「黒い雨」訴訟1審判決
広島地裁R2.7.29
<事案>
Xらが、原爆投下後に降ったいわゆる「黒い雨」に遭った⇒原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当
⇒被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消し及び同交付の義務付け等を求めた。
<判断>
●承継人らにおける訴訟承継の成否
最高裁H29.12.18:
申請者が被爆者健康手帳行為付及び健康管理手当認定の各申請をしている場合に、各申請却下処分の取消しを求めるとともに、被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める事案:
健康管理手当の受給権が、当該申請者の一身に専属する権利ではなく、相続の対象となるもの⇒訴訟係属中に申請者が死亡した場合には、その相続人が当該訴訟を承継。
本件:健康管理手当認定申請却下処分の取消し等を求めていない
but
①被爆者健康手帳の交付処分の効力を申請日に遡らせる取扱いが既に確立した行政実務となっている。
⇒
被爆者健康手帳交付の法的効果は、広く被爆者援護法が規定する諸手当の受給権等との関係で、交付申請日に遡って生じるのが相当
②被爆者健康手帳が交付された場合に遡って発生しる一般疾病医療費(被爆者援護法18条)の受給権が、当該申請者の一身に専属する権利ではなく、相続の対象となる
③申請者が被爆者であるとすれば、葬祭料(被爆者援護法32条)の支給を受け得る者について、行政処分の効力を排除するために訴訟承継を肯定すべき
⇒
承継人らによる訴訟承継を認めた。
●被爆者援護法1条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」ことの意義
①被爆者援護法の制定に至る経緯等
②原爆医療法が、原爆投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害(被爆による健康上の障害の特異性と重大性)に着目して、国家補償的配慮等に基づき被爆者援護のための諸制度を規定(最高裁)
⇒
「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の基にあった」とは原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったことをいう。
●Xらが、被爆者援護法1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するか
◎「黒い雨」降雨域について
「黒い雨」降雨域を的確に示す気象記録や残留放射能の調査結果などの客観的証拠はないない。
but
本判決:
各研究結果の調査手法や基礎資料の数、内容等に加え、その他資料との整合性を詳細に検討⇒多数の住民が揃って内容虚偽の回答をしたとは考え難い⇒「黒い雨」降雨域は宇田雨域にとどまるものでなく、より広範囲に「黒い雨」が降った事実を確実に認めることができる。
⇒増田雨域は有力な資料として位置付けられ、大瀧雨域も相応に斟酌すべき。
「黒い雨」降雨域の全体像を明らかにすることは困難。
Xらが所在した場所と宇田雨域、増田雨域及び大瀧雨域が位置関係を手掛かりに、「黒い雨」が降った蓋然性について検討し、Xらの「黒い雨」に遭ったという供述等の内容が合理的であるかを吟味すべき。
◎「黒い雨」体験者の被爆者援護法1条3号該当性(総論)について
⇒
①原爆が投下された際及びその後において、「黒い雨」を直接浴びるなどしたり、「黒い雨」降雨域で生活したりしていたこと、
②健康管理手当の支給対象となる11種類の障害を伴う疾病に罹患したこと
を要件として、
「黒い雨」体験者は、被爆者援護法1条3号の「被爆者」と認定すべき
⇒第1種健康診断特例区域の外に所在した者についても「被爆者」と認定され得る。
<解説>
402号通達の取扱いの被爆者援護法に照らした合理性を是認した上で、これを一歩進め、「黒い雨」体験者を同様の枠組みで被爆者と認定すべきと判断。
通達による取扱いが通達の取扱いが、直ちに法律の解釈に結び付くわけではない。
but
①被爆者援護法に照らした402号通達の合理性を検討の上、これが確固たる制度として永年にわたり整備、拡充が続けられてきたもので、法令上の根拠等に係る疑義が指摘されるなどしたことはないなどといった事情
②法律による行政の原理
⇒
402号通達による取扱いを被爆者援護法1条3号の解釈に取り入れている。
十分な科学的根拠なく、第1種健康診断特例区域内外で「被爆者」の認定を別にしてきた被爆者援護行政の不合理を指摘。
内部被ばくの危険性は、既に確立した判断となっている。
第1種健康診断特例区域指定の適法性等についても争点
but
被爆者健康手帳に関するXらの請求を全部認容⇒Xらが予備的請求と位置付けたこの点の判断はしていない。
判例時報2488・2489
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