児相による面会通信制限を理由とする国賠請求(一部肯定)
宇都宮地裁R3.3.3
<事案>
Z1児童相談所(本件児相)の所長(本件児童相談所長)が、児福法33条によりX1及びX2の子であるAを一時保護し、児福法33条X1及びX2の子であるAを一時保護し、児福法27条1項3号に基づく入所措置を行って児童養護施設に入所させ、児福法12条2項、11条2項2号二に定める行政指導としての面会通信制限を継続したことについて、本件児相が行政指導としての限界を超える違法な面会制限を行ったことにより重大な精神的苦痛を生じさせた⇒Xらが本件児相を所轄するY(栃木県)に対し、慰謝料を請求。
H29.1.26:本件児相に対し、匿名で、A(平成18年生)が虐待を受けているとの通告⇒職員がAと面接⇒同月27日付けでAを一時保護する決定、同年3月31日に同保護を解除したうえで、Aを児童養護施設に入所させる措置を決定。
本件児童相談所長は、Xら及びAに対し、本件一時保護の決定以降、X2(Aの母)については平成31年2月5日まで、X1(Aの父)については同年12月4日まで、児福法11条1項2号ニ所定の「その他必要な指導」(行政指導)としての面会通信制限を行った(本件指導)。
X2は、平成29年4月から5月にかけて繰り返し本件児相に電話を掛け、祖父宅への引取りを早期に認めてほしいと申し入れた。
本件児相職員:AはX1により虐待されてことを離しており、ある程度の長期の施設処遇が必要と考えらる⇒たとて祖父宅であっても早期に家庭に戻すことは考えていない旨回答。
Xら代理人弁護士:平成29年11月8日に本件児相を訪ね、AとX2との面会、AとX1との手紙での交流の開始を求めた。
平成30年3月9日に電話で本件指導の中止等を求め、同年5月9日には本件児童相談所長及びYに対し、本件指導の中止等を求める内容証明郵便を発送。
本件児相:同月18日に、Xらに対し、現時点で親子面会の機会を設けることはできない旨を記載した事務連絡文書を送付。
⇒
Xらは、同年7月31日に、本件訴訟を提起。
⇒
同年12月18日に、X2とAの面会開始を決定。
平成31年2月5日に、X2がAと面会する機会を設けた。
<判断>
虐待を受けた児童の保護者が行政指導としての面会通信制限に対して、不協力・不服従の意思を表明している場合であっても、当該保護者が受ける不利益と前記行政指導の目的とする公益上の要請とを比較衡量して、前記行政指導としての面会通信制限に対する当該保護者の不協力が社会に照らし客観的に客観的にみて到底是認し難いといえるような「特段の事情」が存在⇒前記面会通信制限を中止せず、これを継続したとちても、その限度において国賠法1条1項の適用上「違法」であるとの評価は成り立たないものというべき。
but
当該保護者において、児童相談所所長に対し、行政指導としての面会通信制限にもはや協力できないとの意思を「真摯かつ明確に表明」し、直ちにその中止を求めているものと認められる⇒前記「特段の事情」が存在するものと認められない限り、前記面接通信制限の」措置を継続する児童相談所長の対応は、国賠法1条1項の運用上「違法」との評価を免れないと解するのが相当。
①X1は、相当長期にわたってAに対し日常的に暴力等による身体的虐待を行い、これによりAに対して身体的だけでなく心理的にも深刻なダメージを与えており、Aに対して面会通信を求める権利を大きく制限されても」やむを得ない立場にあった
②AもX1との面会を拒絶する態度を続けていた
⇒
X1との関係では、前記「特段の事情」の存在が認められる。
X2については、社会通念に照らし客観的にみて本件指導への不協力が到底是認し難いものといえるような「特段の事情」の存在は認められない⇒本件児相所長が平成30年5月18日以降もX2とAの面会通信制限を継続したことは、X2の面会通信に関する権利又は法的利益を違法に侵害したというべき。
<解説>
児福法27条1項3号、33条の規定による措置
⇒児童相談所長は、児童虐待の防止及び児童の保護の観点から、面会、通信の制限をすることができる(児童虐待防止法12条)。
児童相談所の所長及び所員には児童の福祉等に関する一定の専門的知識を有することが求められている(児福法12条の3)⇒児童と保護者との面会、通信の制限の必要性の有無についての判断は、児童相談所長の専門的合理的な裁量に委ねられており、その判断が著しく不合理であって裁量の逸脱又は濫用と認められる場合に限って違法となる(東京地裁H25.8.29)。
児童権利条約10条は、家庭の再統合のため、父母と異なる国に居住する児童が、例外的な事情がある場合を除くほか定期的に父母との人的な関係及び直接の接触を維持する権利を有する旨規定
⇒最近の裁判例でも、子と非監護親との面会交流は基本的に子の健全な成長にとって重要な意味があるという前提から、子の福祉を害すると認められるような例外的な場合を除いて、実施の意義を認める傾向。
東京家審24.6.29:申立人(非親権者親)と情緒障害児短期治療施設又は児童養護施設に入所中未成年者らとの面会交流について、その具体的な日時、場所及び方法を入所施設と協議して定めることを留保した上で、相手方(親権者母)に面会交流の妨害の禁止を命じる判断。
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子が施設入所中であること自体が、面会交流の禁止・制限事由に当たるとは解していない。
本判決:
本件児相所長は、児福法12条2項、11条1項2号ニに定める「その他必要な措置」の在り方やその内容について高度な専門的・技術的知見に基づく広範な裁量を有するものと解される
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これはあくまで行政指導の一般原則(行手法32条)の枠内において認められるにとどまる⇒「その他必要な指導」に対する不協力が真摯かつ明確な意思によって表明された場合には、前記2の「特段の事情」の判断を含め、本件児相所長の前記裁量権は収縮・後退するものと解するのが相当。
<規定>
行手法 第三二条(行政指導の一般原則)
行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
<本件>
児童と保護者との面会、通信の制限の違法性が争われたこれまでの裁判例で、保護者側からの国賠請求を棄却するものが多い中で、請求を一部認容したもの。
判例時報2501
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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