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2022年1月 4日 (火)

署名偽造といえないとされた事案

京都地裁R2.6.25

<事案>
自宅で宅配荷物を受領する際、配達票の受取印欄に仮名で署名した行為⇒作成者と名義人の人格の同一性に齟齬をきたすものとはいえない⇒署名偽造に当たらない。

<判断>
署名の作成者が、自己を示す呼称として本名とは異なる呼称を用いて署名をした場合の私印(署名)偽造罪の成否については、本名を用いて署名しないことによって、社会通念上、作成者と名義人の人格の同一性に齟齬が来すか否かによって判断すべき。
①本件において、被告人Aからの「B」名義の物品の注文及び配達の依頼に基づき、H1店は、被告人方に居住する「B」宛てに当該物品を配送するよう宅配便業者に依頼⇒少なくとも宅配便の依頼者と受取人との間では「B」名の人格の同一性に齟齬はない
②配達員は、基本的には注文者の指定する住所をもとに、そこに居住する人物に当該荷物を届けて受取人の押印ないし署名を求め、署名作成者に身分証明を求めておらおらず、単に注文者の指定する人物であることが確認されればよい⇒その立場は依頼者であるH1店と同様に解してよいと認められる。

宅配便業者の配達員、依頼者と受取人の間では、「B」名の人格の同一性に齟齬はない。

本件において、被告人Aが「B」と配達票の受取印欄に署名し、本名を用いなかったことにより、社会通念上、作成者と名義人の人格の同一性に齟齬を来すものとはいえず、被告人が、刑法167条1項にいう「他人の署名を偽造した」とはいえない。
署名が偽造でない⇒偽造した署名を「使用」したともいえない。

<解説>
印章や署名は文書の作成に際して使用され、印章や署名の偽造も文書偽造の手段としてなされることが多く、その偽造は文書偽造に吸収される。
形態的には印章のようでも、極度に省略された文書として扱われることも多い。

署名の「偽造」についても、文書の「偽造」についての議論が妥当。

「偽造」の意義は、
A:作成名義の冒用
〇B:人格の同一性を偽る

通称や偽名を使用した場合、同姓同名の他人になりすました場合、肩書や資格を冒用した場合などの事例が問題。

本判決:
宅配荷物の配達票の受取印欄に記載される署名につき、本名に限定しないと関係者不利益が生ずることは考え難く、人格の同一性に齟齬が生ずるとはいえないと判断。

尚、警察官の取調べを受けた際に作成される供述調書の被疑者署名部分に、本名以外の名称を記載した場合に、偽造の成立を認める裁判例。

判例時報2494

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