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2021年10月23日 (土)

労働条件の相違が労契法20条(平成30年改正前)の不合理とは認められなかった場合

最高裁R2.10.13

<①事件>
事案 Y1と機関の定める労働契約を締結して東京地下鉄㈱の駅構内の直営売店における販売業務に従事していたX1およびX2が、Y1と期間の定めのない労働契約を締結している労働者のうち売店業務に従事している者とX1らとの間で、退職金等に相違があったことは労契法20条に違反⇒Y1に対し、不法行為等に基づき、前記相違に係る退職金に相当する損害賠償等を求めた。

【原審】
X1らの締結した契約が原則として更新され、実際にX1らが10年前後の長期間にわたって勤務⇒少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金、具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理
⇒X1らのような長期間勤務を継続した「契約社員B」に全くの退職金の支給を認めない点において、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる⇒退職金に関する不法行為に基づく損害賠償請求の一部を認容。

【判断】
X1らの退職金に関する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない⇒棄却されるべき。

<②事件>
【事案】
Y2(学校法人大阪医科薬科大学)と有期労働契約を締結し、教室事務を担当するフルタイムのアルバイト職員として勤務したX3が、無機労働契約を締結している正社員とX3との間で、賞与等に相違があったことは労契法20条に違反⇒Y2に対し、不法行為に基づき、前記相違に係る賃金に相当する額等の損害賠償を求めた。
Y2において、正社員には年2回の賞与が支給され、その支給額は通年で基本給4.6か月分が一応の基準。
アルバイト職員には賞与なし。

【原審】
Y2の正社員に対する賞与は、正職員としてその算定期間に在籍し、就労していたことの対価としての性質を有する⇒同期間に在籍し、就労していたフルタイムのアルバイト職員に対し、賞与を全く支給しないことは不合理。
X3につき、同時期に新規採用された正社員と比較し、その支給基準の60%を下回る部分の相違は不合理⇒賞与に関する不法行為に基づく損害賠償請求の一部を認容。

【判断】
X3らの賞与に関する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない⇒棄却されるべき。

<解説>
● 労契法20条(平成30年改正前のもの):
有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者の無期契約労働者の労働条件と相違する場合において、
当該労働条件の相違は、
労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)
当該職務の内容及び配置の変更の範囲
その他の事情
を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

有期契約労働者と無期契約労働者との相違に応じた均衡のとれた処遇を求める規定(最高裁H30.6.1)

最高裁:
労契法20条に違反するか否かにかかる判断の枠組みについて、
労契法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。

労契法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう。

有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき

● ①事件判決:
①Y1における退職金につき、正社員に対する退職一時金制度によるもの
②退職金規定により支給基準等が定められ、本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされている
③支給対象となる正社員は、Y1の本社の各部署や事業本部が所管する事業者等に配置され、業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあった
④退職金の算定基礎となる本給は年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていた

前記退職金は、労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、
Y1は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたもの。

②事件判決:
Y2における賞与につき、その支給基準や支給実績に加え、正職員の基本給が職能給の性格を有するものといえることや、おおむね、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていた

前記賞与は、労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものであり、Y2は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から賞与を支給することとしたものと言える。

①事件判決と②事件判決は、
Yらにおいて退職金や賞与を無期契約労働者のみに支給することが、使用者の経営・人事制度条の施策として一定の合理性があることを含意しているものと考えられるが、
有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違について、長期雇用のインセンティブ論をもってその不合理を否定する事情とみることを一般的に肯定しているものではなく、
個別の事情を踏まえて判断された退職金や賞与の趣旨に照らし、前記のような制度設計をすること自体が合理性を欠くものとはいい難い。

①事件判決:
Y1における退職金の趣旨を踏まえて、売店業務に従事する正社員と「契約社員B」の職務の内容等を考慮し、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。

その検討に当たっては、
労契法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲につき、売店業務に従事する正社員と「契約社員B」との間に一定の相違があったことが否定できない。
同条所定の「その他の事情」として、
売店業務に従事する正社員と他の多数の正社員との間に職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲について相違があること
売店業務に従事する正社員は、過去に行われた関連会社等の再編成によりY1に採用されることとなった者と「契約社員B」から登用された者が約半数ずつでほぼ全体を占めるなど、
その採用の経緯や職務経験等に照らし、賃金水準を変更したり、他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があった
Y1において契約社員が正社員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたという事情のも指摘され、これらが総合的に考慮。

● 使用者は、労働条件を設定する際には、同一の労働条件を設定しようとする労働者全体の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲を考慮することが通常
比較の対象を有期契約労働者と同様の業務に従事する無期契約労働者のみに限定するとしても、当該無期契約労働者が、同じ労働条件の適用を受ける無期契約労働者全体においてどのように位置づけられるのかについて、労契法20条所定の「その他の事情」として考慮することができる。

● 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条に短時間労働者及び有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇について通常の労働者の待遇との間の不合理な相違を設けることを禁止する旨の定めを置く。

判例時報2490

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