無期転換後の労働者に適用される就業規則が別途定められている場合
大阪地裁R2.11.25
<事案>
Xらは、Yと有期労働契約を締結し、トラック運転手として配送業務に従事しながら、以後更新を重ねた。
前訴で、無事故手当、作業手当、給食手当て、皆勤手当及び平成25年12月以前の通勤手当の支給の相違は労契法20条に違反し不法行為を構成するとの判決⇒Yは、平成30年10月1日以降、無事故手当、作業手当、食事手当て及び皆勤手当(同手当は同年12月1日以降)を月間所定時間で女子て時給換算した金額を処遇改善費としてXらの賃金に組み入れ。
Xらは、平成30年4月1日、Yに対し、労契法18条1項に基づき、Xらが締結している有期労働契約の契約機関が満了する同年9月30日の翌日である同年10月1日を始期とする無期労働契約の締結を申し込み、Yは、同項に基づき、これを承諾したものとみなされた。
Yには、正社員就業規則とは別に、有期労働契約を締結している労働者に適用される就業規則があったところ、Yは、平成29年10月1日付けで、契約社員就業規則に無期転換に関する規定を追加し、
「無期転換後の労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件とする。」と規定。
<主張>
Xら:
労契法18条1項に基づき無期転換した後の労働条件について、雇用当初から無期労働刑悪を締結している正社員に適用される就業規則によるべき
⇒
Yに対し、
①正社員就業規則に基づく権利を有する地位にあることの確認を求める
②労働契約に基づく賃金請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権として、無期転換後の平成30年10月分の賃金について正社員との賃金差額の支払を求めた。
<判断>
● 無期転換後の労働条件に関し、正社員就業規則を適用することはできない⇒請求を棄却。
● Yにおいて、有期労働契約者と正社員とで、職務の内容に違いはないものの、職務の内容及び配置の変更の範囲に関して違いがあり、無期転換後のxらと正社員との間にも同様の違いがあるところ、
無期転換後のXらと正社員との労働条件の相違も、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲等の就業の実態に応じた均衡が保たれている限り、労契法7条の合理性の要件を満たす。
仮に、無期転換後のXらと正社員との労働条件の相違が両者の就業実態と均衡を欠き労契法7条に違反⇒契約社員就業規則の該当部分がXらに適用されないというにすぎず、正社員就業規則と契約社員就業規則が別個独立のものとして作成されている以上、労契法7条の効力としてXらに正社員就業規則が適用されることになるものではない。
労契法18条は、有期労働契約者の雇用の安定化を図るべく、無期転換により契約期間の定めをなくすることができる旨を定めたものであって、無期転換後の契約内容を正社員と同一にすることを当然に想定したものではない。
無期転換規定は、労契法18条1項第2文と同旨であり、無期転換後のxらに契約社員就業規則が適用されることによって、無期転換の前後を通じて期間の定めを除きXらの労働条件に変わりはない⇒無期転換規定の追加は不利益変更に当たらない。
<解説>
無期転換後の労働条件(期間の定めを除く)は、別段の定めがない限り、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一(労契法18条1項第2文)。
①無期転換後の労働者に適用される就業規則が存在しない場合に、正社員用の就業規則が適用されるか、
②無期転換後の労働者に適用される就業規則が整備された結果、労働条件が転換前後で変更される場合について、変更後の労働条件を定める新就業規則の規定が「別段の定め」として労働契約を規律するにあたっての労契法上の適用条文は7条か、9条か、10条かという問題。
判例時報2487
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