免許取消処分と欠格期間指定処分で後者が違法とされた事案
岐阜地裁R2.9.4
<事案>
普通免許は有するが、準中型自動車免許を有していないにもかかわらず、勤務先会社(本件被告)の代表者が所有する準中型貨物自動車(本件車両)を運転したという無免許運転行為(本件違反行為)を理由に、公安委員会から運転免許の取消処分(本件取消処分)及び2年間を運転免許を受けることができない欠格期間として指定する処分(本件指定処分)を受けた原告が、
本件各処分は重きに失し、裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法がある
⇒その取消しを求めた。
<判断>
●本件取り消し処分
裁量権の逸脱・濫用の違法があるとはいえない。
道交法103条1項は、運転免許を受けた者が、同項各号のいずれかに該当することになったときには、公安委員会は、その者の運転免許を取り消すことができる旨規定。
⇒
取消は公安委員会の合理的裁量に委ねられており、個別具体的な事情に照らして、道交法施行令の基準に従った処分をすることが処分を受ける者の運転者としての危険性の度合いに比して著しく重きに失し、社会観念上著しく妥当を欠くと認められる場合には、運転免許取消処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法と評価されることがあり得る。
but
・・・
前記の個別具体的な事情は、まず欠格期間を定める際に考慮されるべき事情であり、欠格期間の短縮のみでは、処分を受ける者の運転者としての危険性に比してなお重きに失するといえる場合に初めて、運転免許取消処分は、社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとして違法になる。
・・・・
●本件指定処分
欠格期間の指定に関する処分量定基準を踏まえた処分の軽減をすることなく、1年間を超えて欠格期間を指定する部分は、裁量権を逸脱・濫用したものとして違法。
欠格期間の指定に関する処分量定基準である「運転免許の効力の停止等の処分量定基準の改正について」には、「運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」が認められる場合において、道交法施行令38条6項の規定による欠格期間に応じて当該期間から1年を減じた期間に軽減することができると規定。
⇒
この特段の事情があると認められるにもかかわらず欠格期間の短縮をしなかった場合には、当該処分は、裁量権を逸脱・濫用したもので違法。
・・・・原告が普通免許で本件車両を運転できるという認識でいたことにはやむを得ない面もあったといえる。
・・・・原告が招来した道路交通上の危険の程度は、無免許運転一般の中では比較的軽微なものであった。
⇒
原告には「運転者としての危険がより低いと評価すべき特段の事情」が認められるというべきであり、本件指定処分のうち、本件処分基準を踏まえた処分の軽減をすることなく、1年間を超えて欠格期間を指定する部分は、裁量権を逸脱・濫用したものとして違法。
<解説>
道交法103条1項5号:
免許を受けた者が自動車等の運転に関しこの法律に違反したときは、公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消すことができる。
同条7項は、免許を取り消したときは、政令で定める基準に従い、1年以上5年を超えない範囲内で当該処分を受けた者が免許を受けることができない期間(欠格期間)を指定する。
①免許取消処分と②欠格期間指定処分は2個の処分⇒①は適法だが②は違法という判断があり得る。
but
①が取り消されれば、当然に②も取り消される関係にある(なお、行訴法33条)。
免許取り消しに係る「政令で定める基準」である道交法施行令38条5項1号イは、
一般違反行為(無免許運転はこれに含まれる)に係る累積点数が一定点数に該当⇒免許を取り消すものとすると規定。
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政令で定める基準に該当する場合でも、免許を取り消すか否かについては、行政庁には裁量(いわゆる効果裁量)があると解されている。
道交法施行令38条6項2号は、一般違反行為をしたことを理由として運転免許を取り消したときの欠格期間の基準(処分基準)を定めるとし・・・。
警察庁交通局長は、本件処分基準を発している。
~
裁量基準⇒裁量基準に合理的理由なく従わないと、裁量権の逸脱・濫用を構成する。
判例時報2493
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