過払債務と法人税における公正妥当と認められる会計処理
最高裁R2.7.2
<事案>
平成24年に破産した貸金業者の破産管財人が、破産手続において過払金返還訴訟が確定⇒当該債務の発生原因となった制限超過利息等につき、これを受領した時(平成7年度~平成20年度及び平成12年度~平成17年度の各事業年度)に遡って、その所得がなかったものとして計算すると、申告した益金の額が過大であった⇒後発的事由に基づく法人税の更正の請求⇒所轄税務署長から更正をしない旨の処分(本件各通知処分)⇒
国に対し、
①本件各通知書分の一部の取消を求める(主位的請求)とともに、
②国は前記各事業年度につき前記貸金業者が納付した法人税相当額(合計約66億円)を不当に利得⇒不当利得返還請求権に基づき、そのうち2億5000万円の返還を求めた(予備的請求)
<制度>
法人税:
法人の事業年度ごとに益金と損金の額を計算し、これを差し引きした金額(所得)を課税標準として、法人税を課税。
益金と損金の額の決定方法:
法人税法は、個別の規定がないものについては、
「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)に従って計算すべきである旨規定(法人税法22条4項)。
~
昭和42年の法人税法改正における法人税課税の簡素化の一環として、法人税課税をできる限り法人企業会計と整合的に行うために設けられたもの。
判例:
利息制限法所定の制限を超過した私法上無効な違法利得
~
未収分については収益実現の蓋然性がない⇒被課税所得を構成しない。
既収分については経済的利益が担税力を認め得る程度に支配享受された状態に達したものとして課税対象となる。
⇒
貸金業者が受領した過払金は法人税課税においては益金として申告するのが正当な税務処理。
企業会計においては、一般に、事業年度ごとに区切って収益や損失を計算し、監査や承認等を経て確定した上、配当等の利益分配を事業年度ごとに確定的に行う。
⇒企業から財産が流出した(あるいは流出することが確定した)事業年度の損失として計上。
~前期損益修正
そのような一般的な会計処理と異なり、実際に過年度の企業会計をやり直した場合、過年度の益金を減額することも法人税法22条4項にいう公正処理基準に合致した計算方法に当たるといえるか?
本件では、税通法23条1項、2項に基づく後発的事由に基づく更正の請求の可否として、争われた。
<判断>
法人が受領した制限超過利息等を益金の額に参入して法人税の申告をし、その後の事業年度に当該制限超過利息等についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続により確定した場合において、当該制限超過利息等の受領の日が属する事業年度の益金の額を減額する計算をすることは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものとはいえない。
⇒
本件のような場合に過年度の益金の額が減額されることを前提とした更正の請求はそもそも理由がない。
時に遡って益金を減額するのではなく、当該確定額を当該返還義務が確定した事業年度の損失とすべき(前期損益修正)であり、これは法人が破産した場合でも異ならない⇒本件各通知処分が違法であるとはいえない。
←
①企業会計が損益計算を事業年度に区切って行い、過去の損益計算を遡ることを予定していない。
法人税もこれを前提に法人税を課税している。
⇒前期損益修正が公正処理基準に合致する計算方法。
②法人税法は事業年度を跨いだ課税の調整を特別に定められた要件と手続の下においてのみ行っている。
③前記のような課税の調整の在り方は法人が破産した場合でも同様であり、本件のような場合に事業年度を跨いだ課税の調整を行う旨の規定はない。
④企業会計上、過年度の収益を減額させる計算をすることが公正妥当な会計慣行として確立されているとはいえない。
判例時報2492
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