に認識していたといえるかが決定的に重要であり、第1審判決と原判決の1次的な判断の分かれ目は、死亡の危険性及びその認識にあったといえる。

●最高裁H24.2.13:
刑訴法382条の事実誤認とは、第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいうものと解するのが相当である。⇒控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには、第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要。

本判決:
第1審判決を、被告人の行為には事故の態様次第で事故の相手方を死亡させることも具体的に想定できる程度の危険性があり、被告人はその危険性を認識しながらAやDに運転を仕向けたとして、B及びEに対する未必の殺意を認めたものと解し、認識の対象となる危険性の程度を引き下げているとの原判決の指摘は、必ずしも第1審判決を正解したものとはいえない。

死亡の危険性について、
①Aらが自らの判断で運転を止める可能性や他の者が運転を制止する可能性は低かった
②顕著な急性薬物中毒の症状を呈していたAらが仮睡状態に陥り、制御不能となったA車やD車がAらの自宅までの道路を走行すれば、交通事故を引き起こして事故の相手方が死亡することも十分あり得る事態

原判決は、第一審判決の危険性の評価が不合理であるとするだけの説得的な論拠を示しているとはいい難い。

死亡の危険性は低かったとする原判決の評価はそれ自体が不合理であるとするものか、確実性の高い経験則を用いておらず、第1審判決とは別の見方もあり得ることを示したにとどまり、不合理の論証には成功していないとするもの。

本判決:
被告人が、ひそかに摂取された睡眠導入剤の影響によりAらが仮睡状態等に陥っているものを現に目撃しており、第1事件の前にはその影響によりAが物損事故を起こしたこと、第2事件の前には第1事件でAが死亡したことを認識していた
⇒B及びEを含む事故の相手方に対する殺意を認めた第1審判決の判断に不合理な点があるとはいえない。

刑訴法382条の解釈適用の誤りは判決に影響を及ぼし、破棄しなければ著しく正義に反する。

判例時報2504

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2022年3月12日 (土)

医療法人の定款の解釈が問題となった事例

東京地裁R3.6.7

<本件>
昭和56年設立の医療法人Y1の社員であるXらが、Y1を退社したとして、出資の払戻しを求めた事案。

<主張>
Y1の定款:
7条1項で社員の資格喪失事由を定め、その3号で「退社」を掲げた上、
8条において「前条に定める場合の外やむを得ない理由のあるときは、社員はその旨を理事長に届け出て、その同意を得て退社することができる。」と」規定。

Xら:本件定款8条の「前条に定める場合の外」との文言
⇒同条は本件定款7条1項3号の退社の要件を制限したものではなく、同号とは別個の退社事由を定めたもの⇒Y1に対する通知をもってY1を退社

Y1:本件定款8条は、あくまで本件定款7条1項3号の退社の要件を制限⇒Xらの退社の事実は認められない⇒出資金払戻請求は認められない。

<判断>
本件定款8条の「前条に定める場合の外」との文言を形式的に解釈
⇒「退社」について、理事長のの同意を要する場合(同条)とこれを要しない場合(7条1項3号)が生ずることになり、本件定款における「退社」の概念の統一が損なわれる。
but
本件定款は、社員の一方的意思表示による退社と、理事同意による退社とを殊更に別異の概念として区別していない

前記文言に形式的に依拠するのではなく、
その内容を合理的に解釈して適用するのが相当。

①本件定款において、退社の手続について規定するものは本件定款8条のみであり、このほかに社員の一方的意思表示による退社の場合の手続を定めた規定はない。
②Y1の設立時、その出資持分は、理事長及びX1がそれぞれ約40%を有するなどしていたところ、ごく少数の者が多額の持分を有しているときに、Y1の存立が直ちに危うくなるような、社員による自由で一方的な意思表示による退社を認容する規定を置いたとはにわかには考え難い
③かねてより、医業については安定的な継続が必要であるにもかかわらず、出資持分のある医療法人においては、出資持分の払戻請求によりその存続が脅かされる事態が生じることが懸念される

本件定款8条は、「前条に定める場合の外」との文言にかかわらず、本件定款7条1項3号に規定する退社についての手続を定めた規定

<解説>
医療法人における退社社員の出資払戻しが問題となった事案:
最高裁H22.4.8
定款の解釈について:
A:定款が、その作成者のみならず、後に入社した社員や法人の機関をも拘束する自治法たる性格を有する⇒法の解釈と同一の原理によるべき。
B:原則としては法律行為の解釈方法によるべき。

法律行為の解釈:
当事者の共通の主観的意味を表示の客観的意味に優先させる見解が通説。
but
定款の解釈:
まずもって表示の客観的意味が優先されるべき。

平成22年最判:
モデル定款についての確立した行政解釈及び税務解釈をも踏まえ、表示の客観的意味に従って定款の解釈を示しているように思われる。
but
規定の文言のみからでは表示の客観的意味が必ずしも明らかでない
⇒一般の法解釈同様、その客観的意味内容を補充して解釈する必要。

補充解釈に当たっては、
定款全体の構成や規定の相互関係を見て問題となる規定についての客観的意味内容を探求することを基本としつつ、
いわば「立法者意思」として本件定款作成時の作成者の意思内容についても検討。

本判決では、医療法人を取り巻く状況にも言及

作成者の意思内容を推認させる間接事実として位置づけることもできようし、
社会状況の変動を踏まえた自由法論的な解釈を試みたものと見ることもできる

モデル定款を踏まえた定款の解釈については、法的安定性を考慮する必要
but
本判決では、モデル定款にいわば付加した文言の解釈が問題
⇒法的安定性の点は特に問題となっていない。

判例時報2504

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原子力規制委員会の発電用原子炉の設置変更許可が違法とされた事例

大阪地裁R2.12.4

<事案>
福井県等に居住するXらが、原子力規制委員会がZ(被告参加人・関西電力)に対してした大飯発電所3号機及び4号機に係る発電用原子炉の設置変更許可(本件処分)は、前記許可の申請(本件申請)が、当時の「実用発電用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」(設置許可基準規則)で定める基準に適合するものでないにもかかわらずされた⇒当時の各原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律43条3の8第2項において準用する43条の3の6第1項4号に反し違法⇒Y(国)に対して、その取消しを求めた

<争点>
本案の争点(本件処分の適法性)の中では、本件申請について、基準地震動の策定の点が設置許可基準規則4条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性が中心的な争点。

<解説>
設置許可基準規則4条3項:
耐震重要施設は、その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(基準地震動による地震力)に対して安全機能が損なわれるおそれがないもでなければならない旨を規定。

原子力規制委員会:
設置許可基準規則の解釈について、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」(規則の解釈)
⇒「断層モデルを用いた手法に基づく地震動評価」を実施しなければならない。

基準地震動の策定等に係る診察について、「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(地震動審査ガイド)
⇒震源モデルの設定について、地震調査研究推進本部による「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」(推本レシピ)等の最新の研究成果が考慮されていることを確認する旨など、規定。

<争点>
本件でへは、基準地震動の策定過程のうち、震源モデルの設定、特に地震規模(地震モーメント)の設定の当否が争われた。
具体的には、
①入倉・三宅式の合理性、
②入倉・三宅式に基づき計算された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値とすることの合理性
の双方が争われた。

<判断>
●司法審査の枠組みについて、いわゆる伊方原発訴訟最高裁判決H4.10.29に倣い、原子力規制委員会に専門技術的裁量を認める旨を説示。

●本件ばらつき条項の意義
地震動審査ガイドに本件ばらつぎ条項が設けられた経緯等



本件ばらつき条項の第2文(「その際、経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。」)は、
経験式を用いて地震モーメントを設定する場合には、経験式によって算出される平均値をもってそのまま震源モデルにおける地震モーメントとして設定するのではなく、
実際に発生する地震の地震モーメントが平均値より大きい方向にかい離する可能性を考慮して地震モーメントを設定するのが相当であるという趣旨をいうものと解される。
but
明示的に定められておらず、「経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある」と定められている。
⇒他の震源特性パラメータの設定に当たり、前記のような方法で地震モーメントを設定するのと同視し得るような考慮など、相応の合理性を有する考慮がされていれば足りる。

基準地震動の策定に当たっては、経験式が有するばらつきを検証して、経験式によって算出される平均値に何らかの上乗せをする必要があるか否かを検討すべきもの。

その結果、例えば、
経験式が有するばらつきの幅が小さく、他の震源特性パラメータの設定に当たり適切な考慮がされているなど、経験式によって算出される平均値に更なる上乗せをする必要がないといえる場合には、経験式によって算出される平均値をもってそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値とすることは妨げない。

●本件における検討
本件申請において基準地震動を策定する際、地質調査結果等に基づき設定した震源断層面積を入倉・三宅式に当てはめて計算された地震モーメントをそのまま地震モーメントの値としたものであり、
例えば、入倉・三宅式が経験式として有するばらつきを考慮するために、その基礎となったデータセットの標準偏差分を加味するなどの方法により、実際に発生する地震の地震モーメントが平均値より大きい方向にかい離する可能性を考慮して地震モーメントを設定する必要があるか否かということ自体を検討しておらず、現に、そのような設定(上乗せ)をしなかった。

・・経験式が有するばらつきについて検討した形跡はなく、また、地震モーメント以外の震源特性のパラメータの設定に当たり、・・・地震モーメントを設定するのと同視し得るような考慮がされたかという観点からの検討がなされた形跡もない。

本件ばらつき条項の第2文は、経験式が有するばらつきを考慮して、経験式によって算出される平均値に何らかの上乗せをする必要があるか否かということ自体を検討することを求めているのであるが、原子力規制委員会においてそのような検討をしたという主張も立証もない。

本件申請について、基準地震動の策定に当たり、入倉・三宅式に基づき計算された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値としているにもかかわらず、原子力規制委員会は、経験式である入倉・三宅式が有するばらつきを考慮した場合、これに基づき算出された値に何らかの上乗せをする必要があるか否か等について何ら検討することなく、本件申請が設置許可基準規則4条3項に適合し、地震動審査ガイドを踏まえているとした。

原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程には、経験式の適用に当たって一定の補正をする必要があるか否かを検討せずに、漫然とこれに基づいて地震モーメントの値を設定したという点において、看過し難い過誤、欠落がある。

新規制基準に基づいてされた設置変更許可処分について、基準地震動の策定に関する審査の不合理を理由としてこれを取り消した。

<解説>
●伊方最判
伊方最判は、前の法を前提とする判例。
but
原子炉施設の安全性に関する審査の性質等、伊方最判が行政庁に専門技術的裁量を認めな根拠となるべき事情は失われていないものと考えられる。
本判決:これに加えて、原子力規制委員会設置法により担保された原子力規制委員会の専門性・独立性に関する定めにも言及。
本判決:原子炉設置(変更)許可の段階における安全審査の対象が基本設計の安全性に関わる事項のみとする点についても伊方最判を踏襲。
but
新規制基準においては、基本設計と詳細設計の区別が相対化してきた旨の指摘。

●裁量権の範囲の逸脱・濫用についての司法審査の方法
近時の最高裁判例:
A:考慮事項に着目した審査
判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、
事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、
裁量権の範囲の逸脱・濫用となる旨の審査方法。

B:伊方最判の審査方法(審査基準に着目した審査)

Aの方法:
判断の過程において考慮すべき事項を考慮しないことが直ちに裁量権の範囲の逸脱・濫用になるのではなく、その結果、判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に裁量権の逸脱・濫用になる旨の指摘。

Bの方法:
行政実体法上、判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる否か等についての裁判所の判断の余地を基本的に否定されており、
裁判所は審査基準の合理性と審査基準の適用過程の合理性のみを審査することになる。

伊方最判の枠組みにおいては、「その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り」という限定がされていない⇒専門機関の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、行政庁の判断がこれに依拠してされていればそれだけで、当該判断に不合理な点があるものとして、当該判断に基づく処分は違法とされる

●本判決
伊方最判の枠組み(中程度の審査)にのっとって、審査基準である設置許可基準規制、規則の解釈、地震動審査ガイド(特に本件ばらつき条項)を解釈して、原子力規制委員会による審査基準の適用に看過し難い過誤、欠落があるかを審査した結果、これを肯定。

判例時報2504

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2022年3月 6日 (日)

精神科病院に医療保護入院中の身体的拘束⇒急性肺血栓塞栓症で死亡。身体的拘束の違法が認められた事例

名古屋高裁金沢支部R2.12.16

<事案>
Y(社会福祉法人)が運営するB病院で医療保護入院中に肺動脈血栓塞栓症で死亡したAの両親でくあるXらが、Yに対し、B病院の医師らがAに対し、
法令上の要件を充たさない違法な身体的拘束を開始・継続し、
身体的拘束による肺動脈血栓塞栓症の発症を回避するための注意義務(Dダイマー検査、バイタルチェックの徹底、水分量及び体重のチェック、心電図測定、早期離床及び積極的運動の心がけ、弾性ストッキングの装着、間欠的空気圧迫法の実施、拘束解除の際の監視等)に違反した過失によりAが死亡
⇒不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求。

<原審>
請求棄却

<争点等>
控訴審において、
Aの死亡についての暴行行為及び原審とは異なる注意義務違反(安易な水分制限、抗精神病薬の大量処方による副作用等)を理由とする損害賠償請求を追加(選択的併合)

争点:Aに対する身体的拘束の開始・継続の違法性の有無、損害の有無、損害額

<判断>
医師らの過失を認め、原判決を変更してXらの請求を一部認容

本件身体拘束の開始の違法性:
精神病院の入院患者に対する行動の制限に当たっては、精神保健指定医が必要と認める場合でなければ行うことができず、精神医学上の専門的な知識や経験を有する精神保健指定医の裁量に委ねられているとしても、行動制限の中でも身体的拘束は、身体の隔離よりも更に人権制限の度合いが著しいものであり、当該患者の声明の保護や重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いたもの
これを選択するに当たっては特に慎重な配慮を要する。

本件事実関係からすると、本件日時の時点で身体的拘束を必要と認めた医師の判断は、早きに失し、精神保健指定医に認められた身体的拘束の必要性の判断についての裁量を逸脱する
本件身体的拘束を開始したことは違法

本件身体的拘束の継続の違法性:
本件身体的拘束を開始した後の診療経過に照らしても、Aの生命又は身体に対する危険が及ぶおそれは生じておらず、本件身体的拘束が適法になることはなかった。
本件身体的拘束の開始及び継続は違法であり、Aは、本件身体的拘束により急性肺血栓塞栓症を発症して死亡。
YはXらに対して使用者責任に基づく損害賠償義務を負う。

<解説>
入院中の患者に対する身体的拘束の適否(違法性)が争点となった判例:

最高裁H22.1.26:
救急病院の当直看護師らが抑制具であるミトンを用いて入院中の患者の両上肢をベッドに拘束した行為は、次の㋐~㋒などの判示の事情の下では、
前記患者が転倒、転落により重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行われた行為であって、診療契約上の義務に違反するものではなく、不法行為法上違法ともいえない。


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横断幕・垂れ幕による建物建築中の業者への名誉毀損による不法行為(否定事例)

大阪高裁R2.9.10

<事案> Xらが、Xマンション建築中に、
Yは、Yマンションの1室のベランダに、
「想いを壊し。心を潰す。X2、X1は、民泊用マンションを隠ぺい、不誠実な対応で地域住民の不安をあおります。」との横断幕。
Yマンションの1室のベランダから、
「当マンション隣で建設中のX2・X1 東側ベランダを圧迫、日照・プライバシーを侵害」との垂れ幕を掲示。

Xがらが、Yマンションの外面に掲げられた本件横断幕及び本件垂れ幕の内容がXらの名誉を毀損していると主張し、Yに対し、不法行為に基づき、慰謝料及び遅延損害金の支払を求めるとともに、本件横断幕及び本件垂れ幕の掲示をしてはならないことを求めた事案。

<原審>
請求棄却

<判断>
XらがXマンションの民泊利用目的を隠蔽したとYにおいて信じるにつき相当な理由があるか
①X2は、ウェブサイトにおいてXマンションを「特区民泊プロジェクト」とうたい、民泊理由を主たる目的とするかのような記事を掲載
②XらのYマンションの住民に対する説明においては、賃貸目的である、民泊利用目的は決定ではなく計画中であるとしていた⇒Yは、Xらの前記の説明をもって、Xマンションの民泊利用目的を殊更に矮小化しようとしていると捉えた。

Yのこのような認識は、Xらの前記のような態度に基づくもの⇒このように信じるにつき相当な理由がある。

本件横断幕の「思いを壊し。心を潰す。」との記載が意見ないし評論の域を超えないか?
本件横断幕の「想いを壊し。心を潰す。」との記載は、X1のキャッチフレーズである「想いを築く。心に響く。」をもじったものであるが、これはXらの行為によってYマンションの住民の心情が害されているとの意見を表明したものと認められる⇒X1を誹謗中傷することを主たる目的とするものとは認められない。

●本件各行為が公益目的によりなされたものか
①本件横断幕及び本件垂れ幕には、明らかに虚偽とわかる事実が適示されているとは認め難いし、
社会的相当性を逸脱するといえるまでの表現行為は用いられていない
本件各行為は公益目的にされたものではないとするXらの主張は採用できない。
⇒控訴棄却

<解説>
名誉とは「人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」をいう。
法人もその保護の対象とされている。

事実摘示型の名誉毀損についての成立阻却の要件として、
①その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ
②その目的が専ら公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、
③適示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、
前記行為には違法性がなく、
仮に前記証明がないときにも、行為者において前記事実の重要な部分を真実と信じるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される。

論評型の名誉毀損の場合には、
その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、その前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉侵害の違法性を欠く。

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2022年3月 3日 (木)

保護処分歴のない少年が2件の万引きを起こした窃盗非行事件⇒第1種少年院送致

東京家裁R3.2.9

<事案>
保護処分歴のない少年が2件の万引きを起こした窃盗非行事件⇒第1種少年院送致

<解説>
●本件の特徴:
(1)非行事実は軽微といえなくもなく、
(2)保護処分歴がなく、
(3)注意欠陥多動症疑い
という資質麺の特性を有する少年に対して第1種少年院送致の判断。

●(1)非行事実の軽重
少年に対する処遇選択、要保護性の程度に即応することが基本となるが、
非行事実の軽重、社会防衛的配慮など総合的な要素を加味した総合的な判断となる。
大半の事件では、非行事実の軽重と要保護性は対応・相関
⇒実務でも、非行事実の軽重に対する評価を出発点に。

非行事実は要保護性(非行性)の顕在化と捉えられる⇒その動機・目的が本人の性格的な問題点を解明する観点から重視され、犯行後の対応なども環境的な問題として考慮。

非行の軽重は、単に行為と結果だけではなく、
非行に至る経緯や動機、常習性、組織性、計画性等の事情も加味して判断される。

本件:
2件の窃盗(万引き)
but
①少年は幼少期より窃盗を繰り返して再三の指導を受けていた上、
②直前の友人の制止も聞かずに窃盗に及んでいる
など非行の背景にある具体的な事情を検討し、
少年の規範意識に対する非難の程度や非行に至る経緯も併せて考慮
⇒「軽微な事案と評価することはできない」と判断。

●保護処分歴の有無
収容保護の不利益性の大きさ⇒収容保護への謙抑的な傾向や段階的処遇の考え方
but
保護処分が時機を失して非行性が深化してしまう場合も少なくない

結局は、事案の内容と要保護性の程度に即して健全な判断を個別的に下していくほかなく、初回係属でも少年院送致を選択することが必要な場合はある。

本決定:
少年に保護処分歴がないことは考慮されている
but
①非行事実に対する評価
②その背後で少年が抱える問題性
③資質面の課題の根深さ
④判断時点までの改善状況と今後の指導の必要性
⑤少年を取り巻く保護環境

少年の要保護性は高く、初回係属であることを踏まえても改善を図るためには収容保護を選択せざるを得ないと判断。

●資質面の特性に対する評価
少年の要保護性を検討するため、家裁調査官による社会調査が活用
少年保護事件の決定書では、
少年の資質面について、
犯罪類型に応じた問題性を意識しながら、社会調査の生物・心理・社会モデルにおいて指摘されているいわゆるB・P・Sの視点のうち、特に、B・Pの視点を踏まえた分析が行われているとされる。
資質面の説示に当たっては、非行事実と資質面の問題性がどのように関連するかを明確にすることが特に重要であるとされる。

本決定:
注意欠陥多動症疑いが指摘。
その資質面の特性が窃盗をはじめとする多数の問題行動につながっており、本件非行と強く関係している上、成育歴に起因した根深いものとなっていることを具体的に検討した上で、最終的な結論に結び付けている。

判例時報2503

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あおり運転で被害者死亡⇒殺人罪で懲役16年とされた事例

大阪高裁R1.9.11

<事案>
被告人車両(普通乗用自動車)で、被害車両をあおり、追突させて被害者を車両(大型自動二輪車)もろとも転倒させて死亡させた事案につき、殺人罪の成立を認めたもの。
車両による悪質な通行妨害の結果事故となり、被害者を死傷させた場合、危険運転致死傷罪(自動車死傷法2条)として処断されることが多い。

<争点>
殺意の有無

<1審>
被告人があえて被告人車両を被害者量に衝突させたと認定。
①被告人車両が普通乗用自動車、被害車両が大型自動二輪車という車両の違い、
②衝突時の状況として、被害車両は自足80kmを超える高速度で走行していた
③現場の交通量が多かった
被告人車両が被害車両に衝突すれば、被害者が被害者量んもろとも転倒し、死亡する危険は高かった

被告人もそのことを十分認識していたのに、被害者量に衝突してもかまわないという気持ちで衝突させた。
⇒未必的な殺意が認められる。

ブレーキを掛けたことや、衝突後110番通報していること
vs.
①衝突まで、相当高速度で被害車両を追い掛け、極めて接近した後にブレーキを掛けたものであり、
そのブレーキの掛け方も、時期的に遅すぎるし、不十分なもので衝突を回避できるようなものではない。
②110番通報も、状況的にみて衝突自体は発覚を免れようがなく、しかも、110番通報では、事故として届けている。⇒殺意のある者の行動として矛盾しない。

<判断>
●弁護人の、追跡の事実はなく、あえて衝突させたのではないとの主張を排斥。
「はい、終わり。」の発言について
弁護人:衝突事故を起こして落胆し、仕事ができなくなる意味
vs.
それまで、衝突事故を挟みながら、その直前直後は終始無言で驚きや狼狽を示すような言動は一切していなかったことや、その文言内容や口調、それまでの被告人の行動状況
⇒被害車両側に向けていた自身の行動がその段階で終わったことなどを自らに語りかけたと解釈できる

原判決が、被害車両との衝突との衝突が被告人の想定内の出来事であったことを推認させるとして、被害車両に衝突することの認識認容の根拠としたことに誤りはない。

●量刑:一審、控訴審とも、被告人を懲役16年(相当重い刑)。
被告人の殺意は弱い。
but
被害者には落ち度はなく、犯行動機に酌むべき点はなく、厳しい非難に妥当。

一時的な怒りに基づく殺人⇒けんかを原因とする殺人と類似。
but
互いに対立し合う中で怒りの感情を高ぶらせて殺害に至るというけんかの典型例と比べると、
①被告人が一人勝手に怒りを増幅させている点、
②被害者に落ち度がない点
でより重い刑罰がふさわしい

遺族が、自賠責保険金を得る可能性があることについて、刑を軽くする事情としてほとんど考慮することができない。

①生命侵害の場合、適切な金銭賠償がなされても被害が実質的に回復されるわけではない
②自賠責保険金額は適切な賠償の一部にとどまる上、加入が義務付けられ、被害者が直接保険会社に支払を求めることができる⇒加害者に量刑上の恩典を与えることにより、自賠責保険金による損害填補が促進されるという関係にはない。

<解説>
あおり運転の危険性
⇒「道路交通法の一部を改正する法律」(令和2年6月10日法律第42号)により「妨害運転罪」として、あおり運転自体が明確な取り締まりの対象となった。
(道交法117条の2の2第11号)

死傷の結果が発生した場合の、危険運転致死傷だけでなく、
あおり運転という行為自体(事故を起こさなくても)が処罰の対象に

同月12日に自動車死傷方が改正(令和2年法律第47号)されて、危険運転致死傷の行為類型に、あおり運転関係のものが追加され(2条5号、6条)
同日に改正(令和2年政令181号)された道交法施行令により、自転車もあおり運転取締りの対象となった(道交法施行令41条の3第15号)。

判例時報2503

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2022年3月 2日 (水)

民法上の配偶者が中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない場合

最高裁R3.3.25

<事案>
Xが、母であるAの死亡に関し、
Y1(独立行政法人勤労者退職金共済機構)に対し中小企業退職金共済法所定の退職金共済契約(Aの勤務先であった株式会社Bが締結していたもの)に基づく退職金の、
Y2(確定給付企業年金法所定の企業年金基金)に対しその規約に基づく遺族給付金の、出版厚生年金基金の権利義務を承継したY3に対し出版厚生年金基金の規約に基づく依存一時金の
各支払を求めた。

<主張>
中小企業退職金共済法及び前記の各規約(「法及び各規約」)において、本件退職金等の最先順位の受給権者はいずれも「配偶者」と定められているところ、
Xは、Aとその民法上の配偶者であるCとが事実上の離婚状態⇒Cは本件退職金等の支給を受けるべき配偶者に該当せず、Xが次順位の受給権者として受給権を有すると主張。

<判断>
民法上の配偶者は、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない。

<解説>
●社会保障給付に関する法令における遺族給付の受給権者となる「配偶者」については、
最高裁昭和58.4.14以後、
死亡した被保険者等がいわゆる重婚的内縁関係にある場合において、民法上の配偶者と内縁関係にある者のいずれが受給権者となるかが争われる事案で、
民法上の配偶者であっても、その婚姻関係が事実上の離婚状態にある場合には、前記受給権者となる配偶者に当たらないとの見解を基にした裁判例が積み重ねられてきた。

国家公務員の死亡による退職手当等
についても、その受給権者の範囲及び順位の定めが、職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とするもの(遺族の範囲及び順位について国家公務員と同様の定めを置く特殊法人の死亡退職金に関する最高裁昭和55.11.27等)その受給権者となる配偶者の意義についても、社会保障給付に関する法令における配偶者と同様に解すべき

本件では、
①法及び各規約における配偶者の意義についても、社会保障給付に関する法令等における配偶者と同様に解すべきか
②重婚的内縁関係の有無に関わらず、前記のように民法上の配偶者の一部を遺族給付の受給権者となる「配偶者」から除外すべきか

●①について
中小企業退職金共済法での遺族の範囲と順位は、給付の性格の最も似通っている国家公務員の退職手当に関する定めにならったものとされている。
確定給付企業年金法に基づく確定給付企業年金制度は、いずれも我が国の年金制度のうちいわゆる3階部分に当たる企業年金の制度であり・・・法令に支給要件やこれを受けることができる遺族の範囲等の定め置かれている。
本件退職金等の支給の根拠となるこれらの法令や規約の定めの内容
本件退職金等は、いずれも、遺族に対する社会保障給付等と同様に、遺族の生活保障を主な目的として、その受給権者が定められているものと解される。

本件退職金等は、民事上の契約関係等に基礎を置くものではあるものの、その受給権者となる法及び各規約における配偶者の意義については、社会保障給付に関する法令等における配偶者と同様に解するのが相当。

●②について
・・・重婚的内縁関係の有無に関わらず、民法上の配偶者は、その婚姻関係が事実上の離婚状態にあるときは、遺族給付の受給権者となる「配偶者」には当たらないと解するのが相当。

判例時報2503

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ソリリス投与⇒髄膜炎菌感染症⇒死亡 の医療過誤(肯定事例)

京都地裁R3.1.17

<事案>
女性患者A(当時29歳)が、血液内科で、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療のためソリリスの継続的な投与で、その副作用により発症率が高まる髄膜炎菌感染症で死亡。

Aの相続人であるXらが、本件病院の医師らには、後記の各注意義務に違反する過失があった

本件病院を開設するY1に対しては使用者責任、
病院長Y2に対しては代理監督者責任
主治医らY3~Y5に対しては不法行為責任
による損害賠償を求めた。

<争点>
①血液内科及び傘下の主治医(Y3~Y5)のソリリスの副作用周知義務違反
②助産師B及び参加当直医Cの受診指示義務違反
③産科当直医C及び血液内科当直医Dの抗菌薬投与義務違反
④前記各過失とAの死亡との因果関係
⑤損害

<判断>
●争点②のうち助産師Bの受診指示義務違反
争点③のうち血管内科当直医Dの投薬義務違反があったとし、
後者とAの死亡との因果間j系を認め、請求の一部を認容。

●争点①(ソリリスの副作用周知義務違反)について
①ソリリスの投与やその副作用への対応は血液内科の担当領域であった上、
②ソリリスの副作用については、患者カードを所持させて発熱等の症状があるときはこれを呈示するよう指示する対応をしていた

これを超えてソリリスの副作用情報を産科医師に周知すべき義務はなく、産科の主治医が他の医療従事者に同情報を周知すべき義務もない。

●争点②(受診指示義務違反)について
◎助産師Bの受診指示義務違反
保健師助産師看護師法で、じょく婦の保健指導を行う旨、異常を認めた時は医師の診療を求めさせなければならない旨が定められているところ、
Bが把握したAの症状及び当日の投薬内容⇒医師の指示を仰いだ上で対応すべき義務があったのに、これを怠った。

◎産科当直医Cの受診指示義務違反
①CがAの症状の詳細まで認識していなかったこと
②Eから「もういいです」と言われ、それ以上の情報を得ることができなかった
⇒Cに当該時点での受診指示義務違反はなかった。

●争点③(投薬義務違反について)
◎血液内科当直医Dの投薬義務違反
・・・Dは、Aをい診察した時点で添付文書にいう「疑い」を有していたと推察されるし、そうでなくても客観的に添付文書の「髄膜炎菌感染症が疑われた場合」の状況にあったといえる
⇒Dには投薬義務違反がある。

◎産科当直医Cの投薬義務違反
髄膜炎菌感染症と可能性があると考えた⇒速やかに抗菌役の投与を開始するのが最善の選択
but
ソリリスの投与を担当しその副作用にも責任を持つべき血液内科に対応を委ねることも、許容される次善の選択であった
⇒投与義務違反があったとはいえない。

●前記過失とAの死亡との因果関係
髄膜炎菌感染症は抗菌役がよく効く疾患であり、抗菌役の投与によって1~3時間で死滅するとされている
②統計資料では髄膜炎菌感染症の致死率は8~30%とされ、10%前後の数字を示すものが多い
③敗血症を発症した症例の致死率は40%程度とされるものの、Aが敗血症を発症したのは、抗菌役を投与すべきであった前記診察の約5時間後

Dの過失とAの死亡との間に因果関係がある。

助産師Bの過失については、仮にBがCの指示を求めていたとしても、Cが当該時点で受診を支持した可能性がどの程度あったかは定かではない⇒Aの死亡との因果関係を否定。

判例時報2503

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2022年3月 1日 (火)

訴訟での立証活動とプライバシー侵害

横浜地裁R2.12.11

<事案>
Xらが、Y(弁護士)は、別件各訴訟に当たり、書証申出のため、Xらの氏名、住所等が記載された、Yの所属弁護士会が作成した懲戒請求者一覧と題する書面(本件リスト(1))の写しを裁判所に提出したこと(本件提出行為)により、Xらのプライバシーを侵害
⇒Yに対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料及び遅延損害金の支払を求めた。

<判断>
民事訴訟においける主張立証活動は事実の公表を目的とするものではないが、訴訟記録が閲覧可能な状態に置かれることなどにより、結果的に公表と同様の効果をもたらすことがある⇒プライバシー侵害の成否が問題となり得る。
このような場面では、その事実を公表されない法的利益と当該主張立証活動に係る法的利益とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合には不法行為が成立

その判断の際、当事者が主張立証活動を尽くし、裁判所がこれを踏まえて事実認定及び法的判断を行うことにより私的紛争の適正な解決を実現するという民事訴訟の性格上、当事者の主張立証活動の自由を踏まえることが重要

Xらの氏名、住所など(本件各個人情報)の個人識別情報は、社会生活上のあらゆる場面で秘匿されるべき性質のものとはいえないが、
それらは本件各大量懲戒請求(1)を行った者に係る情報であるという点も踏まえた検討を要する。

①本件大量懲戒請求(1)は不法行為を構成するところ、本件リスト(1)は、Xの意思に基づかずにみだりに公表されることにより、Xらの社会的評価が低下するおそれがあることを意味する反面、
本件大量懲戒請求(1)からいまだ相当な年月を経たとまではいえない今日において、その性質上、社会一般の関心あるいは批判の対象となるべき事項にかかわるものであり、
②他方、本件各提出行為は、別件各訴訟におけるYの請求原因事実(同訴訟においてYが取り上げた個々の不法行為(懲戒請求)及びその加害者を特定し、当該行為と相当因果関係のある損害額の算定に影響する事情と位置付けられる本件大量懲戒請求(1)の全貌)の立証を目的としたものと理解することができる⇒直ちにその必要性を否定することは困難
本件各個人情報を公表されない法的利益と本件各提出行為の理由を比較衡量しても、直ちに前者が後者に優越するとまでは認められない。

<解説>
プライバシー侵害が問題となる事案において、最高裁判決は、比較衡量を用いた事案の解決に徹している。
他方、下級審判決では、訴訟においてプライバシー侵害が問題となり得る場合に、訴訟活動の性格も踏まえて検討を行う裁判例が認められる。

判例時報2503

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遺産分割未了の確認等をした調停調書が作成されている状況で、遺産分割協議の不存在の確認を求める訴えについて確認の利益が認められた事例

東京地裁R2.12.17

<事案>
XとYは、亡B(昭和37年死亡、当時のA社代表取締役)及び亡C(平成14年死亡、A社代表取締役)の子。
A社は、昭和28年設立当時、時計等の販売業⇒その後自社所有不動産管理業務を主力業務に。
Xは、Yを相手方として、平成29年8月31日、亡Cの遺産について、家事調停申立て、A社の2万株(ただし亡Bの生前に発行されていた株式数は2000株)については、亡Bがが8000株を、亡Cが12000株をそれぞれ所有していることの確認を求めた。
その後、平成29年12月20日の第2回調停期日において、遺産分割未了と、亡CがA社の株式2万株を所有していたことをそれぞれ確認する旨の調停調書が作成

Yは、東京家裁に対し、平成30年3月7日、本件調停は不成立で無効である旨主張し、本件調停事件の期日指定を申立て⇒東京家裁は、期日指定の職権発動をしない旨の判断。

Xは、東京家裁に対し、平成30年3月27日、Yを相手方とし、亡Cの遺産に関する遺産分割調停を申し立てた。

Y:平成30年7月23日、本件遺産分割調停事件については、平成14年6月21日に既に遺産分割協議が成立⇒遺産分割協議に応じることはできない旨の意見書を提出。

東京家裁は、平成30年7月23日、家事手続法271条(調停をしない場合の事件の終了)に基づき、調停をしない旨の決定をし、本件遺産分割調停は終了。

X:東京地裁に対し、平成31年2月4日、A社の株式2万株が亡Cの遺産であることの確認と、亡Cの遺産について遺産分割協議が存在しないこと確認をそれぞれ求める本件訴えを提起。

<争点>
①亡Cの遺産分割協議の有無
②亡Cの死亡時のA社の株式数
③本件調停条項の合意の有無
④本件調停がYの錯誤により無効か否か
⑤YによるA社の株式の短期取得時効の成否

<判断>
事実認定:
①亡Cの遺産分割協議の不存在
②亡Cの死亡時のA社の株式数が2万株であること
③本件調停条項の合意の存在
④本件調停におけるYの錯誤を否定
⑤A社の株式の時効取得についてのYの無過失を認めなかった

請求の趣旨第1:
A社の株式2万株の亡Cの遺産確認請求(「本件確認請求1」):
本件調停条項2(亡Cが死亡時にA社の株式2万株を有していたことの確認)は、
本件調停調書の記載に確定判決と同一の効力がある(家事手続法268条1項)としても、過去の法律関係を確認するものにすぎず、現在の法律関係の確認の訴えである本件確認請求1とは異なる⇒本件調停条項2から直ちに本件確認請求1が認容されることにはならない。

請求の趣旨第2:
亡Cの遺産の遺産分割協議の不存在確認請求(「本件確認請求2」)については、
本件調停条項1(亡Cの遺産分割未了確認)と確認時点が異なる点を除き全く同一の事項を再度確認することを求める訴え。
but
遺産分割協議の有無をめぐる紛争が再燃することを防止するため既判力がある判決を得る実益がある。
⇒確認の利益がある。

本件調停の錯誤無効を主張することにつき、
争いの目的である事項に関する錯誤の主張は民法696条所定の和解の確定効に反する⇒Yの錯誤無効の主張を排斥。

<規定>
民法 第六九六条(和解の効力)
当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする。

<解説>
●確認の利益
確認の訴えは、確認の対象が無限定であり、その請求を認容する確認判決の既判力のみ有するにすぎない民事訴訟の目的である「権利保護」や「紛争解決」にとって無意味な訴えを排斥するため、訴えの適法要件である「確認の利益」を必要とする

確認の利益は、
①確認訴訟によることの適否、
②確認対象選択の適否、
③即時確定の利益の有無
の観点から判断。

本件:
本件調停条項1(遺産分割未了確認)
本件確認請求2(遺産分割協議不存在確認)
とでは、確認時期が、
前者は本件調停時
後者は本件口頭弁論終結時
で効力の基準時が異なる

調停調書の「確定判決と同一の効力」(家事手続法268条1項)を既判力と解するか否かにかかわらず、調停調書記載の効力と本判決の効力とは抵触することはない。

裁判所としては、本件調停成立後の遺産分割協議の有無を認定して、それが存在しなければ、Xの請求を認容すれば足りる。

既判力を裁判所の判断の統一という民事訴訟制度にとって不可欠な制度的効力⇒当事者間の合意を主たる要素とする調停に既判力を認めるのは、困難。
調停調書の記載に反する主張は、民法上の和解の拘束力(民法696条)又は信義則等により排斥すれば足りる

●和解の確定効
民法696条:
和解の効力について、争いの目的である権利について互助して合意し、争いをやめた場合には、後日、和解に反する確証が得られたとしても、和解の効力を否定することができない旨規定。
~和解の確定効又は創設的効力。

当事者が和解によって譲歩したことを後から争うことができるとすると、和解で紛争を解決した意味がなくなる。
本件確認請求2は、民法上の和解の実質を有する本件調停条項1の合意に反するものであり、許されない。

和解の前提事項について錯誤があった場合には、前提事項自体は、争いがなく、和解で互譲して定めたものでもない⇒錯誤無効を主張することができる。

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