実子に対する保護責任者遺棄致死の事案
東京高裁R2.9.8
<事案>
被害児童(当時5歳)の実母である被告人が、夫で、被害児童の養父である共犯者と共謀の上、十分な食事を与えず衰弱させ、夫による身体的虐待を知りながらそれを容認し、被害児童が極度に衰弱するのを認めながらも医師の診察等を受けさせないまま、肺炎に基づく敗血症により死亡させた。
<原審>
弁護人:責任能力を含む公訴事実を争わない。
本件当時の被告人の心理状態等を鑑定事項とする裁判員法50条1項の鑑定(50条観点)を請求⇒却下。
弁護人:精神科医であるB(B医師)の尋問を請求し、責任能力等に疑いを生じさせる尋問・証言を控え、公判に現れた事実につき一般的知見に基づいて解説する(判断の基礎とする事実)という形で証言することをもtメル一審裁判長の発言を受け、その立証趣旨を「心理的DVがあった場合の心理状態及びそれが行動に与える影響」と変更。
一審裁判所は、B医師の尋問を採用し、夫による心理的支配の程度が被告人の避難可能性に与える影響を、争点の1つとして設定。
一審裁判所により、B医師の証言範囲は、前記判断の基礎とする事実の範囲内に制限された。
<解説>
証言の制限:
裁判長は、証人等の尋問・陳述が相当でない場合、本質的権利を害しない限り、これを制限できる(刑訴法295条1項)。。
<判断>
弁護人:
50条鑑定請求の却下、及びB医師の証言範囲の制限について、訴訟手続の法令違反を主張。
判断:
一審の公判前整理手続において、責任能力を含む公訴事実は争点となっていない。
弁護人が、証人(B医師)につき、夫の心理的DVの影響による本件当時の被告人の心理状態やそれが本件に与えた影響を立証趣旨とし、裁判所もその限りで尋問の必要性を認めて採用するとともに、それに沿った争点確認、証言範囲の制限を行い、一審判決も同争点につき具体的に判断。
⇒争点・証拠の整理は適切に行われた。
<解説>
心理的DVの量刑上の考慮:
量刑判断における刑の可罰性の程度:
①処罰の根拠となる処罰対象そのものの要素
②当該行為の意思決定への非難の程度に影響する要素
からなる。
①②を総合的に考慮して刑事責任の分量が決まる⇒責任非難の程度次第で最終的な刑事責任の分量は大きく異なり得る。
本件:
結婚直後より夫から心理的DVを受け、本件当時も夫からの心理的影響を強く受けていたことを認定。
最終的には被告人が自らの意思で夫の指示を受け入れていた⇒心理的に強固に支配されていたとまではいえず、特に被害児童が要保護状態に陥ってからの状況からすれば心理的影響を乗り越えて被害児童を助ける契機があった。
量刑上の判断において、精神科医の証言以外の方法論として、情状鑑定等も考えられる。
判例時報2496
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