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2021年12月 1日 (水)

刑訴法321条1項2号後段で請求された検察官調書の却下が訴訟手続の法令違反とされた事案

大阪高裁R2.3.10

<原審>
本件犯行は被告人以外の人物が共犯者に指示したことによって行われたものである可能性が否定できないと判断し、被告人と共犯者らとの共謀を否定。

<控訴趣意>
事実誤認:
間接事実①~⑥によれば、被告人と共犯者らとの間に本件犯行の共謀があったことが推認できる⇒これを認めなかった原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。

訴訟手続の法令違反:
間接事実④(被告人が共犯者の1名に対して本件犯行に用いられた催涙スプレーを送っていること)を立証するために、原審検察官が、刑訴法321条1項2号後段に該当するとして証拠請求したZの検察官調書謄本につき、これを却下した原審裁判所の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。

<規定>
刑訴法 第三二一条[被告人以外の者の供述書面の証拠能力]

被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。

二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき。但し、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る

<判断>
Zの原審公判供述と本件検察官調書は、その一部において、互いに相反していること(相反性)が認められ、かつ、本件検察官調書の本件相反部分は、Zの原審公判供述よりも信用すべき特別の情況(相対的特信性)が認められる。
⇒本件検察官調書の証拠請求を却下した原判決には訴訟手続の法令違反がある。

<解説>
●本判決は、相対的特信性を認めた理由につき詳細に判示し、その中で、Zの原審公判での供述状況のみならず、疎明資料として提出されたDVDを使って、Zの捜査段階の供述状況について詳しく分析。

●取調べの記録媒体を相対的特信性判断の資料に用いたこと
原審では本件検察官調書の証拠請求自体が却下。
⇒控訴審は、その証拠能力判断のために、改めて本件検察官調書の提示を命じ、本件DVDもそれに合わせて控訴審に提出されたものと思われる。

◎記録媒体である本件DVDを、刑訴法321条1項2号後段書面の要件である相対的特信性の判断に使用していいか?

記録媒体を法廷審理に使用できるかという問題:

ア:被害者の取調べの記録媒体を、刑訴法が本来その目的としている場合のほかに、当該被疑者本人の供述調書(自白調書など)の信用性判断に補助的証拠として用いる場合、
イ:実質証拠として用いる場合
を中心に検討されており、

本件のように、第三者の供述調書を伝聞例外として証拠とする場合の判断に用いるというような場合は想定されていなかった。
補助的証拠として採用しても、それ自体が実質証拠として機能してしまう可能性が高く、これを阻止することが困難であること、
視覚による影響は極めて強く、総合的に行われるべき信用性判断が偏った形で行われる可能性が高い

これらの議論において、その使用を否定的に捉える重要なファクター。

単なる手続き関連の補助的証拠であるからなどといって、安易に使用することは許されない
特に①は最も警戒すべき点。

本判決:
「証拠能力の判断は、原審裁判体を構成する裁判官3名の合議によって行うべきものであり、本件検察官調書の相対的特信性を疎明する資料として提出された本件DVDの内容も、原審裁判体を構成する裁判官3名のみが視聴すればよい⇒それを資料とすることによって、原審裁判体を構成する裁判員の判断に不当な影響を与えることはない。」と付記
vs.
裁判員のみならず裁判官であってもその影響を排除するのは難しく、この説明だけで、問題が解決しているとは言い難い。

公判中心主義のもとでの相対的特信性判断の在り方
裁判員裁判⇒刑訴法本来の直接主義、公判中心主義に立ち返ることが標ぼう。
⇒刑訴法321条1項2号後段の解釈、運用についても、見直しを迫るものであるはず。

判例時報2495

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