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2022年2月13日 (日)

県知事の管弦楽団による演奏会出席の公務該当性

最高裁R3.5.14

<事案>
徳島県の住民であるXが、県知事であるAが管弦楽団の演奏会への出席のために公用車を使用したことは違法であり、公用車の燃料費並びに同行した秘書及び運転手の人件費に相当する額につき、県はA知事に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有するにもかかわらず、Yである県知事はその行使を違法に怠っている⇒地自法242条の2第1項3号に基づき、Yを相手に、当該怠る事実が違法であることの確認を求めた住民訴訟

A知事による21回の演奏会への出席が問題。

<1審>
20回の演奏会については、監査請求期間の徒過⇒却下
1回について棄却。

<原審>
1回について認容。
最高裁H18.12.1を参照し、その判断枠組みに従い、本件演奏会に出席する際の公用車の使用は違法。
A知事による本件演奏会への出席は、各種団体等の主宰すする会合に列席するなどの交際に該当。
but
県が本件演奏会の共催者にとどまり、A知事による挨拶等もされていない⇒特定の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において具体的な目的をもってされるものとは認め難い。
A知事が観客や主催者である市の首長等と意見交換もしていない⇒本件演奏会への出席は、相手方との友好、信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることはできない。
観客と同様の条件下で演奏会を体感し、今後の県政運営における判断材料とする必要性があるといい得るとしても、そのような必要性が認められるのは、せいぜい1、2回の出席のときにすぎず、本件演奏会についてそのような必要性があるとはいえない。

A知事による本件演奏会への出席が公務に該当するということはできず、その目的のために公用車を使用することは違法。

<判断>
決定で上告を棄却する一方、本件を上告審として受理。
県がその事業の一環として当該演奏会を共催したものであるなどの判示の事情の下では、
本件演奏会にA知事が出席したことは公務に該当。
公用車を使用したことに違法があるというべき事情は見当たらない。

<解説>
●普通地方公共団体の長がした行為が公務に該当するか否かの点について一般的な判断基準を述べた最高裁判例は見当たらない。
地自法2条2項に照らし、その行為が、当該普通公共団体の「事務」に当たるのであれば、公務に該当すると考えられる。
普通地方公共団体が一定の行政区域内において行政権能を担う統治団体であって、地自法1条の2第1項に規定された、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うという地方公共団体の役割を果たすために、住民福祉の向上を目的として行政事務一般を広く処理する権能を有していること(地自法2条2項)を考慮して、普通地方公共団体の事務該当性を判断。
普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を統轄して、これを代表し、また、その事務を管理し及びこれを執行(地自法147条~149条)
⇒対象となった行為が、普通地方公共団体の事務に当たるのであれば、首長自らがその行為をするか、部下職員に命じてさせるかについては、首長の合理的な裁量に委ねられている。

本件演奏会の共催が県の事務⇒その首長であるA知事がこれに出席することは公務に該当。
それに際して公用車を使用するか否かはA知事の裁量に委ねられる。
⇒県がA知事に対し損害賠償請求権を有しているとはいえないことになる。

●原審は、本件演奏会に係る請求を認容。
but
何をもって請求権発生の事由と捉えたのかが必ずしも明らかでないように思われる。
A:公務に当たらない用務について公用車を利用した行為そのものが違法であり、これにより発生する損害賠償請求権の行使を怠ることが違法であるとする構成(いわゆる真正怠る事実)
B:公金の支出という財務会計行為が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の行使を怠ることが違法であるという構成(いわゆる不真正怠る事実)

原審:本件で問題とされた21回の演奏会のうち、20回の演奏会については、監査請求期間の徒過を理由に却下⇒前記Bとして捉えていると考えられる。
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そうなら、実体判断をした本件演奏会についても、同様にBとして捉えていると理解。
but
そうであれば、公金の支出に関して知事がどのような権限を有しており、どのような財務会計法規上の義務に違反したか等を検討しなければ、請求を認容できないはず。

●本判決:県知事が管弦楽団による演奏会に出席したことが公務に該当するかについて、最高裁が判断を示したもの。

判例時報2502

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