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2021年11月24日 (水)

地方団体が国に対して特別交付税の額の決定の取消しを求める訴えと「法律上の争訟」(肯定)

大阪地裁R3.4.22

<事案>
地方交付税2条2号の地方団体(都道府県及び市町村)である原告(大阪府泉佐野市)が、総務大臣から受けた令和元年度の特別交付税の額の決定(本件各決定)は、いわゆるふるさと納税として多額の寄付金を集めたことをもって特別交付税の額を減額する旨を規定する「特別交付税に関する省令」附則(本件各特例規定)に基づいてその額を算定
but
本件各特例規定は違法
⇒本件各決定は違法
であるなどと主張して、
被告(国)に対し、本件各決定の取り消しを求めたもの(行訴法3条2項の「処分の取消しの訴え」として提起)

<主張>
被告:原告は一般私人が立ち得ない行政機関特有の立場である「固有の資格」で本件訴えを提起⇒本件訴えは裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないため却下されるべき。

<解説>
地方交付税:地方団体間の財政力格差を調整し、全ての地方団体が一定の水準を維持し得るよう財源を保障する見地から、国税収入の一定割合を財源に、国が地方団体に配分するもの。

特別交付税の額の決定は、地自法245条柱書きの「国・・・の普通地方公共団体に対する支出金の交付・・・に係るもの」に当たり、同条の「国・・・の関与」の定義から除かれる⇒同法251条の5の「国の関与に関する訴え」の対象にはならないと解される。

<解説>
●裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」について

わが国の裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権(憲法76条1項)を行う権限であるところ、裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち、
①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であり、かつ、
②それが法令の適用により終局的に解決することができるもの
に限られる(最高裁昭和56.4.7)。

他方で、行政訴訟の「法律上の争訟」性については、主観訴訟と客観訴訟の二分論をとるのが伝統的な通説。
主観訴訟(抗告訴訟と当事者訴訟)は、個人的な権利利益の保護救済を目的とする訴訟であって、「法律上の争訟」に当たる。
客観訴訟(現行制度としては民衆訴訟と機関訴訟)は、専ら客観的な法秩序の維持を目的とする訴訟であって、「法律上の争訟」に当たらず、法律に特定の定めがある場合(裁判所法3条1項後段参照)に限り提起することが許される。

異なる行政主体(又はその機関)相互間の訴訟については、伝統的通説が「法律上の争訟」に当たらないとする機関訴訟(行訴法6条)の対象となる訴訟ではないか?

・那覇市長が情報公開条例に基づいてした自衛隊基地に係る建築工事計画通知書の公開決定に対して、国がその取消しを求める訴えについて、当該訴えにおいて国は建物の所有者として有する固有の利益が侵害されることをも理由としてその取消しを求めていると理解することができる⇒「法律上の争訟」に当たる。(最高裁H13.7.13)

・杉並区が東京都に対して、住民基本台帳法に基づく杉並区長の本人確認情報の送信に対応する東京都知事の受信義務の確認を求める訴えは、同法の適用の適正ないし住民基本台帳事務の適正な実施を求めるものにほかならず、専ら行政権の主体として訴訟を提起しているもの⇒「法律上の争訟」に当たらないとして原審に対する上告・上告受理申立てを棄却・不受理とした最高裁H20.7.8。

・宝塚市が、宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例に基づき宝塚市長が発した建築工事の中止命令の名宛人である私人に対し、同工事を続行してはならない旨の裁判を求める訴えは、不適法とされたもの(宝塚市パチンコ店条例事件最高裁判決)。

「国または地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、・・・不適法である。」

その後の下級審において、行政主体(又はその機関)相互間の訴訟にもその射程ないし趣旨が及ぶと解される傾向。

異なる行政主体(又はその機関)相互間の訴訟の「法律上の争訟」性に関する学説:
地方公共団体が国に対してその権限の行使を不服として提起する訴訟に限定すれば、一定の場合に地方公共団体の出訴を肯定する見解が多数。
A:国の地方公共団体に対する監督権の違法な行使は地方公共団体の自治権の侵害にあたる⇒抗告訴訟の提起を肯定(塩野)
B:地方公共団体や国立大学の自治権のように、分節化等された行政の主体の権限が憲法に基礎を置く場合、その権限を行政機関が終局的に判断するのは基本的には憲法の趣旨に沿わない⇒原則として訴権を認める。

判例時報2495

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