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2022年1月23日 (日)

当選無効の決定の取消しを求める請求と当選人Zの当選無効を求める請求の主張する利益の共通性(否定)

最高裁R3.4.27

事案 申立人は、平成31年4月21日執行の新宿区議会議員選挙(本件選挙)において当選人とされた⇒選挙人からの異議の申出を受けた新宿区選挙管理委員会から、引き続き3か月以上新宿区の区域内に住所を有する者という被選挙権の要件を充たしていない⇒当選を無効とする決定(本件決定)⇒東京都選挙管理委員会に審査の申立て⇒これを棄却するとの裁決(本件裁決)

本件本案訴訟:
申立人が、東京都選挙管理委員会を相手に、
①本件裁決の取消し(請求1)
②本件決定の取消し(請求2)
に加え、
③本件選挙において当選人とされたAの当選を無効とすることを求める(請求3)

<本件>
申立人が、本案訴訟の訴え提起の手数料として、
訴訟の目的の価額320万円に応じた2万1000円を納めたが、
訴訟の目的の価額は正しくは160万円であり、これに応じた手数料の額は1万3000円⇒民訴費用法9条1項に基づき、8000円の還付を申し立てた。

<判断>
請求1及び2は、いずれも、認容されることにより、結局のところ抗告人(申立人)の当選を無効とする本件決定の効力を失わせることを目的とするもの。
but
請求3は、認容されることにより、抗告人とは別の当選人であるAの当選が無効とされる⇒請求1及び2と請求3とでは、それぞれ認容されることによって実現される状態が異なる。

請求1及び2と請求3とでは、訴えで主張する利益が共通であるということはできない

<規定>
民訴法 第八条(訴訟の目的の価額の算定)
裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)の規定により管轄が訴訟の目的の価額により定まるときは、その価額は、訴えで主張する利益によって算定する。

2前項の価額を算定することができないとき、又は極めて困難であるときは、その価額は百四十万円を超えるものとみなす。

第九条(併合請求の場合の価額の算定)
一の訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする。ただし、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求については、この限りでない。

2果実、損害賠償、違約金又は費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額は、訴訟の目的の価額に算入しない。

<解説>
● 手数料は、訴額に応じて定まる。
訴額は、訴えで主張する利益によって算定する。
財産権上の請求でない請求に係る訴額⇒160万円とみなす。

手数料の額の算定の場面における民訴法8条1項の「訴えで主張する利益」は、財産権上の請求を念頭に置いたもの。
「訴訟の目的」とは訴訟の対象である権利又は法律関係すなわち訴訟物
「訴えで主張する利益」とは、原告が全部勝訴の判決を受けたとすれば、その判決によって直接受ける利益を客観的かつ金銭的に評価して得た額。
1つの訴えで数個の請求⇒その価額を合算したものを訴額とする。
その訴えで主張する利益が各請求について共通⇒その各請求については、この限りでない(民訴法9条1項)。

共通である場合:
代償請求の場合
数人の連帯債務者等に対する請求の場合
選択的併合の場合

非財産権上の請求についても、基本的に同様に考えてよい。
それぞれの請求が認められることによって実現する状態が同一のものと評価することができるような場合がこれに当たる。
「訴訟物」は、「原告の訴えによって特定され、裁判所の審判の対象となる権利関係」をいう。
取消訴訟においては、処分の違法性一般であるという見解が一般的。

● 公選法に定める当選争訟は、客観訴訟の一種である民衆訴訟(行訴法5条)であり、特別区議会議員選挙については、特別区選挙管理委員会に対する異議の申出、同決定についての都選挙管理委員会に対する審査申立てを経た上で、同裁決に対して訴えを提起。
原決定に対しては出訴を許さず、裁決に対してのみ出訴を許すとうい裁決主義が採用

これらの争訟においては、究極的には選挙会による当選人決定(公選法80条)が争われる。
当選争訟においては、争訟審理機関は、自ら当選人を決定し得る権限を有するものではない⇒異議審理庁は、当選無効の決定をし、又は選挙会の決定を取り消し得るにとどまり、積極的に当選人を確認することはできない。

● 当選争訟は、
①選挙会の決定手続の違法を争うもの
②得票数の多少を争うもの
③当選人たり得べき資格の認定を争うもの
に分類。

● 抗告代理人の抗告理由:
当選人決定を基準に訴額を定めるべきであり、当選人の数を基準とすべきではないところ、請求1~3の訴訟物は1個
vs.
民訴法 8条、9条の文言や立法趣旨

財産権上の請求については、
まずは訴額を「訴えで主張する利益」により算定し、
「一の訴えで数個の請求をする場合」には、多額のものではなく合算することとし、
③ただ、その訴えで主張する利益が共通である場合には合算しない。

訴訟物の個数をまず決定し、これに応じて訴額を算定し、訴え提起手数料を定めるという順序によらなければならないとはされていない。
「訴えで主張する利益」は、財産権上の請求について、原告が全部勝訴の判決を受けたとすれば、その判決によって直接受ける利益を客観的かつ金銭的に評価して得た額

処分権主義の下、原告が掲げる請求の趣旨によって定まるもの
条文上も、「訴訟物」という用語が使われてはおらず、「請求」とされている。
非財産権上の請求についても、訴えで主張する利益が共通であるか否かは、それぞれの請求が認められることによって実現する状態が同一のものと評価することができるかによって決することとなる、。


①請求1~3については、非財産上のもの⇒それぞれ訴えで主張する利益は160万円
合算するのが原則
申立人の当選の効力を争う請求1及び2と、申立人とは別の当選人の当選無効に関する請求3とでは、主張する利益が共通であるとはいえない
少なくとも、請求1及び2と請求3の訴額を合算した320万円が本件の訴額。


本決定:訴訟物の個数について何ら触れずに結論に至っている。

訴額の算定にあたっては、必ずしも訴訟物の単複や個数を検討するよりも、訴額の算定に当たっては、請求の趣旨によって定まる、原告が全部勝訴の判決を受けた場合に実現する状態という観点から検討すれば足りるという考え方。

判例時報2500

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