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2022年1月 1日 (土)

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律による、職業活動の自由への消極目的規制の合憲性判定基準

最高裁R3.3.18

<事案>
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律36条の6第1項、3項:
薬局開設者又は店舗販売業者において、要指導医薬品(法4条5項3号)の販売又は授与をする場合には、
薬剤師に対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を行わせなければならず、これができないときは要指導医薬品の販売又は授与をしてはならない旨を規定。

本件:店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売をインターネットを通じて行う会社が、本件各規定は憲法22条1項に違反するなどと主張して、
国を相手に、
要指導医薬品として指定された製剤の一部につき、前記方法による医薬品の販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認等を求めた。

<解説>
薬事法は従前:
一般用医薬品をリスクに応じて3つに区分
第1類医薬品:その販売等に際し、薬剤師をして、その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない。
第2類医薬品:その販売等に際し、薬剤師又は登録販売者をして、その適正な使用のために必要な情報を提供させるよう努めなければならない。

薬事法施行規則は、前記医薬品につき、薬剤師等に、対面で販売等をしなければならない旨の規定を設け、もって郵便等販売が禁止。


最高裁H25.1.11:
前記薬事法施行規則の規定が、一般用医薬品のうち第1類医薬品及び第2類医薬品につき、店舗販売業者による店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による販売又は授与を一律に禁止することとなる限度において、薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効。


薬事法が改正され、従前の一般用医薬品が、一般用医薬品と要指導医薬品に区分された。
法4条5項3号イからニまでに掲げる医薬品で、その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定する要指導医薬品については、その販売又は授与するに際し、薬剤師に対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない旨規定。

最高裁H25.1.11:省令の規定が法律の委任の範囲内であるか否かが問題
本件:前記の薬事法の改正により設けられた法律の規定である本件各規定が違憲無効であるかが問題

<判断>
薬局等の適正配置規制に関する当時の薬事法6条2項、4項が憲法22条1項に違反する旨の判断をした薬事法距離制限事件最高裁判決を参照した上、
本件各規定による規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度に照らすと、本件各規定による規制に必要性と合理性があるとした判断が、立法府の合理的裁量の範囲を超えるものであるということはできない

本件各規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。

<規定>
憲法 第二二条[居住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由]
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

<解説>
● 憲法22条1項の職業選択の自由:
広く一般に、いわゆる営業の自由を保障する趣旨を包含するもの。
狭義の職業選択の自由(職業の開始・継続・廃止の自由)だけでなく、職業活動の自由(選択した職業活動の内容、態様の自由)も含む。

● 経済的事由の制約を伴う規制立法の憲法適合性:薬事法距離制限事件最高裁判決(最高裁昭和50.4.30):
これらの規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、これを一律に論ずることができず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、
これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。

右のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務
⇒裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべき
but
右の合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭がありえる
⇒裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべき。

利益衡量論を基礎とした上で、前記の諸事情を比較考量して立法府の判断がその合理的裁量の範囲内にあるか否かを判断する枠組み。

一般に許可制は単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限
⇒その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し、また、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するより緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要する。

消極目的規制についての厳格な合理性の基準を示したものであり、
小売市場事件最高裁判決が、積極目的規制についてはは明白の原則によることを示したものであるという理解と併せて、いわゆる規制目的二分論によるものであると理解。
vs.
最高裁は、特に許可制の下におけるいわゆる消極目的規制である場合には、他の規制措置では目的を達成することができないものであることを要するとしたものであって、
消極目的規制であることのみをもって、厳格な合理性の基準により合憲性を判断すべきとするものではない。

● 本判決:
本件における立法府の裁量の幅については、
本件各規定による規制は、消極的、警察的措置と評価し得るものであることを前提としつつ、
職業活動の自由に一定の制約を課すにとどまる
⇒直ちに狭くなるものではないと解している。

判例時報2499

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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