商品先物取引の受託会社従業員の不法行為(肯定)
名古屋高裁R1.12.20
<事案>
Xは、Y1の従業員Y8及びY9が適合性原則、説明義務、実質的一任勘定の禁止、無意味な反復取引や特定売買等の禁止、利益相反取引行為の禁止、情報提供義務、新規委託者保護義務に違反し、取引上の 損失等を被ったとして、
Y1に対し、債務不履行、不法行為、使用者責任、一般法人法78条、会社法350条に基づき、その余のY2ないしY7に対し不法行為、会社法429条1項に基づき、損害賠償を求めた。
<原判決>
請求棄却。
<判断>
●実質的一任取引禁止違反及び無意味な反復的取引等禁止違反を認め、
当該勧誘行為を行った従業員Y9と会社であるY1に対する不法行為、使用者責任に基づく損害賠償請求の一部を認めた。
●実質的一任取引禁止違反
①・・・・短時間応対することができたにすぎない。
②・・・・前記の短時間の電話対応では、・・・Xが的確に理解して、当該取引をするかどうかを自由な意思に基づいて判断できたとは推認し難い。
③・・・損害賠償を請求することは考えていなかったとの供述は、XがY9を信頼してY9による第2取引に係る各取引を無批判に承認していたことを裏付ける。
⇒実質的一任取引であった。
●無意味な反復取引等禁止違反
特定売買は、相場の状況やその変動予測、委託者の取引状況、取引方針等に応じて、一定の合理性を有することがある売買手法であるということができるところ、第2取引については、手数料化率は約29%でさほど高率ではないものの、特定売買比率は約185%と異常な数値⇒すべての特定売買が一定の合理性を有する売買手法であったとは考え難い⇒274回と多数回に及び第2取引の特定売買には、Y9が相場の変動状況等を整合せず、必要性・合理性のない無意味な売買を繰り返させて、Xの損失においてY1に手数料を獲得させる意図で勧誘した取引が含まれていると推認するのが合理的。
一般大豆及びNG大豆の取引は、客観的な相場状況及びXの損益状況に反する不合理な取引であり、Y9は、無意味な売買を頻回に繰り返させて、Xの損失においてY1の手数料獲得を意図して前記取引を勧誘したとみるべき⇒その勧誘行為は、社会的相当性を逸脱する違法なもの。
・・・・。
⇒Y9には、第2取引に係る勧誘行為に実質的一任取引禁止違反、無意味な反復取引等禁止違反の違法がある。
● ・・・第2取引よる損失の発生・拡大に係る控訴人の過失割合は6割。
Xは第2取引終了当時、第2取引には違法があり損害賠償請求が可能であると認識しておらず、そののち代理人弁護士を通じてY1から委託者別先物取引勘定元帳及び委託者別証拠金等現在高帳の写しの送付を受けた以降に、第2取引が違法であり、損害賠償請求が可能であると認識
⇒訴え提起時には消滅時効が完成していない。
<解説>
実質的一任取引の禁止について:
原審:
Xの職場の環境を認定した上、
①XがY9の相場観を尊重してそれに従ったこと、
②第2取引が終了した時点でXはY1に損害賠償を請求することは考えていなかったこと
③Xは勤務中にY1の従業員と連絡をとって説明を受けて売買を行った
⇒
実質的一任取引に当たらない。
控訴審:
①Xの作業場所の狭さ等⇒・・・電話で説明を受けたとしても短時間にすぎなかった
②特定売買の手法が多数回にわたって駆使⇒短時間の電話対応では、相場状況や相場の変動予測等の情報をXが的確に理解していたとはいい難い
③XがY9の相場観を尊重したことや第2取引終了にY1に損害賠償請求をすることを考えていなかった⇒XがY9による第2取引を無非難に承認していたもの⇒実質的一任取引であったことと整合する。
~
Y1の従業員を信頼して取引をすることの是非はともかく、信頼の基礎となる情報の取得が十分にされていたかに着目し、これが十分でなかった本件では、XはY1の従業員に任せたものとみて、実質的一任取引を認定。
無意味な反復取引等違反について:
原審:
①XがY1の従業員の説明を受けながら自身の判断で、各取引を行ったもの
②商品の需要が逼迫していた状況であったとしても、相場の変動要はそれだけに限られない
⇒Xが行った取引につき直ちに合理性を欠くものであるとは認められない。
控訴審:
①特定売買比率が異常に高い
②相場の傾向に反する取引を繰り返し行っている
⇒社会的相当性を逸脱する違法な勧誘行為。
判例時報2492
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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