過小資本税制における「国外支配株主等」に該当するとされた事例
東京高裁R3.7.7
<事案>
内国法人である㈱Xが、かつてインサイダー取引規制違反により有罪判決を受けたこともある著名なアクティビスト投資家であってシンガポールに居住する非居住者であるAから、年利14.5%で合計164億円を借り入れ(「本件借入れ」)、これに対する本件利子を、その課税所得計算上損金に算入して法人税の確定申告
⇒
処分行政庁(渋谷区税務署長)から、Xは、その事業活動に必要とされる資金の相当部分を非居住者であるAから借入れによって調達⇒AはXにとって「国外支配株主等」に該当し、過小資本税制が適用される⇒当該支払利子の一部である約14億6250万円について損金算入を否認する旨の法人税等の更正処分等。
X:本件借入れが実行された時点ではAは住所地をシンガポールに移転しておらず、非居住者ではなかった⇒本件借入れに係る利子は、過小資本税制の適用対象となる「国外支配株主等に支払う負債の利子等」に該当しない⇒本件課税処分の取消しを求めた。
<争点>
①Xによる非居住者Aからの借入れが「非居住者等からの借入れ」に該当するか否か
②AとXとの間に事業方針決定関係があるか
<判断>
●Aは、平成23年7月4日に東京都渋谷区からシンガポールに住所地を移転、同月5日に非居住者
Xは、Aから同年6月30日から同年7月4日にかけて合計164億円に上る本件借入れをし、Aが非居住者となった同年7月5日から本件借入れが完済された平成平成24年3月7日までの期間にAに対して当該期間に対応する利子を支払った
⇒かかる支払利子は「国外支配株主等に支払う負債の利子等」に当たる。
「国外支配株主等」とは、非居住者又は外国法人(「非居住者等」)で、内国法人との間に、当該非居住者等が総数又は総額の100分の50以上を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係(租特法66条の5第4項1号)のあるもの。
①当該「特殊の関係」の例として、当該非居住者等と当該内国法人との間に租特法施行令39条の13第11項3号所定のイからハまでのいずれかの事実「その他これに類する事実が存在することにより、当該非居住者等が当該内国法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係」(「事業方針決定関係」)がある場合
②本件借入期間中の各月末時点におけるXの総資産額に占める本件借入れの額の割合は、最小の月でも59.91%、最大の月では75.24%
⇒
Xは、本件借入期間において、「その事業活動に必要とされる資金の相当部分を当該非居住者等からの借入れにより、調達ている」との要件(同号ロ)を充足
⇒AとXとの間には事業方針決定関係が存する。
⇒
AはXにとっての「国外支配株主等」に該当し、
本件借入れに係る利子は「国外支配株主等に支払う負債の利子等」に当たる
⇒当該利子の額のうち、過小資本税制に定められた所定の負債・資本持分比率である3倍を超える部分に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額につき損金算入を否認した本件課税処分は適法。
●X:本件借入れが実行された時点ではAは非居住者ではなかった⇒本件借入れに係る利子は「国外支配株主等」に該当しない。
vs.
①潜脱防止
②租特法施行令39条の13第11項3号ロは、租特法66条の5第1項の特例が適用される要件に係る「国外支配株主等」(同条4項1号)の定義に係るものであるところ、
同条1項は、「国外支配株主等・・・に負債の利子等を支払う場合において」と規定
⇒国外支配株主等に該当するか否かは利子等の支払時を基準として決定される。
⇒同条4項1号の「非居住者」であるか否か、政令だ定める特殊の関係があるか否かも、利子等の支払時を基準として決定される⇒租特法施行令39条の13第11項3号ロ所定の「当該非居住者等」も利子等の支払時における非居住者等を意味する。
③租特法施行令39条の13第11項3号ロは、事業方針決定関係の発生に通常寄与するものの例示として規定されているところ、仮に当該非居住者が居住者であった時期に借入れがされたとしてもも、その貸主・借主の関係は借入金が完済されるまで存続し、かかる関係が存続していれば、事業方針決定関係の発生に通常寄与するものと解される。
⇒
過小資本税制が適用されるためには貸付けの実行時において貸主が非居住者であることを要しない。
過小資本税制は、過大な貸付け自体を問題とするのではなく、内国法人が支払利子を損金の額に算入することによって法人税の負担を免れる一方、
利子を取得する者も所得税等の負担を免れるという事態(租税回避行為)を防止することを目的とする。
●事業方針決定関係の存否を認定するための判断手法に関し、租特法施行令39条の13第11項3号イからハまでに掲記の各事実は、事業方針決定関係の原因となる事実を例示したものと解することができる。
これらの掲記の事実その他これに類する事実により事業方針決定関係があるか否かの認定判断に当たっては、
取引、資金調達及び人事上のつながりを含め、当該事案において事業方針決定関係の発生に影響を及ぼすと考えられる諸般の事情を総合して認定判断を行うのが相当。
①本件借入れがXの事業資金の調達において極めて大きな比重を占めていた
②本件借入れによって調達した資金の使途についてXはAによる事前の承認を得なければならないものとされていた
③Aは、Xとの資本関係喪失後も事業資金の調達やAファンドの関係者との人的なつながりを通じてXに対する影響力を依然として有しており、
④本件出資の履行方法の選択や本件借入れに関連してなされたXの税負担の軽減を図るための一連の措置はいずれもAの主導により行われたものであって、
⑤Xの投資事業及び株式取引事業の運営や、Xの役員人事等の重要事項の決定についてもAが重要な影響力を行使していたものと認められる
⇒
AはXの事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係を有していたものと優に認めることができる。
判例時報2502
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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