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2021年10月27日 (水)

医師の準強制わいせつ事件

東京高裁R2.7.13

<原審>
無罪
Aは麻酔覚醒時のせん妄の影響を受けていた可能性がある⇒A証言の信用性には疑問がを差し挟むことができる。
アミラーゼ鑑定及びDNA定量検査も信用性に疑義があり、信用性があるとしてもその証明力は十分なものとはいえない⇒A証言の信用性を補強できないし、それ自体から被告人の犯行を推認させるものともいえない。

合理的な疑いが残る。

<判断>
有罪
A証言は信用できる。

原審:Aが麻酔覚醒時に暴言や見当識を失っているような発言
vs.
カルテに記載されておらず、その認定には疑問がある。
Aは上司にメッセージを送信⇒せん妄による意識障害があったことと相容れない。
Aがせん妄⇒直ちに性的幻覚を体験した可能性があることにはならない。
Aが訴える内容は、単に具体的であるにとどまらず、揺れ動く心理状態を反映する生々しいものである上、記憶の欠損がなく、一貫している。
せん妄による幻覚として説明することは困難。

控訴審における証人(医師)の証言によれば、Aはせん妄による幻覚を見たという可能性はなく、A証言の信用性に問題はない。

アミラーゼ鑑定、DNA型鑑定、DNA定量検査は、A証言の信用性を支え、これと相まってわいせつ被害を立証するものであれば足りる。
アミラーゼ鑑定で陽性反応を得られたというR証言の信用性を否定すべき理由はない。
陽性反応についての客観的資料がないことから直ちにR証言の信用性が失われるとはいえない。
唾液は他の体液よりもアミラーゼの濃度が高く、DNA定量検査の結果⇒Aの左乳首には唾液が付いていた可能性が高い。
DNA定量検査についても、検査過程の資料が保存されていない
but
検証可能性がかけているからといって、検査の信用性が直ちに損なわれることにはならない。

<原審>
本件付着物から被告人のDNA型のみ検出されたことについて、100倍法則からではなく、他の原因による可能性があるとする。
but
V(弁護人請求の専門家証人)による実験の際の付着物の採取方法が本件付着物の採取方法と同視できるかは明らかではない。
本件付着物の採取方法からはAのDNAが付着しなかったとは考え難い。
Vによる実験のうち触診実験⇒女性の乳頭から採取されたDNAの量は、最大でも本件付着物から採取された量の18.5分の1にとどまる。
⇒触診により付着した汗等の体液から被告人のDNAが付着した可能性はきわめて低い
⇒アミラーゼ鑑定の陽性反応が汗等の体液による可能性を否定できないとした原判決の説示は、論理則、経験則等に照らして不合理。
会話による飛沫がDNA定量検査の結果をもたらした可能性。
vs.
Aの左側に立っていたEの方がAの左胸に近かったにもかかわらず、EのDNA型は検出されていない。
Vによる実験のうち飛沫実験で採取された飛沫唾液の最大DNA量と比較して、本件付着物のDNA量は約642倍。
⇒A証言の信用性を補強する証明力を十分有している。

A証言+鑑定等の証拠を総合⇒合理的な疑いを容れない立証がある。

<解説>
原判決:Aが麻酔覚醒時に暴言や見当識を失っているような発言をしたという事実を認定し、それを1つの根拠として、Aは幻覚を見ていた可能性があると判断。
本判決:カルテに記載なし⇒原審の認定には疑問があると指摘。
but
それらの発言が存在しなかったとの判断は示されておらず、最終判断に至らない程度の疑問を前提に原判決の認定を非難することの当否は問題。

捜査段階の鑑定等において、残された資料の廃棄など、鑑定結果の事後的検証可能性を失わせる手法。
原判決:それらを理由に鑑定等の信用性を否定することを示唆(原判決は、その判断は留保して、仮に信用性が肯定できるとしても、必要な高い証明力がないと判断。)。
本判決:科学的厳密さを損なうことにはなるが、直ちに鑑定等の信用性が失われるとはいえないとして、鑑定等の証明力を検討し、A証言の補強としての価値を認めた。

判例時報2490

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