行政不服審査法上の瑕疵が認められた事例
東京高裁R1.5.21
<事案>
Y:土地改良法に基づき設立された土地改良区
X:Yの組合員
Xは、Yから受けた賦課金に係る督促処分の取消を求め、Yに対し、土地改良法46条1項並びに行審法(行政不服審査法)2条及び4条1号に基づき審査請求⇒
Yは棄却する旨の採決をしたが、その審査手続きにおいて、
①審査請求人であるXに対し審理員の指名を通知せず、
②審理員も処分庁であるYに弁明書を作成させてこれをXに送付することをせず、
③Xに対し反論書の提出をする機会や口頭意見陳述の機会を与えていなかった。
⇒
Yは、第1裁決には手続的な違法あったとして、同年2月17日付けで第1裁決を取り消し、改めて、同年4月11日付けで本件審査請求を棄却する旨の裁決。
⇒
Xが、第1裁決及び第2裁決は違法であると主張し、それらの消しを求めた。
<争点>
①Yによってすでに取り消されている第1裁決の取消しを求める訴えについて訴えの利益があるか
②第2裁決が手続上の瑕疵により違法であるか
<判断>
●争点① :
第1裁決の取消しを求める部分は、訴えの利益を欠き、不適法。
原審を引用。
原審:第1裁決は、行審法の定める審理手続のうち重要なものが履践されないままにされたものであり、同瑕疵は重大かつ明白であるから無効⇒裁決の自己拘束力を肯定する基礎を欠き、Yにより適法に取り消されている⇒第1裁決の取消しを求める訴えは訴えの利益を欠く。
●争点②
①審理員として指名されたBは本件督促処分を決議したYの理事会に総括幹事として出席⇒行審法9条2項1号所定の除斥事由に該当し審理員の資格を欠いている
②第2裁決は審査庁であるYにおいてBの審理員意見書を参酌することなくされたもの⇒その審理過程は、審理員を挟んだ審査請求人と処分庁の対審的審理構造ではなく、審理員と処分庁が審査請求人と対立する形となっていた⇒審査庁による公正な審理に反するものであった
⇒
第2裁決には①②のとおり行審の趣旨に反する重大な手続上の瑕疵があり、違法もの⇒第2審決を取消し。
<解説>
行審法:
平成26年改正で全面改正され、
審理手続における公正性・透明性を高めるため、
審査庁が原処分に関与しない等一定の要件を満たす職員を審理員に指名し、
審理員が審理手続を主宰し、審理の結果を審査庁がすべき裁決に関する意見書(審理員意見書)としてまとめ、
事件記録とともに審理庁に提出する審理員制度が導入。
同制度の下では、
審査請求人と処分庁等が主張及び証拠の提出を行う対審的な審理構造が採用された。
行審法9条2項は、審理員の除斥事由を規定。
1号「審理請求に係る処分・・・に関与した者」
~
本判決:審理請求に係る処分を行うか否かの判断に関する事務を実質的に行った者や、当該事務を直接又は間接に指揮監督した者をいうと解すべき。
Bは、Yの総括幹事であるところ、幹事は、Yの理事会に出席し、具体的な審議において理事の権限行使(決議)に問題があれば、それを指摘する義務を負い(土地改良法19条の4)、任務懈怠についてYに対し連帯して損害賠償責任を負う可能性がある(同法19条の5第2項)。
⇒
自らの出席した理事会で決議された処分について、予断を抱くおそれや、当該処分を弁護しようとする意識が働くおそれが類型的に高い
⇒
本件督促処分を決定した理事会に出席していたBは「審査請求に係る処分・・・に関与した者」に該当すると判断。
判例時報2492
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