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2021年11月

2021年11月30日 (火)

仲裁合意の準拠法とその解釈

東京地裁R2.6.19

<事案>
X:外国製自動車の売買、輸入販売等を目的とする株式会社
A社:イングランド法に基づき設立された法人
Y1:A社の完全子会社
Y2:A社の職務執行者
Y3:A社のアジア・パシフィック地域においてA社を代表する者
XとA社は、平成15年、A社が製造する自動車の販売に関するディーラー契約を締結し、その後も契約が更新され、平成25年、XとA社は、東京における販売・サービスについてのディーラー契約(本件ディーラー契約)を締結。

その中に仲裁合意(「本件仲裁合意」):
仲裁の対象となる紛争について、本件ディーラー契約及び同契約から生じ又は関連する、いかなる紛争、見解の不一致又は請求(同契約の存在、有効性、不履行及び終了、又は同契約の向こうから生ずる結果に関する紛争を含む。)は当事者間の交渉により解決されるものとし、
交渉により解決できないときは当事者一方が相手方に書面により通知した場合に、当該紛争は英国ロンドンに所在のロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)の仲裁に付託され、当該仲裁が開始された日の時点で有効なLCIA規則に従い当該仲裁によって最終的に解決されるものとされる。

Xは、
主位的請求として、
A社とYらは、共同して、Xが事業投資をすればA社と新たなディーラー契約を締結できるかのような言動をとってXに事業投資をさせたにもかかわらず、結局新たなディーラー契約を締結せず、Xに損害を与えたとし、共同不法行為等に基づく損害賠償を求め、

予備的に、
YらはA社がXとの間で新たなディーラー契約を締結する意思を有しないことを知りながらA社にその意思があるなどのように装ってXに費用を支出させたとして共同不法行為に基づく損害賠償を求めた。

<規定>
法適用通則法 第七条(当事者による準拠法の選択)
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

<判断>
本件仲裁合意の準拠法:
法適用通則法7条により、第1次的には当事者の意思に従って定められるべき。
本件仲裁合意には準拠法についての明示の合意はない
but
本件ディーラー契約において、同契約並びに同契約から生じ又は同契約に関連するいかなる紛争及び請求(契約に基づかない紛争及び請求を含む。)はイングランド及びウェールズ法(「英国法」)に準拠する旨が規定⇒本件仲裁合意の準拠法を英国法とする黙示の合意があった。

本件仲裁合意の準拠法は英国法
本件仲裁合意の効力の及ぶ範囲についても英国法に従って判断すべき。

英国貴族院の判例:
仲裁合意の解釈は、特定の問題を仲裁人の管轄事項から除外することを目的とする明確な文言が存在しない限り、当該仲裁合意の当事者が合理的なビジネスマンとして、当該当事者間に生じ又は生じようとしている関係から生じる一切の紛争を同一の裁判所に解決することを意図したとの推定を前提として行うべきとの解釈が示されている。
・・・・本件仲裁合意の当事者であるXとA社は、当該紛争も同一の裁判所(ロンドン国際仲裁裁判所)により解決することを意図していたと推定される。

本件仲裁合意の効力の主観的範囲につき、
英国高等法院及び英国控訴院の判例から、
親会社による完全子会社に対する完全な支配関係が認められる場合において、相手方の親会社に対する請求とその完全子会社に対する請求がとがそれぞれ、重複手続、判断相違の可能性の回避による統一的判断が必要なほどに相互に密接に関連するときは、その完全子会社は、相手方の請求について、相手方の親会社に対する請求を対象とする相手方と親会社との仲裁合意を主張することができるという法理を導くことができる。
・・・・

Yらは、Xに対し、XとA社との間の本件仲裁合意の効力が、XとYらとの間の本件各請求に係る紛争に及ぶことを主張できる。

本件訴えを、仲裁法14条1項に基づき却下すべき。

<解説>
仲裁合意が主たる契約(本件ではディーラー契約)に付随する形をとっていたとしても、法律的には、仲裁合意の効力は主たる契約から分離して別個独立に判断されるべきと解されている(最高裁)。

本判決もそれを前提に、本件ディーラー契約と本件仲裁合意を別個のものとした上で、本件仲裁合意には準拠法の定めが明示されていないが、本件ディーラー契約において同契約から生じ又は同契約に関連するいかなる紛争及び請求は英国法に準拠する旨が規定。
第1次的には当事者の意思に従って準拠法が定められるべきであるという最高裁判例に従い、XとA社との間で本件仲裁合意の準拠法を英国法とする旨の黙示の合意がされたと判断。

仲裁合意の客観的範囲:
仲裁合意の効力の主観的範囲:
主に諸外国の裁判例において、
代理の法理、第三受益者の法理、禁反言の法理、グループ会社の法理等、その効力を拡張して解釈するもの等。

本件:
本件仲裁合意の当事者であるXとA社との間の本件ディーラー契約の終了に伴う新たなディーラー契約締結に向けた交渉過程で生じた紛争においてA社の責任の有無の判断と、Yらの責任の有無の判断とは争点がほぼ同一であり、相互に密接に関連する⇒効力の拡張を求めた。

判例時報2493

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特殊詐欺について送付先のマンションに設置された宅配ボックスから荷物を取り出して受領した者についての詐欺罪の故意・共謀を認めた事案

最高裁R1.9.27

<事案>
現金送付型の特殊詐欺において、氏名不詳者らと共謀の上、Aから2回にわたって現金合計350万円をだまし取り(詐欺既遂事件)、その後、Cから現金をだまし取ろうとしたが、その目的を遂げなかった(詐欺未遂事件)た。

<1審>
各事件について有罪。

<原審>
第1審判決が詐欺未遂事件について詐欺の故意及び共謀を認定した点に事実誤認はない
but
詐欺既遂事件につちえ詐欺の故意及び共謀を認定した点に事実誤認がある
⇒詐欺既遂事件について無罪。

<判断>
詐欺既遂事件について被告人に詐欺の故意が認められないとした原判決は重大な事実誤認をしたというべき⇒原判決を破棄し、被告人の控訴を棄却。

①被告人は、依頼を受け、他人の郵便受けの投入口から不在連絡票を取り出すという著しく不自然な方法を用いて、宅配ボックスから荷物を取り出したうえ、これを回収役に引き渡しており、
本件マンションの居住者が、第三者である被告人に対し、宅配ボックスから荷物を受け取ることを依頼し、しかも、オートロックの解錠方法や郵便受けの開け方等を教えることなどすることもなく、①のような方法で荷物を受け取らせることは考え難い

被告人は、依頼者が本件マンションの居住者ではないにもかかわらず、居住者を名宛人として送付された荷物を受け取ろうとしていることを認識していたと合理的に推認できる。

④被告人は、送り主は本件マンションに居住する名宛人が荷物を受け取るなどと誤信して荷物を送付したものであって、自己が受け取る荷物を送付したものである可能性を認識していたことも推認できる、。

「名宛人から荷物の受取を依頼された」旨の被告人の供述は信用できず、それ以外に前記の詐欺の可能性の認識を排除するような事情も見当たらない。

被告人は、自己の行為が詐欺に関与するものかもしれないと認識しながら本件各荷物を取り出して受領したものと認められる⇒詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者らとの共謀も認められる。

<解説>
最高裁H30.12.11、最高裁H30.12.14:
いずれも現金送付型特殊詐欺の事案において、
被告人が指示や依頼を受けて、配達される荷物を名宛人になりすまして受け取り、回収役に渡す行為を複数回繰り返し報酬を得ていたなどの事実は、
荷物が詐欺を含む犯罪に基づき送付されたことを十分に想起させるもの
被告人は自己の行為が詐欺に当たる可能性を認識していたことを強く推認させる

詐欺の可能性があるとの認識が排除されたことをうかがわせる事情も見当たらない。

詐欺の故意及び共謀を認め、これを否定した各原判決を破棄。

判例時報2495

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2021年11月29日 (月)

直接交流は相当でなく、間接交流を認めた事案

奈良家裁R2.9.18

<事案>
未成年者らの父である申立人Xが、母である相手方Yに対し、未成年者ら(長女(小5)、二女(小3))との面会交流について、段階的な面会交流を希望し、最終的には月1回の直接的な交流の実施を認めた⇒合意成立せず⇒審判の事案。
Y:面会交流の方法として、Xに対し、未成年者らの写真を送付したり、Xから手紙や贈物を送付するなどの間接交流によるのが限度という主張。

<判断>
①未成年者らで同じ内容の面会交流の実施要領を定めるのが相当
②長女は、同居中の頃のXの言動に恐怖心を抱いており、直接の交流では、その場でXに叱責されたり、その末に暴力をふるわれるかもしれないとの不安
さらに、母であるYが、離婚後もXに恐怖心を抱く姿を見て、ますます不安を強めており
長女の発達特性から、非常に強い恐怖心や不安感を抱いている。
③二女も、直接の交流には否定的であり、長女と一緒でなければ無理と述べている。

令和4年3月までの期間内に直接の交流の実施を開始するのは相当ではなく、まずは、電話や手紙等による間接交流の実施を重ね、未成年者らの不安や葛藤を低減していくことが相当である⇒令和4年4月以降の面会交流については、当事者間で誠実に協議することが相当。

<解説>
● 民法766条1項「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」としている⇒子の権利性に親和性。

● 監護親の立ち合い
←非監護親による子の連れ去りへの懸念の解消など
vs.
監護親の立会いは、監視されているとの意識を持つことから、未成年者との自由な交流の妨げになる。

間接的な面会交流(直接面会せず、メール等のやり取りをする方法)
監護親の立会いの下での面会
第三者機関の関与の下での面会

●近時の裁判例

◎監護親の立ち合い:
別居中の夫婦間で、夫が妻に、未成年者との面会交流を求めた。

千葉家裁松戸支部:
従前子の引渡し審判により未成年者の引渡しを命ぜられた申立人が任意に相手方⇒申立人が面会交流の際に子を連れ去るおそれがあるとは認められないとして、相手方の立ち合いなしでの面会交流を認めた。

東京高裁:
相手方による未成年者の連れ去りのおそれがあるとする抗告人の懸念は是認でき、この懸念について十分配慮する必要がある⇒原審を変更して、抗告人の立会いを認める面会交流を命じた。

◎第三者機関の関与:
東京高裁:
・・・非監護親である相手方(夫)には自己中心的で他者への配慮に欠けるところがあり、監護親の非監護親に対する信頼が失われている⇒面会交流を円滑かつ継続的に実施していくためには、1年6か月(18回分)の間は、面会交流の支援を手がける第三者機関にその支援を依頼し、同機関の職員等が未成年者らと相手方との面会交流に立ち会うこととし、時間をかけて未成年者らと相手方との面会交流の充実を図っていくのが相当。
⇒原審判決の内容を一部変更。

◎間接的面会交流:
名古屋高裁:
一部実施した面会交流において、未成年者と父との面会交流をこれ以上実施させることの心理的、医学的弊害が明らかとなったものと認められ、それが子の福祉に反することが明白になったというべき。
⇒それ以降の直接的面会交流をさせるべきでないことが明らかとなったものということができる。
but
非監護親が父親として未成年者のために手紙や品物を送ることまでを否定する理由はない⇒この点については従前の取扱いを変更する必要はないとして、
直接的面会交流を認めた原審判を変更。

判例時報2495

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2021年11月28日 (日)

購入した土地の土壌汚染⇒瑕疵担保責任・相当因果関係のある損害が問題とされた事案

大阪地裁R3.1.14

<事案>
新キャンパスを開設するために購入した土地の土壌の土壌汚染対策法に基づく規制の対象となる物質が基準値を超えて存在し、本件土地の地下に新校舎の建設等の工事の障害となるコンクリート等が存在⇒本件土地の飼い主である学校法人Xが、売買契約上の瑕疵担保責任、債務不履行責任等に基づき、土地の売り主である学校法人Yに対して11億円を超える損害賠償を請求。
本件売買契約には、特約条項として、Yが引渡しまでに本件土地の土壌汚染調査を実施し、土壌改良が必要な場合にはYの費用で改良を行う旨、
既存建物の建築エリアについては既存建物解体後にXが調査を実施し、土壌改良が必要な場合は、Yの費用でXが改良を行う旨の記載。

<争点>
①本件土地の土壌に基準値を超える鉛及び砒素が含まれていたこと、本件土地の地中に地中障害物が存在していたことが、(改正前)民法570条の「隠れた瑕疵」に当たるか
②Yがどの範囲でXに生じた損害を賠償する責任を負うか

<判断>
本件土地に
①土壌汚染対策法による規制の対象となっている鉛及び砒素が基準値を超えて含まれていたこと
②本件土地の地中に取引上要求される一般的な注意では発見できない地中障害物が存在していたことは、いずれも民法570条の「隠れた瑕疵に当たる」

本件売買契約においては、Xが新キャンパスを開設するに当たり土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の措置を義務付けられないことが本件土地の品質・性能として予定されていたものの、本件土地に一切の土壌汚染が存在しないことが本件売買契約において予定されていたとは認められない

Yに対し、
①土壌汚染の調査費用4909万4754円
②土壌汚染部分についての封じ込め工事の施工費用144万1681円
③地中障害物の撤去費用536万150円
の支払を命じたが、
土壌汚染部分の」掘削除去等に要した費用については、本件土地の瑕疵と相当因果関係のある損害とは認めなかった。

<解説>
●民法570条の「瑕疵」:
目的物に何らかの欠陥があることをいい、何が欠陥かは、当該目的物が通常備えるべき品質・性能が基準になるほか、契約の趣旨によっても決まる
契約当事者がどのような品質・性能を予定しているかが重要な基準を提供。

最高裁H22.6.1:
ふっ素が土地の売買契約締結後に健康被害を生ずるおそれのある有害物質として法令に基づく規制の対象となった⇒売買契約当時の取引観念上、ふっ素が土壌に含まれていることに起因して人の健康に係る被害を生じさせるおそれがあるとは認識されていなかった⇒ふっ素が土壌に含まれていたことは、民法570条にいう「瑕疵」には当たらない。

●規制対象区域の分類等によって講ずべき措置内容の明確化等を図ることなどを概要とする「土地汚染対策法の一部を改正する法律」が成立(平成21年)。

●東京高裁H30.6.28:
売買契約において予定されていた土地の品質・性能とは直接関係がない土壌の撤去・処分に要した費用を売買契約上の「瑕疵」と相当因果関係のある損害ということはできない

本判決:
本件売買契約においては、Xが新キャンパスを開設にするに当たり土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の措置を義務づけられないことが本件土地の品質・性能として予定されていたと認定しつつ、
平成20年当時、一般的には、掘削除去に比べて舗装や封じ込めの方が低廉なコストで施行可能であったと認められる⇒掘削の除去に要した費用を本件土地の瑕疵と相当因果関係のある損害としては認めなかった。

判例時報2495

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免許取消処分と欠格期間指定処分で後者が違法とされた事案

岐阜地裁R2.9.4

<事案>
普通免許は有するが、準中型自動車免許を有していないにもかかわらず、勤務先会社(本件被告)の代表者が所有する準中型貨物自動車(本件車両)を運転したという無免許運転行為(本件違反行為)を理由に、公安委員会から運転免許の取消処分(本件取消処分)及び2年間を運転免許を受けることができない欠格期間として指定する処分(本件指定処分)を受けた原告が、
本件各処分は重きに失し、裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法がある
⇒その取消しを求めた。

<判断>
●本件取り消し処分
裁量権の逸脱・濫用の違法があるとはいえない。

道交法103条1項は、運転免許を受けた者が、同項各号のいずれかに該当することになったときには、公安委員会は、その者の運転免許を取り消すことができる旨規定。

取消は公安委員会の合理的裁量に委ねられており、個別具体的な事情に照らして、道交法施行令の基準に従った処分をすることが処分を受ける者の運転者としての危険性の度合いに比して著しく重きに失し、社会観念上著しく妥当を欠くと認められる場合には、運転免許取消処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法と評価されることがあり得る。
but
・・・
前記の個別具体的な事情は、まず欠格期間を定める際に考慮されるべき事情であり、欠格期間の短縮のみでは、処分を受ける者の運転者としての危険性に比してなお重きに失するといえる場合に初めて、運転免許取消処分は、社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとして違法になる。
・・・・

●本件指定処分
欠格期間の指定に関する処分量定基準を踏まえた処分の軽減をすることなく、1年間を超えて欠格期間を指定する部分は、裁量権を逸脱・濫用したものとして違法。

欠格期間の指定に関する処分量定基準である「運転免許の効力の停止等の処分量定基準の改正について」には、「運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」が認められる場合において、道交法施行令38条6項の規定による欠格期間に応じて当該期間から1年を減じた期間に軽減することができると規定

この特段の事情があると認められるにもかかわらず欠格期間の短縮をしなかった場合には、当該処分は、裁量権を逸脱・濫用したもので違法。
・・・・原告が普通免許で本件車両を運転できるという認識でいたことにはやむを得ない面もあったといえる。
・・・・原告が招来した道路交通上の危険の程度は、無免許運転一般の中では比較的軽微なものであった。

原告には「運転者としての危険がより低いと評価すべき特段の事情」が認められるというべきであり、本件指定処分のうち、本件処分基準を踏まえた処分の軽減をすることなく、1年間を超えて欠格期間を指定する部分は、裁量権を逸脱・濫用したものとして違法。

<解説>
道交法103条1項5号:
免許を受けた者が自動車等の運転に関しこの法律に違反したときは、公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消すことができる。
同条7項は、免許を取り消したときは、政令で定める基準に従い、1年以上5年を超えない範囲内で当該処分を受けた者が免許を受けることができない期間(欠格期間)を指定する。
①免許取消処分と②欠格期間指定処分は2個の処分⇒①は適法だが②は違法という判断があり得る。
but
①が取り消されれば、当然に②も取り消される関係にある(なお、行訴法33条)。
免許取り消しに係る「政令で定める基準」である道交法施行令38条5項1号イは、
一般違反行為(無免許運転はこれに含まれる)に係る累積点数が一定点数に該当⇒免許を取り消すものとすると規定。
but
令で定める基準に該当する場合でも、免許を取り消すか否かについては、行政庁には裁量(いわゆる効果裁量)があると解されている。
道交法施行令38条6項2号は、一般違反行為をしたことを理由として運転免許を取り消したときの欠格期間の基準(処分基準)を定めるとし・・・。
警察庁交通局長は、本件処分基準を発している。

裁量基準⇒裁量基準に合理的理由なく従わないと、裁量権の逸脱・濫用を構成する

判例時報2493

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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2021年11月27日 (土)

保佐人選任審判⇒抗告審継続中に任意後見契約を締結⇒法10条1項の「本人の利益のため特に必要がある」が問題となった事案

広島高裁R2.8.3

<事案>
Zの妻Xは、令和1年9月30日、Zを本人とする保佐開始及び保佐人に対する代理権付与の各申立てをしたが、令和2年1月9日、保佐人に対する代理権付与の申立てを取り下げ。
令和2年1月:Zについて保佐を開始し、保佐人としてZ・Xの二女であるP1を選任。

Zが抗告。

抗告提起後の令和2年5月7日、Zを本人(任意後見委任者)、Zの実兄P2を任意後見受任者とする任意後見契約を締結し、その旨の公正証書が作成、同任意後見契約は同月11日登記。

Z:任意後見法10条1項によれば、法定後見である保佐開始よりも同任意後見契約が優先されるべき⇒P1を保佐人に選任した原審判を取消し、Xの求めたZに対する保佐開始の申立てを却下すべきと主張。

<規定>
任意後見法 第一〇条(後見、保佐及び補助との関係)
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。

<判断>
Zの精神状態:
鑑定書によれば、双極性感情障害にり患し、支援を受けなければ、契約などの意味・内容を自ら理解し、判断することができない状態にある⇒精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分。

抗告人の精神状態、すなわち激しい躁状態を呈した際に浪費と契約を重ね、経済的不利益を受けるおそれのある状態に鑑み、Zについては民法13条1項各号所定の行為について同意権・取消権による保護が必要⇒本件では「本人の利益のため特に必要がある」と認められる

Z:仮にZが保佐開始の要件を満たす場合であっても、保佐人は親族以外の第三者から選任されるべきであると主張。
vs.
審判に対しては特別の定めがある場合に限り即時抗告をすることができるところ(家事手続法85条1項)、保佐人選任の審判に対し即時抗告をすることができる旨の規定はない⇒保佐人選任の不当を抗告理由とすることはできない。
⇒Zの抗告を棄却。

<解説>
法10条の「本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り」についての裁判例。

判例時報2495

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県立高校でのいじめ自殺での学校側の責任(一部認容)

福岡高裁R2.7.14

<事案>
Y(熊本県)が設置する高等学校の1年に材さくしていたAが本件高校在学中に自殺してたのは、同学年の寮生Bからのいじめを受けていた亡Aに対する本件高校の教職員(亡Aの学級担任及び寮の舎監長である教諭ら)の安全配慮義務違反行為によるもの⇒亡AがYに対して国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権を取得し、亡Aの相続人であるXらがこれを相続⇒Yに対して損害賠償を求めた。

<原審>
Yに対する請求について
寮の舎監長である教諭には安全配慮義務違反なし
亡Aの学級担任である教諭が学校で実施された生徒の心理テストの結果を確認せず、これを舎監長に伝えなかった点に安全配慮義務違反あり。
but
自殺の具体的予見可能性がなく相当因果関係を否定
⇒棄却。

<Xらが控訴>
控訴審で、仮に前記因果関係が認められないとしても、亡Aは、学級担任及び舎監長のBのいじめに対する不適切な対応によって生前に精神的苦痛を被っておりYに対して国賠法1条1項に基づく慰謝料等の損害賠償請求権を取得⇒Yに対して前記慰謝料等の賠償を求める請求を予備的に追加。

<争点>
①県立の高校学校設置者としてのY(その履行補助者としての舎監長及び学級担任)の安全配慮義務違反の有無
②Yの案縁配慮義務違反と自殺との間の相当因果関係の有無
③Yの安全配慮義務違反行為により亡Aが生前に受けた精神的苦痛に対する慰謝料請求の可否

<判断>
●争点①
原審同様、学級担任の安全配慮義務違反を認めた。
舎監長についても、いじめへの対応として不適切であり、安全配慮銀無違反を肯定。

寮の開設者であるYには、寮生間のいじめなど特定の寮生が寮生活を継続することを困難とさせるよな深刻な事態が生じた場合、その保護者がその寮生に寮生活を継続させるかどうかの意思決定を適切に行うことができるよう、それに関する情報を的確に保護者に伝えるべき義務がある。
舎監長:トラブルが解決したとして亡Aの両親に誤った情報を提供した点に、
学級担任:心理テストの結果を亡Aの両親に適切に提供しなかった点に、
それぞれ安全配慮義務違反がある。

●争点②
学校側には亡Aの自殺につき具体的予見可能性があったとは言い難い
⇒学級担任及び舎監長の対応と亡Aの死亡との相当因果関係を認めない。

●争点③
亡Aは、舎監長と学級担任の安全配慮義務違反行為により、
①トラブルの背景事情について真摯に傾聴してもらえず、
②けんかの当事者として問い詰められ、
③秘密を遵守されず、学校側に申告したいじめ行為の内容をBに開示され、
④亡AとBとその友人のみによる話し合いをさせられ、Bらから謝罪の要求や誹謗中傷を受けたことにより、
精神的苦痛を受けたとして、慰謝料200万円の限度で請求を認容

<解説>
学校での児童生徒間のいじめは、往々にして人目につきにくい状況の下で、客観的証拠が残りにくい形で行われる⇒その有無や態様の認定に当たっては、証拠の綿密な評価といじめに関する知見を踏まえた的確な経験則の適用が求められる。

判例時報2495

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2021年11月26日 (金)

家裁調査官の論文とプライバシー侵害

最高裁R2.10.9

<事案>
家裁調査官であったY1が、Xに対する少年保護事件を題材とした論文を精神医学関係者向けの雑誌及び書籍に掲載して公表⇒Xが、この公表により、プライバシーを侵害されたなどと主張して、Y1、前記雑誌の出版社であるY2、前記書籍の出版社であるY3に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた。

<1審>
(1)名誉毀損による不法行為の成否:
本件各公表における事実の摘示は、公益目的によるものであり、本件論文の内容は真実であるか、少なくともY1において真実と信じるについて相当の理由があった
(2)プライバシー侵害による不法行為の成否:
本件各公表によってXのプライバシーに関する事実を公表されない利益がこれを公表する理由に優越するとはいえない
(3)本件書籍等の交付による不法行為の性につき、Xが慰謝料に値するほどの精神的苦痛を被ったとは認められない
⇒Xの請求をいずれも棄却。

<原審>
本件公表につき、
(1)名誉毀損による不法行為は成立しない
(2)本件各公表によってXのプライバシーに関する事実を公表する利益はこれを公表されない利益に優越しない⇒プライバシー侵害による不法行為(Yらによる共同不法行為)が成立
(3)本件書籍等の交付による不法行為の成否にっついて、本件書籍の交付は、自己に知らされるべきでないと考える情報をみだりに知らされない利益等を侵害するものであり、Y1の不法行為が成立

Xの請求を一部認容。

<判断>
家庭裁判所調査官による調査内容を対外的に公表することは原則として予定されておらず、
本件保護事件における調査によって取得された本件プライバシー情報の秘匿性は極めて高い。
but
(1)本件論文は、社会の関心を集めつつあった本件疾患の特性が非行事例でどのように現れるのか等を明らかにするという目的で執筆された
(2)本件各公表は、医療関係者や研究者等を読者とする専門誌や専門書籍に掲載する方法で行われた
(3)本件論文には、対象少年やその関係者を直接特定した記載部分や事実関係の時期を特定した記載部分はなかった

本件プライバシー情報に係る事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するとまではいえず、本件各公表がXのプライバシーを侵害したものとして不法行為法上違法であるということはできない。
(Y1による上告受理申立ては、本件書籍の交付を理由とする損害賠償請求を認容した部分も対象としていたが、本判決は、その理由を記載した書面を提出しなかった⇒当該部分に係る上告は却下。)

<解説>
●表現行為を理由に損害賠償等を命ずることは、表現の自由に対する制約となり得る⇒プライバシーと表現の自由との調整が必要。

最高裁H15.3.14:
少年の犯罪を実名報道した記事によるプライバシー侵害が問題となった事案において、
プライバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立

プライバシーに係る事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を比較衡量し、プライバシー侵害の違法性を判断。
諸事情:
①プライバシー情報の帰属主体の属性等
②プライバシー情報の性質・内容
③プライバシー情報が開示されることによる不利益の有無・程度
④プライバシー侵害に当たる表現を行った者の属性等
⑤当該表現の趣旨・目的
⑥当該表現の方法
⑦その他の事情

本件論文に記載された具体的な出来事等を知る者が本件論文を読んだ場合、その知識と照合することによって、対象少年をXと同定し得る可能性があった⇒本件各公表は、Xのプライバシーの侵害を生じる


少年審判は非公開(少年法22条2項)、家庭裁判所調査官の行う社会調査(少年法8条2項、9条、少年審判規則11条等)は、少年の家族関係、成育歴その他高度のプライバシーに属する情報を取り扱うもの。
本件論文は、本件保護事件の調査結果に基づき執筆されたものであり、Xは、本件公表当時、19歳の少年。

本件プライバシー情報は、帰属主体の属性や当該情報の性質・内容といった観点からしても、その秘匿性は極めて高いものであった。

vs.
各公表の目的は重要な公益を図ることになった
Xを直接特定し得る情報を記載せず、本件保護事件の時期等も明らかにしていなかった⇒Xのプライバシーに相応の配慮をしていた。

本件論文に記載されたXに関する情報を複数知る者が、これらの情報を組み合わせることにより、対象少年をXと同定し得る可能性は否定できない。
but本件保護事件が軽微な事案であり、臨床精神医学の専門誌等である本件掲載誌及び本件書籍の読者層が限られている。
⇒そのような者が本件論文を読み、本件論文の対象少年をXと同定し、当該者が知らなかったXのプライバシー情報を把握するという事態が生ずる可能性は相当低いものであったと考えられる。

本件プライバシー情報に係る事実を公表されない法的利益≦公表する理由
と判断。

判例時報2495

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2021年11月25日 (木)

違法収集証拠排除で大麻等の証拠能力否定⇒無罪の事案

東京地裁R2.3.18

<事案>
①大麻、コカイン及びLSD所持と
②コカイン施用の訴因について
①に係る各薬物とその鑑定書
②に係る尿の鑑定書が、
いずれも違法収集証拠であるとして証拠能力否定⇒無罪の事案。

<判断>
(1)所持品検査に抵抗する被告人を2人がかりで壁に押し付けたり、地面に投げ倒したりしたことは、行動の自由を著しく奪う強度の有形力の行使であり違法。
(2)その後約1時間40分間(職務質問開始から約2時間)、被告人を取り囲み、壁から背を離すことを許さず、ズボンをつかみ続けた留め置き行為は、過度に行動の自由を制限するもので違法。
(3)警察官らは不法残留と大麻所持の嫌疑を持ち、両方の捜査を並行して進めていたが、
① ズボン等に不法残留の証拠物を隠匿しているとは考えにくい
②直ちに逮捕しなければならない緊急性は認められない
⇒不法残留の捜査のために現行犯人逮捕し、着衣等の捜索をしなければならない必要性は小さかった。

大麻所持については、ズボン内に大麻を隠匿している嫌疑は高まっており、その捜査のために着衣等を創作する必要性は高かった。

当該捜索は、専ら大麻所持の証拠の発見、収集を意図していたと認められ、当該捜索により大麻を発見し、後に差し押さえたことは違法

大麻を捜索するに当たり、裁判官の審査を経ることよりも迅速に捜査を行うことを優先し、捜索差押許可状の請求を撤回して、不法残留による現行犯人逮捕に伴う捜索をすることとした経緯は、警察官らが令状を取得することを軽視したと解されてもやむを得ず、警察官らの一連の違法性は、令状主義の精神を没却するような重大なもの⇒違法収集証拠として証拠能力を否定

<解説>
本件:別件捜索差押えの違法性を認定

別件差押えについては、最高裁が、令状に基づく差押えにつき、
「捜査機関が専ら別罪の証拠に利用する目的で差押許可状に明示された物を差し押さえることも禁止される」と判示。
A:別件捜索差押の問題性を指摘する考え(but重大な違法性を認めたものはなかった)
B:無令状捜索の過程で発見された物件が法禁物であるときは、所持罪の現行犯逮捕ができることから、その現行犯逮捕に伴う無令状捜索差押えが可能となる・・・捜査機関の事前の意図のみを理由にこれを違法とすることはできない(酒巻)

判例時報2492

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利息制限法1条の社債への適用(否定)

最高裁R3.1.26

<事案>
社債を発行した会社の破産管財人であるXが、社債権者であるYに対し、利息制限法1条所定の制限利率を越えて支払われた社債の利息について、いわゆる過払金の返還を求めた。

利息制限法1条は、利息を制限する対象を「金銭を目的とする消費貸借」と規定するのみで、その主体や契約類型に特段の限定はない⇒社債への適用が問題。

<原審>
①社債は消費貸借契約とは法的性質を異にする
②利息制限法の趣旨は経済的弱者の保護にあるところ、社債の債務者はである会社は類型的に経済的弱者とは認められない
③このことは債権者が1人であるなどの事情によってんも異なることはない

事実関係のいかんにかかわらず、利息制限法1条の規定は適用されない。

<判断>
債権者が会社に金銭を貸し付けるに際し、社債の発行に仮託して、不当に高利を得る目的で会社に働きかけて社債を発行させるなど、社債の発行の目的、会社法676条各号に掲げる事項の内容、その決定の経緯に照らし、当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情がある場合を除き、社債には同法1条の規定は適用されない。
⇒上告棄却。

社債への利息制限法の適用否定

①利息は当事者間の契約によって自由に定められるものであるところ、社債は、発行会社が事業資金を調達するため自らの経営判断により条件を定めた募集することが想定されるなど一般に想定されているような金銭消費貸借とは異なる。
②利息制限法は、主に経済的弱者である債務者に不当な高利の貸付けが行われることを防止する趣旨で利息を制限したものと解されるところ、社債にはこのような趣旨が直ちに当てはまるものではない。
③今日、様々な社債が会社の資金調達に重要な役割を果たしていることからすると社債の利息を制限することは、このような社債制度の趣旨に反することとなる。

判例時報2495

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2021年11月24日 (水)

地方団体が国に対して特別交付税の額の決定の取消しを求める訴えと「法律上の争訟」(肯定)

大阪地裁R3.4.22

<事案>
地方交付税2条2号の地方団体(都道府県及び市町村)である原告(大阪府泉佐野市)が、総務大臣から受けた令和元年度の特別交付税の額の決定(本件各決定)は、いわゆるふるさと納税として多額の寄付金を集めたことをもって特別交付税の額を減額する旨を規定する「特別交付税に関する省令」附則(本件各特例規定)に基づいてその額を算定
but
本件各特例規定は違法
⇒本件各決定は違法
であるなどと主張して、
被告(国)に対し、本件各決定の取り消しを求めたもの(行訴法3条2項の「処分の取消しの訴え」として提起)

<主張>
被告:原告は一般私人が立ち得ない行政機関特有の立場である「固有の資格」で本件訴えを提起⇒本件訴えは裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないため却下されるべき。

<解説>
地方交付税:地方団体間の財政力格差を調整し、全ての地方団体が一定の水準を維持し得るよう財源を保障する見地から、国税収入の一定割合を財源に、国が地方団体に配分するもの。

特別交付税の額の決定は、地自法245条柱書きの「国・・・の普通地方公共団体に対する支出金の交付・・・に係るもの」に当たり、同条の「国・・・の関与」の定義から除かれる⇒同法251条の5の「国の関与に関する訴え」の対象にはならないと解される。

<解説>
●裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」について

わが国の裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権(憲法76条1項)を行う権限であるところ、裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち、
①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であり、かつ、
②それが法令の適用により終局的に解決することができるもの
に限られる(最高裁昭和56.4.7)。

他方で、行政訴訟の「法律上の争訟」性については、主観訴訟と客観訴訟の二分論をとるのが伝統的な通説。
主観訴訟(抗告訴訟と当事者訴訟)は、個人的な権利利益の保護救済を目的とする訴訟であって、「法律上の争訟」に当たる。
客観訴訟(現行制度としては民衆訴訟と機関訴訟)は、専ら客観的な法秩序の維持を目的とする訴訟であって、「法律上の争訟」に当たらず、法律に特定の定めがある場合(裁判所法3条1項後段参照)に限り提起することが許される。

異なる行政主体(又はその機関)相互間の訴訟については、伝統的通説が「法律上の争訟」に当たらないとする機関訴訟(行訴法6条)の対象となる訴訟ではないか?

・那覇市長が情報公開条例に基づいてした自衛隊基地に係る建築工事計画通知書の公開決定に対して、国がその取消しを求める訴えについて、当該訴えにおいて国は建物の所有者として有する固有の利益が侵害されることをも理由としてその取消しを求めていると理解することができる⇒「法律上の争訟」に当たる。(最高裁H13.7.13)

・杉並区が東京都に対して、住民基本台帳法に基づく杉並区長の本人確認情報の送信に対応する東京都知事の受信義務の確認を求める訴えは、同法の適用の適正ないし住民基本台帳事務の適正な実施を求めるものにほかならず、専ら行政権の主体として訴訟を提起しているもの⇒「法律上の争訟」に当たらないとして原審に対する上告・上告受理申立てを棄却・不受理とした最高裁H20.7.8。

・宝塚市が、宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例に基づき宝塚市長が発した建築工事の中止命令の名宛人である私人に対し、同工事を続行してはならない旨の裁判を求める訴えは、不適法とされたもの(宝塚市パチンコ店条例事件最高裁判決)。

「国または地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、・・・不適法である。」

その後の下級審において、行政主体(又はその機関)相互間の訴訟にもその射程ないし趣旨が及ぶと解される傾向。

異なる行政主体(又はその機関)相互間の訴訟の「法律上の争訟」性に関する学説:
地方公共団体が国に対してその権限の行使を不服として提起する訴訟に限定すれば、一定の場合に地方公共団体の出訴を肯定する見解が多数。
A:国の地方公共団体に対する監督権の違法な行使は地方公共団体の自治権の侵害にあたる⇒抗告訴訟の提起を肯定(塩野)
B:地方公共団体や国立大学の自治権のように、分節化等された行政の主体の権限が憲法に基礎を置く場合、その権限を行政機関が終局的に判断するのは基本的には憲法の趣旨に沿わない⇒原則として訴権を認める。

判例時報2495

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2021年11月23日 (火)

安保違憲訴訟

前橋地裁R2.10.1

<事案>
平和安全法制関連2法の立法行為等が憲法前文、9条、13条、96条1項に違反し違憲、違法であり、Xらの平和的生存権、人格権、国民投票権(憲法改正・決定権)、安定した立憲民主制に生きる権利ないし法的利益及び第三者の権利である自衛官の権利が侵害された⇒国賠法1条1項による損害賠償請求権に基づき、慰謝料として1人10万円の支払を求めた。

<解説>
最高裁が判示する付随的違憲審査制を前提に、
Xらの主張する権利ないし法的利益のうち、
平和的生存権、国民投票権(憲法改正・決定権) 、
安定した立憲民主制に生きる権利ないし法的利益は、
いずれも、国賠法上保護されるべき権利ないし法的利益であると認められない。

人格権のうち、Xらの生命、身体及び平穏な生活という人格的利益については、
戦争とテロ行為に直面する危険が現実化しているとはいえない⇒侵害されていない。

精神的苦痛について、様々な意見や考え、感受性を持つ人々が生きる現代社会において、自らの意見や考えと異なる事態が生起したためにストレス等の主観的な感情や感想を抱くに至ったからといって、直ちに法的に保護すべきものであるとはいえず、その意味では、社会通念上、そうした心理状態は受忍しなければならない。

自衛官の権利は、Xらの請求を基礎づけるものではない。

請求棄却。

判例時報2492

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申立人夫(日本国籍)と申立人妻(フィリピン国籍)の後者の子との養子縁組の許可の事案

東京家裁R2.4.17

<事案>
申立人夫(日本国籍)と申立人妻(フィリピン国籍)による、申立人妻と申立人外男性との間の非嫡出子である未成年者(フィリピン国籍)との養子縁組を許可した事案。

<解説>
●準拠法
養子縁組における準拠法は、法適用通則法31条1項前段⇒
養親となるべき者の本国法
養子となるべき者の本国法のうちの保護要件も備えなければならない。

申立人夫については、日本法に加えてフィリンピン法上の保護要件を満たす必要。
申立人妻については、フィリピン法の要件を満たす必要。

●フィリピン法
フィリピン国内養子縁組法
◎養子となる者の実親の同意
◎省の免許を交付されたソーシャルワーカー等による養子、その実親及び養親のケーススタディ並びにそのソーシャルワーカー等による報告と問題に関する勧告の裁判所への提出

●主文の在り方
フィリピン国内養子縁組法では、養子縁組は裁判所の決定により成立。
申立人妻との関係で「未成年者を申立人妻の養子とする。」との主文とし
申立人夫との関係でで養子縁組を許可する
⇒養子縁組の成立にタイムラグが生じ、
フィリピン国内養子縁組法3条7項2号や申立人夫の準拠法である日本民法795条本文における夫婦共同縁組の要件との関係で問題。

養子決定の裁判を養子縁組の実質的要件に関わるものとして
裁判所等公的機関の関与を必要とする部分と、
養子縁組を創設させる部分
とに分解し、
実質的成立要件の審査部分については家庭裁判所の許可という形で代行させ、
縁組の形式的成立要件については法的用通則法34条2項によって行為地法である日本法によるべきであるといういわゆる「分解理論」。

判例時報2492

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違法行為の転換を認めた事案

最高裁R3.3.2

<事案>
Y:国
X:栃木県

Xは、宇都宮市に対し、市は事業実施事業者に対し、補助金2億6113万8000円を交付し、同事業者は同補助金を主要な財源とし堆肥化施設を整備。

Y(農林水産大臣から権限の委任を受けた農林水産省関東農政局長)の原告に対する補助金の交付決定には、交付事業者であるXは「間接交付事業者に対し事業により取得し、又は効用の増加した財産の処分についての承認をしようとするときは、あらかじめ関東農政局長の承認を受けなければならない」との条件(「本件交付決定条件」)が附されていた。

申請を受けて、
関東農政局長⇒X、X⇒市に対し、
市長が事業実施事業者に対し、本件施設に対する担保権の設定を承認し、担保権が設定された。

さらに、申請を受けて、順次同様に、
本件施設につき、担保権事項に際しての承認がされ、担保権実行により売却がされた。
その際、Xは、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(「法」)22条に基づき、承認を申請⇒関東農政局長は、国庫補助金相当額の納付を条件(本件約款)として承認(本件承認)し、その後、原告は、関東農政局長の国庫補助金相当額1億9659万956円の納付の求めに応じ、同金額の納付(本件返納)をした。

X:本件承認は法令上の根拠を欠き、本件附款も法的効力が認められない⇒Yは本件返納により法律上の原因なく前記金額を利得下⇒Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、同額の支払を求めた。

<争点> 本件承認の対象が何か、いわゆる違法行為の転換が認められるか

<関連訴訟>
❶栃木県が宇都宮市に対して補助金相当額の返還を求めた訴訟
❷本件返納が違法であることを理由として栃木県知事が県知事個人に対して損害賠償請求を求めた住民訴訟

❶訴訟
県の市に対する交付決定においては、事業実施業者による財産処分に際して県の承認を要する旨の条件が附されておらず、また、Xの補助金等交付規則は事業実施事業者による財産処分に適用されない⇒県の市に対する承認には法令上の根拠がなく、その附款を根拠に補助金相当額の返還を求めることはできない⇒県の請求を棄却。
上告受理申立ても、不受理決定。

❷訴訟
第1審:
本件承認は法22条に基づいてされているが、同条に基づいてすることはできず、また、担保権実行の際に同条に基づく承認は必要ない
⇒本件承認には法令上の根拠がなく、その附款として附された本件附款にも効力を認めることはできない⇒本件返納は違法であり、県知事は責任を負う。

控訴審:
本件返納は違法but県知事には過失はない。
上告及び上告受理申立ては、棄却兼不受理決定。

原判決に民訴法312条1項及び2項所定の上告理由がなく、また、
民訴法318条1項所定の法令の解釈に関する重要な事項を含むとはいえない
などとされたもので、控訴審判決の判断内容自体について、最高裁として、本件返納が違法である旨を判断したものではない。

<1審>
本件承認は法的に不存在であり、その附款である本件附款を根拠とする納付の求めも法的に不存在⇒原告の請求を認容。
本件承認は、法22条に基づいてなされたものであるところ、同条は、間接補助事業者等である事業実施事業者のする本件施設の財産処分には適用されない⇒本件承認には根拠法を誤った過失がある。
but
本件承認は、いわゆる違法行為の転換により、法7条3項を根拠にされたものと読み替えることができ、これに附された本件附款が、法の趣旨に照らして違法・無効とはいえない。
but
本件承認は、本件施設の担保権実行による所有権の移転を対象としてされたものであり、担保権実行についての承認は不必要⇒承認としての法的意味が認められない⇒法的に不存在なものと評価。

<原審>
1審と結論同じ。
いわゆる違法行為の転換の理論により、本件承認が法7条3項による本件交付決定条件を根拠としてされたものとして法的根拠のある行政行為とすることはできない。
本件交付決定条件において、担保権設定者の意思が介在しない担保権の実行は承認の対象とならないと解されることろ、本件承認は本件施設の担保権の実行による所有権移転を対象としてされた法的根拠を欠く無効なものであって、これに附された本件附款も無効
⇒本件返納は法律上の原因なくされたもの。

<上告受理申立>
①本件承認は本件施設の目的外使用を対象としてされたものbutその対象を本件施設の担保権実行による所有権移転であるとした⇒原判決には、本件承認という行政行為の解釈の誤りがある。
②本件承認については、いわゆる違法行為の転換により、その根拠を法22条から法7条3項による本件交付決定条件と読み替えることができ、有効と考えられるのにそのように解さなかった原判決には、違法行為の転換に係る法令解釈の誤りがある。

<判断>
●本件承認の対象は、本件施設の目的外使用であるとした上で、本件承認は法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとして適法⇒原判決を破棄し、第1審判決を取り消して原告の請求を棄却。(違法行為の転換を認めたもの)

●法22条に基づくものとして各省各庁の長から権限の委任を受けた機関により補助事業者等に対してされた補助金相当額の納付を条件とする間接補助事業等により取得された財産の処分の承認は、次の(1)~(3)など判示の事情の下では、補助事業者等は間接補助事業者等に対し事業により取得した財産の処分についての承認をしようとするときはあらかじめ前記機関の承認を受けなければならない旨の法7条3項による条件に基づいてされたものとして適法である。

(1)
法22条に基づく承認は、これを得ることなく補助事業等により取得された財産が処分され、補助事業者等により補助金等の交付の目的に沿って使用されなくなる事態に至ることを防止することを目的とするところ、法7条3項による前記条件に基づく承認も、これを得ることなく補助金の交付の目的が達成し得なくなる事態に至ることを防止することを目的とする。

(2)
法22条に基づく承認を得た上での財産の処分であれば、法17条1項により補助金等の交付の決定が取り消されることはないのと同様に、法7条3項による前記条件に基づく承認を得た上での財産の処分も、これにより補助金の交付の決定が取り消されることはない上、法22条に基づく承認に際しては、補助事業者等において補助金等の全部又は一部に相当する金員を納付する旨の条件を附することができるのと同様に、法7条3項による前記条件に基づく承認に際しても、補助事業者等において交付された補助金の範囲内の金額を納付する旨の条件を附することができる。

(3)
法22条に基づくものとして前記の財産の処分の承認をした機関において、仮に同条に基づき当該承認をすることができないという認識であった場合に、法7条3項による前記条件に基づき承認をしなかったであろうことをうかがわせる事情は見当たらない。

<解説>
●本来されるべきであった本件承認の根拠等
法は、国が直接交付する「補助金等」などと、補助金等を財源とするが国が直接交付するものではない「間接補助金等」などを別のものとして定義している(2条)。

本件承認は、法22条を根拠としてされている
but
同条は、「補助事業者等」、「補助事業等」、「補助金等」についての規定⇒「間接補助事業者等」である本件の事業実施事業者がする財産処分については適用されない。
but
本件交付決定には、交付事業者である原告が「間接交付事業者に対し事業により取得し、又は効用の増加した財産の処分についての承認をしようとするときは、あらかじめ関東農政局長の承認を受けなければならない」との法7条3項による本件交付決定条件が附されている
⇒関東農政局長は、市が事業実施事業者による財産処分を承認することについて承認を求められたXに対しては、本件交付決定条件に基づこ承認すべきであったといえる。

法22条の趣旨は、補助金等により形成された財産の処分について一定の規制を行い、もって補助金等の交付の目的が完全に達成されるよう特に配慮したもの。
同条における各省各庁の長の承認は、禁止の解除の効果を持つ独立の行政行為であり、講学上の許可に相当するところ、「補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すること」等の条件を附すことも可能。

補助金事業者等が同条の規定に違反して補助目的外の処分を行ったときには、法11条1項の事業遂行義務に対応して定められた法17条1項および3項の規定に基づき、交付決定が取り消されることとなる。

法22条は、国と補助事業者等との関係についての規定であるが、これと実質的に同一の規制を及ぼす必要があり、そのためには、補助事業者等が間接補助事業者等に間接補助金等の交付決定をする際に、「間接補助事業社等により取得し、又は効用の増加する財産の処分については、補助事業者等の承認を受けるべき」旨の間接補助条件を附さなければならないとうい補助条件を附すことが必要であるとされている。
・・・

●本件承認の対象
本件承認は、処分区分を「目的外使用(補助事業を中止する場合)」としてされた申請に対してされたもの⇒本件施設の目的外使用を対象としてされたものと解される。

原審:法22条の解釈を踏まえ、担保権実行に伴う所有権移転であるとした
本判決:単なる事実認定ではなく、行政行為の解釈の問題であるという認識の下に、目的外使用であると判断

担保権設定者の意思に基づく財産の処分に民事上の効果を発生させるために、法22条に基づく承認が要求⇒担保権実行に伴う所有権移転については、担保権設定者の意思に基づくものではないから、承認の対象とならないという立場。
vs.
法22条に基づく承認は、補助金等により取得等された財産について、各省各庁の長の承認を得ることなくその処分がされることを防止し、もって補助金等の交付の目的が完全に達成されるよう特に配慮したものであるところ、本件交付決定条件に基づく承認も同様の趣旨によるものと解される。

いわば事業実施事業者の善管注意義務を解除する効果を持つものであって、これは補助金等又は間接補助金等により取得等された財産の処分の民事上の効果の有無に関わるものではない。

●違法行為の転換
当初、Aとしてされた行政行為が、Aとして必要な要件を欠いているためにAとしては違法であるが、Bの行政行為の要件は充足している場合、これをBとして存続させること。
違法行為の転換が認められるには、行政行為の内容に関して、
①転換前の行政行為と転換後の行政行為の具体的な目的が同一であること、
②転換後の行政行為の法的効果が転換前の行政行為の法効果より、関係人に不利益に働くことにならないこと、
③行政庁が仮に転換前の行政行為の瑕疵を知ったとしても、その代わりに転換後の行政行為を行わなかったであろうと考えられる場合でないこと
を挙げる学説。

本判決:
①法22条に基づく承認と法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認は、目的を共通にすること、
②法22条に基づいてされた本件承認を法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとすることは、原告にとって不利益にならないこと、
関東農政局長が法22条に基づいて本件承認をすることができないという認識であった場合に、法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認をしなかったであろうとはいえないこと
を指摘した上で、本件承認は、法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとして適法であるとした。

宇賀補足意見:
①~③の要件は、違法行為の転換が認められるための必要条件であるが、それが必要十分条件であるわけでは必ずしもない。
ex.
・いわゆる行政審判手続において審理されなかった事実を訴訟手続において審理されなかった事実を訴訟手続において違法行為を転換することは、行政審判手続を採用した趣旨に反し、かかる場合に訴訟手続において違法行為の転換を認めることの可否は慎重に検討すべき。
・処分の相手方のみならず、第三者にも効果が及ぶいわゆる二重効果的行政処分の場合、違法行為の転換を認めることにより、第三者の権利利益を侵害することにならないかを検討する必要。

本件においては、違法行為の転換を否定すべき特段の事情の存在は認められず、その点について論ずる必要はない。

判例時報2495

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2021年11月18日 (木)

申立人(日本国籍)が、妻(ルーマニア国籍)と自身との間の子として出生届を提出した子について、親子関係不存在の確認を求めた事案

東京家裁R2.9.10

<事案>
夫(日本国籍)である申立人が、妻(ルーマニア国籍)との婚姻後200日経過以前に妻から出生した子に対して、親子関係不存在確認を求める調停を申し立てた

<判断>
親子関係の不存在を確認する合意に相当する審判

<規定>
法適用通則法 第二八条(嫡出である子の親子関係の成立)
夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする

法適用通則法 第二九条(嫡出でない子の親子関係の成立)
嫡出でない子の親子関係の成立は、父との間の親子関係については子の出生の当時における父の本国法により、母との間の親子関係についてはその当時における母の本国法による。この場合において、子の認知による親子関係の成立については、認知の当時における子の本国法によればその子又は第三者の承諾又は同意があることが認知の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。
2子の認知は、前項前段の規定により適用すべき法によるほか、認知の当時における認知する者又は子の本国法による。この場合において、認知する者の本国法によるときは、同項後段の規定を準用する。

法適用通則法 第四一条(反致)
当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を含む。)又は第三十二条の規定により当事者の本国法によるべき場合は、この限りでない。

民法 第七七二条(嫡出の推定)
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

<解説>
●親子関係不存在確認の準拠法
まず、法適用通則法28条によって定まる準拠法によって嫡出親子関係の成立を判断。
そこで嫡出子とされない⇒29条によって定まる準拠法によりさらに社駆出でない親子関係の成立を判断。

●嫡出親子関係について
法適用通則法28条1項~選択的な連結点を指定。

夫の本国法である日本法:
民法772条
but
「推定を受けない嫡出子」⇒父とされる者との嫡出親子関係の否定は、出訴者や出訴機関が厳格に定められている嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認の訴えによって解決すべきものとされている。

妻の本国法であるルーマニア法:
「婚姻から出生した子の親子関係は、その出生時に婚姻の効力を規律する法律によって確認。」
「婚姻の一般的効力は、夫婦の共通常居所地法、又は、それがないときは、夫婦の共通国籍国法へ服する。夫婦の共通国籍がないときは、婚姻が挙行されている領域が帰属する国家の法律が適用」

反致(法適用通則法41条)により、夫婦の共通常居所地法である日本法が適用
本件における嫡出親子関係については、父母いずれの本国法によっても日本法に従って検討。
日本法においては、嫡出推定が及んでいない⇒DNA鑑定などによって生物学的親子関係がないことが確認できれば、嫡出親子関係を否定。

●非嫡出親子関係
法適用通則法29条において連結点が規定。
父から、嫡出でない子について嫡出子とする出生届がされ、戸籍事務管掌者によって受理⇒認知届としての効力を有する(最高裁)⇒夫は、認知をしていると扱われることになる。
but
不実の認知は無効⇒夫と子との間の生物学的親子関係が存在していなければ、この認知は無効。

子の本国法の認定:
法29条2項は、認知による非嫡出親子関係の成立については、認知の当時における子の本国法によることもできる。

非嫡出親子関係の不存在を検討する際には、認知の当時における子の本国法を確定する必要。

本審判:
子が日本国籍及びルーマニア国籍の二重国籍であるとした上で、夫との間の嫡出親子関係の不存在が確認できる⇒日本国籍の取得を否定し、子がルーマニア国籍のみ有していると判断。

国籍法2条1号は、出生の時に父又は母が日本国民⇒子は日本国籍を取得。
嫡出推定が及ばず、胎児認知もされていないことにより、出生時において日本国民との間に親子関係が認めらられない⇒子は日本国籍を取得することはできない。


ルーマニア法における認知:
「認知について子の本国法による」
but
子が日本国籍を有しない⇒日本法への反致はない。

ルーマニア法上の認知に該当する事情は認められない。

判例時報2492

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教師の自殺と、指導によるパワハラ、校長らの安全配慮義務

仙台高裁R3.2.10

<事案>
Xらの子であるAがY(北海道) の設置する高校の教員となった後に自殺。

Xら:
Aは先輩教諭のBによるパワハラ行為等により精神的に落ち詰められて自殺⇒同校の校長及び教頭は労働環境を整備するという安全配慮義務に違反した⇒国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた。

<原審>
Bの行為の不法行為該当性を前提とするYの責任は否定。
but
校長らがAのうつ状態を認識しながらBによる度重なる注意を防止する措置を講じなかったことは安全配慮義務に違反。

Aの自殺はBの注意とAの不安を感じやすい性格が共に原因となって発生⇒6割の素因減額。

<判断>
Yの控訴を棄却。
Yの国賠法上の責任を認める理由について、
校長らの安全配慮義務違反のみならず、

原判決とは異なり、
Bについても自殺の約1か月前にAがBbの「注意」直後に心療内科を受診したことを教頭から聞かされてAに謝罪⇒さらなる「注意」によりAが自殺等に及ぶことの予見可能性があった⇒Bの行為の不法行為該当性を認めた

<解説>
本判決:
先輩教諭が生徒指導に関して後輩教諭を注意するという、一般的には社会通念上許容されることが多いと思われる行為について、これが業務上必要かつ相当と認められる範囲を超えたものであるとして不法行為法上違法なパワハラ行為に当たるとしたもの。

うつ状態という病的心理の特徴や、患者の診療に当たる医師と職場のパワハラ行為を防止すべき学校管理者との立場の相違に意を用いている。

判例時報2492

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2021年11月17日 (水)

商品先物取引の受託会社従業員の不法行為(肯定)

名古屋高裁R1.12.20

<事案>
Xは、Y1の従業員Y8及びY9が適合性原則、説明義務、実質的一任勘定の禁止、無意味な反復取引や特定売買等の禁止、利益相反取引行為の禁止、情報提供義務、新規委託者保護義務に違反し、取引上の 損失等を被ったとして、
Y1に対し、債務不履行、不法行為、使用者責任、一般法人法78条、会社法350条に基づき、その余のY2ないしY7に対し不法行為、会社法429条1項に基づき、損害賠償を求めた。

<原判決>
請求棄却。

<判断>
●実質的一任取引禁止違反及び無意味な反復的取引等禁止違反を認め、
当該勧誘行為を行った従業員Y9と会社であるY1に対する不法行為、使用者責任に基づく損害賠償請求の一部を認めた。

実質的一任取引禁止違反
①・・・・短時間応対することができたにすぎない。
②・・・・前記の短時間の電話対応では、・・・Xが的確に理解して、当該取引をするかどうかを自由な意思に基づいて判断できたとは推認し難い。
③・・・損害賠償を請求することは考えていなかったとの供述は、XがY9を信頼してY9による第2取引に係る各取引を無批判に承認していたことを裏付ける。
⇒実質的一任取引であった。

無意味な反復取引等禁止違反
特定売買は、相場の状況やその変動予測、委託者の取引状況、取引方針等に応じて、一定の合理性を有することがある売買手法であるということができるところ、第2取引については、手数料化率は約29%でさほど高率ではないものの、特定売買比率は約185%と異常な数値⇒すべての特定売買が一定の合理性を有する売買手法であったとは考え難い⇒274回と多数回に及び第2取引の特定売買には、Y9が相場の変動状況等を整合せず、必要性・合理性のない無意味な売買を繰り返させて、Xの損失においてY1に手数料を獲得させる意図で勧誘した取引が含まれていると推認するのが合理的
一般大豆及びNG大豆の取引は、客観的な相場状況及びXの損益状況に反する不合理な取引であり、Y9は、無意味な売買を頻回に繰り返させて、Xの損失においてY1の手数料獲得を意図して前記取引を勧誘したとみるべき⇒その勧誘行為は、社会的相当性を逸脱する違法なもの
・・・・。
Y9には、第2取引に係る勧誘行為に実質的一任取引禁止違反、無意味な反復取引等禁止違反の違法がある

● ・・・第2取引よる損失の発生・拡大に係る控訴人の過失割合は6割。
Xは第2取引終了当時、第2取引には違法があり損害賠償請求が可能であると認識しておらず、そののち代理人弁護士を通じてY1から委託者別先物取引勘定元帳及び委託者別証拠金等現在高帳の写しの送付を受けた以降に、第2取引が違法であり、損害賠償請求が可能であると認識
訴え提起時には消滅時効が完成していない

<解説>
実質的一任取引の禁止について:

原審:
Xの職場の環境を認定した上、
①XがY9の相場観を尊重してそれに従ったこと、
②第2取引が終了した時点でXはY1に損害賠償を請求することは考えていなかったこと
③Xは勤務中にY1の従業員と連絡をとって説明を受けて売買を行った

実質的一任取引に当たらない。

控訴審:
①Xの作業場所の狭さ等⇒・・・電話で説明を受けたとしても短時間にすぎなかった
②特定売買の手法が多数回にわたって駆使⇒短時間の電話対応では、相場状況や相場の変動予測等の情報をXが的確に理解していたとはいい難い
XがY9の相場観を尊重したことや第2取引終了にY1に損害賠償請求をすることを考えていなかった⇒XがY9による第2取引を無非難に承認していたもの⇒実質的一任取引であったことと整合する。

Y1の従業員を信頼して取引をすることの是非はともかく、信頼の基礎となる情報の取得が十分にされていたかに着目し、これが十分でなかった本件では、XはY1の従業員に任せたものとみて、実質的一任取引を認定

無意味な反復取引等違反について:

原審:
①XがY1の従業員の説明を受けながら自身の判断で、各取引を行ったもの
②商品の需要が逼迫していた状況であったとしても、相場の変動要はそれだけに限られない
⇒Xが行った取引につき直ちに合理性を欠くものであるとは認められない。

控訴審:
特定売買比率が異常に高い
相場の傾向に反する取引を繰り返し行っている
⇒社会的相当性を逸脱する違法な勧誘行為

判例時報2492

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行政不服審査法上の瑕疵が認められた事例

東京高裁R1.5.21

<事案>
Y:土地改良法に基づき設立された土地改良区
X:Yの組合員

Xは、Yから受けた賦課金に係る督促処分の取消を求め、Yに対し、土地改良法46条1項並びに行審法(行政不服審査法)2条及び4条1号に基づき審査請求⇒
Yは棄却する旨の採決をしたが、その審査手続きにおいて、
①審査請求人であるXに対し審理員の指名を通知せず、
②審理員も処分庁であるYに弁明書を作成させてこれをXに送付することをせず、
③Xに対し反論書の提出をする機会や口頭意見陳述の機会を与えていなかった。

Yは、第1裁決には手続的な違法あったとして、同年2月17日付けで第1裁決を取り消し、改めて、同年4月11日付けで本件審査請求を棄却する旨の裁決。

Xが、第1裁決及び第2裁決は違法であると主張し、それらの消しを求めた。

<争点>
①Yによってすでに取り消されている第1裁決の取消しを求める訴えについて訴えの利益があるか
②第2裁決が手続上の瑕疵により違法であるか

<判断>
●争点① :
第1裁決の取消しを求める部分は、訴えの利益を欠き、不適法。

原審を引用。
原審:第1裁決は、行審法の定める審理手続のうち重要なものが履践されないままにされたものであり、同瑕疵は重大かつ明白であるから無効⇒裁決の自己拘束力を肯定する基礎を欠き、Yにより適法に取り消されている⇒第1裁決の取消しを求める訴えは訴えの利益を欠く。

●争点②
審理員として指名されたBは本件督促処分を決議したYの理事会に総括幹事として出席⇒行審法9条2項1号所定の除斥事由に該当し審理員の資格を欠いている
第2裁決は審査庁であるYにおいてBの審理員意見書を参酌することなくされたもの⇒その審理過程は、審理員を挟んだ審査請求人と処分庁の対審的審理構造ではなく、審理員と処分庁が審査請求人と対立する形となっていた⇒審査庁による公正な審理に反するものであった

第2裁決には①②のとおり行審の趣旨に反する重大な手続上の瑕疵があり、違法もの⇒第2審決を取消し。

<解説>
行審法:
平成26年改正で全面改正され、
審理手続における公正性・透明性を高めるため、
審査庁が原処分に関与しない等一定の要件を満たす職員を審理員に指名し、
審理員が審理手続を主宰し、審理の結果を審査庁がすべき裁決に関する意見書(審理員意見書)としてまとめ、
事件記録とともに審理庁に提出する審理員制度が導入。

同制度の下では、
審査請求人と処分庁等が主張及び証拠の提出を行う対審的な審理構造が採用された。
行審法9条2項は、審理員の除斥事由を規定。
1号「審理請求に係る処分・・・に関与した者」

本判決:審理請求に係る処分を行うか否かの判断に関する事務を実質的に行った者や、当該事務を直接又は間接に指揮監督した者をいうと解すべき。

Bは、Yの総括幹事であるところ、幹事は、Yの理事会に出席し、具体的な審議において理事の権限行使(決議)に問題があれば、それを指摘する義務を負い(土地改良法19条の4)、任務懈怠についてYに対し連帯して損害賠償責任を負う可能性がある(同法19条の5第2項)。

自らの出席した理事会で決議された処分について、予断を抱くおそれや、当該処分を弁護しようとする意識が働くおそれが類型的に高い

本件督促処分を決定した理事会に出席していたBは「審査請求に係る処分・・・に関与した者」に該当すると判断。

判例時報2492

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2021年11月11日 (木)

過払債務と法人税における公正妥当と認められる会計処理

最高裁R2.7.2

<事案>
平成24年に破産した貸金業者の破産管財人が、破産手続において過払金返還訴訟が確定⇒当該債務の発生原因となった制限超過利息等につき、これを受領した時(平成7年度~平成20年度及び平成12年度~平成17年度の各事業年度)に遡って、その所得がなかったものとして計算すると、申告した益金の額が過大であった⇒後発的事由に基づく法人税の更正の請求⇒所轄税務署長から更正をしない旨の処分(本件各通知処分)⇒
国に対し、
①本件各通知書分の一部の取消を求める(主位的請求)とともに、
②国は前記各事業年度につき前記貸金業者が納付した法人税相当額(合計約66億円)を不当に利得⇒不当利得返還請求権に基づき、そのうち2億5000万円の返還を求めた(予備的請求)

<制度>
法人税:
法人の事業年度ごとに益金と損金の額を計算し、これを差し引きした金額(所得)を課税標準として、法人税を課税。

益金と損金の額の決定方法

法人税法は、個別の規定がないものについては、
「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)に従って計算すべきである旨規定(法人税法22条4項)。

昭和42年の法人税法改正における法人税課税の簡素化の一環として、法人税課税をできる限り法人企業会計と整合的に行うために設けられたもの。

判例:
利息制限法所定の制限を超過した私法上無効な違法利得

未収分については収益実現の蓋然性がない⇒被課税所得を構成しない。
既収分については経済的利益が担税力を認め得る程度に支配享受された状態に達したものとして課税対象となる。

貸金業者が受領した過払金は法人税課税においては益金として申告するのが正当な税務処理。

企業会計においては、一般に、事業年度ごとに区切って収益や損失を計算し、監査や承認等を経て確定した上、配当等の利益分配を事業年度ごとに確定的に行う。
⇒企業から財産が流出した(あるいは流出することが確定した)事業年度の損失として計上。
~前期損益修正
そのような一般的な会計処理と異なり、実際に過年度の企業会計をやり直した場合、過年度の益金を減額することも法人税法22条4項にいう公正処理基準に合致した計算方法に当たるといえるか?

本件では、税通法23条1項、2項に基づく後発的事由に基づく更正の請求の可否として、争われた。

<判断>
法人が受領した制限超過利息等を益金の額に参入して法人税の申告をし、その後の事業年度に当該制限超過利息等についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続により確定した場合において、当該制限超過利息等の受領の日が属する事業年度の益金の額を減額する計算をすることは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものとはいえない。

本件のような場合に過年度の益金の額が減額されることを前提とした更正の請求はそもそも理由がない。

時に遡って益金を減額するのではなく、当該確定額を当該返還義務が確定した事業年度の損失とすべき(前期損益修正)であり、これは法人が破産した場合でも異ならない⇒本件各通知処分が違法であるとはいえない。

企業会計が損益計算を事業年度に区切って行い、過去の損益計算を遡ることを予定していない
法人税もこれを前提に法人税を課税している。
⇒前期損益修正が公正処理基準に合致する計算方法。
法人税法は事業年度を跨いだ課税の調整を特別に定められた要件と手続の下においてのみ行っている。
③前記のような課税の調整の在り方は法人が破産した場合でも同様であり、本件のような場合に事業年度を跨いだ課税の調整を行う旨の規定はない。
企業会計上、過年度の収益を減額させる計算をすることが公正妥当な会計慣行として確立されているとはいえない。

判例時報2492

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2021年11月10日 (水)

幼児の揺さぶりによる傷害⇒無罪の事例

岐阜地裁R2.9.25


<事案>
生後約3か月の実子に対する揺さぶり⇒急性硬膜下血腫等の傷害

<主張>
検察官:被害児には本件直後、急性硬膜下血腫、脳実質損傷、びまん性脳浮腫、網膜出血⇒この傷害は被告人の揺さぶり行為等によって生じた。
弁護人:被告人は揺さぶり行為等をしておらず、被害時児の傷害はソファーからの落下によって生じた可能性がある。

<判断>
検察官が揺さぶり行為等の有力な根拠とした急性硬膜下血腫、脳実質損傷は認められない。
びまん性脳浮腫、網膜出血は揺さぶり行為等を原因とするものとは言いきれず、ソファーからの落下によって脳深部静脈血栓症を発症し、それを原因として生じた可能性を否定できない。

<解説>
● SBS仮説:
典型的には、 急性硬膜下血腫、脳浮腫、網膜出血の3つの症状が揃っており、その原因となり得る高位落下等の事情がなければSBSと診断できるとするもの。

● 複数の専門家証言がある場合の判断の仕方:
各専門家の説明を正確に理解し、相反する説明の分岐点を見極め、信用性を適正に判断しなければならない。

● 公判前整理手続終了後に検察官が請求した証拠の採否について:
検察官は、専門家証人2名の尋問終了後、新たに鑑定書2通(①脳神経外科の専門医、②工学専門家各作成)、①の専門医の証人尋問を請求。

刑訴法316条の32第1項は、公判前整理手続等における争点及び証拠の整理の実効性を担保するため、公判前整理手続等終了後の証拠調べ請求を原則として禁止し、
例外として「やむを得ない事由」がある場合に証拠調べ請求ができるとした。

「やむを得ない事由」:
公判前整理手続等で提出できなかった合理的理由。
公判前整理手続等終了前に証拠調べ請求が可能だった場合でも、公判前整理手続等における相手方の主張や証拠関係等からその必要がないと考え、そう判断するについて十分な理由があったと考えられる場合等は、新たな証拠調べ請求ができる。
その場合、
①公判前整理手続等で証拠調べ請求をしないとの判断をした意思形成に相手方当事者の訴訟行為が寄与していたか否かといった、新たな証拠調べ請求が必要となった理由及びその理由に対する当事者双方それぞれの帰責性
新たな証拠が証明しようとする事実が事件の結論に与える影響の程度や当該証拠がその事実の立証に果たす役割
新たな証拠調べ請求が相手方当事者や審理予定に与える影響
といった諸要素を総合的に考慮して、「やむを得ない事由」の有無を判断。

本件:
当該証拠の立証趣旨、
公判前整理手続終了前の請求可能性、
結論に与える影響の程度、
審理経過、
新たな証拠請求時の審理の進行状況(基礎から最後の公判前整理手続期日までに2年以上が経過しており、検察官の新たな証拠請求は立証趣旨に関連する検察官・弁護人請求の専門家証人の尋問終了後になされた)等
「やむを得ない事由」がないと判断された。

判例時報2491

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2021年11月 6日 (土)

始業時間・アルバイトと正社員の格差等

横浜地裁R2.6.25

<事案>
Y1:引越関連事業を行う株式会社
Y2:Y1の企業内労働組合
Xら:Y1との間で雇用契約を締結し、引越作業員として勤務していた者。
X1、X3は正社員、X2はアルバイト
Y1においては、通勤手当支給規程が存在し、正社員であるX1はその支給対象であったが、受給申請の手続を実践していなかった。
Y1の非正規従業員給与規程においては、「アルバイトに対しては通期手当を、支給しないこととする」と規定。
Y1とY2との間では、いわゆるチェック・オフ協定が締結され、Xらは、Y1に在籍中、「組合費」として毎月の賃金から1000円が控除。

Xらが、Y1に対し、
①未払時間外割増賃金等の支払
②引越事故責任賠償金名目で負担させられた金員についての不当利得の返還等、
③未払通勤手当等の支払(X1、X2のみ。X2は、アルバイトに通勤手当を支給しない旨の規定が労契法(平成30年改正前のもの)20条に違反すると主張し、主位的には雇用契約に基づく賃金請求として、予備的に不法行為に基づく損害賠償として通勤手当相当額の支払)
④個人で契約して業務のためだけに使用していた携帯電話料金についての不当利得の返還等(X3のみ)、
⑤労基法114条に基づく付加金等の支払
⑥いわゆるチェック・オフにより賃金から控除された組合費について未払賃金等の支払
を求め、不当利得の返還等を求めた。

<争点>
①始業時刻
②通勤手当又は同相当額の請求の可否
③労働組合費の控除に関する賃金全額払請求ないし不当利得返還請求の可否

<判断>
●争点①
①Y1においては、制服を着用することが義務付けられ、朝礼の前に着替えを済ませることになっていたところ、着替えの時間及び朝礼の時間以降は、Y1の指揮命令下に置かれたものと評価することができる⇒これに要する時間は、それが社会通念上相当と認められる限り、労基法上の労働時間に該当。
②着替えの時間及び朝礼場所への移動時間等
⇒午前7時10分を標準的な始業時刻
but
ラジオ体操の時間は、参加が義務付けられていた朝礼に含めることはできず、Y1の指揮命令下に置かれたものと評価することはできない。

●争点②
正社員であるX1:
X1が通勤手当の受給申請をしておらず、支給漏れがあった場合の遡及可能期間も徒過
⇒理由がない。

アルバイトであるX2:
雇用契約に基づく賃金請求について、
旧労契法20条の規定は私法上の効力を有する
but
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者と同一のものとなるものではない⇒請求を認めず。

予備的請求として位置付ける、旧労契法20条違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償支払い請求:
①Y1における正社員とアルバイトであるX2との間における通勤手当に係る労働条件の相違は、同条にいう不合理と認められるものに当たる。
②このような通勤手当制度に基づく通勤手当の不支給は、X2に対する不法行為を構成する。
正社員であれば受給できたはずの通勤手当相当額の損害賠償を肯定

●争点③
X:Y2は「自主的に」運営されたものではない⇒労組法上の労働組合とは認められない
vs.
形式的に労組法5条2項6号にういう総会の開催が行われないとしても、実質的にはこれに代わる民主的な意思決定が行われていたものと評価することができる。

X:「加入申込書」を作成しておらず、Y2に加入する意思表示をしていない。
vs.
Xらは、・・・少なくとも一種の社団としてY2に加入しているという認識は有していたものと認めるのが相当。
そのような認識がありながら、これらを脱退するなどの意思表示をしていない⇒Y2に加入する黙示の意思表示があったものと認めるのが相当。
Y2の規約によれば、組合費の支払はチェック・オフにより行う旨の規定があり、Y2の組合員であるXらは、この規約に従うことを当然に受容している
⇒特段の事情がない限り、チェック・オフ協定とは別に、Y1が原告ら個々の組合員から、賃金から控除した組合費相当分をY2に支払うことにつき委任を受けることが、有効なチェック・オフを行うために必要であるとは解されない。

<解説>
●最高裁H12.3.9:
労基法の労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる
労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業者内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされた⇒当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労基法上の労働時間に該当する。

●最高裁H30.6.1(ハマキョウレックス(差戻審):
通勤手当は、通勤に要する交通費を補償する趣旨で支給されるものであるところ、労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない
②職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは、通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではない。
③通勤手当に差異を設けることが不合理でるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。

通勤手当の金額が異なるという労働条件の相違は、旧労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる。
旧労契法20条⇒有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条へ

●チェック・オフの有効性について
最高裁H5.3.25:
使用者と労働組合との間に右協定(労働協約)が締結されている場合であっても、使用者が有効なチェック・オフを行うためには、右協定の外に、使用者が個々の組合員から、賃金から控除した組合費相当分を労働組合に支払うことにつき委任を受けることが必要であって、
右委任が存しないときには、使用者は当該組合員の賃金からチェック・オフをすることはできない

判例時報2491

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2021年11月 5日 (金)

銘菓の創業の表示等不正競争防止法と不正競争防止法

大阪高裁R3.3.11

<事案>
Xが、Yに対し、Yの表示等が、商品の品質を誤認させている⇒その差止め、廃棄及び損害賠償を求めた。

<争点>
①不正競争法2条1項14号(平成30年改正前のもの)(現20号)の規制対象の範囲
②Yの創業年や来歴に関する表示が、品質等誤認表示といえるか
③営業上の利益の侵害の有無並びにXに生じた損害の有無及び額

<規定>
第二条(定義)
 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

<判断>
●争点①について
一審判決を一部引用し、立法過程における議論や、不正競争防止法違反が刑事罰の対象にもなる⇒安易な拡張解釈は相当でない⇒20号の列挙は限定列挙。

20号の定める「品質」「内容」に、これらの事項を間接的に示唆する表示が含まれる場合がありうるにしても、そのような表示については、具体的な取引の実情の下において、需要者が当該表示を商品の品質や内容等に関わるものと明確に認識し、それによって、20号所定の本来的な品質等表示と同程度に商品選択の重要な基準となるものである場合に、20号所定の規制の対象となる。

●争点②について
品質や内容の誤認を生じさせるためには、客観的事実として異なる品質や内容を需要者に認識させる必要があり、誤認の対象は客観的に真偽を検証、確定することが可能な事実であることが想定されている。
本件で問題とされた創業年や来歴については、客観的に真偽を検証、確定することが困難で、品質等を誤認させるとは認められない

●争点③については、判断せず。

<解説>
類似の裁判例:
東京高裁H16.10.19:
ヤマダ電機対コジマ事件:価格に関する表示につき不正競争と認めなかった。

判例時報2491

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2021年11月 4日 (木)

遺言書が無効とされた事案

東京地裁R2.10.8

<事案>
Xは、本件遺言書の無効の確認を求めた。

<判断>
● 自筆証書遺言の形式的要件の主張立証責任
自筆証書遺言が有効であるためには、その有効性を主張する当事者(本件ではY)において、各要件の充足性を主張立証しなければならない。
遺言書には日付の記載が要求されているが、実際には遺言書の作成された日が正しく記載されていることが必要⇒真実の作成日と合致しない日付は無効。
有効な日付が記載されていることの主張立証責任は、Yが負う

遺言の内容が記載された複数枚の紙面が1通の一体性のある遺言書を構成していることは、自筆証書遺言に要求される他の要件と相まって、遺言者の意思表示の内容を正確に把握するための不可欠の全体をなす
遺言書が一体性のある書面であることの主張立証責任は、遺言の有効性を主張する当事者(Y)が負う。

●本件遺言書の切断
遺言書は、高度に厳粛な性格を帯びる非常に重要な文書
遺言者自身が複数枚にわたる遺言書の特定の頁の一部だけを物理的に切断した上、一部切断の物理的痕跡のある不揃いの紙面が混在する複数面の紙面で構成された遺言書を遺言者の最終意思を反映した完成文書として残そうとすることは、極めて不自然かつ奇抜な発送。
A以外の第三者が本件遺言書の1面目の便箋の左半分を切断した可能性が高く、遺言書の一体性を否定する考慮要素の1つとなる。

●遺言書の一体性の疑問
①1枚目の便箋と、2枚目・3枚目の便箋との間に形式面での相違(文字の間隔、漢字の送り仮名、漢数字の記載)
②本件遺言書の作成日付として表示されている平成8年10月6日の時点では、対象不動産はAの夫Bが所有しており、Aの所有する財産ではなかった⇒1枚目の便箋がBの死亡日である平成16年2月17日以降に作成された可能性
③本件遺言書は、Aの死亡から約11か月経過した平成30年8月15日頃Yによって発見。butYはAから金庫の鍵を預かっていた⇒客観的にはより早期の段階で金庫内の遺品を調査して、本件遺言書を発見する機会が十分にあった⇒発見時期が遅すぎる点においてYの説明は明らかにおかしい。

Aは作成時期が明らかに異なる2種類の遺言書の外観を呈する書面を作成してた可能性があり、本件遺言書は、それぞれ別の遺言書の外観を呈する書面の一部または全部を構成していた1枚目の便箋と2枚目・3枚目の便箋とを組み合わせた形式で作成されたという合理的な疑いを否定できない。
作成した者が第三者である場合は、遺言書の一体性を欠き、
遺言者(A)である場合には、本件遺言書に記載された作成日付が有効であるとは認められず、
本件遺言書は、有効な自筆証書遺言の有効要件を具備しておらず、無効。

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2021年11月 3日 (水)

「犯罪利用預金口座等」の該当性

東京地裁R2.6.30

<事案>
原告が、被告に対し、原告名義の普通預金口座について、被告がした犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律3条1項に基づく取引停止措置は認められない⇒預金契約に基づき、本件口座残高123万5231円及び商事法定利率の遅延損害金の支払を求めた。

<争点>
①本件口座に法3条1項に基づく取引停止措置を講ずることの適否
②本件口座に普通預金規定に基づく取引停止を講じることの適否
③本件口座に係る預金の払戻請求権が認めらる場合に、その遅延損害金が生じ法定利率によるべきか

<判断>
●法3条1項に基づく取引停止措置の適否
無登録での投資助言業務及び第1種金融商品取引業が常に振込利用犯罪行為に当たるとは直ちには解せず、
A社らの行為は振込利用犯罪行為に該当すると疑うに足りる相当な理由はあると認められるが、原告・A社間に前記契約がある⇒本件口座からA社らに対する送金が、A社らの前記行為に係る資金を移転する目的で利用されたとは直ちに認めがたく、
仮に被告が本件口座に振り込まれた前記の金員がA社らの前記行為により被害を受けた者からの振込みに当たると疑っていたとしても、その支払態様等からすれば、前記資金移転目的などとは認められず、これを疑うに足りる相当な理由があるとも認められない。
仮に被告が本件口座の取引停止措置をとった時点では相当な理由があったとしても、前記措置がとられてから既に2年以上経過しているのに、A社らの行為を理由とした請求や差押手続等がされたとは認められない⇒現時点で前記措置を継続する必要性があるとは認め難い。

●普通預金規定に基づく取引停止の適否
被告主張:本件口座については、普通預金規定により、預金が法令や公序良俗に反する行為に利用され、またはそのおそれがあると認められる場合に当たる⇒取引停止にできる。
vs.
預金が預金契約に基づいて預けられる⇒被告が前記の取引停止措置をとるには相当な理由を要する。
本件では、本件口座に係る預金が法令や公序良俗に反する行為に利用され、またはそのおそれがあるとは認め難く、相当な理由は認められない。

●遅延損害金
商事法定利率による。
①預金払戻請求権が期限の定めのないもの
②原告が払戻しを請求した時点から被告は遅滞の責任を負う

判決言渡日までの遅延損害金の請求は認容されるべきではないとの被告の主張を排斥。

<解説>
預金口座等が振り込め詐欺等の犯罪に用いられている疑いがあるときに、金融機関が当該預金口座に係る取引を停止する措置をとり、預金保険機構による公告を経て当該預金口座等を消滅させ、これを原資として被害回復分配金の支払を行う。

金融機関は、
「犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるとき」は、当該預金口座等に係る取引の停止等の措置を適切に講じ(法3条1項)、また、
「犯罪利用預金口座等であると疑うに足りる相当な理由があると認めるとき」は、速やかに、当該預金口座等について現に取引の停止等の措置が講じられていない場合においては当該措置を講ずるとともに、預金保険機構に対し、当該預金口座等に係る預金等に係る債権にいて、当該債権の消滅手続の開始に係る公告をすることを求めなければならない(法4条)。

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2021年11月 2日 (火)

弁護士職務基本規程57条違反と訴訟行為

知財高裁R2.8.3

<事案>
X1及びX2とYとの間で、東京地裁に特許権侵害訴訟が係属(基本事件)。
Xら:Yの訴訟代理人である弁護士らが所属するE弁護士事務所に、かつてX1の社内弁護士であったC弁護士が在籍(後に、C弁護士は、本件申立てを受けて、本件事務所を退所)しており、A弁護士らが基本事件の訴訟行為を行うことは弁護士職務規程57条に反する⇒A弁護士らの訴訟行為の排除を申し立てた。

<争点>
①Xらが弁護士職務規程57条違反を理由とする訴訟行為の排除の裁判の申立権を有するか
②A弁護士らの訴訟行為が弁護士職務基本規程57条に違反するか

<原決定>
①肯定
②否定

<本決定>
①②肯定
⇒原決定を取り消して、Xらの申立てを認めた。

<規程>
弁護士法 第二五条(職務を行い得ない事件)
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
・・・・

弁護士職務規程
(職務を行い得ない事件)
第五十七条 所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む)が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務を行い 得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。

弁護士職務規程
(職務を行い得ない事件)
第二十七条 弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第三号に 掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
四 公務員として職務上取り扱った事件
五 仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件

<解説>
弁護士法25条1号に違反する訴訟行為について、同号に違反することを理由として相手方から訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有することが認められた事例(最高裁H29.10.5等)。

弁護士法25条1号に違反する訴訟行為の効果:
A:有効説
B:絶対的無効説
C:追認説
D:異議説(通説)
相手方である当事者は、弁護士法25条1号違反の訴訟行為について異議を述べ、裁判所に対してその行為の排除を求めることができる。

●争点①について
①弁護士職務規程57条も、弁護士法25条1項の趣旨と同様に、当事者の利益保護をも目的とするもの
②弁護士職務規程は単なる内規ではなく弁護士法が遵守を求められる会規

弁護士法25条1項の趣旨解釈として、弁護士職務規程57条に反することを理由とする場合であっても、訴訟行為排除の申立権がある。

●争点②について
C弁護士がX1に在職中に基本事件について賛助した⇒C弁護士は弁護士法25条1項、弁護士職務基本規程27条に反する⇒C弁護士と同じく共同事務所に所属するA弁護士らは弁護士職務規程57条に違反する。
弁護士職務基本規程57条ただし書が規程する「職務の公正を保ち得る事由」
本判決:
所属弁護士が、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が弁護士職務基本規程27条1号により職務を行い得ない事件について職務を行ったとしても、客観的及び実質的にみて、依頼者の信頼が損なわれるおそれがなく、かつ、先に他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)を信頼して協議又は依頼をした当事者にとって所属弁護士の職務の公正らしさが保持されているものと認められる事由をいうものとするのが相当である。


but
本件の許可抗告審である最高裁R3.4.14は、
弁護士職務基本規程57条に違反する訴訟行為について、相手方である当事者は、同条違反を理由として、これに異議を述べ、裁判所に対し、その行為の排除を求めることはできない。
⇒本決定を取り消した。

判例時報2491

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