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2021年12月

2021年12月29日 (水)

「航海の用に供する船舶」とは、社会通念上海上とされる水域を航行する船舶をいうとされた事例

福岡高裁R3.2.4

<事案>
平成30年台風21号の暴風により、関西空港連絡橋に衝突する事故を起こしたタンカーの所有会社が、当該事故によって生じた物の損害に関する債権について、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(「責任制限法」)に基づく責任制限手続開始決定を受けた
⇒ 債権者が即時抗告

<解説等>
●責任制限法の沿革・趣旨
責任制限制度は、船舶所有者等の責任の程度を緩和する反面、債権者の権利を制限するもの。
but
憲法29条1項及び2項に違反しない(最高裁)。

最高裁昭和48.2.16:
昭和50年改正前の商法690条について、
船長その他の船員の職務の特殊性に鑑み、民法715条に対する特則を定めたものであって、船舶所有者の責任の範囲について有限責任を規定する反面で、その帰責事由については船舶所有者の過失の有無を問わないこととしたものと解すべき。

●「航海の用に供する船舶」の意義
海商法(商法第3編)が適用される船舶について、商法684条は商行為をする目的で「航海の用に供する船舶」と定義
責任制限法2条1項1号にも同様の定義規定

「航海のように供する船舶」に該当するか否かが、海商法及び責任制限法の適用の可否を画するメルクマール。

●本決定:
①平成30年改正を受けて、商法684条及び責任制限法2条1項1号の「航海の用に供する船舶」の意義について、平成30年改正前の通説とは異なり、平成30年改正の趣旨を踏まえて近時再評価されるに至った見解に沿った解釈を採用して適用
②昭和50年改正後の商法690条、民法715条及び責任制限法の位置づけを整理し
③責任制限法3条3項の責任阻却事由についての一般的な解釈に沿ってこれを適用した事例。

判例時報2498

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性風俗店の経営者らに対する襲撃等につき指定暴力団の会長の使用者責任を肯定した事例

広島高裁H31.2.20

<事案>
無店舗型性風俗特殊営業である派遣型ファッションヘルス店の経営者Xらは、暴力団組員から、それぞれ、
㋐X1がみかじめ料の要求、車両の襲撃、金員の喝取など一連の脅迫行為を、
㋑X3社(代表者X2)がみかじめ料の要求、車両の襲撃など一連の脅迫行為を、
㋒X4がみかじめ料の要求、車両・事務所の襲撃など一連の脅迫行為を受けた。

Xらは、
前記㋐㋑につき、
指定暴力団の参加暴力団の各組長であるY2・Y3と構成員であるY4の共謀による共同不法行為に基づき、
共謀が認められない場合にY2・Y3の使用者責任に基づき、
前記㋒につき、
Y3・Y4の共謀による共同不法行為に基づき、共謀が認められない場合にY3の使用者責任に基づき、

前記㋐から㋒までにつき、
最上位に当たる指定暴力団(A会)の会長であるY1の使用者責任又は暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(「暴対法」)31条の2所定の責任を主張して、損害賠償請求。

<1審>
本件行為は、暴力団組員が、指定暴力団A会又はその傘下の暴力団による上位者の指示ないし了解に基づいて行動していたと推認できる。
参加暴力団の組長Y2・Y3及び組員Y4の不法行為責並びにA会会長Y1の使用者責任を認め、請求を一部認容。

<判断>
一審判決を引用し基本的にこれを維持

暴対法31条の2の趣旨:
指定暴力団の指定暴力団員による威力利用資金獲得行為が行われた場合に、当該指定暴力団の代表者等に損害賠償責任を負わせ、被害者の救済を図ることにある。

使用者責任を追及する場合:使用者性を具体的に主張立証する必要がある
暴対法31条の2の責任を追及:
責任追及の相手方が指定暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある者であることを主張立証すれば足りる一方
責任追及の場面が威力利用資金獲得行為(暴対法31条においては、当該指定暴力団による暴力行為)に限定され、また、他人の生命、身体又は財産を侵害したときに限定されている点などで、使用者責任追及場面と要件を異にする。

暴対法31条の2によって民法715条1項の適用が排除されるとは解されない。

<解説>
最高裁H16.11.12:
①階層的に構成されている暴力団の下部組織における対立抗争においてその構成員がした殺傷行為は、同暴力団が、その威力をその暴力団員に利用させることなどを実質上の目的とし、下部組織の構成員に対しても同暴力団の威力を利用して資金獲得活動をすることを容認し、その資金獲得活動に伴い発生する対立抗争における暴力行為を賞揚していたなどの事情の下では、暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間には、暴力団の威力を利用して資金獲得活動を行うという事業について、民法715条1項の使用関係が成立している。
階層的に構成されている暴力団の下部組織同士の対立抗争においてその構成員がした殺傷行為は、暴力団の「事業の執行」についてされたものに当たる。

本件:
本件行為は性風俗店の経営者に対し、その意思に反してみかじめ料を徴収し又は徴収しようとする過程で襲撃を行った⇒A会及びその傘下組織の威力を利用した資金獲得活動であるA会会長Y1の事業の執行として行われたこと(事業執行性)を肯定

A会会長が逮捕拘留中であったにもかかわらず、指揮監督関係を認めた点に特色がある。

判例時報2498

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2021年12月26日 (日)

労働条件の相違と労契法20条(最高裁)

最高裁R2.10.15

<事案>
Y(日本郵便㈱)との期間の定めのある労働契約(「有期労働契約」)を締結して勤務し、又は勤務していた時給制契約社員又は月給制契約社員であり、郵便の業務を担当していたXらが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者とXらとの間で、種々の労働条件に相違があったことは労契法20条違反⇒Yに対し、不法行為に基づき、損害賠償請求を求めるなどの請求をした事案。

<解説・判断>
● 最高裁H30.6.1(ハマキョウレックス事件):
労契法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることを意味する。

最高裁H30.6.1(長澤運輸事件):
有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき。

賃金項目ごとにその趣旨を異にするのが通常であり、当該賃金項目の趣旨により、前記の判断に当たって考慮すべき事情等が異なることを理由に、前記のように解するのが相当
賃金以外の労働条件の相違についても、同様に個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当。

私傷病による病気休暇(②事件判決)、扶養手当(③事件判決)について、
「継続的な雇用を確保するという目的」を有するとし、
継続的な勤務が見込まれる労働者に当該労働条件を適用することが、使用者の経営判断として尊重し得る。
本件契約社員は「相応に継続的な勤務が見込まれている」⇒当該労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる。

前記の労働条件が一般に労働者の生活保障や福利厚生の趣旨を有し、当該労働条件を適用することにより労働者の継続的な雇用を期待し得るものといえる
⇒使用者において、長期雇用を前提とする労働者のみに適用するという制度設計をすることが一概に不合理とはいえない。
but
有期契約労働者であるからといって直ちに継続的な勤務をすることが期待されていないというものではなく、相応に継続的な勤務が見込まれ、継続的な勤務が期待される有期契約労働者に対して当該労働条件を適用しないとすれば、この点に関する無期契約労働者との間の相違は不合理と評価することができる

②事件、③事件:
Yにおける本件契約社員について継続的な勤務が期待される

契約期間が6か月いない(又は1年以内)とされており、Xらのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。
but
一般的には、「相応に継続的な勤務が見込まれているといえる」かどうかは、事案ごとの個別事情に即して検討。
当該雇用管理の区分における有期契約労働者の契約期間
有期労働契約の更新に係る就業規則の定め等の内容
当該使用者における人員計画の内容
有期労働契約の更新を希望するものにつき実際に契約が更新される割合
通算して勤務する期間の平均値や中央値
等の様々な事情に照らして判断。

夏期冬季休暇(①事件)、年始期間(②事件)における祝日休について、
それぞれの趣旨について述べた上で、
本件契約社員は「繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている」⇒当該労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる

前記の各労働条件が、ごく短期間の勤務が見込まれる労働者に対して適用することが予定されるものとはいい難い一方で、
それ以外の労働者であればその趣旨は妥当するものと考えられる
業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている有期契約労働者に対して当該労働条件を適用しないとすれば、無期契約労働者との間の相違は不合理と評価することができるとの理解を示したもの。

本件契約社員が、その契約期間hが6か月以内又は1年以内とされている⇒業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているとされたもの。

年末年始勤務手当(②事件、③事件)
勤務の継続性に言及することなく、当該労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものにあたる。

その支給要件や支給金額からんみて、労働の対価の趣旨が強いものといえ、継続的な勤務が見込まれるかどうかによってその支給の有無を分けることが相当でないとの理解。

● 短時間・有期雇用労働法8条

判例時報2494

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洗顔石けんの製造物責任の事案

福岡高裁R2.6.25

<事案>
Xらは、洗顔石けん(商品名「茶のしずく石鹸」)を使用⇒アレルギーにり患し、アレルギー症状を発症⇒製造物責任法に基づき、本件石けんを製造したY1・Y2及び原材料を製造したY3に対して、損害賠償請求訴訟を提起。

<争点>
①本件石けんの欠陥の有無
②本件石けんの原材料(グルパール19S)の欠陥の有無
③開発危険の抗弁の成否
④Xらの損害

<原審>
Xらの請求を一部認容




⑤支払われた見舞金について、Xらに支払われた見舞金の額はさまざまで、その金額に照らしても儀礼的に支払われたものとはいい難いものが含まれているところ、同見舞金は、Xらに生じた精神的苦痛を含む損害を補てんする趣旨の仮払いとして支払われた⇒損害との損益相殺の対象となる。


<判断>
原判決の大筋を維持しつつ、Y3が負う損害賠償額を減額する変更をし、Xらの控訴を棄却。

①本件アレルギー被害は、
本件石けんについて通常想定される使用者が、その通常の使用方法に従って使用したことによって生じ、
その被害の内容及び程度は、洗顔石けんの使用によって生じ得るものとして通常想定される被害の程度及び発生の割合を大きく上回るもので、
当時の科学・技術の水準を前提としても、本件アレルギーの原因であるグルパール19Sを配合せず、本件アレルギー被害のような被害が生じない代替設計によって、本件石けんと同等の効用を有する洗顔石けんを製造することは可能であり、
本件石けん販売期間においても、本件アレルギー被害は、洗顔石けんである本件石けんによって生じ得るアレルギー被害として社会通念上許容される限度を超えるものであった
洗顔石けんとして通常有すべき安全性を欠いていた

②グルパール19S自体の効用や有用性を考慮しても、本件アレルギー被害は、洗顔石けんの原材料によって生じるアレルギー被害として社会通念上許容される限度を超えており、本件アレルギー被害発生以前の原材料としての使用状況及び安全性試験の実施状況等にかかわらず、平成16年3月当時、洗顔石けんに配合、添加される原材料として、通常有すべき安全性を欠いていた

③本件石けん販売期間よりも前の時点で存在した知見を総合すれば、本件石けん中のグルパール19Sにより、経皮的又は経粘膜的に感作が生じ、さらに、経口摂取した小麦製品との交叉反応が起こって、本件アレルギー被害のような被害が惹起されることを認識することができなかったとはいえない
開発危険の抗弁は認められない。

<解説>
製造物責任の欠陥の判定については、最高裁H25.4.12(イレッサ薬害訴訟上告審判決)が総合的な判定によるべきことを示唆⇒本判決も総合的な判定を試みている。

判例時報2498

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建設現場での石綿粉じんの件で、厚労大臣の労働安全衛生法に基づく規制権限の不行使を理由とする国賠請求(否定)

最高裁R3.5.17

<事案>
建設作業に従事し、石綿粉じんにばく露したことにより石綿関連疾患にり患したと主張する者(「被災者」)又はその承継人であるXらが、Y1(国)に対し、石綿含有建材に関する規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法であった⇒同項でに基づく損害賠償を求めるとともに、
Y2ら(建材メーカー)に対し、石綿含有建材に関する警告表示義務の違反があった⇒不法行為に基づく損害賠償請求

<論点>
①Y1が平成13年~平成16年9月30日(「本件期間1」)に屋外の建設現場における石綿含有建材の切断、設置等の作業(「屋外建設作業」)に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたか否か
②Y2らが平成13年~平成15年12月31日(「本件期間2」)に屋外建設作業に従事する者に前記危険が生じていることを認識することができたか

<原審>
本件期間1及び2までに公表等がされていた屋外建設作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には、日本産業衛生学会が平成13年に勧告した過剰発がん障がいリスクレベル10のー03乗に対応する評価値としての0.15本/mlを上回るものが複数あった⇒Y1及びY2らは前記危険が生じていることを認識することが可能であったといえる⇒屋外建設作業に従事した被災者Aの承継人であるXらのY1及びY2らに対する請求を一部認容。

<判断>
Y1及びY2らは前記危険が生じていることを認識することができたとはいえない⇒請求棄却。

<解説>
公務員による規制権限の不行使が国賠法上違法であるというためには、
規制権限の不行使により損害を受けた国民との関係で、当該公務員が規制権限を行使すべき作為義務を負っており、
その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる必要があるところ、
その作為義務を肯定するためには、
規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質
被害の重大性及び切迫性
予見可能性
結果回避可能性等
諸事情を総合的に検討すべき。

当該公務員が危険を予見することができない⇒作為義務を課すことができない
⇒予見可能性は、作為義務を肯定するために不可欠。
予見可能性の有無の手がかりになるのは、
主に、就業場所における石綿粉じん濃度に係る本件期間1及び2当時の国の規制値等や、
本件期間1及び2までに公表等がされていた石綿含有建材を使用する作業時における石綿粉じん濃度の測定結果等。

日本産業衛生学会は、石綿粉じんの許容濃度として、
昭和40年:2mg/㎥(=33本/㎤)
昭和49年:2本/㎤
をそれぞれ勧告し、
平成13年には許容濃度に変えて評価値の概念を導入し、
過剰発がん傷害リスクレベル10のー3乗に対応する評価値として0.15本/mlを勧告するなど、
石綿の危険性が明らかになっていくのに応じて勧告に係る濃度を引き下げてきた。

労働省(厚労省):
石綿粉じん濃度の規制値として、
昭和46年の告示:抑制濃度2mg/㎥(=33本/㎤)
昭和48年の通達及び昭和50年の告示:抑制濃度5本/㎤
昭和51年の通達、昭和59年の通達及び昭和63年の告示:抑制濃度又は管理濃度2本/㎤
平成16年告示:管理濃度0.15本/㎤
を定めてきた。

日本産業衛生学会の勧告の影響を受けてきた。

原判決:
本件期間1及び2までに公開等がされていた石綿粉じん濃度の測定結果の中に、日本産業衛生学会の勧告した前記評価値としての0.15本/mlを上回るものが複数ある⇒危険を認識することができた。
vs.

前記の危険の認識の前提となる石綿粉じん濃度の評価基準としては、通常は、法令上の規制値として定められた管理濃度を用いるのが相当。
評価基準として管理濃度が不合理となっており、前記評価値を基準とすべきであれば別論
but
原判決は、本件期間1及び2の当時、そのようにいえる状況にあったことを説明していない⇒問題。

前記評価値の意味は、労働者が1日8時価、週40時間程度、50時間にわたり0.15本/mlの石綿粉じんにばく露したときに、1000人に1人、過剰発がんリスクが発生するというもの
前記濃度以上の石綿粉じんに短時間ばく露することにより直ちに前記の過剰発がんリスクが発生するというものではない。

原判決の指摘する石綿粉じん濃度の測定結果は、主に石綿含有建材の切断作業をする者につきその作業をする限られた時間の個人ばく露濃度を測定したもの⇒それらの測定結果をもって、屋外建設作業に従事する者が就業時間を通じて当該濃度の石綿粉じんにばく露していたということはできない。

本判決:
本件期間1及び2に、Y1及びY2らが、屋外建設作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたとはいえない。

判例時報2498

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2021年12月22日 (水)

自筆遺言証書に成立した日と相違する日付が記載されている場合の効力

最高裁R3.1.18

<事案>
亡Aの妻らであるXらが、本件遺言書に本件遺言が成立した日と相違する日の日付が記載⇒亡Aの内縁の妻らであるYらに対し、本件遺言が無効であることの確認等を求めた。

<原審>
本件遺言は、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているという方式違反により無効⇒本訴請求を認容。

<判断。
遺言者が、入院中の日に自筆証書による遺言の前文、同日の日に日付及び氏名を自書し、退院して9日後(全文等の自書日から27日後)に押印⇒同自筆証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに同自筆証書による遺言が無効となるものではない。

本件遺言のその余の無効事由についてさらに審理を尽くさせるため、原審に差し戻し。

<解説>
自筆遺言証書において日付の記載を要するとした趣旨:
①遺言能力の有無の判断基準時
②複数の遺言証書がある場合の作成の先後
を明らかにする。

自筆遺言証書に記載すべき日付は「真実遺言が成立した日」の日付(判例・通説)。

本件のように、自筆遺言証書の作成の着手から完成までが2日以上にわたった場合、遺言成立日がいつか?

〇A:遺言における要式行為性を重視⇒方式全部を具備した日
B:意思表示を重視し、全文自書した日
vs.
自筆証書遺言の方式が定められた趣旨、すなわち、遺言が遺言者の死亡後に効力を生ずるという性質上、遺言者の真意に基づいてされたことを判断するのに適した方式を定めておき、これを充たすもののみを有効とすることで、遺言者の真意を確保するという趣旨。

必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。

本判決:
遺言成立の日は方式全部を充たした日であり、遺言書には同日の日付を記載すべき。
but
遺言成立日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに当該遺言が無効となるものではないとされた一事例。

判例時報2498

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2021年12月20日 (月)

じん肺管理区分3ロ⇒10年以上療養⇒慢性呼吸不全急性増悪(Ⅱ型)で死亡した場合の業務起因性(肯定)

福岡高裁R2.9.29

<事案>
Aは、38年間、セメント製造等の粉じん作業に従事した後、じん肺を発症。
平成13年8月24日に、じん肺法に基づく管理区分が「管理3ロ」であるけい肺及び続発性気管支炎(「本件疾病」)を傷病の部位及び状態とする療養補償年金を支給する旨の決定⇒Aは、定期的に検査等を受けながら療養を継続⇒平成27年1月に、じん肺症、感染増悪等で入院し、同年3月19日に死亡。

死亡診断書の直接死因は「慢性呼吸不全急性増悪(Ⅱ型)」とされ、その原因は「じん肺症」とされた。

Aの妻であるXが、Aの死亡は業務上の疾病である本件疾病によるものであると主張⇒労災法に基づき遺族補償年金及び葬祭料の支給を求めた⇒処分行政庁が本件疾病と死亡との間に相当因果関係がないとして不支給決定⇒Y(国)に対して当該処分の取消しを求めた。

<争点>
本件疾病とAの死亡との間に相当因果関係(業務起因性)が認められるか否か。

<判断>
Aの直接死因は慢性呼吸器不全急性増悪(Ⅱ型)であるところ、本件疾病による肺気腫及び呼吸機能を含む全身状態の悪化が相まって前記直接死因の原因となった可能性が高い。
他に有力な原因がない限り、本件疾病とAの死亡との間に相当因果関係があると認められるというべき。

Y:Aには本件疾病以外に左心不全、誤嚥性肺炎、腎不全及び低アルビミン血症といった疾病が死因原因としてあり得る。
vs.
左心不全及び腎不全については、いずれもAの死亡の原因となるほど重篤なものではない。
誤嚥性肺炎及び低アルブミン血症については、本件疾病の危険性として内在するものであり本件疾病と別個独立した死因原因ということはできない。

本件疾病とAの死因との間の相当因果関係を認めて、Xの請求を認容。

誤嚥性肺炎については、
Aの肺機能障害の直接の原因であった可能性が高く、直接死因である慢性呼吸不全急性増悪(Ⅱ型)発症の直接の原因となっている可能性がある。
but
長期間にわたる本件疾病が嚥下力を含むAの全身症状を悪化させるものであって、本件疾病による易感染症も考慮すれば、誤嚥性肺炎を繰り返し発症させ、重症化させた原因は本件疾病であるというべき。
こうした長期の療養過程における本件疾病と誤嚥性肺炎との関係
誤嚥性肺炎を本件疾病から独立した死因原因として位置づけられるべきではない。

<解説>
相当因果関係
当該傷病等な当該業務に内在する危険の現実化として発生したと認められるか否かによって判断するのが相当。

複数の原因が競合して疾病を発症させた場合:
「業務に内在する危険の現実化」の有無は、業務上の有害因子による疾病の発症への寄与がどの程度大きければ当該疾病が「業務に内在する危険の現実化」として発症したと認められるかを基準に判断。

〇A:相対的有力原因説:業務が、傷病等の発生という結果に対し、他の原因と比較して、相対的に有力な原因となっている関係が認められることが必要

B:共働原因説:業務の遂行が他の事由と共働の原因となって、傷病等の発生という結果を招いたと認められれば足りる。
vs.
共働原因説が、業務が疾病の発症に有力に寄与したことを必要とせず、何らかの寄与をしたことをもって足りるとするのであれば、条件関係の存在のみで因果関係を認めたに等しいことになりかねず、危険責任の法理の趣旨にそぐわない。

危険責任の法理⇒業務に内在する危険の現実化を労災補償の根拠とする⇒Aが相当。

裁判例。

判例時報2497

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名誉毀損で発信者特定のための調査費用が損害として肯定した事例

水戸地裁R2.11.4

<事案>
町議会議員であるX(投稿当時は議長)が、インターネット上のサイトに開設された掲示板にYが投稿した記事によって名誉を毀損された⇒Yに対し、不法行為に基づき、
①慰謝料200万円、
②発信者情報の取得に要した弁護士費用64万8000円
③弁護士費用20万円
の合計284万8000円と遅延損害金の支払を求めた。

<判断>
本件各投稿の通信にかかるIPアドレスの割り当てを受けた電気通信回線の契約者がY⇒本件各投稿をしたのはY。
最高裁S31.7.20を引用し、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件各投稿の内容は、当時の町議会議長であるXについて暴力団とのつながりを有しているとうい事実を適示するものであって、Xの社会的評価を低下させるもの⇒Xの名誉権を侵害するもの。
本件各投稿の内容、インターネット掲示板における匿名での投稿であること等の事情を認定し、
慰謝料100万円、発信者情報の調査費用32万4000円及び弁護士費用13万円の合計145万4000円の損害について賠償請求を認めた。

<解説>
インターネットの掲示板における匿名での投稿⇒掲示板の投稿により名誉を毀損されたと主張する者は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律に基づき、発信者情報の開示を請求し、投稿の発信者を特定する必要。
but
携帯電話やタブレット端末等から投稿された場合、電気通信回線の契約者と投稿者が必ずしも一致しているとは限らず、同法の手続きよる情報のみでは、投稿者が特定されたとはいえない場合もあり得る。

投稿者の特定に関する裁判例:

第三者も無線LANを利用できるとの契約者の主張について、時間帯や場所等に鑑み、その可能性は抽象的なものにすぎないとした裁判例。

会社の取締役が自己名義の無線LANを社内利用に提供しているところ、当該取締役以外の物が投稿することができないことを裏付ける証拠はない⇒当該取締役が関与している可能性は否定することがでないものの、これを認めるに足りる証拠があるとまではいえないとした裁判例。

名誉毀損による損害について加害者が被害者に支払うべき慰謝料の額:
事実審の口頭弁論終結時までに生じた諸般の事情を斟酌して裁判所が裁量よって算定(最高裁H9.5.27)

慰謝料の算定に当たっては、加害者側の事情:
①動機・目的
②名誉毀損事実の内容
③名誉毀損事実の真実性・相当性の程度
④事実の流布の範囲・情報伝搬力

被害者側の事情:
⑤年齢・職業・経歴
⑥被害者の社会的評価
⑦被害者が被った経済活動や社会生活における不利益
が考慮される。

本判決:
慰謝料の算定に当たって考慮した事情について、本件投稿がインターネットの掲示板における匿名での投稿であることを踏まえて認定した上で、慰謝料を算定。

インターネットの掲示板における匿名での投稿は、発信者を特定するために、通信記録が消去されるまでの短時間のうちに必要な保全処分を行い、発信者情報開示請求訴訟を提起することが必要。
発信者情報取得のために要した費用について、社会通念上相当な範囲で、名誉毀損と因果関係のある損害に当たるとした裁判例として、インターネットのウェブサイトにおける書き込みが不法行為に当たる場合に、書き込みの発信者の調査費用を損害として認めた東京地裁H24.1.31等。

判例時報2497

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再審請求弁護人が精神科医とともに死刑確定者と面会する場合の規律

広島地裁R2.12.8

<事案>
死刑確定者として広島拘置所に収容されているX1の再審請求手続の弁護人として選任されていたX2及びX3は、X1の刑事責任能力の判断についての助力を得るため、精神科医であるAをX1との面会に同行する予定
その面会をするに際して、広島拘置所長に対し、職員の立会いのない面会を認めるとともに、3時間の面会を認めること、ICレコーダーを使用した面会内容の録音を認めることを求めた
but
①職員の立会いのない面会を許さず
②面会時間を1時間に制限
③ICレコーダーの使用を許さず
⇒Xらは、①~③の各措置が違法であると主張して、Y(国)に対して国賠請求

<判断>
●上記①について
死刑確定者は、再審請求前の打合わせの段階であっても、刑事収用法121条ただし書にいう「正当な利益」として、再審請求弁護人と秘密面会をする利益を有しており、秘密面会の利益は、再審請求弁護人からいえばその固有の利益(最高裁H25.12.10)

刑事施設の長は、死刑確定者と再審請求弁護人との面会に、再審請求弁護人ではない者が同席する場合であっても、死刑確定者及び再審請求弁護人に前記の秘密面会の利益が認められるか否かを慎重に検討する必要。

本件面会では、
Xらには、面会の際の発言の内容を職員に知られないことに正当な利益があり、
本件面会の際に不適切な行為や発現がされることが想定され、これを制止する必要性があったとか、X1の心情などを把握する必要性があったなどということはできない。

職員の立会いのない面会を許さなかった広島拘置所長の措置は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してXらの秘密面会の利益を侵害⇒国賠法1条1項の適用上違法。

●上記②について
本件面会についてXらには秘密面会の利益があった⇒広島拘置所長は、申出に係る3時間の面会について、その時間を制限することにより、Xらが十分な打合せをすることができなくならないかどうかを慎重に検討する必要。
but
同拘置所長は、本件面会に再審請求弁護人ではないAが同席するという理由のみから、漫然と、面会時間を1時間に制限。

同拘置所長の措置は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してXらの面会の利益を侵害。

●上記③について
ICレコーダーを用いて面会の内容を録音をした場合には、再審請求弁護人が意図しない音声(死刑確定者の第三者に対する秘密の合図等)まで録音されてしまう危険性や、その音源(電磁的記録)が再審請求弁護人の意図しない形で外部に流出し、その回収が不可能となってしまう危険性が否定できない。
広島拘置所長は、ICレコーダーの危険性を踏まえ、その使用を許さなかった
ものであり、このような同拘置所長の措置が不必要・不合理な庁舎管理権の行使であったなどということはできない。

同拘置所長の措置は、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認めることはできず、国賠法1条1項の適用上違法ではない。

<解説>
平成25年最判:死刑確定者と再審の打合せを目的とする面会につき、秘密面会の申出がされた場合

大阪高裁H29.12.1:
死刑確定者と再審請求弁護人との間の再審の打合せを目的とする面会について、面会時間を制限した刑事施設の長の措置を違法と判断。
また、パソコンの使用を許さなかった刑事施設の長の措置が違法と判断。

死刑確定者と再審請求弁護人との間の再審の打合せを目的とする面会に第三者が立ち会った場合の秘密面会の利益の有無等を判断した初めての裁判例。

判例時報2497

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2021年12月18日 (土)

公立高校での頭髪指導等で、大阪府への国賠請求の事案

大阪地裁R3.2.16

<事案>
公立高校の第2学年に在籍していた女子生徒Xが、頭髪指導⇒黒染めを強要⇒教室で授業を受けること等を禁止されて不登校となり、第3学年に進級後には生徒名簿から氏名を削除され教室から座席を撤去されるなどの不適切な措置⇒大阪府に対し国賠法1条1項に基づく損害賠償請求。

<争点>
①染髪等を禁止する校則及び生徒指導方針の違法性
②Xに対する一連の頭髪指導の違法性
③Xが不登校となった後のA高校の措置の違法性

<判断>
●争点①
2つの高校の合併によってA高校が開校した際に問題行動をとる生徒が多かった⇒A高校が生徒指導に注力してきたという経緯等

本件校則は、生徒の関心を学習等に向けて非行を防止する目的の規定であり、染髪、脱色及び特異な髪型を規制するにとどまる
⇒学教法等に照らして正当な目的のための社会通念上の合理的な規制。

頭髪指導にかかる生徒指導方針について、
染め戻した頭髪が色落ちし、それが看過できない場合に再度頭髪指導を行うこととしている点を含め、本件校則の目的を達成するための合理的なもの⇒本件校則及び生徒指導方針は規則制定権の裁量の範囲を逸脱していない適法なもの。

●争点②
教員らはXの頭髪の根元を確認し、Xの出身中学校での頭髪指導の状況を聴き取るなどXの頭髪の色を確認したうえで頭髪指導を行っている。
⇒指導の態様も原告の態度や姿勢に応じた柔軟なもの。

①Xは、夏休みに頭髪を明るく染髪し、その後教員から頭髪指導を受けたにもかかわらず、十分な染め戻しをすることなく登校し、繰り返し行われた頭髪指導を拒絶し続けた。
②Xの母親も指導に非協力的であった。

教員らがXに対して概ね4日ごとに頭髪指導を繰り返し、さらに強制力の強い別室指導を選択したことに合理性がないとはいえない。

教員らの頭髪指導に裁量の範囲の逸脱はない。

●争点③
①A高校は教室からXの座席を撤去し、生徒名簿に氏名を掲載しなかった
②Xが抗議した後も教育庁から指導を受けるまで約5か月にわたりXに指導を受けるまで約5か月にわたりXに理由を説明しないまま継続

前記措置はXの教育環境を整える目的でされたものではなく、Xの登校を困難にする措置であって合理性はない。

A高校には教育環境に配慮する義務における裁量の範囲を逸脱した違法がある。

<解説>
高等学校における校則の適法性:
教育目的に基づくものか、
同目的達成のために社会通念上合理性があるか
といった観点から規則制定権に関する裁量の逸脱、濫用があるかという点で判断。

教員による個別の生徒指導:
指導の目的や態様等の諸条件を勘案し、教員の生徒に対する教育的指導の範囲を逸脱しているかという視点で判断(最高裁H21.4.28)。

判例時報2494

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再審請求弁護人が精神科医とともに死刑確定者と面会する場合の規律

広島地裁R2.12.8

<事案>
死刑確定者として広島拘置所に収容されているX1の再審請求手続の弁護人として選任されていたX2及びX3は、X1の刑事責任能力の判断についての助力を得るため、精神科医であるAをX1との面会に同行する予定
その面会をするに際して、広島拘置所長に対し、職員の立会いのない面会を認めるとともに、3時間の面会を認めること、ICレコーダーを使用した面会内容の録音を認めることを求めた。
but
①職員の立会いのない面会を許さず
②面会時間を1時間に制限
③ICレコーダーの使用を許さず
Xらは、①~③の各措置が違法であると主張して、Y(国)に対して国賠請求。

<判断>
●上記①について
死刑確定者は、再審請求前の打合わせの段階であっても、刑事収用法121条ただし書にいう「正当な利益」として、再審請求弁護人と秘密面会をする利益を有しており、秘密面会の利益は、再審請求弁護人からいえばその固有の利益(最高裁H25.12.10)。

刑事施設の長は、死刑確定者と再審請求弁護人との面会に、再審請求弁護人ではない者が同席する場合であっても、死刑確定者及び再審請求弁護人に前記の秘密面会の利益が認められるか否かを慎重に検討する必要。

本件面会では、
Xらには、面会の際の発言の内容を職員に知られないことに正当な利益があり、
本件面会の際に不適切な行為や発現がされることが想定され、これを制止する必要性があったとか、X1の心情などを把握する必要性があったなどということはできない。

職員の立会いのない面会を許さなかった広島拘置所長の措置は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してXらの秘密面会の利益を侵害⇒国賠法1条1項の適用上違法。

●上記②について
本件面会についてXらには秘密面会の利益があった⇒広島拘置所長は、申出に係る3時間の面会について、その時間を制限することにより、Xらが十分な打合せをすることができなくならないかどうかを慎重に検討する必要
but
同拘置所長は、本件面会に再審請求弁護人ではないAが同席するという理由のみから、漫然と、面会時間を1時間に制限。

同拘置所長の措置は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してXらの面会の利益を侵害。

●上記③について
ICレコーダーを用いて面会の内容を録音をした場合には、再審請求弁護人が意図しない音声(死刑確定者の第三者に対する秘密の合図等)まで録音されてしまう危険性や、その音源(電磁的記録)が再審請求弁護人の意図しない形で外部に流出し、その回収が不可能となってしまう危険性が否定できない。
広島拘置所長は、ICレコーダーの危険性を踏まえ、その使用を許さなかった
ものであり、このような同拘置所長の措置が不必要・不合理な庁舎管理権の行使であったなどということはでkkない。

同拘置所長の措置は、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認めることはできず、国賠法1条1項の適用上違法ではない。

<解説>
平成25年最判:死刑確定者と再審の打合せを目的とする面会につき、秘密面会の申出がされた場合

大阪高裁H29.12.1:
死刑確定者と再審請求弁護人との間の再審の打合せを目的とする面会について、面会時間を制限した刑事施設の長の措置を違法と判断。
また、パソコンの使用を許さなかった刑事施設の長の措置が違法と判断。

本件:
死刑確定者と再審請求弁護人との間の再審の打合せを目的とする面会に第三者が立ち会った場合の秘密面会の利益の有無等を判断した初めての裁判例。

判例時報2497

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2021年12月17日 (金)

児童福祉法28条1項に基づく、障害児入所施設への入所又は里親委託の承認申立(認容)

名古屋家裁R1.5.15

<事案>
愛護手帳3度相当の軽度知的障がいの認定を受けている未成年者について、児童相談所長が、児福法28条1項に基づいて、未成年者を障害児入所施設に入所させること又は里親に委託することの承認を求めた事案

<判断>
以下の判示で承認
(1)未成年者は愛護手帳3度相当の軽度知的障がいの認定を受けているが、親権者父は、かねてから未成年者の通学する中学校とトラブルを起こしては、未成年者の登校を禁止するなどして、授業日数全体の約6割もの日数を欠席させ、親権者母も親権者父の意向に逆らえなかった
未成年者にとって極めて重要な学習権(成長発達権)を中核とする教育を受ける権利(憲法26条1項)を積極的に妨げていた。
(2)未成年者は、中学校卒業後、特別支援学校高等部に通学。
親権者父は・・・学校との間でトラブルを生じさせ、これをこじらせた挙げ句、未成年者に対し、学校と話をつけるまで帰ってくるな、などと怒鳴りつけ、自らが引き起こしたトラブルの解決を未成年者に押し付けるかのような言動をして、未成年者を家から追い出した⇒その行為自体がネグレクトそのものであり、未成年者の意思に反することを強要して未成年者に過度の精神的ストレスを与えた。
(3)未成年者は、家から追い出されてバス停で途方に暮れて座り込んでいたところを発見されて警察官に保護され、警察署長からネグレクト児童として通告を受けた児童相談所による一時保護が開始。
その後の平成29年7月7日(一時保護開始の1週間後)から現在に至るまで、障害児入所施設において生活しており、日常生活に必要なことは自分ですることができ、学校生活にもて適応して、毎日付き添いなしで登校することができ、意欲的に物事に取り組んでいる。
(4)親権者父母は、未成年者の引き取りを長らく拒んだ末、1年半近くもの間未成年者と面会せず、学校のみならず児童相談所の職員の日をも言い募ってこれらを一方的に攻め立て他罰的な対応に対応に終始し、児相との交信まで拒むようになり、未成年者の将来を見据えた教育にとって必要不可欠な協力連携関係の構築とは真逆の態度を取り続けている。
(5)親権者父母は、にわかに未成年者の引き取りを希望しているが、相変わらず児相職員を非難することに終始しており、未成年者とのこれまでの溝をどのようにして埋め、学校や関係機関とどのように連携して未成年者の将来的な自立を図っていくのかの具体的な考えを示していない。
(6)未成年者は、現在17歳となっており、現在の施設での生活が安定して楽しく登校することができ、自分の時間が持てること等から、家に帰りたくないとの意向を示すようになり、施設入所か里親の下での生活により、高等部への通学を続けていきたいと希望
(7)現時点において未成年者を現状のまま親権者父母の下に帰らせて未成年者の監護養育を委ねることは、未成年者の意向に反し、安定した日常生活の下で学校教育を受ける機会を再び奪うことに直結するものであって、未成年者の福祉を著しく害するこになる。

児相所長である申立人が未成年者を障害児入所施設に入所させる措置を取ること又は里親に委託する措置を取ることは、未成年者のために必要かつ相当。

<解説>
最近の審判例:

大阪高裁H29.12.15:
事件本人が負った急性硬膜下血腫等の傷害について、事件本に親権者父及び同母による揺さぶり行為等が強く疑われ、父母は揺さぶり行為等の外力を否認し、あるいは存在自体を軽視し、自らの監護養育環境における問題点に真摯に向き合い危険の再発防止のための具体的な方策を講じることができていない。⇒父母に事件本人を監護させることは著しく事件本人の福祉を害する⇒抗告人の申立てを却下した原審判を取り消し、抗告人が事件本人を乳児院又は児童養護施設に入所させることを承認。

水戸家裁H30.5.28:
利害関係参加人である実父及び義母による虐待は認められないものの、
①実父の事件本人に対する強圧的な接し方により、自閉症スペクトラムの傾向がある事件本人が実父に著しい恐怖を抱き心的外傷を負っている
②利害関係参加人らがこの点を理解しないまま事件本人に接する可能性が極めて高い

利害関係参加人らがこの点を理解しないまま事件本人を監護させることは著しく事件本人の福祉を害する⇒児童心理治療施設に入所させることを承認。

判例時報2497

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タトゥー施術行為の医師法違反(否定)

最高裁R2.9.16

<事案>
医師でない被告人が、タトゥー施術行為として、業として、針を取り付けた施術用具を用いて客の皮膚に色素を注入した行為について、医師法17条違反に問われた事案。

<規定>
第一七条[医師以外の者の医業禁止]
医師でなければ、医業をなしてはならない。

<原審>
医行為とは、「医療及び保健指導に属する行為の中、保健衛生上危険な行為」をいうと解し、
被告人の行為は医療及び保健指導に属する行為とはいえない
⇒医行為に当たらない⇒無罪。

<判断>
● 医行為の意義について、 「医療及び保健指導に属する行為の中、保健衛生上危険な行為」をいうと解するのが相当。
~原審の判断を是認。

● 行政:保健衛生上危険な行為は、治療目的か否かを問わず医行為に当たる旨の解釈。
検察官:医行為該当性を判断するに当たっては、保険衛生上の危険性に着目すべきであり、当該行為の目的を問わず、その方法や作用によって判断すべき。

本決定:
①医師法17条の趣旨⇒医行為に当たるか否かは、行為の危険性の指標となる方法や作用を中心に検討することになる。
but
方法や作用が同じ行為でも、その目的、行為者と相手方との関係、当該行為が行われる際の具体的な状況等によって、医療及び保健指導に属する行為か否かや、保健衛生上危害を生ずるおそれがあるか否かが異なりえる
②医師法17条は、医師に医行為を独占させるという方法によって保健衛生上の危険を防止しようとする規定⇒医師が独占して行うことの可否や当否等を判断するため、当該行為の実情や社会における受け止め方等をも考慮する必要がある。

医行為の判断方法について、当該行為の方法や作用のみならず、

その目的、行為者と相手方との関係、当該行為が行われる際の具体的な状況等をも考慮して、社会通念に照らして判断
するのが相当。

タトゥー施術行為の歴史的経緯も踏まえて、その性質、社会における実情や受け止め方等を考慮し、被告人の行為は、社会通念に照らして医療及び保健指導に属する行為とは認め難く、医行為に当たらない

判例時報2497

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2021年12月16日 (木)

「児童ポルノ」の意義等

最高裁R2.1.27

<事案>
被告人が、不特定又は多数の者に提供する目的で、児童の姿態が撮影された写真の画像データを素材とし、画像編集ソフトを用いて、コンピュータグラフィックスである画像データ(CG)を作成した上、これをハードディスクに記憶、蔵置させ、前記CGをインターネットを通じて不特定又は多数の者に販売したという、児童買春・ポルノ法違反の事案。

<判断>
児童買春・ポルノ法2条3項にいう「児童ポルノ」とは、写真、電磁記録に係る記録媒体その他の物であって、同項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい、実在しない児童の姿態を描写したものは含まない。

児童買春・ポルノ法7条5項の児童ポルノ製造罪が成立するためには、同条4項に掲げる行為の目的で、2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した物を製造すれば足り、当該物に描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることを要しない。

判例時報2497

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719条1項後段の類推のための被害者の死亡原因についての立証責任

福岡高裁R2.12.8

<事案>
死亡交通事故事案
自転車で車道を通行していた被害者が、まず、中型貨物自動車(Y1車)に背後から衝突⇒28.1メートル先まで跳ね飛ばされた後に道路上に転倒、その8~9分後に前記転倒場所に通りかかった別の中型貨物自動車(Y2車)に頭部を轢過。
被害者の相続人であるXが、Y1車とY2車双方の運転者や車両所有者らに対し、連帯して損害賠償金(被害者死亡に伴う逸失利益・慰謝料等)の支払を請求。

<争点>
民法719条1項後段の共同不法行為の成否:
仮に、第2事故の前に被害者が死亡していない⇒Y1車の衝突とY2社の轢過のいずれが被害者の死亡の原因であるかが不明⇒Y2車の運転者らに同条項の(類推)適用により共同不法行為が成立する余地。
⇒第2事故と死亡との因果関係の存否に関する立証責任の所在が問題。

<原審>
第2事故発生時に被害者が生存していた可能性があると認めることができない⇒共同不法行為の成立を否定。

<控訴>
X主張:
民法719条1項後段の(類推)適用に関しては、「第2事故発生時までに被害者が死亡していたこと(第2事故と死亡の因果関係がないこと)」についてY2車の運転者らが立証責任を負担することを前提に、
第2事故により轢過される前に被害者が死亡していたと断定できない⇒同条項の(類推)適用により、共同不法行為が成立。

<判断>
本件はY1車の運転者が損害全部につき責任を負う⇒加害者不明とはいえず、民法719条1項後段の本来的な適用場面ではない。
but
被害者保護の観点から、同条項を類推適用することによって、Y2車の運転者に対し共同不法行為が成立する可能性がある。

類推適用をするための要件として、
「被害者が第2事故(Y2車の轢過)によって死亡した可能性があること」の立証責任が請求者(控訴人であるX)にある。
but
本件の証拠関係からは、被害者が第2事故によって死亡した可能性があるとは認められない。
⇒共同不法行為の成立を否定。

判例時報2497

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子をもうけることについての自己決定権の侵害(肯定)

大阪高裁R2.11.27

<事案>
Y1は、不妊治療を受けていた診療所に、当時の夫であったXの精子で体外受精させた卵子を培養した胚を凍結保存しておき、別居した後に本件クリニックにおいてその胚を融解して移植を受ける方法で妊娠し、出産。
Xは、Y1は、Xの同意書を偽造して融解胚移植(本件移植)を受け、本件クリニックを経営する医療法人Y2及びその代表者である医師Y3は、Xの意思を確認せずに本件移植を行い、Xの自己決定権を侵害⇒Y1、Y2、Y3に対し、共同不法行為に基づき、損害賠償請求

<争点>
①Y1は、元夫であるXの同意がないことを認識したうえで、同意書を本件クリニックに提出して本件移植を受け、Xの自己決定権を侵害したか
②Y2・Y3は、Xが本件移植に同意しているかの意思確認義務があったとにそれを怠ったことにより、Y1の不法行為に加担したか(Y2・Y3の共同不法行為の成否)

<原審>
争点①:
Y1の不法行為の成立を認め、Y1に対しる請求を一部認容(慰謝料800万円、弁護士費用80万円)
争点②:
Y2・Y3は本件移植に際しXに対し直接の意思確認義務はない⇒Y2・Y3の責任を否定。

<判断>
● Y1の控訴を認め(不法行為の成立を認め、慰謝料500万円・別件人事訴訟のDNA鑑定費用・弁護士費用について一部認容)
Xの控訴・拡張請求等は棄却


個人は、人格権の一内容を構成するものとして、子をもうけるか否か、もうけるとして、いつ、誰との間でもうけるかを自分で決めることのできる権利、すなわち子をもうけることについての自己決定権を有する

夫婦において、子をもうけることは各人のその後の人生にかかわる重大事項
別居以降、子をもうけることについてXが積極的な態度を示していなかった経緯を踏まえれば、Y1は本件移植を受けるに先立ち、改めてXの同意を得る必要があった。
but
Xの意思を確認することなく、無断で同意書に署名(夫の氏名欄にもY1が記入)をして本件クリニックに提出し、本件移植を受けた行為は、Xの自己決定権を侵害する不法行為に当たる。

Xは、子をもうけることについての自己決定権を侵害され、この結果、子との間に親子関係が発生し、本件不法行為が婚姻を破綻させる決定的な要因として離婚を余儀なくされた⇒本件不法行為によって多大な精神的苦痛を受けた。


①XはY1とともに体外受精の手術を進め、自ら精子を提供しており、凍結保存受精卵(胚)の移植によりY1が妊娠する蓋然性のあることを認識
②精子提供の直後にY1と別居したが、Y1がその後、不妊や流産になり得る要因を除去するために支給の手術を受けるなど、移植に向けた積極的な姿勢を堅持していることを認識
③移植の時期の見込みについて具体的なスケジュールまでY1から告げられていた
にもかかわらず、XはY1に対し、移植を拒否する意思を表明しておらず、本件クリニックに対する問い合わせすらしていない

慰謝料は500万円とするのが相当。

<解説>
子をもうけることについて自己決定権を肯定し、生殖補助医療の施術に関連して自己決定権侵害となる場合の事例を明らかにしたもの。

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減胎手術での過失が認められた事例

大阪高裁R2.12.17

<事案>
X1はYの開設する医院において、A医師から妊娠していた5胎の胎児の一部を減胎する2回の手術を受けたが、その後、別のマタニティクリニックにおいて残した2胎児の人工妊娠中絶手術を受けることを余儀なくされ(本件人工流産)、前記胎児らを1児も出産するに至らなかった。

X1及びその夫であるX2は、X1が本件人工流産をしなければならなくなったのは、本件手術を執刀したA医師が注意義務に違反して手術の際に太い穿刺針を使い多数回の穿刺を行い、感染症対策を怠り、又は減胎対象外の胎児を穿刺するなどしたことによるもので、これにより精神的苦痛を受けた⇒民法715条1項による使用者責任又は診療契約上の債務不履行に基づき損害賠償請求。

<原審>
Xらの請求をいずれも棄却。

<争点>
①A医師の過失(注意義務違反の有無)
②相当因果関係の有無
③損害額

<判断>
A医師の過失を認め、一部認容
仮にXらの主張する本件手術等におけるA医師の過失が認められるとしても、その過失のX1が本件人工流産に至ったことによる損害との間に相当因果関係が認められない⇒2胎児の生命維持の相当程度の可能性があったと認められない。

Yは、X1との間で、妊娠した胎児の管理及び減胎手術等に関する診療契約を締結
Yの履行補助者であるA医師は、同診療契約に基づき、人の声明及び健康を管理する業務に従事する者として、危険防止のために経験上必要とされる最善の注意義務を尽くしてX1診療に当たる義務を負担。

A医師は、手術Ⅱに当たり、技術的困難性のゆえにやむを得ず穿刺回数が多数に及ぶことが想定されたにもかかわらず、当時広く使われていた穿刺針よりも太い穿刺針を用いた上、約30回にわたりX1の腹部を穿刺した点において、X1の母体に対する危険防止のために経験上必要とされる最善の注意を尽くす義務に違反。

55万円の損害賠償を認めた。

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2021年12月15日 (水)

特定の建材メーカーの製造販売した石綿含有建材が特定の建設作業従事者の作業する建設現場に相当回数にわたり到達していたとの事実の立証についての評価

最高裁R3.5.17

<事案>
建設作業に従事し、石綿粉じんにばく露したことにより石綿関連疾患にり患したと主張する者(「被災者」)又はその承継人であるXらが、Y1(国)に対し、石綿含有建材に関する規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法であったなどと主張⇒同項に基づく損害賠償を求めるととに、Y2ら(建材メーカー)に対し、石綿含有建材に関する警告表示義務の違反があったなどと主張して不法行為に基づく損害賠償を求めた。

<論点>
XらのY2らに対する請求について、Xらの採っ立証方法により、特定の建材メーカーの製造販売した石綿含有建材が特定の建設作業従事者の作業する建設現場に相当回数にわたり到達したという事実(「建材現場到達事実」)が立証され得るか否か。

<Xらの立証方法>
(1):国土交通省及び経済産業省により公表されているデータベースに掲載されるなどした石綿含有建材を複数の種別に分類⇒建設作業従事者らの職種ごとに、直接取り扱う頻度が高く、取り扱う時間も長く、取り扱う際に多量の石綿粉じんにばく露するといえる種別を選定。
(2):(1)で選定された種別に属する石綿含有建材のうち、前記建設作業従事者らが建設作業に従事していた地域での販売量が僅かであるもの等を除外し、さらに、前記建設作業従事者ごとに、建設作業に従事した期間とその建材の製造期間との重なりが1年未満である可能性のあるもの等を除外。
(3):(1)(2)により前記建設作業従事者ごとに特定した石綿含有建材のうち、同種の建材の中での市場占有率がおおむね10%以上であるものは、その市場占有率を用いた確率計算を考慮して、前記建設作業従事者の作業する建設現場に到達した蓋然性が高いものとする。
(4):前記建設作業従事者がその取り扱った石綿含有建材の名称、製造者等につき具体的な記憶に基づいて供述等⇒その供述等により前記建設作業従事者の作業する建設現場に到達した石綿含有建材を特定することを検討。
(5):建材メーカーらから、自社の石綿含有建材につき販売量が少なかったこと等が具体的な根拠に基づいて指摘⇒その建材を前記(1)~(4)までにより特定したものから除外することを検討。

<原審>
建材メーカーらが共同不法行為責任を負うというためには、建材現場到達事実が立証されることが必要。
but本件立証方法により建材現場到達事実が立証さら得るとはいえない。
⇒XらのY2らに対する請求を棄却。

<判断>
本件立証方法には相応の合理性があり、これにより建材現場到達事実が立証され得るといえるのに、それを一律に否定した原審の判断には経験則又は採証法則の違反がある
⇒請求を棄却した部分を破棄して、差し戻した。

<解説>
● 建設アスベスト訴訟における被災者の建材メーカーに対する責任追及の困難性:
①被災者は、長期間にわたり多数の建設現場で建設作業に従事してきた
②建材には多種多様のものがあり、建設現場ごとに使用建材が異なるのが通常
③石綿関連疾患は石綿粉じんばく露から数十年の潜伏期間を経て発症
④被災者らのうち多数が死亡している

各被災者がどの建材メーカーの石綿含有建材を使用して石綿粉じんにばく露したかを特定するのが難しい。

● 建材メーカーらが共同不法行為責任を負うために、
A:建材現場到達事実の立証を必要とする見解(内田)
B:建材現場到達事実についての「相当程度の可能性」等が認められれば足りるとする見解
最高裁:Aに親和的
but
結論を分けるのは、具体的にどのような立証がされれば各要件を満たすといえるかという点にある。

● シェアに基づく基づく確率計算を考慮した到達の推認の点:
原審:建材がどの現場に到達するかは流通経路、販売地域、用途等の個別的要因に左右される⇒確率計算の前提となる「全国の建設現場において、ある建材がそのシェアどおりの確率で出現する」という条件を欠く⇒前記推認の合理性を否定
vs.
前記要因の影響の相当部分は、本件立証手法のうち(1)(2)の段階で考慮されている⇒前記の前提条件を欠くとまではいえない。
その上で大局的にみれば、、建材のシェアが高いほど、また、被災者が作業をした現場の数が多いほど、建材現場到達事実が認められる蓋然性が高くなることは経験則上明らか
Xらの確率計算はその経験則を補完・補強するもの。

その確率計算とは、
例えば、特定の建材が各建設現場で用いられる確率が10%、特定の被災者が作業した現場の数が20箇所又は30箇所⇒当該建材が当該被災者の作業する現場に1回でも到達する確率は訳88%又は約96%となる。
Xらは、各被災者が作業した現場の数につきおおむね数十箇所以上、多い場合で1000箇所以上と主張⇒仮にその主張どおりの数が認められるのであれば、前記推認ができる場合は十分にあるといえる。

判例時報2497

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形式的には別法人であっても、当該法人と実質的に同一体というべき法人の役職員の行為についての課徴金納付命令

東京高裁R2.7.10

<事案>
外国法人であるXが、本邦の株式市場で相場操縦違反行為をしたとして、金商法により金融庁長官から課徴金納付命令を受けた⇒その取消を求めた。

<対象行為>
Xが、その属する法人グループの別法人であるAに資産運用を委ねていたところ、Aが雇用する複数のトレーダーが、Xの資産運用にあたって意思を連絡して行ったとされた一連の行為。
トレーダーらはXの計算で株式取引。
XとAとは姉妹会社(同一の信託が両者の全株式を保有)の関係にあるが別法人。
トレーダーとXとの間には直接の雇用関係や指揮監督関係はなし。
Xの代表者は、Aの唯一の取締役であり、両会社の全株式を保有する信託の唯一の受益者でもあった。

<争点>
①Xが金商法174条の2第1項の違反者となりえるか。
②処分緒対象となった行為が複数のトレーダーらにより、金商法159条2項1号にいう「一連の」ものとして行われたものか
③処分の対象となった行為が同号にいう「相場を変動させるべき」行為であるか
④処分の対象となった行為が同項柱書にいう「取りh気を誘引する目的をもって」行われたか

<原審>
争点①について:
法人が金商法174条の2第2項の違反者となるためには、当該法人の役員、従業員もしくは当該法人による指揮監督、雇用管理等によりこれらと同視し得る者又は当該法人から具体的な指示を受けた者が、当該法人の計算で相場操縦違反行為を行ったことを要する。
Xがトレーダーらを指揮監督したり、トレーダーらをXの従業員と同視することはできない
⇒Xは同項の違反者とはならない⇒Xの請求を認容。

<判断>
●争点①
ある法人と形式的には別法人であっても、当該法人と実質的に同一体というべき法人の役職員が、当該法人のために金商法159条2項が禁止する行為をした場合には、当該法人が金商法174条の2第1項の違反者となる
①AはXが属する法人グループの資産運用としての有価証券取引のみを行っており、その雇用するトレーダーらの監督もXの完全子会社が行っているという実態を認定、
②Aの運営はそれ自体独立して行われているのではなく、法人グループ全体で一括して行われている
⇒XとAとは実質的に同一体である
⇒トレーダーの行為について、Xが同項の違反者となる。

●争点②~④も、Yの主張を認め、処分に違法はない。

<解説>
金商法174条の2第1項は、金商法159条2項1号に違反する相場操縦違反行為をした者(違反者)に対し、課徴金を課すことを定める。
法人であっても「違反者」となりえる。
問題:実際に行為を行った自然人と当該法人との関係がどのような場合に、当該法人を「違反者」と認めるべきか?

原審と本件で考えが分かれた事案。
本件:Aは、その属する法人グループ外の者の資産運用は行っておらず、いわば閉じた法人グループ内の関係⇒XとAとが実質的に同一体であるとの認定が容易であった。
but
資産運用を行う法人が、その属する法人グループ外の者の資産運用も行っているような場合には、資産運用を委ねた法人と実質的に同一体であるとはいえないこともあり得る。

判例時報2497

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2021年12月12日 (日)

主幹事会社の責任が認められた事例

最高裁R2.12.22

<事案>
架空売上げの計上による虚偽記載のある有価証券届出書を提出して東証マザーズに上場された㈱エフオーアイの株式の取得者又はその承継人であるXらが、本件会社と元引受契約を締結していた金融商品取引業者のうち主幹事会社であったY(みずほ証券㈱)に対し、前記株式のうち募集又は売出しに応じて取得したものにつき金商法21条1項4号に基づく損害賠償を請求。

<事実>
粉飾決算の手法:
平成16年3月期以降、架空売上げの計上による粉飾決算。
注文書等を偽造し、出荷を装って実際に装置を倉庫から搬出⇒当該装置の納入書類等を偽造して架空売上を計上⇒ペーパーカンパニーへの仕入代金を装った送金により簿外資金を作出して本件会社に還流させ、預金通帳の印字を改ざんして売掛金の回収を装う。
売上げを偽装した取引先に協力者を確保。
会計士は証ひょう類の写しの提示を受けても原本の提示を求めなかった⇒偽造されたものが含まれたことに気が付かなかった。

<原審>
①金商法21条2項3号につき、有価証券の募集に係る発行者等と元引受契約を締結した金融商品取引業者等は、有価証券届出書の金商法193条の2第1項に規定する財務計算に関する書類に係る部分に虚偽記載等があった場合、このことを知らなかったことさえ証明すれば、金商法21条1項4号の損害賠償責任につき、同条2項3号による免責を受けることができる
②Yは本件有価証券届出書の虚偽記載の事実を知らなかった
⇒Yの同号による免責を認めた。

本件会社は、平成16年以降、計算書類等において、売上高の急増、売上の計上時期の偏り、売掛金期末残高の著しい増加、売上債権回転期間の顕著な長期化、営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスの連続計上等、売上高の粉飾の典型的な兆候といえる事象が継続してみられる状況にあった。

Y及び東京証券取引所は、本件会社の最初の上場申請後である平成20年2月、本件会社の粉飾決算を指摘する詳細かつ具体的な内容の匿名投書(「第1投書」)を受領。
本件会社の3度目の上場申請後である平成21年10月にも、ほぼ同内容の匿名投書を受領。

Yは、追加調査等の結果、本件各投書には信ぴょう性がなく、本件会社の上場手続を進めることに問題はないと判断。

<判断>
●金商法21条2項3号につき、
有価証券届出書の財務計算部分に虚偽記載等があった場合、
元引受業者が引受審査に際して財務計算に関する書類につき監査証明を行った公認会計士又は監査法人の監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接していたときには、
当該元引受業者は、当該疑義の内容等に応じて、当該監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行ったものでなければ、金商法21条1項4号の損害賠償責任につき、同条2項3号による免責を受けることはできない。

●本件各投書がYの把握していた事実関係等とよく符合する詳細かつ具体的なもの
Yはこれを受領したことにより本件会社の財務諸表等についての本件会計士による監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接したものというべき。
①Yが本件会社の主幹事会社として引受審査に当たってきた
②Yの第1投書の受領後の対応が不適切であり、本件各投書の信ぴょう性の評価を大きく誤ったと思われる、
③Yは、本件会計士から本件会社につき実施した監査手続について聴取しているものの、原本確認がされたか否かすら確認しておらず、前記監査手続が本件各投書の指摘する手法による粉飾決算の可能性を否定するに足りるものか否かを確認したとはいえない
④Yが引受審査において実施した調査も証ひょう類の写しの相互に矛盾がないことの確認等にとどまる⇒前記手法による粉飾決算の可能性を否定するに足りるものとはいえない。

本件会計士の監査がその信頼性を欠くものではないことにつき本件各投書による疑義の内容等に応じて調査確認を行ったとはいえない。

Yの金商法21条1項4号による損害賠償責任につき、同条2項3号による免責を否定し、
募集等に応じて取得された株式についての損害賠償責任を棄却した部分を破棄し、損害額について更に審理を尽くさせるため、前記部分を原審に差し戻した。

<規定>
金商法 第二一条(虚偽記載のある届出書の提出会社の役員等の賠償責任)
有価証券届出書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、次に掲げる者は、当該有価証券を募集又は売出しに応じて取得した者に対し、記載が虚偽であり又は欠けていることにより生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の申込みの際記載が虚偽であり、又は欠けていることを知つていたときは、この限りでない。

四 当該募集に係る有価証券の発行者又は第二号に掲げる者のいずれかと元引受契約を締結した金融商品取引業者又は登録金融機関

2前項の場合において、次の各号に掲げる者は、当該各号に掲げる事項を証明したときは、同項に規定する賠償の責めに任じない。

三 前項第四号に掲げる者 記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、第百九十三条の二第一項に規定する財務計算に関する書類に係る部分以外の部分については、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかつたこと。

<解説>
●金商法21条2項3号の解釈について
◎ 改正当初は、財務計算部分に虚偽記載等がある場合の元引受業者の免責事由に関し、元引受業者は財務計算部分については審査義務を負わず、財務計算部分の虚偽記載等について単に主観的に善意であれば免責されると解する見解。
vs.
①前記見解によれば、引受審査に当たる元引受業者は、有価証券届出書における開示情報の信頼性の確保のため果たすべき役割の重大性にもかかわらず、財務計算部分については監査証明が付されていることさえ確認すれば足りることになり、審査姿勢の消極化を招きかねない。
②単なるセリング・グループすら目論見書使用者として財務計算部分につき「相当な注意」を用いるべき義務を負う(金商法17条ただし書)との整合性。
A:
B:金商法21条2項3号については文言どおりに解釈しつつ、金商法17条の目論見書使用者としての審査義務の援用により引受審査による元引受業者の審査義務が補完される。(多数説・原審)
vs.
目論見書使用者としての責任をもって引受審査における注意義務を根拠付けることの理由付けが困難。

C:

D:元引受業者と公認会計士等との相互の役割分担への信頼を前提とする規定であって、その前提条件が満たされない場合(すなわち、公認会計士等の監査結果に対する信頼性についての疑義が強い場合)には、元引受業者が、そのゲートキーパーとしての役割に照らし、開示情報の正確性についての調査義務を果たすべきであるとする見解

◎ 本判決:
財務計算部分に虚偽記載等がある場合についての金商法21条の規定は、財務計算部分につき、重い責任の下で監査証明を行うこととされている公認会計士等と引受審査委を行う元引受業者との合理的な役割分担
元引受業者において公認会計士等による監査を信頼して引受審査を行うことを許容

元引受業者が財務計算部分につき同条に基づき積極的審査義務を負うことについて否定
but
原審とは異なり、
財務計算部分に虚偽記載等がある場合、
元引受業者は、引受審査に際して前記監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接していた⇒その疑義の内容等に応じて前記監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行ったものでなければ金商法21条2項3号の免責を受けることはできない。

同条が元引受業者に有価証券届出書における開示情報の信頼性を担保させる趣旨でその損害賠償責任について定めたものであることを重視したもの。
上記D説と親和的な立場。
but
本判決は、
あくまで、公認会計士等の監査証明に対する信頼性の基礎に重大な疑義が生ずるという例外的な状況の下における元引受業者の調査確認義務を肯定したものにとどまる上、
前記調査確認義務の内容を「前記疑義の内容等に応じ」て、「前記監査が信頼性の基礎を欠くものではない」ことについての調査確認を行うという消極的義務に限定。

●本件についての当てはめ
本判決:
本件各投書が本件会社の上場申請の最近事業年度及び直近事業年度の財務諸表の売上高欄の記載の大半が虚偽であることを相当の信ぴょう性をもって指摘するもの⇒本件各投書は「監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報」に当たる。

前記情報に当たりえるものとしては、
監査結果自体に疑義を生じされるもののほか、
監査証明を付した公認会計士等の監査体制、監査手法等に疑義を生じさせるもの
などが考えられ得る。
but
これらに関する情報が、「監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる」と言い得るか否かは、これらにより生ずる疑義の定性的、定量的な重大性の程度や信ぴょう性の程度等を、その内容や客観的状況との整合性の有無等から検討して判断することになると思われる。

本判決:
本件各投書に対するYの調査について、
①本件各投書自体への対応(本件各投書の信ぴょう性の確認・評価)の点
②本件会計士の実施した監査手続の確認・評価の点
③Yが自ら実施した調査の内容等の点
の3点から分析
Yが本件各投書による疑義の内容等に応じた調査確認を行ったとはいえないとの結論。

判例時報2494

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小学校の教諭が脳幹部出血を発症して後遺障害が残った事案での、公務との間の相当因果関係(肯定事案)

福岡高裁R2.9.25

<事案>
公立の小学校教諭であったX(発症時44歳)は、勤務先から帰宅後に意識を消失し救急搬送⇒後遺障害が残った。
Xは、地方公務員災害補償法に基づき公務災害認定請求⇒Y(地方公務員災害補償基金)熊本県支部長から公務外認定処分⇒審査請求及び再審査請求⇒棄却⇒公務外認定処分の取消しを求めた。

・・・・Xのパソコンに残っていたログや、文書ファイルの作成・更新時刻の記録⇒Xが本件発症に近接した時期に、自宅で夜間や早朝に関連する文書の作成をした場合もあったことが認められるものの、公務に関する文書の作成作業を行った正確な時間は不明

<1審>
本件発症前の6か月間におけるXの勤務先での時間外労働時間を認定
本件発症前1か月について自宅でもパソコンを用いて公務に当たる作業を行ったと認め、自宅での作業時間を一定の推定方法を用いて認定し、
本件発症前6か月の各月のXの時間外労働時間を認定

①本件発症前1か月間の時間外労働の時間が月100時間に達していない
②本件発症前6か月間の月平均労働時間が80時間に達していない
③本件発症前のXの公務の内容が、他の教諭に比して著しく過重であったとはン認められない

公務による負荷が、医学的経験則に照らし、脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷であったとは認められない

本件発症と公務との間に相当因果関係が認められない。

<判断>
自宅における時間外労働時間の認定について、・・・Xが本件発症前2か月目において自宅で公務を行ったものと認めた上で、
①Xの個々の業務が過重であったとまではいえないものの、Xは複数の業務を並行して処理⇒業務上の負荷については業務を全体として評価する必要がある
本件発症前1か月間の時間外労働時間は、月100時間には達していないものの、これに近い時間となっている
本件発症前2週間の時間外労働がいずれも週当たり25時間を超えている
④本件発症前2か月目から6か月目については、月平均80時間を超える時間外労働をしたと認められる期間はないものの、本件発症前6か月目の校内時間外労働時間がほぼ80時間であるなど、長期間にわたって恒常的に長時間の時間外労働をしていたといえる、
職場での時間外労働で終わらせることのできなかった文書等の作成業務を自宅で行い、その結果睡眠時間が減ったものと認められる、
休日に部活動の試合の引率を担当することがあり、睡眠時間及び休日の休息の時間を減少させ、疲労の回復を遅らせる要因となったといえる

Xの本件発症前における業務は、その身体的及び精神的負荷により、脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて増悪させ得ることが客観的に認められる負荷であった。
本件発症の時点で、Xの基礎疾患により、血管病変等が自然経過の中で本件発症を生じさせる寸前の状態にまで増悪していたとは認められない
⇒Xの本件発症前の過重な業務による身体的及び精神的負荷がXの血管病変等をその自然経過を超えて増悪させ、本件発症に至ったと認められる

本件発症と公務との間の相当因果関係を認め、原判決を取り消し、Xに対する公務外認定処分を取り消した。

<解説>
● 脳・心臓疾患の公務(業務)起因性の判断
最高裁は、(公務と当該傷病等との)相当因果関係の判断基準に関する一般論を示しておらず、傷病等の公務(業務)起因性が問題となった個々の具体的事案に即して、当該傷病等が業務に内在する危険が現実化したものであると評価することができるか否かによって判断。

脳・心臓疾患の公務(業務)起因性が問題となった事案において、労働者又は公務員の基礎疾患が業務上の精神的、身体的な過重負荷によりその自然的経過を超えて増悪して脳・心臓疾患が発症したと認められる場合、業務に内在する危険が現実化したものとして、業務と脳・心臓疾患との相当因果関係の存在を肯定する判断。

● 1審:・・・負荷が、脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等を超えて「著しく」増悪させ得ることが客観的に認められる負荷といえることが必要。

本判決:
「著しく」増悪させ得るものであることを必要としていない。
本件発症前1か月間の時間外労働時間が月100時間に達していない事実を重視しなかった
Xの公務の質的過重性について全体的な負担を評価

判例時報2494

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2021年12月11日 (土)

被告人両名による、実子である被害者に対する、保護責任者遺棄致死の事案。

大阪高裁R3.4.19

<原審>
公訴事実どおりの各罪の成立を認めた。

<控訴>
訴訟手続きの法令違反
事実誤認
量刑不当等

<解説・判断>
●遺体写真の必要性、法的関連性、取調方法
遺体写真等の刺激証拠については、裁判員の精神的負担に配慮しその軽減を図る見地から、裁判所において、公判前整理手続で両当事者の意見を取し、要証事実との関係で証拠の必要不可欠性を検討し、裁判員に過度の精神的負担を与えず適正な判断が可能かを吟味し、代替手段の有無等も含めて採否を慎重に検討するといった運用。

行為責任の観点からの当該証拠の必要性
当該証拠が判断者による証明力の評価を誤らせる危険を有していないかという法律的関連性
の各吟味。

これが肯定

事案に応じ、写真のサイズ調整(縮小)、白黒化等の色調整、マスキング、イラスト化などの裁判員の負担を軽減する方法を工夫。

●要保護状況の認識
被害者の日々の様子を把握⇒るい瘦状態等の変化に気づきにくくなることが想定できる。
尚「ミオパチー事件」最高裁H30.3.19

●量刑
1審判決:本件の社会的類型を実子等に対する保護責任者遺棄致死事案⇒その量刑傾向中で上限に位置付けられる⇒懲役13年。

弁護人:精神疾患にり患した家族に対する不保護の事案に類似し、同情できる⇒量刑不当を主張。
vs.
判断:本件が被害者の尊厳を著しく損なう犯行で、結果も重大であるところ、被告人両名の責任避難を低下させる事情はない。

判例時報2496

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2021年12月10日 (金)

実子に対する保護責任者遺棄致死の事案

東京高裁R2.9.8

<事案>
被害児童(当時5歳)の実母である被告人が、夫で、被害児童の養父である共犯者と共謀の上、十分な食事を与えず衰弱させ、夫による身体的虐待を知りながらそれを容認し、被害児童が極度に衰弱するのを認めながらも医師の診察等を受けさせないまま、肺炎に基づく敗血症により死亡させた。

<原審>
弁護人:責任能力を含む公訴事実を争わない。

本件当時の被告人の心理状態等を鑑定事項とする裁判員法50条1項の鑑定(50条観点)を請求⇒却下。

弁護人:精神科医であるB(B医師)の尋問を請求し、責任能力等に疑いを生じさせる尋問・証言を控え、公判に現れた事実につき一般的知見に基づいて解説する(判断の基礎とする事実)という形で証言することをもtメル一審裁判長の発言を受け、その立証趣旨を「心理的DVがあった場合の心理状態及びそれが行動に与える影響」と変更。

一審裁判所は、B医師の尋問を採用し、夫による心理的支配の程度が被告人の避難可能性に与える影響を、争点の1つとして設定。
一審裁判所により、B医師の証言範囲は、前記判断の基礎とする事実の範囲内に制限された。

<解説>
証言の制限:
裁判長は、証人等の尋問・陳述が相当でない場合、本質的権利を害しない限り、これを制限できる(刑訴法295条1項)。。

<判断>
弁護人:
50条鑑定請求の却下、及びB医師の証言範囲の制限について、訴訟手続の法令違反を主張。

判断:
一審の公判前整理手続において、責任能力を含む公訴事実は争点となっていない。
弁護人が、証人(B医師)につき、夫の心理的DVの影響による本件当時の被告人の心理状態やそれが本件に与えた影響を立証趣旨とし、裁判所もその限りで尋問の必要性を認めて採用するとともに、それに沿った争点確認、証言範囲の制限を行い、一審判決も同争点につき具体的に判断。
⇒争点・証拠の整理は適切に行われた。

<解説>
心理的DVの量刑上の考慮:

量刑判断における刑の可罰性の程度:
処罰の根拠となる処罰対象そのものの要素
当該行為の意思決定への非難の程度に影響する要素
からなる。
①②を総合的に考慮して刑事責任の分量が決まる⇒責任非難の程度次第で最終的な刑事責任の分量は大きく異なり得る。

本件:
結婚直後より夫から心理的DVを受け、本件当時も夫からの心理的影響を強く受けていたことを認定。
最終的には被告人が自らの意思で夫の指示を受け入れていた⇒心理的に強固に支配されていたとまではいえず、特に被害児童が要保護状態に陥ってからの状況からすれば心理的影響を乗り越えて被害児童を助ける契機があった。
量刑上の判断において、精神科医の証言以外の方法論として、情状鑑定等も考えられる。

判例時報2496

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2021年12月 9日 (木)

国外での代理懐胎により出生した子について、代理懐胎を依頼した夫婦の特別養子縁組の許可の申立て

静岡家裁浜松支部R2.1.14

<事案>
日本人夫婦である申立人ら間の体外受精で生じた胚を、ウクライナ人女性(「本件代理母」)に移植し、本件代理母がウクライナ国内で出産した子について、特別養子縁組の許可を求める申立て。

<判断>
申立人らのうち夫は、本件子の母を本件代理母として胎児認知し、本件申立てに先立って、本件代理母との協議により本件子の親権者を申立人夫と定め、申立人らは、本件子の出生直後にウクライナ国内で本件子を引き取り、本件子を日本国内で適切に監護養育し、
他方、本件代理母は、ウクライナ家族法に従って、本件子の出生届に申立人らが父母として記載されることに同意している。

申立人らの養親としての適格性、申立人らとの未成年者らとの適合性に問題はない。

本件代理母が本件子を監護養育することは著しく困難で、本件子らを申し会って人らの特別養子とすることが、その利益のために特に必要があるといえ、本件代理母の同意もある。
⇒本件子を申立人らの養子とすることを認めた。

<解説>
● 最高裁:
アメリカでの代理懐胎で出生した子について、依頼者夫婦の子とするアメリカの州裁判所の裁判は我が国の身分法秩序の基本原則なしい基本理念と相いれない⇒当該子を懐胎し出産した女性が母であるとの判断(最高裁H19.3.23)
生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律9条(令和3年12月11日施行)も、子を懐胎出産した女性をその子の母とする旨を定めている。

A:海外での代理懐胎により出生した子と依頼者夫婦との特別養子縁組を認めることは、代理出産助長する結果という理由で否定する立場。

B:上記最高裁の補足意見
相手方ら(=依頼者夫婦)が夫婦が本件子らを自らの子として養育したいという希望は尊重されるべきであり、そのためには法的に親子関係が成立することが重要なところ、現行法においてもAら(代理母とその夫)が、自らが親として養育する意思がなく、相手方らを親とすることに同意する旨を、外国の裁判所ではあっても裁判所に対し明確に表明しているなどの事情を考慮すれば、特別養子縁組を成立させる余地は十分にあると考える。

子の福祉と代理懐胎禁止公序のバランスをとる観点から、代理出産を選択した経緯、動機、代理出産契約の内容等が代理母の尊厳を損なうものでないこと等も勘案し、当該具体的事情の下で、特別養子縁組の成立に必要な「子の利益のための特別の必要性」(民法817条の7)が認められるものとして、特別養子縁組の成立を認める見解

● 特別養子縁組の成立には、父母の同意(民法817条の6)が要件となっており、日本においては、代理母が代理懐胎により出生した子の母とされる
⇒代理母の同意が必要。
代理母の同意を確認する方法について、令和1年による改正前の家事手続法164条3項は、原則として、実父母の陳述聴取をしなければならない旨を規定。
but
陳述の聴取の方法に法律上の制限があるわけではない

同改正後の164条の2第5項、239条2項は、養子となるべき子の出生の日から2か月を経過した後になされ、かつ、家庭裁判所調査官による事実の調査を経た上で家庭裁判所に書面を提出してなされた同意に限り、同意の撤回を制限する効果を認めているが、同条項所定の同意以外に、同意の効力を認めないものではない(68条参照)。

代理懐胎による出生した子の特別養子縁組の場合には、代理懐胎を実施した国の法制度や代理母による養育の実績、その可能性等に応じた適切な陳述の聴取の方法を選択すれば足りる。

判例時報2496

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2021年12月 8日 (水)

心神喪失で無罪の事案

横浜地裁R2.3.19

<事案>
妄想型統合失調症にり患していた被告人が、
①実母に包丁を振り下ろして傷害を負わせ、
②実父の腹部を包丁で突き刺して障害を負わせて死亡させた
という傷害、傷害致死の事案。

<解説・判断>
●責任能力の判断手法について
統合失調症の事案で、
犯行と関係のある明確な幻覚・妄想が現れていた類型として、迫害などを受けているとの幻覚・妄想から、迫害者と考えるものを排除又は報復するという犯行への直接の動機が認められる場合に、心神喪失と判断した裁判例もいくつかある。
また、統合失調症の影響により責任能力が争われている事案では、裁判所において、犯行の動機が妄想に直接支配されていたか否かという点が最も重視されているという指摘。
責任能力の判断におぴて、7つの着眼点という手法が整理。
but
各項目の重要度は同等ではなく、その比重は事例ごとに異なり、当該事案の具体的な事情を踏まえた判断を行う必要。
精神鑑定医が鑑定を行うにあたり、動機の了解可能性・不能性については、他に比べて総合評価における比重が大きくなることが多いという指摘。
~精神障害が犯行に与えた影響の程度を検討するという目的からは、自然。

●本件事案における精神障害と動機の関係性
本件各犯行の動機を認定した上で妄想との関係性を検討

被告人を攻撃している者たちの仲間になっていた実父が、警察が来るので見られたら困るような盗撮用のカメラが仕掛けられた火災報知機を洗面台に隠しているのではないかと考え、実父に何をしているのか言わせたいと思い、実父に対する行為に及んだ。

盗聴器を隠していると被告人が考えたことが統合失調症による妄想の影響であり、実父に対する行為は正に妄想が直接の原因であると評価。
実母に対する行為についても、雨戸の開閉について指摘されたことが発端となっている。
but
実母が被告人を攻撃している者たちと一緒になって被告人を裏切ったと考え、その点を実母にきちんと認めたほしいと思って行為に及んだと認定。

実母に対して感じた怒りというのは、長年抱いてきた妄想と密接に関連していると評価。

本件各犯行に及んだ動機について、妄想の影響を受けた了解不能なものであるとして、責任能力を否定する方向に傾く事実として位置付けている。
7つの着眼点の手法を用いながら、妄想と動機との関係性を踏まえ、その他の事情をも考慮して心神喪失の結論を導いている。

検察官:怒りと妄想とを分断し、前者のみを本件犯行に至った動機と位置付けた上で、動機が了解可能であると主張。
vs.
感情のみを殊更に強調し、怒りが生じた原因となる妄想との関連性を適切に把握していないと指摘。

判例時報2493

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無症状の腰椎分離症が交通事故により有症化したことを認めた事案

金沢地裁R2.8.31

<事案>
X運転の自動車とY運転の自動車との間で発生した交通事故につき、Xが、Yに対し、自賠法3条に基づく損害賠償を請求。
Xは、前記交通事故により腰椎捻挫等の障害を負い、腰部痛、臀部痛等のため通院治療⇒第5腰椎分離症が判明し、腰椎後方固定術を受けた。
第5腰椎の分離は、事故前から存在but事故前には症状がなく、事故から1年以上経過して初めて認識。

<争点>
腰部に関する事故と相当因果関係のある治療・後遺障害につき、Xの腰椎分離症が事故により有症化したか。

X主張:事故により第5腰椎の分離が有症化し、腰椎後方固定術を要して「脊椎に変形を残すもの」(自賠法施行令別表第2第11級7号)に当たる後遺障害を生じたと主張。

<判断>
①Xが事故直後から1年4か月にわたって事故前にはなかった腰痛等を一貫して継続的に訴えていた
②その部位や特徴が腰椎分離症と合致
③その継続的な訴えに合致するXの腰部周囲の症状を評価⇒腰椎後方固定術を行った病院の判断に疑いを差し挟むべき理由がない
④その経過は腰椎分離症がなんら関与しない単なる打撲によるものとしてはおよそ説明がつかない

骨折等の明らかな外傷性の所見がないことを踏まえても、事故の大きな衝撃により、腰椎分離症が関与する腰椎等が生じて遷延化し、腰椎後方固定術により軽減してもなお一定の症状が残存したと捉えるのが自然かつ合理的である。
・・・詳らかな医学的機序までは解明できないにせよ、本件の経過を経験則に照らしてみれば、Xの腰椎等は、事故により腰椎分離症が関与する痛みが引き起こされ、遷延化したものと認めるのが相当である。

腰椎後方固定術後のXの腰部の状態について、固定の影響を含めて事故と相当因果関係のある後遺障害と認め「脊柱に変形を残すもの」(自賠法施行令別表第2第11級7号)に相当。
Xに事故後の減収がない一方、主に残存する痛みに伴う業務上の支障があること等を踏まえ、労働能力喪失率を14パーセントとする逸失利益等の損害を認めつつ、
既往の腰椎分離症の寄与が大きいことも否定できない⇒30パーセントの素因減額

判例時報2496

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2021年12月 7日 (火)

看護師・医師の過失(否定)

大阪地裁R2.6.5

<事案>
亡A(当時44歳)が救急搬送⇒入院⇒翌日に急変し死亡
亡Aの相続人(両親)であるXらが、本件病院の担当看護師らに亡Aの呼吸状態を継続的に管理すべき注意義務違反等、担当医師らに気管挿管や外科的気道確保をすべき注意義務違反等があった⇒不法行為(使用者責任)に基づき、損害の賠償を求めた。

<判断>
● 注意義務違反を否定し、請求棄却。
亡Aの死因(医学的機序)について、解剖が行われていないため解明には限界。
亡Aの精神疾患や心臓疾患が影響した可能性を否定することはできないものの、(完全又は不完全な気道閉塞による)窒息である可能性が高いと認められる。
その原因としては、睡眠時無呼吸症候群や喀痰の影響のほか、元々の疾患その他を含む複合的な要因によるものである可能性が高い。

X主張:本件病院の担当看護師らに、平成27年11月5日午前5時30分の時点で、少なくともパルスオキシメーター等で亡Aの呼吸状態を継続的に管理すべき注意義務違反あり(争点①)
vs.
・・・SpO2を常に看視しなければならないほど気道が閉塞しやすい状況にあったなどということはできない⇒前記注意義務を負っていたとはいえない。

X主張:本件病院の担当看護師らは、同日午前5時30分から同日午前6時30分の間、亡Aの状態を確認すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、亡Aを漫然と放置し、前記注意義務に違反あり(争点②)
vs.
・・・・前記注意義務に違反したとはいえない。

X主張:
本件病院の担当医師らに遅くとも同日午前7時までに若しくは午前7時20分までに気管挿管や外科的気道確保をすべき注意義務違反あり(争点③④)
担当医師らに気管挿管の際に気道等を傷つけないようにすべき注意義務違反あり(争点⑤)
vs.
その時点で気管挿管やや外科的気道確保の必要性が高かったとはいえない。
気管挿管の際に亡Aの気道等を傷つけて多量の出血があったとは認められない。

<解説>
看護師には、患者の容態を適切に看視し、患者の愁訴をよく聞きその容態を冷静に観察してその状態を判断した上、必要に応じて医師に報告すべき義務がある。
この義務を尽くしたといえるかについては、当該患者の疾病の種類、病状、年齢、容体が急変する危険性の程度等を考慮して判断する必要があるとされている。

判例時報2496

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2021年12月 6日 (月)

保険法20条の重複保険⇒同条2項による求償の事案

東京地裁R2.6.22

<事案>
①加害者は、被害者所有の普通乗用自動車を運転中、交通事故を起こし同乗していた被害者を死亡させた。
②加害者に、被害者の相続人に対して損害賠償金を支払うよう命ずる確定判決が存在。
③共済事業を行う原告は、加害者との間で自動車共済契約を締結していた(原告共済)ところ、確定判決に基づき、被害者の相続人に対し、損害賠償金を支払った。
④被告は、共済事業を行うものであるが、加害者の父であり加害者と同居していた者との間で自動車共済契約を締結(被告共済)。
⑤いずれの自動車共済契約にも、記名被共済者、その配偶者又は記名被共済者の同居の親族等が運転中の他の自動車についても、当該自動車を被共済自動車とみなして賠償責任条項を適用するという他車運転特約が付されていた。

原告が、原告共済と被告共済は保険法20条の重複保険に該当すると主張し、被告に対し、同条2項に基づき、自らの負担部分を超える部分として支払った賠償金の2分の1の求償をした。

<判断>
● 本件事故による損害については、原告共済と被告共済の他車運転特約がいずれも適用され、両契約において本件損害賠償債務をてん補することになる⇒保険法20条の重複保険の規定が適用され、原告の負担部分を超える部分については、原告は被告に求償することができる。


損害保険契約とは、保険法2条6号によれば、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約するもの⇒損害賠償保険もこれに含まれる。

保険法20条の適用にあたって、被保険者の同意を要するという定めなし⇒同意がいるという被告の主張は独自の見解。

被告:原告共済の他車運転特約には他の自動車の共済契約等に優先して損害に対して共済金を支払う旨の優先払特約(本件優先払特約)がある⇒原告による本件損害賠償債務の支払は原告の負担部分を超える保険給付とはいえず、原告は被告に対し保険法20条2項により求償することができない。
vs.
本件優先払特約は、文言上は本件に適用されるとする解釈と適用されないとする解釈の両説が成り立つ。
but
優先払特約が置かれた趣旨
同特約は「他の自動車」を借りて運転中に事故を発生させた場合に、運転者が加入している保険の他車運転特約に基づく支払を被保険自動車として加入された保険よりも優先して支払うことで、「他の自動車」の所有者に等級低下等の不利益を負わせないようにすることを狙った規定。

本件優先払特約が、他車運転特約同士が重複する場合に、常に原告共済が優先的に適用されることを定めた規定であるというべき制度趣旨上の根拠はなく、損害の公平な分担を図るという点からしても、そう解するのは相当ではない。

自動車保険において保険証20条2項を適用しないとする商慣習が成立しているという証拠はない。


原告による求償権の行使の範囲に関して、本件事故によって生じた損害については、原告共済と被告共済とでてん補すべき範囲に差がないというべき⇒負担割合は2分の1となる。

保険法20条の「てん補すべき損害」とは、保険事故と因果関係が認められる損害をいうところ、
被告が確定判決に基づいて被害者の相続人から本件損害賠償義務の支払を求められた場合には、損害額元本のほか遅延損害金を支払わざるを得なかった⇒本件事故と因果関係が認められる損害としては損害額元本のほか遅延損害金も含まれる。

<解説>
保険法は、20条に重複保険に関する規律。
重複保険同一の目的物につき非保険利益、保険事故、保険期間が重なる複数の損害保険契約が存在し、各契約の保険金額の合計が保険価額を超える場合をいう。

各保険者がてん補すべき損害の額は、各損害保険契約に基づき当該保険者がてん補すべき損害の全額とし(同条1項)、保険者の1人が事故の負担部分を超えて損害をてん補したときは、他の保険者に対して各自の負担部分について求償できる(同条2項)
~保険者間の公平を図るもの

保険法20条は任意規定⇒同条1項と異なる規定は可能。

判例時報2496

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2021年12月 5日 (日)

試用期間延長の効力等

東京地裁R2.9.28

<事案>
XがYとの間で試用期間(3か月)のある労働契約を締結していて、複数回延長された試用期間中に本採用を拒否(解雇)された
その延長がいずれも無効であるとともに解雇が客観的合理的理由を欠き社会通念上も相当でなく無効であり、退職勧奨が不法行為に当たる

労働契約上の権利を有する地位確認
本採用拒否後判決確定日までの賃金月額19万4300円
慰謝料等
遅延損害金
を求めた。

<判断>
●試用期間延長の効力
就業規則の規定等⇒X・Y間の雇用契約が解約権留保付き
就業規則のほか労働者の同意も根拠に当たり、就業規則の最低基準効に反しない限り使用者が労働者の同意を得た上で試用期間を延長することは許され、
就業規則に試用期間延長の可能性及び期間が定められていない場合であっても、職務能力や適格性について調査を尽くして解約権行使を検討すべき程度の問題があるとの判断に至ったものの労働者労働者の利益のため更に調査を尽くして職務能力や適格性を見出すことができるかを見極める必要がある場合等のやむを得ない事情があると認められる場合に、そのような調査を尽くす目的から、労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長することを就業規則が禁止しているとは解されない。
but
本件では、そうい事情が認められない
1回目の延長が就業規則の最低基準効に反するから無効で、これを前提とする2回目及び3回目の延長も無効

試用期間(3か月)の満了日の経過により解約権留保のない労働契約に移行。
解雇事由の存否及びその有効性を検討して解雇無効。

●退職勧奨の不法行為該当性
Xから退職勧奨に応じない旨明確に回答された後に再検討を促すことを繰り返したこと自体は直ちに社会通念上相当と認められる範囲を逸脱したものとはいえない。
but
Yの従業員らが、試用期間の1回目の延長以降、Xが精神的苦痛に耐えられないで退職を申し出ることを期待して会議室で主に自習させることを継続させ、侮辱的表現を用いた言動は、その手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱して不法行為に当たり、Yは使用者責任を負い、Xの抑うつ状態発症との因果関係までは認められない。
慰謝料50万円、弁護士費用5万円が相当。

<解説>
労働契約における試用期間の合意の法的性質:
就業規則の文言等から検討される。
一般的には、使用者が労働者に対する解約権を留保するとの特約と解され、
留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められる(最高裁)

試用期間の延長が労働者の不安定な地位を継続させる点で労働者にとって不利益⇒使用者が一方的に延長することは許されず、就業規則等で延長の可能性およびその事由、期間等が明定されていない限り、労働者の利益のために原則として認めるべきでない。
but
本採用を拒否できる場合にそれを猶予する延長は認められ得るという考え方が有力

試用期間満了時に一応職務不適格と判断された者について直ちに解雇の措置をとるのではなく更に職務適格性を見出すために試用期間を引き続き一定の期間延長することも許されるとした裁判例もある。
but
就業規則に延長の根拠規定がない場合に労働者の同意ないしこれを含む労働契約を根拠として延長することが許されるか?
許され得るとして就業規則の最低基準効(労契法12条)との関係をどう考えるのか?

本判決:
労働者の同意を根拠として試用期間を延長し得ることを認めつつ、
就業規則の最低基準効との関係について労働者の利益と不利益の両側面を踏まえた考え方を示した。

判例時報2493

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公正証書遺言の効力(意思能力)が争われた事案

広島高裁R2.9.30

<事案>
平成9年遺言公正証書
平成13年遺言公正証書(「本件遺言公正証書」)

XがY1に対し、本件遺言公正証書が遺言能力の欠如及び要式違反により無効であるとして、本件遺言公正証書によるAの遺言が無効であることの確認を求めるとともに、
平成9年遺言により本件土地の所有権を取得
⇒本件土地の持分移転登記を経由していたY1及びY2(Y1の妻)に対し、前記登記の移転登記を求めた。

<争点>
本件遺言公正証書作成当時のAの遺言能力の有無

<原審>
Aは遺言能力を欠いていた⇒遺言無効

<判断>
Aは遺言能力を有しており、要式にも欠けるところはない⇒Xの請求を認容。

<解説>
● 一般的な事理弁識能力があることについての医学的判断を前提としながら、
それとは区別されるところの法的判断として、当該遺言内容について遺言者が理解していたか否かを検討し、主として、
①遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
②遺言内容それ自体の複雑性
③遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等の諸事情を総合考慮。
~通常採用されているもの。

● 双方当事者から、複数の意見書が証拠として提出。
2つの遺言の内容が異なり、XとY1との間では、Aの生前から訴訟手続を含めた紛争が生じていた。


原審:
①Xが提出したAの生前の医療記録を基にした意思の意見書のアルツハイマー型認知症の進行状況
②有効性に争いのない平成9年遺言から窺われるAの意思
③Y1がAの預金をおろした経緯があったこと
⇒本件公正証書遺言は無効。

本判決:
①前記医師の意見書についてAの当時の生活状況を踏まえて再検討
②Aと同居していたYらによる介護の状況を踏まえて、本件遺言公正証書が作成されるに至った経緯についても踏み込んで検討
⇒遺言能力、更には推察されるAの意思について異なる判断。


本事案:
①遺言者であるAが、当時、ほぼ自律した生活を送っており
②本件遺言公正証書が作成された際、公正役場にも出向いていた
③本件遺言公正証書の自署が平成9年遺言のそれと比較してほぼ同一で、乱れなし
④内容は、本件土地をY1に相続させるというものであって複雑ではない
本件土地上にはY1の自宅建物(経営する医院も開設されていた)⇒これと異なる内容の平成9年遺言を取消、Xと対立関係にあったY1に本件土地を相続させる遺言をすることについても合理性があった。

遺言公正証書の有効性が争われる事例の中では、無効と判断することが難しい類型に属する。
but
Aのアルツハイマー型認知症が中等度まで進行していたことが窺われるとする医学的知見
公証人の供述と本件遺言公正証書の作成の際に付き添ったBの供述との不一致等

判例時報2496

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2021年12月 4日 (土)

有期派遣労働者と労契法20条(改正前)

大阪地裁R3.2.25

<事案>
人材派遣事業等を業とする株式会社である被告との間で、派遣等による就労の都度、有期労働契約を締結し、派遣先事業所等において業務に従事⇒被告の無機労働契約社員と原告との間で、通勤手当の支給の有無についての労働条件の相違があることは労契法20条(平成30年改正前)違反⇒被告に対して、不法行為に基づき、通勤手当相当額の損害賠償を求めた。

<争点>
①本件相違に関して労契法20条が適用されるか
②本件通勤手当の性質及び趣旨・目的
③本件相違が期間の定めるのがあることによるものか
④本件相違が不合理と認められるものか
⑤本件相違に係る不法行為の成否
⑥損害の有無及びその額

<解説・判断>
●有期派遣労働契約における労契法20条の適用
派遣労働者の労働条件ないし待遇に関する格差の是正ないし規制は、派遣先の労働者との均衡等を考慮した待遇について規律する労働者派遣法による不合理な待遇ないし格差の是正が中心となると解されることに言及しつつ、
有期派遣労働者についても労契法20条の適用が除外されるものではない。

●「期間の定めがあることによ」る相違か
被告:
被告における通勤手当の支給の有無は、
①有期・無期を問わず配転命令の対象となるか否かによる相違であって、
②原告が自ら選択して従事したJOB等に係る相違でもあり、
③基本給が平均的通勤交通費相当額を勘案して設定されていたか否かによる相違でもあり、
いずれも期間の定めの有無とは関係ない。

判断:
「この通勤手当は、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるもの」とされたハマキョウレックス事件最高裁判決とは、通勤手当の趣旨・目的についての認定が異なるが、
それを踏まえても、依然、期間の定めによる相違の要素があることも否定できない⇒期間の定めがあることと労働条件の相違との因果関係を緩やかに認め、その関連性の程度は、労働条件の相違が不合理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りるとする、ハマキョウレックス判決に沿ったもの。

●「不合理と認められるもの」に当たるか
派遣スタッフ等である原告とR職員につき、
①職務の内容並びに当該職務の内容及び八の変更の範囲は大きく異なる
その他の事情として、
②派遣先における均衡待遇等に係る労働者派遣法の規律や労働者による就労条件(時給額と通勤交通費支給の有無等)の選択可能性等の派遣就労の特殊性、
③原告い地震は派遣就労ごとに就労条件を吟味し決定していたこと
④原告に支給されていた時給額が通勤交通費を自己負担するのに不足はなかったこと


本件相違は労契法20条の「不合理と認められるもの」と評価することはできず、
民法709条の損害賠償請求を基礎づける程の違法性があったことを基礎づけるような事情もない。

判例時報2493

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家庭用火災保険契約の保険約款の「不測かつ突発的な事故」

名古屋高裁R2.11.11

<事案>
Xが、損害保険会社であるYに対して、保険対象建物の床の汚損等という保険事故が発生⇒家庭用火災保険契約に基づき29万1520円と遅延損害金を請求。

<原審>
X・Y間の家庭用火災保険契約の普通保険約款3条が、保険金を支払う事故として、破損、汚損等を挙げ、これは不測かつ突発的な事故をいうと定めていることを前提に、
急激に生じるのではなく、一定の時間の経過に伴って生じる事故については、本件保険約款3条所定の汚損等に係る不測かつ突発的な事故に当たらないと解するのを相当とする。

Xが主張する保険対象建物の洗面台の床のシミ状の変色は、これに当たらない⇒Xの控訴を棄却。

<判断>
原審の「突発的」の解釈について、急激に生じるのではなく、一定の時間の経過に伴って生じる事象は「突発的」には該当しないとの解釈を支持。

<解説>
否定事案の裁判例:
台風の影響による大雨その他不測かつ突発的な事故により事故の所有する建物に黒色物質が生じて損傷と主張した事案で、
建物が建てられて以降事故が確認されるまでの約3年間にわたり保険契約者は同建物をほぼ継続的に使用管理⇒「不測かつ突発的な事故」とはいえない。

肯定事案の裁判例:
火災保険契約の保険対象物が火災により焼失した事案。

判例時報2496

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2021年12月 3日 (金)

長時間労働等と劇症型心筋炎との間の因果関係(否定)

大阪高裁R2.10.1

<事案>
亡P2の配偶者であった被控訴人が、亡P2が発症した劇症型心筋炎は、長時間労働が原因であって業務上の事由がある⇒遺族補償年金等の支給を申請⇒不支給⇒各不支給処分の取消を求めた。

<原審>
業務起因性を肯定

<判断>
長時間労働と劇症型心筋炎との因果関係を否定。
控訴審で追加された治療機械喪失により劇症型心筋炎を発症した旨の主張も認められない。
⇒本件各処分を取り消した原判決を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却。

<解説等>
●相当因果関係(最高裁昭和51.11.12)

原審:
①亡P2が長時間労働及び睡眠不足⇒免疫力の低下、異常が生じていた(←経験則から認定)
②免疫力の低下、異常により、劇症型心筋症を発症する(←医学文献・医師の意見)
本判決:

①について:長時間労働が免疫力の低下を推認させる事実であることは肯定し、その上で、外に免疫力が低下していなかったことを推認させる事実もある⇒免疫力が低下していたものとは認められない。

②について:免疫力低下と劇症型心筋症の因果関係を肯定できる医学的知見が認められない。

本判決:
ルンバール事件判決にいう「経験則」の理解について、
本件において判断されている事実的因果関係は、
機序の解明までは求められないところの不法行為法上の法的評価としての因果関係と同様であり、その判定は通常人を基準とする」が、
「法的判断として医学的知見と相容れない因果関係を認める判断が許されるわけではないから、ここで参照すべき経験則とは、医学的知見に照らしても首肯し得る経験則であることが必要」である。

劇症的心筋炎についての医学的知見を網羅的に認定し、被控訴人主張に係る経験則が劇症型心筋炎の発症に適用されないことを明らかにして、結論を異にした。

●治療機会喪失の争点(最高裁H8.1.3等)
本判決:
一般論として治療機会喪失が業務に内在する危険であるとして業務起因性を肯定する判断枠組み自体は肯定。
but
治療機会の喪失と疾病が自然経過を超えて著しく増悪したこととの間の因果関係の存否の判断も、ルンバール事件判決に従って判断されるべきもの⇒経験則に照らして統計資料その他の医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し、治療機会の喪失、すなわち治療を受けられなかった結果、疾病が増悪したこと、換言すると、治療機会があれば治療を受けることによって疾病の増悪が回避できたことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、治療機会の喪失と疾病の増悪との間の因果関係は肯定される。

最高裁H11.2.25:
検査懈怠によりがんの発見治療が遅れて死亡したと主張する遺族が起こした事案につき、医師の検査懈怠という不作為と患者の死亡との因果関係の存否が問題となったものであるが、
治療機会喪失という消極的事実と劇症型心筋炎発症との因果関係の判断構造も同様に考えることができる。

本判決:
治療機会を喪失した事実は認められない⇒治療機会喪失の法理を適用する前提に欠ける
②亡P2についてより早い段階で治療が開始されたとしても劇症型心筋炎の発症を防ぎ得たと認めることはできない⇒治療機会喪失によって結果が生じたといえない

因果関係を否定。

判例時報2493

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再保険契約について、運命共同体原則の商慣習法(否定)

東京高裁R3.4.28

<事案>
2010年4月20日のメキシコ湾原油流出事故に関し、控訴人(原告:三井住友海上火災)が、元受被保険者である三井物産子会社(MOEX)に対して、元受保険金を支払ったとして、再保険契約に基づき、被控訴人ら(被告ら)に対して、再保険金の支払を求めた訴訟。
英国のエネルギー関連企業の米国子会社であるBP社がオペレーターとして開発する石油掘削事業で起こったもので、MOEXがBP社らの操業協定を締結し、ノンオペレーターとして、10%の権益をもって、前記事業に参加。

<解説>
「運命共同体原則」(follow the settlement あるいは follow the fortune):
再保険契約において、再保険者は、元受保険契約上の保険金の支払が合理的に行われている限り、被再保険契約者(元受保険者)に対し再保険金を支払わなければならず、元受保険契約上の保険金支払義務に関して、被再保険者(元受保険者)の判断を争うことはできないこと(follow the settelement)、あるいは、元受け保険者のコントロールを超える事象について、再保険者は、元受保険者と運命を共にすること(follow the fortune)をいうもの。

<主張>
控訴人(原告):
(1)再保険契約の目的や契約当事者の効率的な業務運営のため、運命共同体原則が一般に受け入れられている。
(2)本件再保険契約において運命共同体原則の趣旨を示す規定がある反面、これを排除する規定が存在しない。
⇒運命共同体原則が導かれる。

被控訴人(被告ら):
再保険は、元受保険金の支払義務のもととなる元受保険者の損害賠償義務の存在なくして、再保険金の支払義務が発生することはない契約。

<判断>
●控訴人主張(1)について
◎ 元受業者は、元受保険契約におけるリスクを転嫁するために再保険契約を締結⇒元受保険契約において保険事故が発生し、保険金支払責任が生じた場合、再保険契約に運命共同体原則の適用があれば再保険金支払請求に要する負担を軽くし、迅速に再保険金を支払ってもらえることとなるので、メリットとなる。
but
再保険者にとっては・・・・必ずしもメリットとはならない。
⇒再保険契約の性質から、運命共同体原則が商慣習として受け入れやすいものとはいえない。

大審院判決の原審は、いわゆるローン・フォームを商慣習であると判示し、大審院もこれを是認
but
原告の指摘する「追随の義務なるもの」は、ローン・フォームを商慣習であると判示するにあたって言及されたものにすぎず、「追随の義務なるもの」を商慣習であるとは述べていないし、この点について、大審院も何ら判断していない。
⇒運命共同体原則が商慣習であるということはできない。

◎ 英国において、再保険契約にfollow the settlement 条項が挿入されていない場合には、元受保険者は、元受保険契約上の要件を充足していることを主張立証しなければならない⇒英国において運命共同体原則が商慣習となっているとはいえない。
また、英国でも、元受保険業者が元受保険契約上の要件充足性の主張立証を免れようとして契約上に規定を設けても、再保険者が当然にはこれを受け入れない様子が顕れている⇒再保険契約の性質をもって、運命共同体原則が商慣習となっているということはできない。

◎ ⇒
再保険契約の性質から、運命共同体原則が、商慣習法となって、保険契約上の合意内容や民訴法上の規定に優先することになるとは認められていない。

●控訴人主張(2)について
原告が主張するいずれの規定も、再保険契約者が、元受保険者のした保険金の支払につき、元受保険契約上の要件充足性について主張立証がなくても従うことを含意したものであるとはいえない。
⇒各規定が、運命共同体原則の趣旨を表したものであるとはいえない。


本件再保険契約につき運命共同体原則が適用されるとはいえず、原告は、本件保険金の支払が、本件アンブレラ保険契約における保険金支払要件を満たすことを主張立証しなければならない。

判例時報2496

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2021年12月 2日 (木)

国立大学での指導教員からのパワハラの事案

名古屋地裁R2.12.17

<事案>
Xは、A大学医学系研究科(大学院)の博士課程に在学。
Xは、Xの指導教員を務めていたY2が、
①研究プランや博士論文の作成方針について具体的で明確な指示説明をしなかったこと、
②研究に関する質問に適切に回答しなかったこと、
③Xが満期退学した後もXに日中のカンファレンスへの参加を催促したこと、
④Xが実験に寄与した本件論文の共著者からXを除外したこと
がハラスメント行為に当たる

A大学のハラスメント防止対策委員会(ハラスメント委員会)に救済申し立て。

①~③については明確にハラスメントとは認定できないが、
④はハラスメントがあったと認定。
⇒Y2に対する総長名での厳重注意処分。

Xは、指導教員であるY2からいわゆるアカデミックハラスメントに該当する不適切な指導等をされたことにより精神的苦痛を被ったと主張し、A大学を設置運営する国立大学法人であるY1及びY2に対し、国賠法又は民法の規定に基づく損害賠償を求めて提訴。

<判断>
いわゆるアカデミックハラスメントとは、研究及び教育機関における教員等の優位な立場にある者から学生等の劣位な立場にある者に対してされるハラスメント行為の1つ。
教員等の学生等に対する言動が不法行為法上の違法行為に該当するかは、
両当事者の立場及びその優劣の程度のほか、
当該行為の目的や動機経緯
立場ないし職務権限等の濫用の有無、方法及び程度
当該行為の内容及び態様並びに
相手方の侵害された権利利益の種類や性質、侵害の内容及び程度等の諸事情を考慮して、
当該行為が教員等の学生等に対する研究教育上の指導として合理的な範囲を超えて社会的相当性を欠く行為といえるかどうかにより判断するのが相当。

Xが指摘するY2の違法行為、(1)~(6)のうち
(3)Xが実験を行い、その作成に貢献した本件論文の発表に当たり、草稿段階ではXを共著者に加えていたのに、最終稿では共著者からXを除外したこと
のにを違法行為として認定⇒国賠法1条1項に基づき、Y1に対して、損害賠償金として11万円の支払を命じた。

<解説>
多くの理系の研究者が激しい競争状況の下に置かれており、そのプレッシャーから𠮟責が行われやすい、
理系の学生や研究者は、複数の人が関わって実験や観測を重ね、それをチームの研究成果として発表していくというスタイル⇒「その研究に貢献したのは誰か」「内容に責任を持つのは誰か」などの共著論文のオーサーシップの問題がハラスメントの原因になりやすい、との指摘。
公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国又は公共団体が被害者に対して賠償責任を負い、公務員個人は賠償責任を負わない(最高裁)
本件でも、Y2の個人責任を否定。

判例時報2493

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売買契約に基づく債務の履行を求めるための訴訟提起等のための弁護士報酬の損害賠償としての請求(否定)

最高裁R3.1.22

<事案>
不動産業者Aが営業を停止して代表者が行方不明⇒その債権者であるXが、Aと土地の売買契約を締結していた飼い主のYらに対し、差し押さえた売買代金債権に基づき、合計2500万円余りの支払を求めた。
Yら:Aが売買契約上の債務の履行を怠り、その履行を求めるための訴訟の提起等の事務を弁護士に依頼したことによる弁護士報酬その他の費用を負担⇒Aに対して損害賠償債権を有しており、同債権との相殺により売買代金債権は全て消滅したと主張。

Aから土地を代金9200万円で買い付ける旨の売買契約を締結し、手付金500万円を支払った。
土地に設定していた担保権等の抹消費用、土地の測量費用等として7727万円余りの負担をした。
弁護士に、土地の処分禁止の仮処分の申立て、所有権移転登記請求訴訟の提起、建物収去土地明渡訴訟の提起、代替執行の申立て等の事務を行い、その結果、Yらは、土地の引渡し及び所有権移転登記を得た。

<原審>
Aに対する訴訟提起等の弁護士報酬について、債務不履行に基づく損害賠償債権がある。
同弁護士報酬の額は972万8600円を下らず、相殺により売買代金債権はすべて消滅した⇒Xの請求を棄却。

<判断>
土地の売買契約の買主は、当該売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務弁護士に委任した場合であっても、売主に対し、これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできない。

合計972万8600円の支払を求める限度でXの請求を認容。

<解説>
●不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の追行のための弁護士費用は、不法行為と相当因果関係に立つ損害であるとして、実務上、認容額の1割程度の弁護士費用を認める運用。

債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟の追行のための弁護士費用の賠償請求の可否の問題:
その一類型である労働契約上の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求に関して、その訴訟追行のための弁護士費用は労働契約上の安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害。
(最高裁H24.2.24)
~損害賠償請求訴訟の追行のための弁護士費用についての判例。

●本件:契約上の債務の履行を求める訴訟の追行等のための弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することの可否が問題

金銭消費貸借契約上の貸金債務の履行を求める訴訟の追行のための弁護士費用その他の取立費用については、これを債務不履行に基づく損害賠償として請求できない(最高裁)。

民法419条が金銭債務の不履行による損害賠償の額は法定利率によって定めると規定しており、それ以上の損害賠償は請求できない。
~金銭債務以外の場合について述べるものではなかった。

● 本件:土地の売買契約上の売主が負う引渡債務及び所有権移転登記手続債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行に係る弁護士報酬について債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできない

(1)
①それにより得ようとするものがいわゆる給付利益であって、損害の補填を求める不法行為の場合等とは異なる
②不履行の可能性を考慮して契約内容を検討したり、契約締結をするかどうかを決定することができる

不法行為に基づく損害賠償等の場合は、自らの意思に関係なく権利利益が侵害された被害者が損害の填補を求めるもの⇒被害回復の観点から弁護士費用の賠償をも認める必要性が高い
契約上の債務の履行請求の場合は、弁護士報酬は給付利益を得るための取立費用にすぎないともいえ、また、契約上の手当てや契約しないとの選択も可能⇒不法行為の場合等とはおよそ状況が異なる。

(2)土地の売買契約上の引渡債務ないし所有権移転登記手続債務に関する固有の理由:
これらの債務は売買契約から一義的に確定するものであり、その履行請求権は売買契約の成立という客観的事実により基礎づけられる

買主は、前記債務の履行を求める場合に主張立証すべき事実は、契約の成立という客観的事実であり、その訴訟追行に必ずしも弁護士の専門知識を要するとはいえない。

● 尚、強制執行に要した費用のうち民訴費用法2条各号に掲げられた費用のものを不法行為による損害として主張することはできない(最高裁R2.4.7)。

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2021年12月 1日 (水)

納骨壇使用契約の法的性質

大阪地裁R2.12.10

<事案>
原告が、集合納骨施設を運営する宗教法人の被告に対し、
納骨壇使用契約(「本契約」)に基づき支払った永代使用料及び永代供養料について、不当利得を理由に返還を求めた事案。

<判断>
本契約で納骨壇の使用に係る管理規約が規定。
その内容
⇒本契約の法的性質を、場所や容量に応じて料金設定された納骨壇から予め選定された納骨壇の使用の独占を確保し、遺骨預り願いを受けた遺骨又は遺品を当該納骨壇で半永久的に保管することを約し、その対価としての永代使用料の支払を約することを内容とする有償の諾成的寄託契約の性質と、遺骨又は遺品を保管する限り当該故人のために供養を行うという役務提供を約し、その対価としての永代供養料の支払を約することを内容とする準委任契約の性質が混合した契約。

納骨壇の使用者は、民法(平成29年改正前のもの)662条、651条により本契約の解約の申し入れをすることができる⇒原告の解約の申し入れにより終了。

本契約の本質は、
a:遺骨又は遺品の保管を得て、当該故人のための供養を半永久的に受けることにあるが、
b:そのような地位を取得することにも対価的性質がある

永代使用料及び永代供養料として支払われた金員のうち
7割がaの対価
3割がbの対価
に相当。

aについては、遺骨又は遺品の保管並びに当該故人のための供養は開始しておらず、債務の既履行部分はない⇒契約による返還請求権の発生を認め、
bについては、地位付与の債務は履行済みで、返還請求権は生じない

請求の一部を認容。

納付した永代使用料及び永代供養料については一切返還しない旨の規定
~消費者契約法9条1号所定の平均的な損害は損しない⇒同規定は全て無効。

<解説>
墓地や納骨壇の使用及び供養を受けることの対価の支払を約する契約に関する裁判例:
①墓地使用料前納金返還請求において、墓地使用契約を、賃借権又は使用借権のように一定期間の使用権を設定するものではなく、永続的ないし永代的使用権を設定するものであるとした上で、前納金は使用期間に対応した使用の対価とはいえず、墓地使用権の設定に対する対価⇒返還請求を棄却(京都地裁)。

墓地の使用に関する規則が定められており、契約及び規則の内容から、契約の性質を、墓地に対する永続的ないし永代的な使用権の設定ととらえ、前納金をその対価と解したもの
契約の意義を墓地使用権の設定においた。

②永代供養料等返還請求において、納骨壇使用契約を、納骨壇という場所の利用に係る建物賃貸借契約の性質を中心としつつ、集合形式法要行事(定例法要会)を行うことが義務付けられるとの準委任契約の性質を合わせ有する混合契約であるとした上で、申込金を納骨壇の半永久的な使用の対価であるとした事例(東京地裁)。

永代供養契約と納骨壇使用契約とが別個に締結された事案であり、後者につき、納骨壇の使用関係についての細則、利用規約等がみられない⇒民法上の典型契約の混合契約として性質決定。

判例時報2493

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刑訴法321条1項2号後段で請求された検察官調書の却下が訴訟手続の法令違反とされた事案

大阪高裁R2.3.10

<原審>
本件犯行は被告人以外の人物が共犯者に指示したことによって行われたものである可能性が否定できないと判断し、被告人と共犯者らとの共謀を否定。

<控訴趣意>
事実誤認:
間接事実①~⑥によれば、被告人と共犯者らとの間に本件犯行の共謀があったことが推認できる⇒これを認めなかった原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。

訴訟手続の法令違反:
間接事実④(被告人が共犯者の1名に対して本件犯行に用いられた催涙スプレーを送っていること)を立証するために、原審検察官が、刑訴法321条1項2号後段に該当するとして証拠請求したZの検察官調書謄本につき、これを却下した原審裁判所の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。

<規定>
刑訴法 第三二一条[被告人以外の者の供述書面の証拠能力]

被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。

二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき。但し、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る

<判断>
Zの原審公判供述と本件検察官調書は、その一部において、互いに相反していること(相反性)が認められ、かつ、本件検察官調書の本件相反部分は、Zの原審公判供述よりも信用すべき特別の情況(相対的特信性)が認められる。
⇒本件検察官調書の証拠請求を却下した原判決には訴訟手続の法令違反がある。

<解説>
●本判決は、相対的特信性を認めた理由につき詳細に判示し、その中で、Zの原審公判での供述状況のみならず、疎明資料として提出されたDVDを使って、Zの捜査段階の供述状況について詳しく分析。

●取調べの記録媒体を相対的特信性判断の資料に用いたこと
原審では本件検察官調書の証拠請求自体が却下。
⇒控訴審は、その証拠能力判断のために、改めて本件検察官調書の提示を命じ、本件DVDもそれに合わせて控訴審に提出されたものと思われる。

◎記録媒体である本件DVDを、刑訴法321条1項2号後段書面の要件である相対的特信性の判断に使用していいか?

記録媒体を法廷審理に使用できるかという問題:

ア:被害者の取調べの記録媒体を、刑訴法が本来その目的としている場合のほかに、当該被疑者本人の供述調書(自白調書など)の信用性判断に補助的証拠として用いる場合、
イ:実質証拠として用いる場合
を中心に検討されており、

本件のように、第三者の供述調書を伝聞例外として証拠とする場合の判断に用いるというような場合は想定されていなかった。
補助的証拠として採用しても、それ自体が実質証拠として機能してしまう可能性が高く、これを阻止することが困難であること、
視覚による影響は極めて強く、総合的に行われるべき信用性判断が偏った形で行われる可能性が高い

これらの議論において、その使用を否定的に捉える重要なファクター。

単なる手続き関連の補助的証拠であるからなどといって、安易に使用することは許されない
特に①は最も警戒すべき点。

本判決:
「証拠能力の判断は、原審裁判体を構成する裁判官3名の合議によって行うべきものであり、本件検察官調書の相対的特信性を疎明する資料として提出された本件DVDの内容も、原審裁判体を構成する裁判官3名のみが視聴すればよい⇒それを資料とすることによって、原審裁判体を構成する裁判員の判断に不当な影響を与えることはない。」と付記
vs.
裁判員のみならず裁判官であってもその影響を排除するのは難しく、この説明だけで、問題が解決しているとは言い難い。

公判中心主義のもとでの相対的特信性判断の在り方
裁判員裁判⇒刑訴法本来の直接主義、公判中心主義に立ち返ることが標ぼう。
⇒刑訴法321条1項2号後段の解釈、運用についても、見直しを迫るものであるはず。

判例時報2495

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