小学校の教諭が脳幹部出血を発症して後遺障害が残った事案での、公務との間の相当因果関係(肯定事案)
福岡高裁R2.9.25
<事案>
公立の小学校教諭であったX(発症時44歳)は、勤務先から帰宅後に意識を消失し救急搬送⇒後遺障害が残った。
Xは、地方公務員災害補償法に基づき公務災害認定請求⇒Y(地方公務員災害補償基金)熊本県支部長から公務外認定処分⇒審査請求及び再審査請求⇒棄却⇒公務外認定処分の取消しを求めた。
・・・・Xのパソコンに残っていたログや、文書ファイルの作成・更新時刻の記録⇒Xが本件発症に近接した時期に、自宅で夜間や早朝に関連する文書の作成をした場合もあったことが認められるものの、公務に関する文書の作成作業を行った正確な時間は不明。
<1審>
①本件発症前の6か月間におけるXの勤務先での時間外労働時間を認定
②本件発症前1か月について自宅でもパソコンを用いて公務に当たる作業を行ったと認め、自宅での作業時間を一定の推定方法を用いて認定し、
本件発症前6か月の各月のXの時間外労働時間を認定。
①本件発症前1か月間の時間外労働の時間が月100時間に達していない
②本件発症前6か月間の月平均労働時間が80時間に達していない
③本件発症前のXの公務の内容が、他の教諭に比して著しく過重であったとはン認められない
⇒
公務による負荷が、医学的経験則に照らし、脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷であったとは認められない
⇒
本件発症と公務との間に相当因果関係が認められない。
<判断>
自宅における時間外労働時間の認定について、・・・Xが本件発症前2か月目において自宅で公務を行ったものと認めた上で、
①Xの個々の業務が過重であったとまではいえないものの、Xは複数の業務を並行して処理⇒業務上の負荷については業務を全体として評価する必要がある
②本件発症前1か月間の時間外労働時間は、月100時間には達していないものの、これに近い時間となっている
③本件発症前2週間の時間外労働がいずれも週当たり25時間を超えている
④本件発症前2か月目から6か月目については、月平均80時間を超える時間外労働をしたと認められる期間はないものの、本件発症前6か月目の校内時間外労働時間がほぼ80時間であるなど、長期間にわたって恒常的に長時間の時間外労働をしていたといえる、
⑤職場での時間外労働で終わらせることのできなかった文書等の作成業務を自宅で行い、その結果睡眠時間が減ったものと認められる、
⑥休日に部活動の試合の引率を担当することがあり、睡眠時間及び休日の休息の時間を減少させ、疲労の回復を遅らせる要因となったといえる
⇒
Xの本件発症前における業務は、その身体的及び精神的負荷により、脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて増悪させ得ることが客観的に認められる負荷であった。
本件発症の時点で、Xの基礎疾患により、血管病変等が自然経過の中で本件発症を生じさせる寸前の状態にまで増悪していたとは認められない
⇒Xの本件発症前の過重な業務による身体的及び精神的負荷がXの血管病変等をその自然経過を超えて増悪させ、本件発症に至ったと認められる
⇒
本件発症と公務との間の相当因果関係を認め、原判決を取り消し、Xに対する公務外認定処分を取り消した。
<解説>
● 脳・心臓疾患の公務(業務)起因性の判断
最高裁は、(公務と当該傷病等との)相当因果関係の判断基準に関する一般論を示しておらず、傷病等の公務(業務)起因性が問題となった個々の具体的事案に即して、当該傷病等が業務に内在する危険が現実化したものであると評価することができるか否かによって判断。
脳・心臓疾患の公務(業務)起因性が問題となった事案において、労働者又は公務員の基礎疾患が業務上の精神的、身体的な過重負荷によりその自然的経過を超えて増悪して脳・心臓疾患が発症したと認められる場合、業務に内在する危険が現実化したものとして、業務と脳・心臓疾患との相当因果関係の存在を肯定する判断。
● 1審:・・・負荷が、脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等を超えて「著しく」増悪させ得ることが客観的に認められる負荷といえることが必要。
本判決:
「著しく」増悪させ得るものであることを必要としていない。
本件発症前1か月間の時間外労働時間が月100時間に達していない事実を重視しなかった
Xの公務の質的過重性について全体的な負担を評価
判例時報2494
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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