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2021年11月23日 (火)

違法行為の転換を認めた事案

最高裁R3.3.2

<事案>
Y:国
X:栃木県

Xは、宇都宮市に対し、市は事業実施事業者に対し、補助金2億6113万8000円を交付し、同事業者は同補助金を主要な財源とし堆肥化施設を整備。

Y(農林水産大臣から権限の委任を受けた農林水産省関東農政局長)の原告に対する補助金の交付決定には、交付事業者であるXは「間接交付事業者に対し事業により取得し、又は効用の増加した財産の処分についての承認をしようとするときは、あらかじめ関東農政局長の承認を受けなければならない」との条件(「本件交付決定条件」)が附されていた。

申請を受けて、
関東農政局長⇒X、X⇒市に対し、
市長が事業実施事業者に対し、本件施設に対する担保権の設定を承認し、担保権が設定された。

さらに、申請を受けて、順次同様に、
本件施設につき、担保権事項に際しての承認がされ、担保権実行により売却がされた。
その際、Xは、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(「法」)22条に基づき、承認を申請⇒関東農政局長は、国庫補助金相当額の納付を条件(本件約款)として承認(本件承認)し、その後、原告は、関東農政局長の国庫補助金相当額1億9659万956円の納付の求めに応じ、同金額の納付(本件返納)をした。

X:本件承認は法令上の根拠を欠き、本件附款も法的効力が認められない⇒Yは本件返納により法律上の原因なく前記金額を利得下⇒Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、同額の支払を求めた。

<争点> 本件承認の対象が何か、いわゆる違法行為の転換が認められるか

<関連訴訟>
❶栃木県が宇都宮市に対して補助金相当額の返還を求めた訴訟
❷本件返納が違法であることを理由として栃木県知事が県知事個人に対して損害賠償請求を求めた住民訴訟

❶訴訟
県の市に対する交付決定においては、事業実施業者による財産処分に際して県の承認を要する旨の条件が附されておらず、また、Xの補助金等交付規則は事業実施事業者による財産処分に適用されない⇒県の市に対する承認には法令上の根拠がなく、その附款を根拠に補助金相当額の返還を求めることはできない⇒県の請求を棄却。
上告受理申立ても、不受理決定。

❷訴訟
第1審:
本件承認は法22条に基づいてされているが、同条に基づいてすることはできず、また、担保権実行の際に同条に基づく承認は必要ない
⇒本件承認には法令上の根拠がなく、その附款として附された本件附款にも効力を認めることはできない⇒本件返納は違法であり、県知事は責任を負う。

控訴審:
本件返納は違法but県知事には過失はない。
上告及び上告受理申立ては、棄却兼不受理決定。

原判決に民訴法312条1項及び2項所定の上告理由がなく、また、
民訴法318条1項所定の法令の解釈に関する重要な事項を含むとはいえない
などとされたもので、控訴審判決の判断内容自体について、最高裁として、本件返納が違法である旨を判断したものではない。

<1審>
本件承認は法的に不存在であり、その附款である本件附款を根拠とする納付の求めも法的に不存在⇒原告の請求を認容。
本件承認は、法22条に基づいてなされたものであるところ、同条は、間接補助事業者等である事業実施事業者のする本件施設の財産処分には適用されない⇒本件承認には根拠法を誤った過失がある。
but
本件承認は、いわゆる違法行為の転換により、法7条3項を根拠にされたものと読み替えることができ、これに附された本件附款が、法の趣旨に照らして違法・無効とはいえない。
but
本件承認は、本件施設の担保権実行による所有権の移転を対象としてされたものであり、担保権実行についての承認は不必要⇒承認としての法的意味が認められない⇒法的に不存在なものと評価。

<原審>
1審と結論同じ。
いわゆる違法行為の転換の理論により、本件承認が法7条3項による本件交付決定条件を根拠としてされたものとして法的根拠のある行政行為とすることはできない。
本件交付決定条件において、担保権設定者の意思が介在しない担保権の実行は承認の対象とならないと解されることろ、本件承認は本件施設の担保権の実行による所有権移転を対象としてされた法的根拠を欠く無効なものであって、これに附された本件附款も無効
⇒本件返納は法律上の原因なくされたもの。

<上告受理申立>
①本件承認は本件施設の目的外使用を対象としてされたものbutその対象を本件施設の担保権実行による所有権移転であるとした⇒原判決には、本件承認という行政行為の解釈の誤りがある。
②本件承認については、いわゆる違法行為の転換により、その根拠を法22条から法7条3項による本件交付決定条件と読み替えることができ、有効と考えられるのにそのように解さなかった原判決には、違法行為の転換に係る法令解釈の誤りがある。

<判断>
●本件承認の対象は、本件施設の目的外使用であるとした上で、本件承認は法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとして適法⇒原判決を破棄し、第1審判決を取り消して原告の請求を棄却。(違法行為の転換を認めたもの)

●法22条に基づくものとして各省各庁の長から権限の委任を受けた機関により補助事業者等に対してされた補助金相当額の納付を条件とする間接補助事業等により取得された財産の処分の承認は、次の(1)~(3)など判示の事情の下では、補助事業者等は間接補助事業者等に対し事業により取得した財産の処分についての承認をしようとするときはあらかじめ前記機関の承認を受けなければならない旨の法7条3項による条件に基づいてされたものとして適法である。

(1)
法22条に基づく承認は、これを得ることなく補助事業等により取得された財産が処分され、補助事業者等により補助金等の交付の目的に沿って使用されなくなる事態に至ることを防止することを目的とするところ、法7条3項による前記条件に基づく承認も、これを得ることなく補助金の交付の目的が達成し得なくなる事態に至ることを防止することを目的とする。

(2)
法22条に基づく承認を得た上での財産の処分であれば、法17条1項により補助金等の交付の決定が取り消されることはないのと同様に、法7条3項による前記条件に基づく承認を得た上での財産の処分も、これにより補助金の交付の決定が取り消されることはない上、法22条に基づく承認に際しては、補助事業者等において補助金等の全部又は一部に相当する金員を納付する旨の条件を附することができるのと同様に、法7条3項による前記条件に基づく承認に際しても、補助事業者等において交付された補助金の範囲内の金額を納付する旨の条件を附することができる。

(3)
法22条に基づくものとして前記の財産の処分の承認をした機関において、仮に同条に基づき当該承認をすることができないという認識であった場合に、法7条3項による前記条件に基づき承認をしなかったであろうことをうかがわせる事情は見当たらない。

<解説>
●本来されるべきであった本件承認の根拠等
法は、国が直接交付する「補助金等」などと、補助金等を財源とするが国が直接交付するものではない「間接補助金等」などを別のものとして定義している(2条)。

本件承認は、法22条を根拠としてされている
but
同条は、「補助事業者等」、「補助事業等」、「補助金等」についての規定⇒「間接補助事業者等」である本件の事業実施事業者がする財産処分については適用されない。
but
本件交付決定には、交付事業者である原告が「間接交付事業者に対し事業により取得し、又は効用の増加した財産の処分についての承認をしようとするときは、あらかじめ関東農政局長の承認を受けなければならない」との法7条3項による本件交付決定条件が附されている
⇒関東農政局長は、市が事業実施事業者による財産処分を承認することについて承認を求められたXに対しては、本件交付決定条件に基づこ承認すべきであったといえる。

法22条の趣旨は、補助金等により形成された財産の処分について一定の規制を行い、もって補助金等の交付の目的が完全に達成されるよう特に配慮したもの。
同条における各省各庁の長の承認は、禁止の解除の効果を持つ独立の行政行為であり、講学上の許可に相当するところ、「補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すること」等の条件を附すことも可能。

補助金事業者等が同条の規定に違反して補助目的外の処分を行ったときには、法11条1項の事業遂行義務に対応して定められた法17条1項および3項の規定に基づき、交付決定が取り消されることとなる。

法22条は、国と補助事業者等との関係についての規定であるが、これと実質的に同一の規制を及ぼす必要があり、そのためには、補助事業者等が間接補助事業者等に間接補助金等の交付決定をする際に、「間接補助事業社等により取得し、又は効用の増加する財産の処分については、補助事業者等の承認を受けるべき」旨の間接補助条件を附さなければならないとうい補助条件を附すことが必要であるとされている。
・・・

●本件承認の対象
本件承認は、処分区分を「目的外使用(補助事業を中止する場合)」としてされた申請に対してされたもの⇒本件施設の目的外使用を対象としてされたものと解される。

原審:法22条の解釈を踏まえ、担保権実行に伴う所有権移転であるとした
本判決:単なる事実認定ではなく、行政行為の解釈の問題であるという認識の下に、目的外使用であると判断

担保権設定者の意思に基づく財産の処分に民事上の効果を発生させるために、法22条に基づく承認が要求⇒担保権実行に伴う所有権移転については、担保権設定者の意思に基づくものではないから、承認の対象とならないという立場。
vs.
法22条に基づく承認は、補助金等により取得等された財産について、各省各庁の長の承認を得ることなくその処分がされることを防止し、もって補助金等の交付の目的が完全に達成されるよう特に配慮したものであるところ、本件交付決定条件に基づく承認も同様の趣旨によるものと解される。

いわば事業実施事業者の善管注意義務を解除する効果を持つものであって、これは補助金等又は間接補助金等により取得等された財産の処分の民事上の効果の有無に関わるものではない。

●違法行為の転換
当初、Aとしてされた行政行為が、Aとして必要な要件を欠いているためにAとしては違法であるが、Bの行政行為の要件は充足している場合、これをBとして存続させること。
違法行為の転換が認められるには、行政行為の内容に関して、
①転換前の行政行為と転換後の行政行為の具体的な目的が同一であること、
②転換後の行政行為の法的効果が転換前の行政行為の法効果より、関係人に不利益に働くことにならないこと、
③行政庁が仮に転換前の行政行為の瑕疵を知ったとしても、その代わりに転換後の行政行為を行わなかったであろうと考えられる場合でないこと
を挙げる学説。

本判決:
①法22条に基づく承認と法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認は、目的を共通にすること、
②法22条に基づいてされた本件承認を法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとすることは、原告にとって不利益にならないこと、
関東農政局長が法22条に基づいて本件承認をすることができないという認識であった場合に、法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認をしなかったであろうとはいえないこと
を指摘した上で、本件承認は、法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとして適法であるとした。

宇賀補足意見:
①~③の要件は、違法行為の転換が認められるための必要条件であるが、それが必要十分条件であるわけでは必ずしもない。
ex.
・いわゆる行政審判手続において審理されなかった事実を訴訟手続において審理されなかった事実を訴訟手続において違法行為を転換することは、行政審判手続を採用した趣旨に反し、かかる場合に訴訟手続において違法行為の転換を認めることの可否は慎重に検討すべき。
・処分の相手方のみならず、第三者にも効果が及ぶいわゆる二重効果的行政処分の場合、違法行為の転換を認めることにより、第三者の権利利益を侵害することにならないかを検討する必要。

本件においては、違法行為の転換を否定すべき特段の事情の存在は認められず、その点について論ずる必要はない。

判例時報2495

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