行手法14条1項本文の理由提示の要件を満たさない⇒運転免許取消処分を取り消し
札幌地裁R2.8.24
<事案>
北海道公安委員会から、運転免許を取り消し、取消しの日から1年間を免許を受けることができない期間として指定する処分を受けた⇒本件処分の理由とされた交通事故についてXに安全配慮義務違反はなく、また、本件処分には理由提示の不備の違法がある⇒Y(北海道)を相手方に本件処分の取消しを求めた。
<争点>
①本件事故に係るXの過失の有無
②本件処分に係る理由提示の違法性
<判断>
●争点①
①本件道路に歩行者が存在することは予見可能
②本件事故時の視界の状況⇒Xには、歩行者と安全にすれ違うために徐行するか、徐行によっても歩行者の安全を確保できない場合には、一時停止して視界の回復を待つ義務があった
⇒
Xが本件車両を一時停止又は直ちに停止することができる速度まで減速させることなく進行させ、本件事故を発生させたことについて、進路の安全を十分に確認することなく、道路及び交通の状況に応じて、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転することを怠ったとうい安全配慮義務違反があった。
●争点②
最高裁H23.6.7を引用し、
行手法14条1項本文の理由提示の適法性は、
当該処分の根拠法令の規定内容、
当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、
当該処分の性質及び内容、
当該処分尾原因となる事実関係の内容
等を総合考慮してこれを決定すべき。
本件処分書は、
原告の運転行為に安全運転義務違反(道交法70条違反)があるとした場合の処分の根拠法令とその適用関係は網羅している
but
同条が同法各条に規定する具体的な義務規定を補う趣旨で設けられた抽象的な規定であり、安全運転義務違反となる場合を定める具体的基準等が見当たらない
⇒
個別具体的な事実関係によっては、同条違反であることが示されるだけでは、処分の名宛人である運転者において、自己にどのような運転をすべき義務が生じており、又は、どのような運転行為が安全運転義務違反とされるのかを認識することが困難な場合があり、
そのような場合に処分理由が同条違反であるとのみ示されたとしても、処分の名宛人に対して不服申立ての便宜が与えられたとはいい難く、
また、処分をする行政庁においても、具体的な義務内容とその義務違反に当たる行為を認識しないまま処分に至るおそれがあり、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制する趣旨に反することにもなる
⇒
前記の場合において、処分理由として、同条違反であるとしか示されなかったときは、行手法14条1項本分が定める理由の提示としては不足する。
本件事故に係る事実関係の下においては、処分理由とされ得る具体的な安全運転義務違反行為が複数あり得、しかも、それら複数の義務違反行為は両立し得ない
⇒前記の場合に当たる
⇒
処分理由として、道交法70条違反であるとしか示さなかった本件処分における理由の提示には行手法14条1項本分に反する違法がある。
⇒
本件処分を取り消した。
<規定>
行政手続法 第一四条(不利益処分の理由の提示)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
道路交通法 第七〇条(安全運転の義務)
車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
<解説>
●行手法14条1項本文の理由提示の適法性:
上記平成23年最判
その判断の前提となる理由提示の趣旨及び理由提示が備えるべき要件:
①不利益処分に理由提示を要するのは、行政庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせることにより、相手方の不服申立てに便宜を与えることにある。
その理由の記載を欠く⇒当該処分自体がい違法となり、原則として取消事由となる。
②理由提示の程度:
処分の性質、理由提示を命じた法律の趣旨・目的に照らして決せられる。
③処分理由:
その記載自体から明らかでなければならなず、単なる根拠法規(根拠法条)の摘示は、理由記載には当たらない。
④理由提示:
相手方がその理由を推知できるか否かにかかわらず、その記載自体からその処分理由が明らかとなるものでなければならない。
●本件処分の根拠法条とされている道交法70条:
車両、道路等の状況によって、運転者に課される運転義務には様々な形態があり、同法各条が規定する具体的な義務規定のみではまかないきれない⇒それを補う趣旨で設けられた抽象的な規定。
⇒
個別具体的な事実関係に照らし、安全運転義務違反と記載するのみでは、処分の名宛人が負っていた義務の内容や義務違反行為の内容を認識することが困難な場合があり、このような場合には、前記③④の観点から理由提示としては不十分。
本件事故の態様
⇒名宛人であるXにとって、安全運転義務違反と記載されるのみでは、Xの負っていた義務の内容や義務違反行為の内容を一義的に特定することは困難
⇒
本件の事実関係の下では、本件処分における理由提示が不適法と判断。
判例時報2488・2489
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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