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2021年12月 8日 (水)

心神喪失で無罪の事案

横浜地裁R2.3.19

<事案>
妄想型統合失調症にり患していた被告人が、
①実母に包丁を振り下ろして傷害を負わせ、
②実父の腹部を包丁で突き刺して障害を負わせて死亡させた
という傷害、傷害致死の事案。

<解説・判断>
●責任能力の判断手法について
統合失調症の事案で、
犯行と関係のある明確な幻覚・妄想が現れていた類型として、迫害などを受けているとの幻覚・妄想から、迫害者と考えるものを排除又は報復するという犯行への直接の動機が認められる場合に、心神喪失と判断した裁判例もいくつかある。
また、統合失調症の影響により責任能力が争われている事案では、裁判所において、犯行の動機が妄想に直接支配されていたか否かという点が最も重視されているという指摘。
責任能力の判断におぴて、7つの着眼点という手法が整理。
but
各項目の重要度は同等ではなく、その比重は事例ごとに異なり、当該事案の具体的な事情を踏まえた判断を行う必要。
精神鑑定医が鑑定を行うにあたり、動機の了解可能性・不能性については、他に比べて総合評価における比重が大きくなることが多いという指摘。
~精神障害が犯行に与えた影響の程度を検討するという目的からは、自然。

●本件事案における精神障害と動機の関係性
本件各犯行の動機を認定した上で妄想との関係性を検討

被告人を攻撃している者たちの仲間になっていた実父が、警察が来るので見られたら困るような盗撮用のカメラが仕掛けられた火災報知機を洗面台に隠しているのではないかと考え、実父に何をしているのか言わせたいと思い、実父に対する行為に及んだ。

盗聴器を隠していると被告人が考えたことが統合失調症による妄想の影響であり、実父に対する行為は正に妄想が直接の原因であると評価。
実母に対する行為についても、雨戸の開閉について指摘されたことが発端となっている。
but
実母が被告人を攻撃している者たちと一緒になって被告人を裏切ったと考え、その点を実母にきちんと認めたほしいと思って行為に及んだと認定。

実母に対して感じた怒りというのは、長年抱いてきた妄想と密接に関連していると評価。

本件各犯行に及んだ動機について、妄想の影響を受けた了解不能なものであるとして、責任能力を否定する方向に傾く事実として位置付けている。
7つの着眼点の手法を用いながら、妄想と動機との関係性を踏まえ、その他の事情をも考慮して心神喪失の結論を導いている。

検察官:怒りと妄想とを分断し、前者のみを本件犯行に至った動機と位置付けた上で、動機が了解可能であると主張。
vs.
感情のみを殊更に強調し、怒りが生じた原因となる妄想との関連性を適切に把握していないと指摘。

判例時報2493

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