同族会社の企業集団内の外国法人からの借入れの法人税法132条1項にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」該当性が問題となった事例
東京高裁R2.6.24
<事案>
● Aが直接的又は間接的な完全親子会社関係を有する会社からなる会社群(Aグループ)は、平成20年9月から平成21年7月にかけて、日本の関連会社の組織再編等を行うための計画(本件再編スキーム)に基づき、組織再編取引等を実行。
●
①Aグループに属する英国法人の設立した完全子会社が、音楽事業を目的とする合同会社であるXを設立(本件設立)。
②Xが前記①の完全子会社から295億円の追加出資を受ける(本件増資)。
③Xが、Aグループにおける資金集中管理(CMS)の統括会社(CMS統括フランス法人)であるFから、866億6132万円を有利子無担保で借り受ける(本件借入れ)。
④Xが、本件増資による出資金と本件借り入れの元金を原資として、Aグループに属するオランダ法人等から、B㈱及び㈱Cほか1社の全株式を買い取る(B㈱の株式の取得を「本件買収」という。)。
これらの買収に伴う財務関連取引により、B及びCの買収の代金に相当する金員が各売主からその親会社であるオランダ法人に貸し付けられ、当該オランダ法人のCMS統括フランス法人(Fほか1社)に対する債務の返済に充てられる。
⑤Xが、Bを吸収合併する(本件合併)。
⑥Xの完全子会社であるD合同会社が、C及び株式会社E(B(X)の子会社)を吸収合併。
● 法人税法2条10号の「同族会社」に当たるXは、平成20年12月期~平成24年12月期(本件各事業年度)に係る法人税の確定申告において、外国法人(F)からの本件借入れに係る支払利息(本件利息)の額を損金の額に算入して申告。
⇒
麻布税務署長(処分行政庁)は、本件利息の損金算入はXの法人税の負担を不当に減少させるもの⇒法人税法132条1項に基づき、その原因となる行為を否認してXの所得金額を加算し、本件各事業年度に係る法人税の各j更正処分(本件各更正処分)等をした。
⇒
Xが、本件各更正処分等が違法な処分であるとして、Y(国)を相手に、本件各更正処分の取消しを求めた。
<争点>
本件組織再編取引等及びその一部である本件借入れが、法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(「不当性要件」に該当するか否か)
<原審>
・・・・Xは、本件借入れに基づきFに対して支払った本件利息の額を本件各事業年度における損金の額に算入したために、課税対象所得が減少し、その結果法人税の額が減少
⇒
不当性要件の該当性は、Xによる本件借入を対象として、その経済的合理性の有無を判断するのが相当。
法人税法132条1項1号の趣旨⇒当該同族会社の行為又は計算が、同項柱書にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(不当性要件)に該当するか否かは、専ら経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が純粋経済人として不自然、不合理なものと認められるか否か、すなわち経済的合理性を欠くか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべき。
そして、同族会社の行為又は計算が経済的合理性を欠くか否かを判断するに当たっては、当該行為又は計算に係る諸事情や当該合同会社に係る諸事情等を総合的に考慮した上で、法人税の負担が減少するという利益を除けば当該行為又は計算によって得られる経済的利益がおよそないといえるか、あるいは、当該行為又は計算を行う必要性を全く欠いているといえるかなどの観点から検討すべき。
①Xによる本件借入れが行われる原因となった、Aグループが設定した本件8つの目的は、日本の関連会社に係る資本関係の整理や、Aグループの財務態勢の強化(グループ内における負債の経済的負担の配分、為替リスクのヘッジに係るコストの軽減)等の観点からいずれも経済合理性を有するものであり、かつ、これらの目的を同時に達成しようとしたことも経済的合理性を有するもの
②本件再編成等スキームに基づく本件組織再編取引等は、これらの目的を達成する手段として相当、
③本件組織再編取引等によるこれらの目的の達成はXにとっても経済的利益をもたらすものであったといえる一方、本件借入れがXに不当な経済的不利益をもたらすものであたっとはいえない。
⇒
Xによる本件借入れについては、法人税の負担が減少するという利益を除けばこれによって得られる経済的利益がおよそないとか、あるいは、これをおこなう必要性を全く欠いているなどとはいえない
⇒
専ら経済的、実質的見地において、純粋経済人として不自然、不合理なものとはいえず、経済的合理性を欠くものとは認められない。
<判断>
原審の判断を結論において是認。
・・・・同族会社が当該同族会社の株主等又はその関連会社からした金銭の無担保借入れが不当要件に該当するか否かについては、特に、前記のような借入れが当該同族会社の属する企業集団の再編等(企業再編等)の一環として行われた場合は、
①当該借入れを伴う企業再編等が、通常は想定されない企業再編等の手順や方法に基づいていたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、
②税負担の減少以外にそのような借入れを伴う企業再編等を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情も考慮した上で、当該借入れが経済的合理性を欠くか否かを判断すべき。
<解説>
● 法人税法132条は、一般に、多数の資本主によって構成されている非同族会社の場合には、利害関係者相互の牽制が作用⇒一部の資本主が会社の意思決定を任意に行う可能性は比較的少ない。
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同族会社の場合には、会社の意思決定が一部の資本主の意図により左右⇒租税回避行為を容易になし得る⇒これを是正し、負担の適正化を図るためのもの。
●不当性要件:
行為・計算が経済的合理性を欠いている場合というように、純経済人の行為として不合理・不自然な行為・計算により法人税の負担を減少させたと認められるものとする見解(経済的合理性説)
行為・計算が経済的合理性を欠いている場合とは、それが異常ないし変則的で、租税回避以外に正当で合理的な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合のことであり、独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で行われている取引(アメリカ租税法でarm's length transaction(独立当事者取引)と呼ばれるもの)と異なっている取引には、それに当たると解すべき場合が多いであろう(金子)。
「租税回避以外に正当で合理的な理由ないし事業目的が存在しないと認められる」か否かについては、
A:租税回避以外の事業目的等が「存在するか否か」のみを判断する立場
B:行為・計算の異常性の程度との関係や、税負担の減少目的との主従関係等を考慮して、租税回避以外の事業目的等が「正当なものといえるか」どうかも判断する立場
最高裁昭和52.7.12:
問題とされた貸倒処理を「同族会社であるためにされた不自然不合理な租税負担の不当回避行為」として同条に基づき否認することができる旨を判示。
最高裁昭和53.421:
法人税法132条の合憲性に関し、同条は「原審が判示するような客観的、合理的基準に従って同族会社の行為計算を否認すべき権限を税務署長に与えているもの」と解される旨判示。
⇒
それ以後の下級審裁判例は、経済合理性説(専ら経済的・実質的見地において通常の経済人の行為又は計算として不合理、不自然なものである否か)によるものが大多数。
専ら経済的・実質的見地において通常の経済人の行為又は計算として不合理、不自然なものであるか否かは、
①通常の場合(例えば、同業他社の取引例等)と比較してどの程度異常(又は変則的)であるかという点と、
②その異常性を正当化するに足りる事情(租税回避以外の理由や事業目的)があるかという点
を総合的に判断しているものが多い。
●同族会社の属する企業集団の再編等の一環として行われた同族会社の借入れの不当性要件該当性については、経済的合理性説を前提として、当該借入れがなされた「文脈」の中で検証するという観点から、企業集団の再編等につき最高裁H28.2.29で判示された考慮事情の存否等をみた上、当該借入れ事態に関する事情と併せて考慮して検討するのが相当。
~
企業の再編に関しては、同族会社の行為計算否認規定(法人税法132条)と
組織再編成に係る行為計算否認規定(同法132条の2)の両者にわたり共通の判断枠組みを用いることとなる⇒法的安定性の観点からみて妥当。
●本判決:
不当性要件該当性の当てはめにおいて、
①本編再編成等スキームに基づく本件組織再編成取引等につき、Xが主張する本件8つの目的を踏まえて、不自然なものとはいえず、税負担の減少以外にこれを行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するといえるかを検討。
~
本件8つの目的を日本の関連会社の経営の合理性、事業会社グループ名地の外国法人の負債軽減、日本の関連会社の財務の合理化という観点から分析した上、本件8つの目的を同時に達成しようとしたものという観点からの結論を示している。
その上で、
②本件借入れの目的、金額、返済条件、無担保の理由、本件借入れ後の状況について経済的合理性を欠くものであるというべき事情の有無を個別具体的に検討し、これらの諸点を総合して、本件借入れが経済的合理性を欠くものであるか否かを評価。
判例時報2500
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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