幼児の揺さぶりによる傷害⇒無罪の事例
岐阜地裁R2.9.25
<事案>
生後約3か月の実子に対する揺さぶり⇒急性硬膜下血腫等の傷害
<主張>
検察官:被害児には本件直後、急性硬膜下血腫、脳実質損傷、びまん性脳浮腫、網膜出血⇒この傷害は被告人の揺さぶり行為等によって生じた。
弁護人:被告人は揺さぶり行為等をしておらず、被害時児の傷害はソファーからの落下によって生じた可能性がある。
<判断>
検察官が揺さぶり行為等の有力な根拠とした急性硬膜下血腫、脳実質損傷は認められない。
びまん性脳浮腫、網膜出血は揺さぶり行為等を原因とするものとは言いきれず、ソファーからの落下によって脳深部静脈血栓症を発症し、それを原因として生じた可能性を否定できない。
<解説>
● SBS仮説:
典型的には、 急性硬膜下血腫、脳浮腫、網膜出血の3つの症状が揃っており、その原因となり得る高位落下等の事情がなければSBSと診断できるとするもの。
● 複数の専門家証言がある場合の判断の仕方:
各専門家の説明を正確に理解し、相反する説明の分岐点を見極め、信用性を適正に判断しなければならない。
● 公判前整理手続終了後に検察官が請求した証拠の採否について:
検察官は、専門家証人2名の尋問終了後、新たに鑑定書2通(①脳神経外科の専門医、②工学専門家各作成)、①の専門医の証人尋問を請求。
刑訴法316条の32第1項は、公判前整理手続等における争点及び証拠の整理の実効性を担保するため、公判前整理手続等終了後の証拠調べ請求を原則として禁止し、
例外として「やむを得ない事由」がある場合に証拠調べ請求ができるとした。
「やむを得ない事由」:
公判前整理手続等で提出できなかった合理的理由。
公判前整理手続等終了前に証拠調べ請求が可能だった場合でも、公判前整理手続等における相手方の主張や証拠関係等からその必要がないと考え、そう判断するについて十分な理由があったと考えられる場合等は、新たな証拠調べ請求ができる。
その場合、
①公判前整理手続等で証拠調べ請求をしないとの判断をした意思形成に相手方当事者の訴訟行為が寄与していたか否かといった、新たな証拠調べ請求が必要となった理由及びその理由に対する当事者双方それぞれの帰責性、
②新たな証拠が証明しようとする事実が事件の結論に与える影響の程度や当該証拠がその事実の立証に果たす役割、
③新たな証拠調べ請求が相手方当事者や審理予定に与える影響
といった諸要素を総合的に考慮して、「やむを得ない事由」の有無を判断。
本件:
当該証拠の立証趣旨、
公判前整理手続終了前の請求可能性、
結論に与える影響の程度、
審理経過、
新たな証拠請求時の審理の進行状況(基礎から最後の公判前整理手続期日までに2年以上が経過しており、検察官の新たな証拠請求は立証趣旨に関連する検察官・弁護人請求の専門家証人の尋問終了後になされた)等
⇒「やむを得ない事由」がないと判断された。
判例時報2491
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