« 2022年1月 | トップページ | 2022年3月 »

2022年2月

2022年2月27日 (日)

判断能力が低下した高齢者への継続的な宝石等の販売について、取引を一旦中断すべき注意義務を負うとされた事案

東京地裁R2.1.29

<事案>
昭和7年生まれの男性であるXが、宝飾品等の販売を行う株式会社であるYに対し、Yは、平成12年2月から平成28年3月までの間にかけて、判断能力が低下した高齢者であるXに、過量かつ不必要な宝飾品、衣類等を繰り返して販売した⇒不法行為に基づく損害賠償として、損害金6042万2439円及びこれに対する民法所定の遅延損害金を請求。
Xは、平成28年12月、アルツハイマー型認知症及び脳血管障害との診断を受け、Xの長男であるAの申立てにより、家庭裁判所において、後見を開始し、Aを成年後見人とする旨の審判を受けた。

<主張>
X:Yが、判断能力の低下した高齢者であるXに対し、過量かつ必要のない宝飾品、衣類等を繰り返し販売して、合計5492万9490円もの代金を受領したもので、不法行為を構成する。
Y:本件取引当時Xは、十分な判断能力と資力を有しており、YもXの判断能力又は資力を疑うべき事情を何ら認識しておらず、Xに商品の購入を強要するような販売態様でもなかった⇒本件取引は不法行為に当たらない。
仮に、本件取引が不法行為に該当する場合には、本件で現れた諸事情を考慮して過失相殺がされるべきである。

<判断>
●本件取引の対象となった商品の種類や分量、回数、期間、本件取引当時のXの年齢、収入といった生活状況⇒客観的に見れば、本件取引はXにとって、その生活に通常必要とされる分量を著しく超えた過大な取引
but
売買取引が客観的に買主にとってその生活に通常必要とされる分量を著しく超えた過大なものであったからといって、当該取引が当然に売主の買主に対する不法行為を構成するものではない

売主であるYにおいて、本件取引が買主であるXにとってその生活に通常必要とされる分量を著しく超えた過大な取引であることを認識していたと認められたかについて検討する必要

B店のXの担当レディであるCは、本件取引の対象となった商品の種類、分量、回数、期間の事実やXの生活状況等を認識していたものと認めるのが相当であり、Cは、本件取引が、Xにとって、その生活に通常必要とされる分量を著しく超えた過大な取引であることを認識していたものと優に推認できる
but
どのような理由でどの商品についてどの程度の売買取引をするかは、個人的には個人の自由な判断にゆだねれている⇒Xが健全な判断能力の下で自由に形成された意思に基づいて本件取引をしたのであれば、直ちに社会通念上許容されない態様でXの利益を害する違法なものであったということはできない。
but
Xの判断能力は、平成25年12月時点では、高額な取引をするのに必要な能力という観点からは、既に相当程度低下していたというべきであり、
CとB店の店長は、本件取引において遅くとも平成25年12月までには、Xの判断能力が相当程度低下している事実を認識し、又は容易に認識し得た。
・・・・本件取引において遅くとも平成25年12月までには、本件取引がXにとって、その生活に通常必要とされる分量を著しく超えた過大な取引であることを認識していた。

平成25年12月時点では、Yは、社会通念に照らし、信義則上、Xとの本件取引を一旦中断すべき注意義務を負っていた。

平成25年12月以降も、YがXとの取引を中断せず、本件取引を継続したことは、社会通念上許容されない態様で買主であるXの利益を侵害したものとして、不法行為法上違法と評価される


①Xは、Xの長男であるAに相談できた
②Aは、平成21年12月頃には、Xが住む母屋と同じ敷地内にある離れに引っ越してきており、Xの生活状況を認識していた

Aは、Xと身分上も生活関係上も一体をなすとみられるような関係にあり、平成25年12月以降は本件取引の継続による損害の拡大を阻止することができる立場にあった
⇒X及びAの落ち度は被害者側の過失として考慮すべきものであり、その過失割合は、3割。

<解説>
法理論上、判断能力が衰えた高齢者の取引における救済手段としては、
①契約の拘束からの解放とそれによる支払免除及び返金にあたる不当利得返還請求と
②損害賠償請求
が考えられる。

本件は継続的取引の途中に判断能力が衰えた事案⇒②の方法によった。


金融商品取引の場合:
いわゆる適合性原則違反を根拠にしたり、信義則を根拠とする説明義務違反に基づく損害賠償請求。
but
本件は金融取引ではない⇒信義則を根拠にした取引停止義務を一定の要件で認めて損害賠償義務を認めた

判例時報2503

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

青空駐車場内の公道との出入口付近での事故と過失割合

東京高裁R3.2.10

<事案>
スーパーマーケット敷地内の青空駐車場で
駐車スペースに入れるためにの駐車動作として後退進行中の先行車の後部右側と、
公道から青空駐車場に侵入して最後部が行動にはみ出さない程度の位置で停止中の後行車の全部右側が、
青空駐車場内の行動への出入口から数メートルの地点において衝突するという物損事故。

駐車動作中の先行者の所有者兼運転者(X・被上告人)が、停止中の後行車の運転者(Y1・上告にン)に対して修理費用相当額及び弁護士費用の支払を求める事件と、
停止中の後行車の所有者(Y2・上告人)が駐車動作中の先行者の所有者兼運転者(X)に対して修理費用相当額及び弁護士費用の支払を求める事件が、
併合審理。

<争点>
双方の過失割合

<1審>
停止中の後行車(Y1):過失3割
駐車動作中の先行車(X):過失7割

<控訴審>
停止中の後行車(Y1):過失7割
駐車動作中の先行者(X):過失3割

<判断>
1審と同じ

<解説>
●控訴審判決:
過失相殺率の標準的認定基準における駐車場内の事故であって、通路を進行する後行者(Y1)と通路から駐車区画に侵入しようとする先行車(X)との事故の基本過失割合(通路進行後行車(Y1)が8割、駐車区画侵入先行者(X)が2割)を基本にしつつ、
駐車区画侵入先行車(X)に通論進行後行車(Y1)を注視しなかったという過失があることを考慮して、過失割合を、通路進行後行車(Y1)が7割、駐車区画侵入先行車(X)が3割とした。
駐車動作に入っている車両に課される注意義務の程度(基本過失割合)が低い

駐車場は駐車のための施設であり、駐車動作に入っている車両を認めた他の車両は、その駐車動作を妨げないようにしたり、注意喚起動作をしたりするなど、駐車動作に入っている車両よりも重い注意銀無がある。

●本判決:
過失相殺率の標準的認定基準における駐車場内の事故というのは、駐車場内のうち公道の通行の安全に影響のないエリアにおける事故を指す。
⇒本件のように公道への出入り口から数メートルの地点において、後行車が公道から侵入してその最後部が公道にはみ出さない程度の位置で停止中という状態で発生した事故とは前提を異にする。

通行進路後行車(Y1)は、駐車区画侵入先行車(X)の駐車動作を妨げないことのみならず、公道上の交通安全(自車の車体後部を公道上に残さない)にも配慮しなければならない状態にあった
駐車区画侵入先行者の運転者(X)も通路進行後行車(Y1)がこのような状態にあったことを分かっていた

駐車場内の事故についての過失相殺率の標準的認定基準を、本件に適用することは、適当ではない。

駐車区画侵入先行車(X)が通路進行後行車(Y1)を注視していなかったこと、
通路進行後行車(Y1)が注意喚起措置をとらなかったことと
という双方の過失を比較検討し、
通路進行後行車(Y1)不注視という駐車区画侵入先行車(X)の過失の方が重いと判断。

判例時報2503

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

負担付相続させる旨の遺言の取消し(民法1027条類推)が問題となった事案

仙台高裁R2.6.11

<事案>
原審申立人と抗告人(原審利害関係参加人)の父(遺言者)は、遺言公正証書をもって、遺言者の有する一切の財産を抗告人(長男)に相続させるとともに、この相続の負担として、抗告人が原審申立人(二男)の生活を援助するものとの負担付遺言(本件遺言)をした。
遺言者は、原審申立人に対し、生活費の援助として最低でも月額3万円を送金しており、遺言者が死亡した後は、抗告人が引き続き月額3万円を送金。
原審申立人:平成29年5月以降、生活援助の義務の履行がなくなった⇒抗告人に対し、書面で、本件遺言で定める義務の履行を催促したが、相当期間が経過しても抗告人が義務の履行をしなかった⇒民法1027条により本件遺言の取消しを求めた。

<規定>
民法 第一〇二七条(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

<原審>
負担付相続させる旨の遺言は、遺産分割の指定。
but
その権利移転効果は遺贈に類似。
遺言者の意思を推測すれば民法1027条の準用を認めるべき。

①遺言者としては、全ての財産を抗告人に相続させる代わりに、原審申立人の存命中は少なくとも月額3万円の経済的な援助を原審申立人にすることを法律上の義務として抗告人に負担させる意思であった。
② 抗告人は、原審申立人からの催告後、相当期間内に本件遺言の定める義務の履行をしなった。

本件遺言を取り消す旨の審判。

<判断>
本件遺言により、抗告人には「原審申立人の生活を援助すること」、すなわち、少なくとも月額3万円を援助する義務があることを認める

他方で、
①本件遺言の文言が抽象的であり、その解釈が容易でない。
②抗告人は今後も一切義務の履行を拒絶しているものではなく、義務の内容が定まれば履行する意思がある

抗告人の責めに帰することができないやむを得ない事情があり、本件遺言を取り消すことが遺言者の意思にかなうものともいえない

原審判を取消し、原審申立人の申立てを却下。

<解説>
負担付「相続させる」旨の遺言は、遺産分割方法の指定をしたものであり、負担付遺贈とは異なる
but
①権利移転の効果は遺贈に類似
②遺言者の意思からすれば、民法1027条の類推適用を認めるべき

負担付相続させる旨の遺言についても、負担付遺言の取消申立ての審判の申立てを認める。

ここにいう取消しは、債務不履行を理由とする契約解除に類する概念

一部の履行があったのみでそれでは負担付遺贈の目的を達せられないときは取消しを認めていい。
未履行部分が僅かな場合には取消しはできず、また、負担を履行しないことが受遺者の責めに帰すべき事由によることが必要

本件:
「法律上の義務としての負担の範囲、不履行の程度、遺言者の意思、受益者の利益など」を事案に即したものとはいえ、具体的に認定し、
負担の履行がないことを理由として遺言の取消しを認めるのが遺言者の意思に沿うか否かを検討しつつ、受遺者の責めに期すべき事由があるかを判断

判例時報2503

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

懲罰的損害賠償を含む外国判決について一部弁済がされた場合の執行判決

最高裁R3.5.25

<事案>
Xらは、カリフォルニア州において日本食レストランを経営する会社及びその設立者ら
Y:主として不動産関連事業を営む日本企業

同州オレンジ郡上位裁判所は、平成27年3月、XらのYに対する損害賠償請求訴訟(前記会社のビジネスモデル、企業秘密等をYが領得したなどと主張)において、Yに対し、補償的損害賠償等として約18万5000ドル及び同州民法典の定める懲罰的損害賠償として9万ドル合計27万5000ドル並びにこれに対する利息をXらに支払うよう命ずる判決を言い渡し、その後確定。
本件外国裁判所は、同年5月、Xらの申立てにより、本件外国判決に基づく強制執行として、Yの関連会社に対する債権等をXらに転付する旨の命令を発布し、Xらは、同年12月、本件転付命令に基づき、約13万5000ドルの弁済を受けた。

<経緯>
判例(最高裁H9.7.11):
外国判決のうちカリフォルニア州未納店の定める懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分は、我が国の公の秩序に反する⇒その効力を有しない。

本判決は、第2次上告審判決であるところ、前判決を前提に、本件外国判決のうち執行判決をすることができる範囲が争われた。

本件の第1次上告審では、Yに対する判決の送達がされないまま本件外国判決が確定したという本件外国判決の訴訟手続きが我が国の公序に反するか否かが争われ、第1次上告審判決は、公序に反するとした第1次控訴審判決を破棄し、事件を原審に差し戻した。

<原審>
本件外国判決のうち懲罰的損害賠償として9万ドル及びこれに対する利息の支払を命じた部分は、我が国の公序に反する
but
カリフォルニア州において本件懲罰的損害賠償部分に係る債権が存在することまで否定されるものではなく、本件外国裁判所の強制執行手続においてされた本件弁済は、前記債権を含む本件外国判決に係る債権の全体に充当されたとみるほかない。

本件外国判決の認容額(約27万5000ドル)から弁済額(約13万5000ドル)を差し引いた残額(約14万ドル)について債権の行使を認めても公序に反しない⇒本件外国判決のうち前記残額の部分について執行判決をすることができる。

<判断>
民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合、その弁済が前記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても、これが前記部分に係る債権に充当されたものとして前記判決についての執行判決をすることはできない。
本件外国判決については、本件弁済により本件v懲罰的損害賠償部分を除く部分に係る債権(約18万5000ドル)が本件弁済の額(約13万5000ドル)の限度で消滅したものとして、その残額(約5万ドル)に限り執行判決をすべきであり、これと同じ結論の第1審判決は正当。
⇒原判決中、第1判決を変更した部分を破棄してXらの控訴を棄却する旨の自判。

Yは、民訴法260条2項の裁判(仮執行の原状回復等を命ずる裁判)の申立てをしていたところ、

本判決:原判決に付された仮執行宣言は前記破棄の限度で失効した⇒前記申立てを一部認容。

<解説>
裁判権は国家主権の一内容を構成⇒外国判決は当然には我が国において効力を有せず、外国判決の内国における効力をどのように取り扱うかは各国の立法政策上の問題
我が国:いわゆる自動承認の制度を採用し、民訴法118条各号の定める要件(「承認要件」)を具備する外国判決は、何らの手続を要することなく我が国においても効力を有する。
but
執行機関に承認要件具備の判断を求めるのは適切ではない⇒我が国において外国判決に基づく強制執行をするには、あらかじめ当該外国判決による強制執行を許す旨の執行判決(民執法24条)を得なければならない。

執行判決請求訴訟において、外国判決の既判力の基準時後に生じた弁済等の請求異議事由を抗弁として主張することができるか?
肯定説が通説で、裁判実務も肯定説。

●判例:外国判決のうち同州民法典の定める懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分は我が国の公の秩序に反し効力を有しない⇒本件懲罰的損害賠償部分は判決としての効力を有しない。
⇒本件弁済が前記債権に充当されるということもあり得ない。
but
一部弁済がされた場合に、その弁済が前記部分に係る債権に充当されることはないとしても、そのことから当然に、これが承認要件を具備する部分に係る債権に充当されるということはできない。

ex.
専ら懲罰的損害賠償の債権のみに充当されるべきものとして一部弁済の場合、前記外国判決のうち懲罰的損害賠償の部分を除く部分に係る債権は、前記弁済の充当先とはされていない⇒前記弁済がこの債権に当然に充当されるということはできない。
(この場合、前記弁済は、存在しない債権に対する弁済として、広義の非債弁済となる余地がある)

●本件弁済の充当関係:
カリフォルニア州の民事訴訟制度において、裁判所は、金銭判決の強制執行として、判決債権者の申立てにより、判決債務者に対し、支払期が到来し、又はこれから到来する金銭債権の全部又は一部を判決債権者等に転付する旨の命令を発することができる。
転付命令⇒判決債権者が第三債務者から弁済金を現実に受領するなどしたときに、金銭判決が弁済されたことになり、これにより弁済額の限度で当該金銭判決に係る債権が消滅。
but
本件転付命令は、外国裁判所の裁判⇒我が国において当然に効力を有するわけではなく、その効力いかんの問題は、本件転付命令の我が国における承認の問題。


論者:基本的に外国裁判所の強制執行処分が広く承認されるべきとする立場。

判例時報2503

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年2月24日 (木)

除斥期間の起算点が争われ、HBe抗原陰性慢性肝炎の発症時が起算点とされた事例

最高裁R3.4.26

<事案>
X1及びX2は、乳幼児期に集団予防接種等を受けたことによりB型肝炎ウイルスに感染⇒成人後にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症⇒鎮静化⇒HBe抗原陰性慢性肝炎を発症(①)。
⇒Y(国)に対し、HBe抗原陰性慢性肝炎を発症(②)したことにより精神的・経済的損害を被った⇒国賠法1条1項に基づく損害賠償。

Xらが本件訴訟を提起したのは、①からは20年を経過後で、②からは20年を経過前
⇒除斥期間の起算点が争点。

<1審>
XらがHBe抗原陰性慢性肝炎を発症したことによる損害については、その発症の時が除斥期間の起算点となり、Xらの損害賠償請求権は除斥期間の経過により消滅していない。
⇒Xらの請求を認容。

<原審>
Xらの損害賠償請求権は、除斥期間の経過により消滅。

HBe抗原陰性慢性肝炎の病状と、HBe抗原陽性慢性肝炎の病状とは、質的に異なるものではなく、HBe抗原陰性慢性肝炎の発症によって新たな損害が発生したとはいえない。
⇒Xらについては、

<判断>
乳幼児期に受けた集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染したX1及びX2が、HBe抗原陽性慢性肝炎の発症、鎮静化後にHBe抗原陰性慢性肝炎を発症したことによる損害については、HBe抗原陽性慢性肝炎の発症の時ではなく、HBe抗原陰性慢性肝炎の発症の時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点となる

原判決を破棄。

<解説>
民法724条後段は、起算点を固定的な「行為」時に置き被害者が「損害及び加害者を知」ることなくして年月が経過した場合でも、それから20年を経過すれば損害賠償請求権を行使し得ないものとして、法律関係を確定しようとしたもの。

不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたもの(判例)。

除斥期間の起算点について、
加害行為時を原則としつつ、
損害の性質上、蓄積進行性又は遅発性の健康被害に当たる場合には、損害発生時が起算点となるという修正(最高裁)。

Xらが乳幼児期に受けた集団予防接種等によりHBVに感染してB型肝炎を発症したことによる損害賠償請求権については、その損害の性質上、除斥期間の起算点は、加害行為である集団予防接種等の時ではなく、損害の発生の時となる。

「損害の発生の時」:
最高裁H6.2.22:
雇用契約上の安全配慮義務違反による損害賠償請求権が、その損害が発生した時に成立し、同時にその権利を行使することが法律上可能となり(すなわち進行し(民法166条1項))、かつ、じん肺の所見がある旨の最初の(管理2以上の)行政上の決定を受けた時に少なくとも損害の一端が発生したことを前提としつつ、その時点では、全損害が発生しているとは考えず、後日、更に重い行政上の決定(管理3又は4)に相当する病状が顕在化したときには、これを別個の新たな、いわば「異質」の損害(権利侵害)と捉え、実体法上別個の損害賠償請求権が発生すると考えて、最終の行政上の決定に関する損害賠償請求権の消滅時効は、その行政上の決定を受けた時から進行する。

実体法上、最初の損害が発生した時点で将来生ずるべき損害を含む全損害が発生しているとみるべきとの従来の判例の考え方の例外を認めたもの。

本判決:
「質的に異なる」と認めた。

①Xらが、HBe抗原陽性慢性肝炎の鎮静化後、期間が経過してからHBe抗原陰性慢性肝炎を発症
②セロコンバージョンにより非活動性キャリアとなったにもかかわらずHBe抗原陰性慢性肝炎を発症する割合が10~20%と必ずしも高いとはいえない
③HBe抗原陰性慢性肝炎の発症のメカニズムが現在の医学では未解明である
などがポイントとなっているものと思われる。

検討すべきはあくまで法的な損害の異質性の有無

HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とがセロコンバージョンをもたらす遺伝子変異の前後を問わず、HBVに対する免疫反応による炎症を起こした状態(肝炎)であるという、医学的な病態の同質性を重視しすぎるのは妥当ではない。

判例時報2505

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年2月15日 (火)

ピンク歯が頸部圧迫による窒息死を示す所見との法医学者の証言の証拠能力・証明力

東京高裁R2.12.10

<事案>
被告人が被害者に対し、殺意をもって、睡眠改善薬を摂取させた上、頸部を圧迫して窒息死させたとされる事案。
死因について直接証拠なし。

<原審>
被害者の死体の歯牙が広範囲に鮮明なピンク色に変色していたこと⇒頸部圧迫による窒息死と認められるとの法医学者の証言の信用性を肯定し、被告人の犯人性も肯定。

<控訴審>
ピンク歯に関する法医学者の証言の証拠能力が疑われた。

<解説>
科学的証拠の証拠能力についても、一般に要求される関連性以上の要件は不要とするのが実務の傾向。

足利事件最高裁決定(最高裁H12.7.17):
MCT118DNA型鑑定が、
科学的原理が理論的正確性を有し、具体的な実施の方法も、その技術を習得した者により、科学的に信頼される方法で行われたと認められることを指摘し、証拠の許容性を肯定。

A:科学的証拠の許容性を肯定するには、基礎となる科学的原理の理論的正確性及び具体的な実施方法の科学的信頼性を要する
B:科学的証拠一般についてこれらを要件として積極的に要求した判示とはいえない

<判断・解説>
●本判決:
当該証人が十分な学識経験を有している⇒証拠の証拠能力を肯定
but
信用性評価の場面では、
①理論的な正確性が明らかでなく、
②著名なピンク歯の評価を確実に行う手法も確立されていない
⇒同証言の信用性を否定。

●法医学においては、科学的な原理が未解明であっても、経験的に一定の意味があるとされている事象に基づく判断が許され得ることに加え、同証言の当否を判断するには、異なる見解に基づく専門家の証言等と対比する必要がある。
証拠採否の段階で決着をつけるのは相当でなく、公判廷における証拠調べによって信用性や証拠価値を吟味すべきとの考えに基づく。

科学的証拠の信頼性に関する事実は、科学的証拠の信用性や証拠価値といった本来裁判員と裁判官との評議で判断すべき事項と密接不可分⇒公判前整理手続において、科学的証拠の信頼性を1から検討し、その信頼性の有無、程度を実質的に判断してしまうような本格的審査は妥当ではない。

●原審において4名の法医学者が証言したとkろ、そのうち司法解剖を担当したB教授は、D教授の前記証言とは異なり、ピンク歯が頸部圧迫による窒息死に特異的な所見ではなく、重視しない旨証言。

原審:
①D教授が、頸部圧迫による鬱血によって著名なピンク歯が形成される合理的根拠を述べている
②B教授はピンク歯に関sるう深い知見を有しているわけではない
③著名なピンク歯が生じている場合についてまで頭部鬱血が生じてことを否定する理由についてB教授が特段の根拠を示していない
ことを指摘。
vs.
②について、B教授も多数の司法解剖等の経験を有する専門家であり、学識経験等の差から証言の信用性に差があると判断することは不合理。
③について、B教授の証人尋問において、D教授のいう著名なピンク歯の所見がある場合についての質問はない⇒この点についてはB教授の見解は不明というほかないB教授は、D教授が著名なピンク歯と認めるAの死体よりも濃いピンク歯が溺死体で認められたことなどを挙げて、ピンク歯が頸部圧迫による窒息死に特異的な所見ではないと証言⇒著明なピンク歯の所見がある場合でも、頸部圧迫による頭部鬱血が生じていたとは言い切れない根拠を示しているともいえる。

本判決:
原審の審理の問題点について付言しているが、複数の専門家証人の尋問に当たっては、意見の相違点がが明確になるよう、対質の実施を含め、尋問方法の工夫が必要であるとの指摘。

●本判決:自判せず、原審裁判所に差し戻し。

被害者に睡眠改善薬を摂取させた事実も公訴事実の殺人の実行行為に含まれると解した上で、それを踏まえるならば審理は尽くされていないと考えたことによる。

判例時報2502

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

プラットフォームを構築・運営している事業者の不当表示の表示主体性(肯定)

東京地裁R1.11.15

<事案>
消費者庁長官が、X(アマゾンジャパン)の運営する商品販売用ウェブサイト(本件ウェブサイト)において、5種類の商品を(「本件5商品」)について、それぞれ、 製造事業者が一般消費者への提示を目的としないで商品管理上便宜的に定めていた価格(参考上代)又は製造事業者が設定した希望小売価格より高い価格を、本件ウェブサイト上の販売価格を上回る「参考価格」として見え消しにした状態で併記し、実際の販売価格が「参考価格」に比して安いかのように表示し(「本件各表示」)、景表法5条2号の有利誤認表示をした
Xに対して景表法7条1項の規定に基づく命令(「本件措置命令」)
XがY(国)に対して、本件措置命令の取り消しを求めた。

<争点>
①Xが本件各表示をした事業者であるといえるか
②本件各表示が実際のものよりも取引の相手方に対して著しく有利であると一般消費者に誤認される表示(景表法5条2号)か

<判断>
●争点①
①不当景品類及び不当表示による顧客の誘因を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護するという景表法の目的(景表法1条)を達成するために、景表法5条において禁止されるべき表示を規定
商品を購入しようとする一般消費者にとっては、通常は、商品に付された表示という外形のみを信頼して情報を入手するしか方法はないことなど

表示内容の決定に関与した事業者が、景表法52号に該当する不当表示を行った事業者に該当すると解するのが相当

「表示内容の決定に関与した事業者」には、
他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者及び
自己が表示内容を決定することができるにかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者も含まれると解するのが相当。

①Xは、本件ウェブサイト上に、いつ、何を、どこに、どのように表示するのかという仕組みを自由に決定することができる
②Xと出品者が同一の商品を販売している場合、Xが使用するシステムがした総合評価の結果に従って、1つの販売者が設定した販売価格が商品詳細ページの中央部分に表示される仕組みを構築している

本件においては、Xが、一定の場合に二重価格表示がされるように本件ウェブサイト上の表示の仕組みをあらかじめ構築し、当該仕組みに従って二重価格表示である本件各表示が実際に表示された本件5商品について、Xが、当該二重価格表示を前提とした表示の下で、自らを本件5商品の販売者として表示し、本件5商品を販売していた
⇒Xは、本件各表示について、表示内容の決定に関与した事業者であるといえ、Xが本件各表示をした事業者であると認められる。

●争点②
公正取引委員会「不当な価格表示についての景品表示法の考え方」(平成12年6月30日)消費者庁HP(「本件ガイドライン」)を示し、
本件ガイドラインには、
(1)希望小売価格を比較対象価格とする二重価格表示を行う場合に、製造事業者等により設定され、あらかじめ公表されているとはいえない価格を、希望小売価格と称して比較対象価格として用いるときは、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあるのと定め(本件ガイドライン第4の3(1)ア)
(2)製造業者等が参考小売価格や参考上代等の名称で小売業者に対してのみ呈示している価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、
①これらの価格が、製造業者等が設定したものをカタログやパンフレットに記載するなどして当該商品を取り扱う小売業者に広く呈示されている場合には、当該価格を比較対象価格に用いること自体は可能であるが、希望小売価格以外の名称を用いるなど、一般消費者が誤認しないように表示する必要があるとする定め、
②製造業者等が当該商品を取り扱う小売業者に小売業者向けのカタログ等により広く呈示しているとはいえない価格を、小売業者が参考小売価格等と称して比較対象価格に用いるときには、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあるとする定め(本件ガイドライン第4の3(1)イ)。
これらを判断基準として検討し、
本件5商品について表示された「参考価格」は本件ガイドラインの前記各定めに照らして、いずれも、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するものと認めるのが相当。

<解説>
いわゆるプラットフォーム型通信販売においてプラットフォームを構築・運営している事業者に不当表示の表示主体性を認めた事例。

判例時報2502

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

契約期間が通算5年10か月、更新回数7回の労働者の雇止めと労契法19条1号、2号該当性(否定事例)

東京地裁R2.10.1

<事案>
Yと有期労働契約を締結し、雇止めされたXが、XとYの労働契約は労契法19条1号又は2号の要件を満たしており、雇止めも理由がない⇒従前の労働契約の内容で契約が更新された

Yに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、
雇止め後の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

平成24年法律第56号による労契法の改正によって、同一の使用者の下で有期労働契約が更新されて通算契約期間が5年を超える⇒労働者に無期転換申込権が付与される(労契法18条)。
but
平成25年4月1日以降新たに締結又は更新された有期労働契約から通算期間の算定が始まる⇒Xは労契法18条の要件に該当せず。

<争点>
①労契法19条1号又は2号該当性
②雇止めの合理的な理由及び社会通念上相当性の有無

<規定>
労契法 第一九条(有期労働契約の更新等)

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

<判断>
●労契法19条1号該当性
XとYとの間の労働契約の契約期間は通算5年10か月、更新回数は7回に及ぶ
but
毎回、必ず契約書が作成されており、契約日の前に、Yの管理職がXの面前で契約書を読み上げて契約の意思を確認するという手続を取っており、更新処理が形骸化していたとはいえない。

いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったと認められる場合には当たらない⇒労契法19条1号該当性を否定。

●労契法19条2号該当性
◎ 不更新条項の位置づけ:
契約書に不更新条項が記載され、これに対する同意が更新の条件となっている場合には、労働者としては署名を拒否して直ちに契約関係をを終了させるか、署名して次期の期間満了時に契約関係を終了させるかの二者択一を迫られる⇒労働者が不更新条項を含む契約書に署名押印する行為は、労働者の自由な意思に基づくものか一般的に疑問がある⇒同行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合でない限り、更新に対する合理的な期待の放棄がされたと認めるべき。

本件では、Yが不更新条項の法的効果について説明したことを認めるに足りる証拠はなく、Xが不更新条項に異議を留めるメールを送っている
⇒前記の合理的理由が客観的に存在するとはいえず、合理的な期待の放棄は認められない。
⇒不更新条項の存在は、Xの雇用継続の期待の合理性を判断するための事情の1つにとどまる。

◎ ・・・Yが前記業務を受注できずB事業所を閉鎖して撤退するに至ったため、6回目の契約更新の前に、XがYの管理職から、YがZ社の商品配送業務を失注しB事業所を閉鎖する見込みとなり、次期契約期間満了後の雇用契約がないことについて、個人面談を含めた複数回の説明を受け、Yに代わりZ社の業務を受注した後継業者への移籍ができることなどを説明され、契約書にも不更新条項が設けられた⇒6回目の契約更新時時点においては、それまでの契約期間通算5年1か月、5回の更新がされたことによって生じるべき更新の合理的期間は、打ち消されてしまった。
7回目の契約更新時も・・・合理的な期待が生じる余地はなかった。
⇒7回目の契約更新の期間満了時において、Xが、Yとの有期労働契約が更新されるものと期待したとしても、その期待について合理的な理由があるとは認められない⇒労契法19条2号該当性を否定。

<解説>
有期労働契約が更新される過程で不更新条項が付加された場合、それまでに生じていた雇用継続への合理的期待が放棄されたことにならないか?
本件は、最高裁H28.2.3を引用して、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限り、更新への合理的な期待の放棄がされたと認めるべきであるとした上で、本件ではこれを否定
but
不更新条項が契約更新の期待の合理性を判断するための事情とすることは否定しておらず、
①契約書に記載されたXの担当業務がなくなったこと、
②YのXに対する説明内容、
③不更新条項の存在など
⇒Xの契約更新に対する合理的期待は打ち消された旨判断し、労契法19条2号該当性を否定。

判例時報2502

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

過小資本税制における「国外支配株主等」に該当するとされた事例

東京高裁R3.7.7

<事案>
内国法人である㈱Xが、かつてインサイダー取引規制違反により有罪判決を受けたこともある著名なアクティビスト投資家であってシンガポールに居住する非居住者であるAから、年利14.5%で合計164億円を借り入れ(「本件借入れ」)、これに対する本件利子を、その課税所得計算上損金に算入して法人税の確定申告

処分行政庁(渋谷区税務署長)から、Xは、その事業活動に必要とされる資金の相当部分を非居住者であるAから借入れによって調達⇒AはXにとって「国外支配株主等」に該当し、過小資本税制が適用される⇒当該支払利子の一部である約14億6250万円について損金算入を否認する旨の法人税等の更正処分等。

X:本件借入れが実行された時点ではAは住所地をシンガポールに移転しておらず、非居住者ではなかった⇒本件借入れに係る利子は、過小資本税制の適用対象となる「国外支配株主等に支払う負債の利子等」に該当しない⇒本件課税処分の取消しを求めた。

<争点>
①Xによる非居住者Aからの借入れが「非居住者等からの借入れ」に該当するか否か
②AとXとの間に事業方針決定関係があるか

<判断>
●Aは、平成23年7月4日に東京都渋谷区からシンガポールに住所地を移転、同月5日に非居住者
Xは、Aから同年6月30日から同年7月4日にかけて合計164億円に上る本件借入れをし、Aが非居住者となった同年7月5日から本件借入れが完済された平成平成24年3月7日までの期間にAに対して当該期間に対応する利子を支払った
かかる支払利子は「国外支配株主等に支払う負債の利子等」に当たる。

「国外支配株主等」とは、非居住者又は外国法人(「非居住者等」)で、内国法人との間に、当該非居住者等が総数又は総額の100分の50以上を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係(租特法66条の5第4項1号)のあるもの。

①当該「特殊の関係」の例として、当該非居住者等と当該内国法人との間に租特法施行令39条の13第11項3号所定のイからハまでのいずれかの事実「その他これに類する事実が存在することにより、当該非居住者等が当該内国法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係」(「事業方針決定関係」)がある場合
②本件借入期間中の各月末時点におけるXの総資産額に占める本件借入れの額の割合は、最小の月でも59.91%、最大の月では75.24%

Xは、本件借入期間において、「その事業活動に必要とされる資金の相当部分を当該非居住者等からの借入れにより、調達ている」との要件(同号ロ)を充足
⇒AとXとの間には事業方針決定関係が存する。

AはXにとっての「国外支配株主等」に該当し、

本件借入れに係る利子は「国外支配株主等に支払う負債の利子等」に当たる
⇒当該利子の額のうち、過小資本税制に定められた所定の負債・資本持分比率である3倍を超える部分に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額につき損金算入を否認した本件課税処分は適法。

●X:本件借入れが実行された時点ではAは非居住者ではなかった⇒本件借入れに係る利子は「国外支配株主等」に該当しない。
vs.
①潜脱防止
②租特法施行令39条の13第11項3号ロは、租特法66条の5第1項の特例が適用される要件に係る「国外支配株主等」(同条4項1号)の定義に係るものであるところ、
同条1項は、「国外支配株主等・・・に負債の利子等を支払う場合において」と規定
⇒国外支配株主等に該当するか否かは利子等の支払時を基準として決定される。
⇒同条4項1号の「非居住者」であるか否か、政令だ定める特殊の関係があるか否かも、利子等の支払時を基準として決定される⇒租特法施行令39条の13第11項3号ロ所定の「当該非居住者等」も利子等の支払時における非居住者等を意味する。
③租特法施行令39条の13第11項3号ロは、事業方針決定関係の発生に通常寄与するものの例示として規定されているところ、仮に当該非居住者が居住者であった時期に借入れがされたとしてもも、その貸主・借主の関係は借入金が完済されるまで存続し、かかる関係が存続していれば、事業方針決定関係の発生に通常寄与するものと解される。

過小資本税制が適用されるためには貸付けの実行時において貸主が非居住者であることを要しない。

過小資本税制は、過大な貸付け自体を問題とするのではなく、内国法人が支払利子を損金の額に算入することによって法人税の負担を免れる一方、

利子を取得する者も所得税等の負担を免れるという事態(租税回避行為)を防止することを目的とする。

事業方針決定関係の存否を認定するための判断手法に関し、租特法施行令39条の13第11項3号イからハまでに掲記の各事実は、事業方針決定関係の原因となる事実を例示したものと解することができる。

これらの掲記の事実その他これに類する事実により事業方針決定関係があるか否かの認定判断に当たっては、
取引、資金調達及び人事上のつながりを含め、当該事案において事業方針決定関係の発生に影響を及ぼすと考えられる諸般の事情を総合して認定判断を行うのが相当。

本件借入れがXの事業資金の調達において極めて大きな比重を占めていた
本件借入れによって調達した資金の使途についてXはAによる事前の承認を得なければならないものとされていた
③Aは、Xとの資本関係喪失後も事業資金の調達やAファンドの関係者との人的なつながりを通じてXに対する影響力を依然として有しており
本件出資の履行方法の選択や本件借入れに関連してなされたXの税負担の軽減を図るための一連の措置はいずれもAの主導により行われたものであって、
Xの投資事業及び株式取引事業の運営や、Xの役員人事等の重要事項の決定についてもAが重要な影響力を行使していたものと認められる

AはXの事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係を有していたものと優に認めることができる。

判例時報2502

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年2月13日 (日)

辞任の申請の撤回が信義に反するとされた事例

長野地裁R2.11.27

<事案>
Yは宗教法人Aを包括団体とする宗教法人であり、Bの構成寺院の1つ。
Bは、Aを包括団体とするY及び一山25か寺(「一山寺院」)並びに宗教法人Cを包括団体とする無宗派の単位寺院。

Xは、Aの宗教的象徴である座主によってYの住職に任命されたことにより、Yの規則に基づいて、Yの代表役員兼責任社員となっていたが、XがAの代表役員である宗務総長に提出した辞任願に基づき、座主がXをYの住職から解任。

本件:
Xが、座主による解任前に本件辞任願による辞任の申請を撤回⇒前記解任は無効

Yに対し、XがYの代表役員及び責任役員の地位にあることの確認を求めるとともに、
委任契約又はそれに類する契約に基づき、給与(帰郷手当を含む。)及び賞与の支払を求めた。

<解説>
宗教法人法:
宗教法人には3人以上の責任役員を置き、そのうち1人を代表役員とし、規則に別段の定めがなければ、責任役員の互選によって代表役員を定める。
Yにおいては規則において別段の定め:
Yの代表役員は、Aの規定により座主から任命されたYの住職の職にある者をもって充てる。

宗教法人法は、代表役員や責任役員の解任の方法については規定しておらず、宗教法人の規則に委ねている。
Aにおける住職及び教会主管者選任規程においては、住職を辞する場合には、法類総代及び組寺総代又は末寺総代若しくは一山総代の連署を添えて宗務総長に辞任を申請した者を座主が解任し、住職は、懲戒処分によるほか、その意に反して罷免されないとされている。

本件 ・・・・一山寺院は、Xの辞任願の提出を条件に懲戒審理申告書を取り下げるというXの要求に同意し、Yの住職を辞任することを対外的に表明し、それを受けて一山寺院はXが法儀等に復帰することを承認。
その後、Xは、本件辞任願による辞任の申請を撤回する旨の内容証明郵便をAの宗務総長宛手に送付⇒宗務総長は撤回を認めず、座主はXをYの住職から解任。

<主張>
X:辞任を申請した住職は、座主による解任がされるまでの間は、辞任の申請を撤回することができるところ、解任前に本件辞任願の撤回の意思を表示した内容証明郵便を送付⇒解任の時点で辞任の申請の効力はない。
Y:座主から解任される前においては、住職は辞任願の撤回をすることができるとしても、本件辞任願の提出に至る経緯に鑑みれば、これを撤回すれば、A、一山寺院及びYの関係者らの信頼を裏切る上、関係者らに不測の混乱を与える⇒その撤回が信義に反すると認められる特段の事情がある⇒本件辞任願による辞任の申請を撤回することは許されない。

<判断>
①住職の解任については、座主が辞任を申請した住職を解任するとされている
②Aにおいては、住職は、懲戒処分によるほか、その意に反して罷免されないとされている

辞任の申請やその撤回は、住職の自由な意思に委ねられており、辞任を申請した住職は、座主による解任がされるまでの間は、信義に反するような特段の事情がない限り、辞任の申請を撤回することができる。
but
Xが辞任の申請をするに至った経緯

本件辞任願による辞任の申請を撤回することは、Xと一山寺院等との間の紛争解決に向けて積み重ねられてきた枠組みを崩壊させるのみならず、昇堂停止解除等、自らの利益になることが実現するや辞任の申請を撤回するという身勝手なものであり、
Xとの間の紛争の解決の調整方針に従ってXに対する配慮や譲歩をしてきたYの関係者、一山寺院及びAに対する信義に反し、かつ混乱と損害をもたらすもの
⇒前記特段の事情があるため許されない。

Xは自身の有効な辞任の申請に基づき座主によって住職を解任されている上、
Yにおいては、代表役員1名と一山寺院及び総代から選定された2名が責任役員となり、代表役員がその地位を失ったときは、当然に責任役員の地位も失うことになる。
⇒XはYの代表役員及び責任役員たる地位にない。

<解説>
公務員の退職願については、免職辞令の交付によって免職処分が有効に成立する前においては撤回することは自由。
but
免職辞令の交付前においても、退職願を撤回することが信義に反すると認められるような特段の事情がある場合には、その撤回は許されない(最高裁)。

いかなる場合に辞任の申請の撤回が信義に反するものとなるか?
事案後の個別具体的な判断。

本判決:
Xの罷免の根拠となる懲戒事由の有無に関する調査がYの包括団体であるAによって始められる中で、Xと一山寺院等Yの関係者が交渉と譲歩の末、紛争解決への枠組みを整えたにもかかわらず、
自らの利益となる相手方当事者の譲歩が実現するや相手方当事者が譲歩の条件とした住職の辞任願の提出を撤回したことが、信義に反するものとされたもの。

判例時報2502

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

県知事の管弦楽団による演奏会出席の公務該当性

最高裁R3.5.14

<事案>
徳島県の住民であるXが、県知事であるAが管弦楽団の演奏会への出席のために公用車を使用したことは違法であり、公用車の燃料費並びに同行した秘書及び運転手の人件費に相当する額につき、県はA知事に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有するにもかかわらず、Yである県知事はその行使を違法に怠っている⇒地自法242条の2第1項3号に基づき、Yを相手に、当該怠る事実が違法であることの確認を求めた住民訴訟

A知事による21回の演奏会への出席が問題。

<1審>
20回の演奏会については、監査請求期間の徒過⇒却下
1回について棄却。

<原審>
1回について認容。
最高裁H18.12.1を参照し、その判断枠組みに従い、本件演奏会に出席する際の公用車の使用は違法。
A知事による本件演奏会への出席は、各種団体等の主宰すする会合に列席するなどの交際に該当。
but
県が本件演奏会の共催者にとどまり、A知事による挨拶等もされていない⇒特定の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において具体的な目的をもってされるものとは認め難い。
A知事が観客や主催者である市の首長等と意見交換もしていない⇒本件演奏会への出席は、相手方との友好、信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることはできない。
観客と同様の条件下で演奏会を体感し、今後の県政運営における判断材料とする必要性があるといい得るとしても、そのような必要性が認められるのは、せいぜい1、2回の出席のときにすぎず、本件演奏会についてそのような必要性があるとはいえない。

A知事による本件演奏会への出席が公務に該当するということはできず、その目的のために公用車を使用することは違法。

<判断>
決定で上告を棄却する一方、本件を上告審として受理。
県がその事業の一環として当該演奏会を共催したものであるなどの判示の事情の下では、
本件演奏会にA知事が出席したことは公務に該当。
公用車を使用したことに違法があるというべき事情は見当たらない。

<解説>
●普通地方公共団体の長がした行為が公務に該当するか否かの点について一般的な判断基準を述べた最高裁判例は見当たらない。
地自法2条2項に照らし、その行為が、当該普通公共団体の「事務」に当たるのであれば、公務に該当すると考えられる。
普通地方公共団体が一定の行政区域内において行政権能を担う統治団体であって、地自法1条の2第1項に規定された、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うという地方公共団体の役割を果たすために、住民福祉の向上を目的として行政事務一般を広く処理する権能を有していること(地自法2条2項)を考慮して、普通地方公共団体の事務該当性を判断。
普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を統轄して、これを代表し、また、その事務を管理し及びこれを執行(地自法147条~149条)
⇒対象となった行為が、普通地方公共団体の事務に当たるのであれば、首長自らがその行為をするか、部下職員に命じてさせるかについては、首長の合理的な裁量に委ねられている。

本件演奏会の共催が県の事務⇒その首長であるA知事がこれに出席することは公務に該当。
それに際して公用車を使用するか否かはA知事の裁量に委ねられる。
⇒県がA知事に対し損害賠償請求権を有しているとはいえないことになる。

●原審は、本件演奏会に係る請求を認容。
but
何をもって請求権発生の事由と捉えたのかが必ずしも明らかでないように思われる。
A:公務に当たらない用務について公用車を利用した行為そのものが違法であり、これにより発生する損害賠償請求権の行使を怠ることが違法であるとする構成(いわゆる真正怠る事実)
B:公金の支出という財務会計行為が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の行使を怠ることが違法であるという構成(いわゆる不真正怠る事実)

原審:本件で問題とされた21回の演奏会のうち、20回の演奏会については、監査請求期間の徒過を理由に却下⇒前記Bとして捉えていると考えられる。
but
そうなら、実体判断をした本件演奏会についても、同様にBとして捉えていると理解。
but
そうであれば、公金の支出に関して知事がどのような権限を有しており、どのような財務会計法規上の義務に違反したか等を検討しなければ、請求を認容できないはず。

●本判決:県知事が管弦楽団による演奏会に出席したことが公務に該当するかについて、最高裁が判断を示したもの。

判例時報2502

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

石綿関連疾患での国賠請求と建材メーカーへの損害賠償請求(民法719条1項後段類推事例)

最高裁R3.5.17

<事案> ・・・
国に対し、建設作業従事者が石綿含有建材から生ずる石綿粉じんにばく露することを防止するために国が労安法に基づく規制権限を行使しなかったことが違法⇒国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めるとともに、
建材メーカーらに対し、建材メーカーらが石綿含有建材から生じる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等を表示することなく石綿含有建材を製造販売したことにより本件被災者らが前記疾患にり患⇒不法行為に基づく損害賠償を求めた。

<争点>
(1)国に対する国賠請求:
①労働者に対する責任:
屋内建設現場における建設作業(石綿吹付け作業を除く。)に従事して石綿粉じんにばく露した労働者との関係において、国の規制権限の不行使は国賠法1条1項の適用上違法となるか
違法となるとして、その始期及び終期はいつか。

②労働者以外の者に対する責任:
屋内建設現場における建設作業(石綿吹付け作業を除く。)に住して石綿粉じんにばく露した者のうち労安法2条2号において定義された労働者に該当しない者(いわゆる1人親方及び個人事業主等)との関係において、国の規制権限の不行使は国賠法1条1項の適用上違法となるか。

(2)建材メーカーらに対する不法行為に基づく損害賠償請求:
①民法719条1項後段の要件:
被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害を惹起し得る行為をした者が存在しないことは、民法719条1項後段の適用の要件か否か

②中皮腫にり患した大工らに対する建材メーカーの責任:
大工らが、建設現場において、複数の建材メーカーが製造販売をした石綿含有建材を取り扱うなどして、累積的に石綿粉じんにばく露し、中皮腫にり患した場合に、大工らが稼働する建設現場に相当回数にわたり到達して用いられていたことが認められる石綿含有建材を製造販売した建材メーカーがどのような責任を負うか。

③石綿肺、肺がん又はびまん性胸膜肥厚にり患した大工らに対する建材メーカーの責任:
大工らが、建設現場において、複数の建材メーカーが製造販売した石綿含有建材を取り扱うなどして、累積的に石綿粉じんにばく露し、石綿肺、肺がん又はびまん性胸膜肥厚にり患した場合に、大工らが稼働する建設現場に相当回数にわたり到達して用いられていたことが認められる石綿含有建材を製造販売した建材メーカーがどのような責任を負うか。

<判断>
●国に対する国賠請求
◎労働者に対する責任
労安法に基づく規制権限の不行使は、労働者との関係において、昭和50年10月1日以降、国賠法1条1項の適用上違法。
国の規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法となる終期:平成16年9月30日

◎労働者以外の者に対する責任
労安法に基づく規制権限の不行使は、労安法2条2号において定義された労働者に該当しない者との関係においても、国賠法1条1項の適用上違法である。

●建材メーカーらに対する不法行為に基づく損害賠償請求
◎民法719条1項後段の要件
被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないことは、民法719条1項後段の適用の要件である。

◎中皮腫にり患した大工らに対する建材メーカーの責任
本件3社は、民法719条1項後段の類推適用により、中皮腫にり患した大工らの各損害の3分の1について、連帯して損害賠償責任を負う。

◎石綿肺、肺がん又はびまん性胸膜肥厚にり患した大工らに対する建材メーカーの責任
本件3社は、民法719条1項後段の類推適用により、石綿肺、肺がん又はびまん性胸膜肥厚にり患した大工らの各損害の3分の1について、連帯して損害賠償責任を負う。

<解説>
●国に対する国賠請求
◎規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法となる場合についての判例法理
最高裁:
国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる。

◎始期の問題
①昭和49年1月1日
②昭和50年10月1日
③昭和51年1月1日
④昭和56年1月1日
に判断が分かれていた。
本判決:②に統一。

規制権限の不行使の違法を判断する際の考慮要素:
泉南アスベスト訴訟判決の調査官解説:
規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質
被害の重大性及び切迫性
予見可能性
結果回避可能性
現実に実施された措置の合理性
規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による結果回避可能性)
規制権限行使における専門性、裁量性
などの諸事情を総合的に検討して、違法性を判断。

本件:総合的検討の中で、特に予見可能性をめぐる問題が重要

原判決:
昭和50年当時、国による当時の石綿粉じん対策は不十分。
but
国は、当時、建設現場における石綿粉じんの実態を把握しておらず、建設現場において石綿粉じんにばく露することにより、建設作業従事者に広汎かつ重大な危険が生じていると認識していなかった
⇒昭和55年12月31日以前の国の規制権限の不行使は、許容される限度を超えて著しく不合理なものとはいえない。

本判決:
国は建設現場における石綿粉じん濃度の測定等の調査を行うべきであり、調査を行えば、国は、石綿吹付け作業に従事する者以外の建設作業従事者にも、石綿関連疾患にり患する広汎かつ重大な危険が生じていることを把握することができた
国の規制権限の不行使を著しく不合理なものとした。

◎終期の問題
国の規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法となる終期:
①平成7年3月31日
②平成16年9月30日
③平成18年8月31日
で②に統一。

◎一人親方等の問題
①労安法57条が義務付ける石綿含有建材の表示については物の危険性に着目した規制
②昭和50年9月30日の改正後の特定化学物質等障害予防規則38条の3が義務付ける石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示については場所の危険性に着目した規制

いずれも労働者に該当しない者も保護する趣旨のもの。

●建材メーカーらに対する不法行為に基づく損害賠償請求

<規定>
民法 第七一九条(共同不法行為者の責任)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。
共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。

◎民法719条1項後段の要件
択一的競合関係(複数の行為者のうちいずれかの行為によって損害が発生したことは明らかであるが、いずれの行為が原因であるかは不明)の場合に適用
同項後段が適用されるのは、「加害者であり得る者が特定でき、ほかに加害者となり得る者は存在しないこと」(「他原因不存在」)が要件となる。
以上通説。

少数説:「ほかに加害者となり得る者は存在しないこと」は、民法719条1項後段の適用の要件ではない。

本判決:
通説の立場。
民法719条1項後段の趣旨について、
同項後段は、複数の者がいずれも被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為を行い、そのうちのいずれの者の行為によって損害が生じたのかが不明である場合に、被害者の保護を図るために、公益的観点から、因果関係の立証責任を転換して、上記の行為を行った者らが自らの行為と損害との間に因果関係が存在しないことを立証しない限り、上記の者らに連帯して損害の全部について賠償責任を負わせる趣旨の規定。

同項後段が因果関係の推定の規定であることを明言。

民法719条1項後段の類推適用
本判決:類推適用を肯定。
A:行為の関連性がある場合にのみ類推適用を肯定する見解
B:結果の発生に何らかの寄与がある場合にのみ類推適用を肯定する見解
C:行為の関連性がある場合にも、結果の発生に何らかの寄与がある場合にも、類推適用を肯定する見解
D:行為に関連性があり、かつ、結果の発生に何らかの寄与もある場合に類推適用を肯定する見解

〇本判決の分析:
本件3社が製造販売した石綿含有スレートボード・フレキシブル板、石綿含有スレートボード・平板及び石綿含有けい酸カルシウム板第1種(「本件ボード3種」)が大工らの稼働する建設現場に相当回数にわたり到達していたことを前提とする。
下級審において、建材メーカーらの共同不法行為のせいりつのために、特定の建材メーカーの石綿含有建材が特定の被災者の稼働する建設現場に到達したことを原告側が立証する必要があるか否かが争われ、
学説の中にも、到達の立証は不要であり、到達の「相当程度の可能性」で足りる旨の見解。

本判決:石綿含有建材の建設現場への到達が認められることを前提に民法719条1項後段の類推適用を肯定

大工らが、建設現場において、本件ボード3種を直接取り扱っていたことが考慮事情となっている。
大工らが本件ボード3種を直接取り扱っていた⇒大工らが本件ボード3種を切断などする際に石綿粉じんにばく露していた。

本件3社が製造販売した本件ボード3種が、大工らが稼働する建設現場に相当回数にわたり到達していた用いられていた⇒大工らは、本件3社が製造販売した本件ボード3種から生じた石綿粉じんにばく露していたということ、ひいては、本件3社は大工らの石綿関連疾患の発症に何らかの寄与をしていた。
本判決では、大工らが、建設現場において、複数の建材メーカーが製造販売した石綿含有建材を取り扱うことなどにより、累積的に石綿粉じんにばく露したことが、建材メーカーにとって想定し得た事態というべきであるとされている。

本件3社は、いずれも、石綿含有建材メーカーであり、本件ボード3種を製造販売し、製造販売した本件ボード3種が大工らの稼働する建設現場に到達していたという点でも、共通。

弱い関連共同性論に依拠しないで結果の発生に何らかの寄与があることに着目して類推適用を肯定する見解⇒本判決の結論を説明できる
but
本件3社には、本件含有建材のメーカーとして本件ボード3種を製造販売し、製造販売した本件ボード3種が大工らの稼働する建設現場に到達したという共通性等⇒行為の関連性に着目して類推適用を肯定する見解から本判決の結論を説明することもできる

◎本判決:
民法719条1項後段の類推適用の効果として、因果関係の立証責任が転換されることを明示。
同項後段の趣旨について、被害者の保護を図るため、公益的観点から、因果関係の立証責任を転換するものと説示。
同項後段の類推適用の場面でも、被害者保護の見地から、・・・同項後段が適用される場合との均衡を図って、同項後段の類推適用により、因果関係の立証責任が転換されると説示。

同項後段の適用・類推適用の双方について、因果関係の推定の効果を認めた。

◎本判決:
本件3社は、大工らの各損害の3分の1について、連帯して損害賠償責任を負うとし、賠償責任を損害の一部に限定。

本件においては、・・・大工らが本件ボード3種を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は、各自の石綿粉じんのばく露量全体の一部にとどまるという事情があるから、・・・・こうした事情等を考慮して定まるその行為の損害の発生に対する寄与度に応じた範囲で損害賠償責任を負うというべきである。

寄与度減責については、
加害者・被害者間の関係、加害者間の公平、その他諸般の事情を総合考慮して具体的妥当な結論を導くための操作であり、過失相殺と同様に事案に応じて柔軟な適用が必要とされるもの(能見)
寄与度について、裁判所が妥当な結論を導くために諸般の事情を総合考慮して裁量的に判断するものと解する⇒本件3社が製造販売した本件ボード3種からの石綿粉じんのばく露量の割合と、本件3社が負う損害賠償責任の割合が一致していなくても、特に問題はないものと思われる。

本件ボード3種を製造販売し、製造販売した本件ボード3種が大工らの稼働する建設現場に到達していた建材メーカー間に弱い関連共同性を肯定する立場⇒本件3社が大工らの各損害の3分の1について連帯して損害賠償責任を負うことは、自然なこと

判例時報2502

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年2月 3日 (木)

第1種少年院送致の原決定につき、処分が著しく不当として取り消された事例

福岡高裁R3.1.7

<事案>
18歳の少年が、共犯少年と共謀の上、歩道上で男性の背部を飛び蹴りしてその場で転倒させるなどの暴行を加えてその犯行を抑圧し、現金等が入ったバッグを強取し、加療約2週間を要する打撲傷等の傷害を負わせた。

<原決定>
少年を第1種少年院に送致

少年及び原審付添人弁護士が、それぞれ処分の著しい不当を理由に抗告

<判断>
原決定
vs.
少年を直ちに収容保護しなければ、少年を改善更生し、再非行を防止することができなことを説得的に説示していない⇒その判断を是認することはできない。
在宅処遇の可能性を慎重に検討することなく直ちに少年を第1種少年院に送致した原決定の処分は著しく不当

原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻した。

<解説>
●非行事実としては相当に重い事案。

●非行事実の背後にある少年の問題や再非行の可能性等、要保護性についての評価
原決定:
少年が、
独善的な対人態度からアルバイト先での対人関係に行き詰まり、経済的にも破綻して追い詰められて本件非行に及んだ

その根底には、
少年が家族から突き放されて愛情、依存欲求が満たされず、孤立感や落伍感があった
⇒少年は、自分の身を守るために他人を犠牲にすることもやむを得ないとの考えで、一足飛びに本件非行に至った。
vs.
その資質上の問題がどのように本件非行に結びついているのかは、理解が難しい

原決定:
これらの問題を改善しなければ、少年が再非行に及ぶおそれがある
vs.
①少年が抱える問題⇒対人トラブルを起こし、閉塞感に陥って、再非行につながるという原決定の説示するプロセスは、それ自体迂遠で分かりにくい
②具体的にどういった類型の再非行に及ぶリスクがあるというのか定かでない

本決定:
少年の非行歴、就労等の状況、本件非行後の状況、交友状況
等の事情も考慮し、
非行リスクという観点からみると、少年の資質上の問題が原決定のいうほど根深く深刻なものであるかは疑問であり、むしろ、少年には、自力による問題改善の余地がある。
少年の保護環境がある程度整っていることも考慮
保護処分歴のない少年について、在宅処遇の可能性を慎重に検討せずに直ちに少年院に送致した原決定の処分は著しく不当。

判例時報2501

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

消極的な合意に至ることが期待できなかった口外禁止条項を付した労働審判の違法性

長崎地裁R2.12.1

<事案>
労働審判手続を申し立てたXが、労働審判委員会のした労働審判に、Xの拒否する口外禁止条項が付されたことにより、精神的損害が生じた⇒Y(国)に対し、国賠証1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求めた。

<解説>
●国賠法上の違法性に係る判断枠組み
裁判官がした争訟の裁判に訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在した場合において、国賠法上の違法が認められるか否かについて、
当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする(最高裁昭和57.3.12)。
労働審判に係る国賠法上の違法性判断についても、労働審判手続に対する不服は異議により是正されるべきであることなどを理由に、前掲最高裁の枠組みを用いた裁判例(大阪地裁H25.11.26)
本判決も同様。

●労働審判の適法性に係る判断枠組み
労働審判は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえてされるもの(労審法20条1項)、事案の解決のために相当であることが要求されている(同条2項)⇒一般的には「相当性」という基準によりその限界が判断される。

当該「相当性」を欠く審判:
・権利関係との合理的関連性を欠くもの
・手続の経過を踏まえていないもの(ex.当事者の意思に明確に反するなど受容可能性がおよそ認められないもの)

<判断>
口外禁止条項を定めることについての合理的関連性を認めた上で、
本件においては受容可能性がない
⇒労審法20条1項及び2項違反を肯定
but
本件審判に違法又は不当な目的があったと認めることはできない
⇒国賠法上の違法性は認められない。

Xの受容可能性を否定し、口外禁止条項を付した労働審判の違法性を認めた。
but
調停による解決はできないとしても、労働審判委員会による労働審判に対して異議申立てまではしないという意味での消極的合意に至る可能性もあり得る

口外禁止条項も含めてこのような消極的合意さえも期待できないか否かを慎重に判断すべき。

<解説>
口外禁止条項を付した審判が違法であるとしても、その有効性に影響を及ぼすか否かについては、本判決が判断するところではない。
口外禁止条項を付した審判に承服できない⇒まずは異議申立てをすることが必要。

判例時報2500

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

保育士の自殺と因果関係・安全配慮義務違反

長崎地裁R3.1.19

<事案>
亡Aは、社会福祉法人であるYが経営する保育園(本件保育園)に保育士として勤務⇒平成29年6月下旬頃に自殺。
亡Aの相続人であるXらが(X1~X3)が、亡Aは、虐待騒動によって業務上強度の心理的負荷を受けてうつ病に発症し、その後も虐待騒動の中心となった保護者の子が在籍するクラスの主担任を務めた⇒うつ病が増悪し、自殺

Yに対し、 安全配慮義務違反の債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を求めた。

<争点>
①亡Aの自殺と業務との因果関係
② 安全配慮義務違反の有無

<判断>
●争点①
①一連の虐待騒動は亡Aを含む保育士らに強い心理的負荷を与えるものであり、亡Aは、その直後にこれに起因してうつ病を発症した。
②虐待騒動の影響やこれに関連する心理的負荷は平成29年6月まで持続し、これに、経験豊富な保育士が相次いで退職して経験の浅い保育士に入れ替わったことなどによる負荷が加わったことにより、うつ病が増悪して自殺するに至った。

亡Aの自殺と業務との因果関係を肯定。

●争点②
亡Aが虐待騒動により強い心理的負荷を受け、心身に変調をきたしていたことや、
その後も虐待騒動に関連する心理的負荷が継続し、前記の保育士の入れ替わり等に伴う業務負担の増加などによっても心理的負荷を受け、平成29年5月以降には体調が悪化していたことは、
Yにおいても認識していたか、容易に認識し得た

亡Aが心理的負荷の蓄積により心身の健康を損ない、ひいては自殺等の重大な結果が発生するおそれがあることを予見可能であった。

Yの講じた安全配慮措置は十分なものとはいえず、Yは、亡Aの心身の健康状態に留意し、心理的負荷が過度に蓄積して心身の健康に変調をきたすことがないように注意すべき義務に違反。

●亡Aのうつ病の症状の持続、増悪には、虐待騒動後に個人面談やカウンセリングが実施されたにもかかわらず、亡Aが心身の不調を訴えて業務負担の軽減を申し出ることをしなかったことや、次女(X3)の部活動への関与による身体的負荷などが一定程度影響した
⇒民法418条、722条2項を趣旨を類推して3割の減額。

<解説>
使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う(最高裁H12.3.24)。

本件の特徴:
労働者に強い心理的負荷を与えたと認定された出来事(虐待騒動)と自殺との間に、1年以上の時間的感覚がある。
but
争点①について:
①亡Aが虐待騒動後に虐待を訴えた保護者や同調していた保護者の子らが在籍するクラスを担当することになり同僚等に愚痴や不満をこぼしていた
②本件保育園において平成29年度以降も虐待を疑われないよう細心の注意を払う状態が継続していた

虐待騒動による心理的負荷は亡Aが自殺した平成29年6月まで持続しており、これがうつ病の発症から自殺に至るまでの大きな要因となった。

争点②について:
・・・・
精神障害の症状の寛解・増悪の経過は様々であって一旦寛解した場合にも再度増悪することがあり得る⇒心理的負荷の要因となった出来事や精神障害の発症から自殺までの間に時間的間隔があることは直ちに予見可能性を否定するものではない。

判例時報2500

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

5年を超えての不更新条項のある有期雇用契約での雇止めと雇用継続の合理的期待

横浜地裁R3.3.30

<事案>
Xは、平成24年9月から、派遣社員として、自動車運送等を業とするYのA支店の管轄に属するB配送センターにおいて就労を開始し、平成25年6月、Yとの間で、配送センター事務を行う事務員として雇用期間を1年とする有期雇用契約を締結
雇用契約書には、雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない旨が記載(不更新条項)
XとYは、4回にわたり契約を更新、Yは、当初の雇用契約から5年の期間満了に当たる平成30年6月30日付けで原告を雇止めした(本件雇止め)。

<請求>
X:
本件雇止めについて、
①不更新条項は労契法18条の無期転換申込権を回避しようとするもので無効であり、Xに雇用継続の合理的期待があった
②本件雇止めには客観的合理性が認められない

Yに対し、
①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、
②同契約に基づく賃金請求権に基づき、本件雇止め後の月額賃金等の支払
を求めた。

<判断>

①XとYとの間で締結された雇用契約に至る経緯、
②4回にわたる雇用契約更新の経緯
③更新拒絶に至るやり取り
等を詳細に事実認定し、

①本件においては、、通常は労働者において未だ更新に対する合理的期待が形成される以前である雇用契約当初から、更新上限があることが明確に示され、原告もそれを認識の上で雇用契約を締結しており、その後も更新に係る条件には特段の変更もなく更新が重ねられ、4回目の更新時に、当初から更新上限として予定されたとおりに更新しないものとされた
②原告の業務はある程度長期的な継続は見込まれるものであるとしても、原告の業務内容自体は高度なものではなく代替可能⇒恒常的とまではいえないもの
③B配送センターにおいて5年を超えて10年以上就労していた他の有期雇用労働者は原告とは契約条件の異なる者であった
④その他、YのA支店において不更新条項が約条通りに運用されていない実情はうかがわれない

Xに、雇用契約締結から雇用期間が満了した平成30年6月までの間に、更新に対する合理的な期待を生じさせる事情があったとは認め難い。
・・・・
Xの主張を排斥。

● X:不更新条項は労契法18条の適用を免れる目的で設けられたものであり、公序良俗に反し無効。
vs.
労契法18条は、有期契約の利用自体は許容しつつ、5年を超えたときに有期雇用契約を無期雇用契約へ移行させることで有期契約の濫用的利用を抑制し、もって労働者の雇用の安定を図る趣旨の規定

使用者が5年を超えて労働者を雇用する意図がない場合に、当初から更新上限を定めることが直ちに違法に当たるものではなく5年到来の直前に、有期契約労働者を使用する経営理念を示さないまま、次期更新時で雇止めをするような、無期転換阻止のみを狙ったものとしかいい難い不自然な態様で行われる雇止めが行われた場合であれば格別有期雇用の管理に関し、労働協約には至らずとも労使協議を経た一定の社内ルールを定めて、これに従って契約締結当初より5年を超えないことを契約条件としている本件の雇用契約について、労契法18条の潜脱に当たるとはいえない。

<解説>
契約更新時に不更新条項が付された場合、それまでの雇用期間を通じて雇用継続に対する合理的期待が生じていることがある⇒不更新条項をもってこれを事後的に労働者に放棄させ、又は使用者と労働者の合意を通じて消滅させたといえるか問題となるケースがある。

判例時報2501

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

人材紹介取引契約に基づく紹介手数料の支払が問題となった事案

東京地裁R2.11.6

<事案>
● 人材派遣等を業とするXが、Yに対し、 Yに対し、Yとの間で締結した人材紹介取引契約(「本件契約」)に基づき、人材としてZを紹介したとして、紹介手数料の支払を求めた事案
● Yは、Xから紹介を受けたZについて、いったん採用内定したものの後にこれを取り消した

X:本件契約のうち、採用内定が取り消された場合であっても、その取消しが「Yの都合」による場合には、紹介手数料支払うべきことを定めた本件契約2条6項に基づき、前記支払を求めた。
(尚、判決文では同条項しか摘示がないが、同条項の文言によれば、人材紹介によって手数料支払義務が発生する旨を原則的に定めた同条1項も根拠となる)
Y:
「Yの都合」による場合に当たることを否認。
「Yの都合」による場合としか記載がないところ、専らZの故意、過失に起因するような内定取消しの場合には、紹介手数料の支払義務はないものと契約解釈すべき⇒紹介手数料支払義務は生じない。

尚、審理途中に、Zの採用内定の事実についての自白撤回⇒Xが異議。

<判断>
自白の撤回:
①真実に反するとは認められない
②錯誤があったとも認められない
⇒許されない。

内定取消しは、客観的に合理的と認められる社会通念上相当なものとはいえない⇒「Yの都合によるもの」と判断し、Xの請求を認容。

<解説>
● 問題となったのは、
ZがYに提出した履歴書や職務経歴書のうち、学歴、職歴について誤謬、虚偽、矛盾した表記があったり、提出物の宛名に誤字があったり、指示通りに提出物が提出されないといったことを理由とした内定取消しが、本件契約2条6号にいう「Yの都合」によるものといえるかどうか。
● いかなる場合が「Yの都合」による場合に当たるのか?
文言上必ずしも明らかではない。

本件契約の他の条項に照らしつつ、解釈することになる。
被紹介者が専ら被紹介者の責めに期すべき事由により退職した場合には、一定額を返金する定めがあり、この専ら被紹介者の責めに帰すべき事由として、被紹介者が法令に則って正式に解雇された場合も含むものと定義されている。

少なくとも、正当な解雇事由に基づかない解雇がなされた場合には、返金の対象とならないといえる

正当な内定取消事由に基づかない内定取消しの場合には、紹介手数料の支払を免れることはできないというべき。

内定取消しが、客観的に合理的で社会通念上も相当なものといえるかどうかという判断枠組みが採用

● 仮に、内定取消しが客観的に合理的で社会通念上相当な理由に基づくものであった場合に「Yの都合」による内定取消しに当たらないといえるか?
専ら被紹介者の責めに期する事由による内定取消しの場合の紹介手数料の支払義務の有無については、明確な定めがない。
but
A:正当な解雇事由に基づいて解雇の場合には返金制度がある⇒正当な理由に基づく内定取消しの場合には、紹介手数料の支払義務は生じないと解する余地。
B:理由の如何やその正当性を問わず、Yの判断による内定取消しである以上「Yの都合」によるものと解する余地もある。

● 本件で「採用内定」の事実は主要事実であるところ、
主要事実の自白の撤回が認められるためには、
①自白が真実に反し、かつ
②錯誤に基づくものである
必要。
but
本件は、双方が署名ないし記名をした上で押印した雇用概要確認書が存在⇒証拠上、採用内定があった事実を容易に認めることができる事案。

判例時報2501

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年2月 2日 (水)

トンネル建設工事についての設計業者の説明義務違反による損害・8割の過失相殺

大阪地裁R3.3.26

<事案>
X(大阪府)は、都市計画道路の地下トンネルと建設を計画し、トンネル工事の設計等の専門業者であるYに対して地下トンネルの一部の設計を委託。
Yの業務には、トンネル工事のために地中に設けられている直方体の構築物である立杭の設計が含まれていた。
X:YのXの従業員が立杭の安全性に関する説明義務を怠った⇒Yに対し、不法行為責任(使用者責任)に基づく損害賠償請求。

<争点>
①不法行為の成否
②損害と因果関係の有無
③過失相殺の成否

<判断>
●不法行為の成否
専門業者であるYがXに対して提出・送付した書類やメールの中に、立杭は側面の土を取り除いても連続地中壁があれば滑動しないとの誤解を生む記載があった

立杭の安定性がトンネル工事全体に与える影響の大きさ等も考慮すれば、Xに誤解を生じさせたYは、Xの誤解を解消すべく、連続地中壁のみでは立杭の滑動を防止できない旨明確に説明すべき信義則上の注意義務を負っていた。

Yが十分な説明を行ったとは認められない。

不法行為が成立。

●損害と因果関係の有無
Xの追加工事等の費用について、一部を除いて、Yの不法行為との間に因果関係がある。

Xの落ち度が損害の発生に大きく寄与
but
Xの損害はYの不法行為とXの落ち度が順次競合して生じた結果⇒因果関係は否定されない。

●過失相殺の成否
Xの落ち度について
①立杭の滑動・転倒を防止する対策工事の検討・設計がYとは別の業者の業務であったこと
②トンネル工事に携わっている他の設計業者や施工業者がXに対して立杭の滑動・転倒のおそれを繰り返し指摘していたこと
③立杭が滑動・転倒した場合には人命が危険にさらされるおそれがありXには慎重で漏れのない対応をとることが求められていたこと
④Xは発注者であり、各業者の認識や理解の調整・すり合わせを主導すべき立場にあったこと
など

Xには各業者が立杭の安定性について狭義・検証する機会を設けるべき注意義務があり、技師を擁するXの人的体制等も考慮すればその履行は容易であったにもかかわらず、これを怠った落ち度があり、これが損害の発生に寄与。

①各業者の調整役は専らXが担っていたこと、
②各業者がXに対して立杭の滑動・転倒のおそれを再三指摘していた
③立杭の滑動・転倒によって生じる危険が大きい

Xは前記注意義務を履行することが強く求められていたといえる上、Xにとってその履行は容易であった。

Xの過失割合を8割とする過失相殺。

判例時報2500

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当の税法上の処理

最高裁R3.3.11

<事案>
内国法人である被上告人(X)は、平成24年4月1日から同25年3月31日までの連結事業年度(「本件連結事業年度」)において、被上告人が本件連結事業年度を通じてその出資の持分の全部を保有している米国デラウェア州リミテッド・ライアビリティ・カンパニー法に基づき組成された外国子会社であるA社から、資本剰余金を原資とする剰余金の配当(「本件資本配当」)及び利益剰余金を原資とする剰余金の配当(「本件利益配当」、併せて「本件配当」)を受け、
本件資本配当は法人税法(平成27年改正前)24条1項3号の「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち、分割型分割によるもの以外のもの)」(「資本の払戻し」)に、
本件利益配当は同法23条1項1号の「剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし、資本剰余金の額の減少に伴うもの及び分割型分割によるものを除く。)」
にそれぞれ該当するとして、本件連結事業年度の法人税の連結確定申告をした。
所轄税務署長は、本件配当は効力発生日が同一日であることなどから、利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資とする剰余金の配当(「混合配当」)であり、その全額が法人税法24条1項3号に規定する資本の払戻しに該当⇒更正処分。

本件:
被上告人が、本件更正処分のうち連結所得金額が本件申告を超え、翌期へ繰越す連結欠損金額が本件申告に係る金額を下回る部分の取消しを求めた。

<争点>
争点①:
本件更正処分のとおり本件配当全体について法人税法24条1項3号が適用されるのか、それとも本件利益配当について同法23条1項1号が適用されるのかという法令解釈の問題(争点①ー1)
仮にこれが肯定されるとしても、本件の事実関係等の下で、本件配当全体が資本の払戻しに該当することとなるのか、又は本件資本配当は資本の払戻に、本件利益配当は同法23条1項1号の剰余金の配当に、ぞれぞれ該当するのかとう問題(争点①ー2)

争点②:
本件配当全体が法人税法24条1項3号の資本の払戻しに該当するとしても、同法の委任を受けて定められた法人税法施行令23条1項3号の規定に従って本件配当のみなし配当金額を計算すると、
A社の簿価純資産価額が直前資本金額を下回っていたこと等から、本件配当のうち利益剰余金を原資とする部分の一部がみなし配当金額ではなく有価証券の譲渡に係る対価の額に算入されることとなる。
本件更正処分もその計算結果に基づいているが、このような計算結果となる同号の規定が法人税法の委任の範囲を超えず、適法なものといえるか。

<原審>
争点①ー1について、
法人税法24条1項3号の資本の払戻しとは、その文理からすれば、「資本剰余金の額の減少によって行う剰余金の配当」、すなわち、「資本剰余金を原資とする配当」をいうものと解すべき。

資本剰余金及び利益剰余金の双方を原資として配当が行われた場合、
資本剰余金を原資とする配当には同号が
利益剰余金を原資とする配当には同法23条1項1号が
それぞれ適用。
いずれの配当が先に行われたとみるかによって課税関係に差異が生ずるようなときには、例外的に、配当全体が資本の払戻しと整理され、同法24条1項3号の規律に服すると解される。
but
本件は前記の差異が生じる場合ではない。

本件資本配当には同号が、
本件利益配当には同法23条1項1号が
それぞれ適用される。

国の上告受理の申立てを受理。

<判断>
利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当は、その全体が法人税法24条1項3号に規定する資本の払戻しに該当する。
法人税法24条1項に規定する株式又は出資に対応する部分の金額の計算方式について定める法人税法施行令23条1項3号の規定のうち、資本の払戻しがされた場合の当該払戻し直前の払戻等対応資本金額等の計算方法を定める部分は、
利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当につき、当該払戻しにより減少した資本剰余金の額を超える当該払戻し直前の払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において、法人税法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効。

判例時報2501

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

夫婦同氏制合憲決定

最高裁R3.6.23

<事案>
抗告人らが、婚姻届に「夫は夫の氏、妻は妻の氏を称する」旨を記載し婚姻の届出(「本件届出」)⇒国分寺市長が不受理とする処分(「本件処分」)⇒本件処分が不当として、戸籍法122条に基づき、同市長に本件届出の受理を命ずることを申し立てた。

<争点>
民法750条及び戸籍法74条1号(併せて「本件各規定」)が、
①夫婦別氏を自坊する者を「心情」により差別するものとして憲法14条1項に違反
②憲法24条に違反
③女子差別撤廃条約又は人権B規約(自由権規約)に違反

特別抗告 抗告理由:
本件各規定が憲法14条1項、24条、98条2甲に違反して無効

<判断>
憲法24条違反をいう論旨:
各規定が憲法24条に違反しないことは平成27年大法廷判決のとおり。
平成27年大法廷判決以降にみられる女性の有業率の上昇、管理職に占める女性の割合の増加その他の社会の変化や、いわゆる選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合の増加その他の国民の意識の変化といった原決定が認定する諸事情を踏まえても、平成27年大法廷判決の判断を変更すべきものとは認められない。
その余の論旨(憲法14条1項、98条2項等違反):
その実質は単なる法令違反を主張するもの又はその前提を欠くものであって、特別抗告の事由に該当しない。

判例時報2501

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

児相による面会通信制限を理由とする国賠請求(一部肯定)

宇都宮地裁R3.3.3

<事案>
Z1児童相談所(本件児相)の所長(本件児童相談所長)が、児福法33条によりX1及びX2の子であるAを一時保護し、児福法33条X1及びX2の子であるAを一時保護し、児福法27条1項3号に基づく入所措置を行って児童養護施設に入所させ、児福法12条2項、11条2項2号二に定める行政指導としての面会通信制限を継続したことについて、本件児相が行政指導としての限界を超える違法な面会制限を行ったことにより重大な精神的苦痛を生じさせた⇒Xらが本件児相を所轄するY(栃木県)に対し、慰謝料を請求

H29.1.26:本件児相に対し、匿名で、A(平成18年生)が虐待を受けているとの通告⇒職員がAと面接⇒同月27日付けでAを一時保護する決定、同年3月31日に同保護を解除したうえで、Aを児童養護施設に入所させる措置を決定。

本件児童相談所長は、Xら及びAに対し、本件一時保護の決定以降、X2(Aの母)については平成31年2月5日まで、X1(Aの父)については同年12月4日まで、児福法11条1項2号ニ所定の「その他必要な指導」(行政指導)としての面会通信制限を行った(本件指導)。

X2は、平成29年4月から5月にかけて繰り返し本件児相に電話を掛け、祖父宅への引取りを早期に認めてほしいと申し入れた。

本件児相職員:AはX1により虐待されてことを離しており、ある程度の長期の施設処遇が必要と考えらる⇒たとて祖父宅であっても早期に家庭に戻すことは考えていない旨回答。

Xら代理人弁護士:平成29年11月8日に本件児相を訪ね、AとX2との面会、AとX1との手紙での交流の開始を求めた。

平成30年3月9日に電話で本件指導の中止等を求め、同年5月9日には本件児童相談所長及びYに対し、本件指導の中止等を求める内容証明郵便を発送。

本件児相:同月18日に、Xらに対し、現時点で親子面会の機会を設けることはできない旨を記載した事務連絡文書を送付。

Xらは、同年7月31日に、本件訴訟を提起。

同年12月18日に、X2とAの面会開始を決定。
平成31年2月5日に、X2がAと面会する機会を設けた。

<判断>
虐待を受けた児童の保護者が行政指導としての面会通信制限に対して、不協力・不服従の意思を表明している場合であっても、当該保護者が受ける不利益と前記行政指導の目的とする公益上の要請とを比較衡量して、前記行政指導としての面会通信制限に対する当該保護者の不協力が社会に照らし客観的に客観的にみて到底是認し難いといえるような「特段の事情」が存在⇒前記面会通信制限を中止せず、これを継続したとちても、その限度において国賠法1条1項の適用上「違法」であるとの評価は成り立たないものというべき。
but
当該保護者において、児童相談所所長に対し、行政指導としての面会通信制限にもはや協力できないとの意思を「真摯かつ明確に表明」し、直ちにその中止を求めているものと認められる⇒前記「特段の事情」が存在するものと認められない限り、前記面接通信制限の」措置を継続する児童相談所長の対応は、国賠法1条1項の運用上「違法」との評価を免れないと解するのが相当。

①X1は、相当長期にわたってAに対し日常的に暴力等による身体的虐待を行い、これによりAに対して身体的だけでなく心理的にも深刻なダメージを与えており、Aに対して面会通信を求める権利を大きく制限されても」やむを得ない立場にあった
②AもX1との面会を拒絶する態度を続けていた

X1との関係では、前記「特段の事情」の存在が認められる。
X2については、社会通念に照らし客観的にみて本件指導への不協力が到底是認し難いものといえるような「特段の事情」の存在は認められない⇒本件児相所長が平成30年5月18日以降もX2とAの面会通信制限を継続したことは、X2の面会通信に関する権利又は法的利益を違法に侵害したというべき。

<解説>
児福法27条1項3号、33条の規定による措置
⇒児童相談所長は、児童虐待の防止及び児童の保護の観点から、面会、通信の制限をすることができる(児童虐待防止法12条)。
児童相談所の所長及び所員には児童の福祉等に関する一定の専門的知識を有することが求められている(児福法12条の3)⇒児童と保護者との面会、通信の制限の必要性の有無についての判断は、児童相談所長の専門的合理的な裁量に委ねられており、その判断が著しく不合理であって裁量の逸脱又は濫用と認められる場合に限って違法となる(東京地裁H25.8.29)。

児童権利条約10条は、家庭の再統合のため、父母と異なる国に居住する児童が、例外的な事情がある場合を除くほか定期的に父母との人的な関係及び直接の接触を維持する権利を有する旨規定
⇒最近の裁判例でも、子と非監護親との面会交流は基本的に子の健全な成長にとって重要な意味があるという前提から、子の福祉を害すると認められるような例外的な場合を除いて、実施の意義を認める傾向。

東京家審24.6.29:申立人(非親権者親)と情緒障害児短期治療施設又は児童養護施設に入所中未成年者らとの面会交流について、その具体的な日時、場所及び方法を入所施設と協議して定めることを留保した上で、相手方(親権者母)に面会交流の妨害の禁止を命じる判断。
but
子が施設入所中であること自体が、面会交流の禁止・制限事由に当たるとは解していない。

本判決:
本件児相所長は、児福法12条2項、11条1項2号ニに定める「その他必要な措置」の在り方やその内容について高度な専門的・技術的知見に基づく広範な裁量を有するものと解される
but
これはあくまで行政指導の一般原則(行手法32条)の枠内において認められるにとどまる⇒「その他必要な指導」に対する不協力が真摯かつ明確な意思によって表明された場合には、前記2の「特段の事情」の判断を含め、本件児相所長の前記裁量権は収縮・後退するものと解するのが相当。

<規定>
行手法 第三二条(行政指導の一般原則)
行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

<本件>
児童と保護者との面会、通信の制限の違法性が争われたこれまでの裁判例で、保護者側からの国賠請求を棄却するものが多い中で、請求を一部認容したもの。

判例時報2501

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

« 2022年1月 | トップページ | 2022年3月 »