執行役員退任⇒賃金減額が争われた事例
東京地裁R2.8.28
<事案>
Xは、株式会社Yの常務執行役員で月額120万円の報酬⇒執行役員退任で、基本給月額34万1000円、役職を部長として、役職手当11万円を支給する旨の人事上の措置(本件措置①)⇒専任部長とされ、役職手当11万円をなくす措置(本件措置②)
⇒
Xは、本件各措置は不当な降格・降給であって無効⇒雇用契約上の地位として、本件各措置前の労働条件の確認を求めるとともに、差額賃金と遅延損害金の支払を求めた。
<判断>
● 執行役員としてのXの地位が雇用契約に基づくものであることは当事者間に争いがない。
Yにおける就業規則や給与規程及び執行役員規程の内容を子細に検討⇒
Yにおいては、従業員に対し、広く就業規則や給与規程が適用されるものとされており、その直接的な適用を受けない者は執行役員ほか就業規則所定の者に限られ、これらの者については別途規定が設けられることとされている。
執行役員規程が執行役委員に係る前記別途規程に該当し、同規程は、執行役員に就任した場合における、その間の労働条件を規程したもの。
①各規定間の位置付け
②執行役員規程が執行役員の就業条件(報酬を含む。)について別途の規定を置いた趣旨
⇒
執行役員在任中になされた特別対偶も退任に伴い終了し、執行役員就任時における旧来の労働条件に復することとなるとみるのがこれらの規程の趣旨に叶う。
● Xに対して支払われていた常務執行役員当時の月額120万円は、Xが役付執行役員に就任していたことに基づくもの⇒このような待遇は執行役員の退任により終了し、旧来の労働条件が復することとなったとみるべき。
本件措置①:
①復することとなるべき旧来の労働条件よりも多額の給与による労働条件を保障
②執行役員退任後は、執行役員就任前における旧来の労働条件に復することとなる旨が各規定により根拠付けられている⇒Xにおいてもその旨予見すべきもの
⇒
人事上の濫用があったとはいえず、有効。
本件措置②:
役職定年制度規程に基づき、Xが役職定年となって選任部長とされたことにより役職定年の支給がなくなった⇒有効。
<解説>
● 執行役員制度:一般的に取締役会が決定した基本方針に従ってその監督の下で業務執行にあたる代表取締役以下の業務執行機能を強化するために、取締役会によって選任される執行役員が、代表取締役から権限委譲を受けて業務執行を分担し、それぞれが担当する領域において代表取締役を補佐する制度。
執行役員は、会社法によって設けられた執行役とは異なり、会社の機関ではなく、その法的性質については、委任契約説、雇用契約説、両者の混合契約説。
本件:Xの執行役員としての地位が雇用契約に基づくものであることは争いのない事実とされている。
● 人事上の措置としての役職・職位の降格に伴い賃金減額が行なわれた場合、
これが労働契約上予定されているもの
⇒就業規則に定められた賃金体系や基準に従っている限り、賃金減額も認めることができ、その場合、労働者の不利益の程度等によっては権利濫用となる場合もある。
● 執行役員についての、裁判例・文献等。
判例時報2487
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