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2021年10月

2021年10月30日 (土)

国際裁判管轄の合意

東京高裁R2.7.22

<事案>
XがYに不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求⇒
Y:本邦裁判所に管轄がない旨の本案前の主張。

XY間の基本契約における本件条項に、
カリフォルニア州に所在する連邦又は州の裁判所を専属的管轄裁判所とする旨の合意。
紛争について別の書面による契約が適用されない限り、紛争が本契約に起因もしくは関連して生じているかどうかにかかわらず、本条の条件が適用される。」との規定。

<原審>
中間判決において、
国際裁判管轄の合意について、平成23年法律第36号施行前であっても、条理上、一定の法律関係に関して定められたものである必要がある。
本件条項の国際裁判管轄の合意が、その対象とする訴えについて、当事者間の訴えであるというほかに何らの限定も付しておらず、一定の法律関係に基づく訴えについて定められたものと認められない。
⇒無効であり、Yの本案前の主張には理由がない。

<判断>
本件訴えは不適法⇒訴えを却下。
国際裁判管轄の合意は、一定の法律関係に基づく訴えとして特定されなければ、無効
契約は、当事者の予測可能性を踏まえながら合理的な意思を尊重して解釈すべきであり、必要性がある限度で合意を無効としたり改変して解釈することができる
本件条項は、少なくとも基本契約に起因して又は関連して生じた紛争については、カリフォルニア州の裁判所に専属的合意管轄を定めるものと解釈することは、当事者の意思に反するものではない
その旨の合意は、一定の要件を満たし、有効である。

<解説>
国際裁判管轄の合意について
ある訴訟事件についてのわが国の裁判権を排除し、特定の外国の裁判所だけを第一審の管轄裁判所と指定する旨の国際的専属的裁判管轄の合意は、
当該事件がわが国の裁判権に専属的に服するものではなく
指定された外国の裁判所が、その外国法上、当該事件につき管轄権を有すること
の2個の要件をみたす限り、わが国の国際民訴法上、原則として有効。
(最高裁昭和50.11.28)

平成23年法律第36号による改正後の民訴法3条の7第2項:
第三条の七(管轄権に関する合意)
当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。
2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。

管轄合意については、管轄を新たに設定するもの⇒一定の法律関係に基づく訴えとして特定される必要がある。
本件では広汎な定めとなっていて、必ずしも「一定の法律関係に基づく訴え」に関する条項とは言い難い。
but
本判決:
当事者の合理的意思を尊重して解釈すべき⇒基本契約に起因又は関連して生じた紛争については、一定性の要件を充たすとして、国際裁判管轄の合意を有効とした。

判例時報2491

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2021年10月29日 (金)

児童相談所長による親権停止の申立

東京高裁R1.6.28

<事案>
親権者D
抗告人A(平成20年生まれ)
親権者Cは、親権者Dと婚姻するとともに、抗告人Aと養子縁組の申し出。
親権者Dの実母は、親権者Dが抗告人Aらの養育ができていないと児相に相談⇒一時保護の措置、乳児院への入所措置、児童養護施設への入所措置。
平成29年8月、抗告人Aらにつき児童養護施設への入所措置が解除
but
その後、親権者らは虐待行為。

平成29年12月、一時保護の措置。
抗告人Bは、平成30年4月、原審に対し、親権者らの抗告人Aに対する親権を2年間停止することを求める審判の申立て。
抗告人Aは、利害関係人参加をした。

<規定>
民法 第八三四条の二(親権停止の審判)
父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる
2家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める

<原審>
抗告人Aにつき平成29年12月に一時保護の措置がとられるまでの親権者らの親権の行使は不適当であり、抗告人Aの利益を害するもの。
but
抗告人Aにつき一時保護の措置がとられている現時点においては「子の利益を害する」との要件(民法834条の2第1項)を満たすとはいえない。

抗告人Bの申立てをいずれも却下する。

<判断>
①親権者らが抗告人Aに対して重大な虐待行為を繰り返した
②親権者らに抗告人Aの養育実績はほとんどなく、親権者らが今後抗告人Aを適切に養育できると期待することはできない
③親権者らに対して強い恐怖心を抱いている抗告人Aの今後の健全な成長のためには、親権者らの影響が心理的にも及ばないと抗告人Aが明確に自覚し得るような環境が必須
④抗告人Aが親権者らの親権の停止を希望している
⑤抗告人Aと親権者らが親子として再統合を果たす可能性がきわめて小さい

親権者らによる親権の行使は不適当であり、そのことにより抗告人Aの利益を害することが明らか
⇒原審判を取り消して親権者らの抗告人Aに対する親権を2年停止。

<解説>
原審:抗告人Aにつき一時保護の措置が取られている現時点においては親権停止の要件がない

本決定も、親権を停止るためには現時点において民法834条の2第1項の要件を満たす必要があることを前提に

親権者らの今後の養育能力、抗告人Aにとっての親権停止の必要性、抗告人Aの意向及び抗告人Aと親権者らの再統合の可能性を考慮。

判例時補油2491

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2021年10月27日 (水)

医師の準強制わいせつ事件

東京高裁R2.7.13

<原審>
無罪
Aは麻酔覚醒時のせん妄の影響を受けていた可能性がある⇒A証言の信用性には疑問がを差し挟むことができる。
アミラーゼ鑑定及びDNA定量検査も信用性に疑義があり、信用性があるとしてもその証明力は十分なものとはいえない⇒A証言の信用性を補強できないし、それ自体から被告人の犯行を推認させるものともいえない。

合理的な疑いが残る。

<判断>
有罪
A証言は信用できる。

原審:Aが麻酔覚醒時に暴言や見当識を失っているような発言
vs.
カルテに記載されておらず、その認定には疑問がある。
Aは上司にメッセージを送信⇒せん妄による意識障害があったことと相容れない。
Aがせん妄⇒直ちに性的幻覚を体験した可能性があることにはならない。
Aが訴える内容は、単に具体的であるにとどまらず、揺れ動く心理状態を反映する生々しいものである上、記憶の欠損がなく、一貫している。
せん妄による幻覚として説明することは困難。

控訴審における証人(医師)の証言によれば、Aはせん妄による幻覚を見たという可能性はなく、A証言の信用性に問題はない。

アミラーゼ鑑定、DNA型鑑定、DNA定量検査は、A証言の信用性を支え、これと相まってわいせつ被害を立証するものであれば足りる。
アミラーゼ鑑定で陽性反応を得られたというR証言の信用性を否定すべき理由はない。
陽性反応についての客観的資料がないことから直ちにR証言の信用性が失われるとはいえない。
唾液は他の体液よりもアミラーゼの濃度が高く、DNA定量検査の結果⇒Aの左乳首には唾液が付いていた可能性が高い。
DNA定量検査についても、検査過程の資料が保存されていない
but
検証可能性がかけているからといって、検査の信用性が直ちに損なわれることにはならない。

<原審>
本件付着物から被告人のDNA型のみ検出されたことについて、100倍法則からではなく、他の原因による可能性があるとする。
but
V(弁護人請求の専門家証人)による実験の際の付着物の採取方法が本件付着物の採取方法と同視できるかは明らかではない。
本件付着物の採取方法からはAのDNAが付着しなかったとは考え難い。
Vによる実験のうち触診実験⇒女性の乳頭から採取されたDNAの量は、最大でも本件付着物から採取された量の18.5分の1にとどまる。
⇒触診により付着した汗等の体液から被告人のDNAが付着した可能性はきわめて低い
⇒アミラーゼ鑑定の陽性反応が汗等の体液による可能性を否定できないとした原判決の説示は、論理則、経験則等に照らして不合理。
会話による飛沫がDNA定量検査の結果をもたらした可能性。
vs.
Aの左側に立っていたEの方がAの左胸に近かったにもかかわらず、EのDNA型は検出されていない。
Vによる実験のうち飛沫実験で採取された飛沫唾液の最大DNA量と比較して、本件付着物のDNA量は約642倍。
⇒A証言の信用性を補強する証明力を十分有している。

A証言+鑑定等の証拠を総合⇒合理的な疑いを容れない立証がある。

<解説>
原判決:Aが麻酔覚醒時に暴言や見当識を失っているような発言をしたという事実を認定し、それを1つの根拠として、Aは幻覚を見ていた可能性があると判断。
本判決:カルテに記載なし⇒原審の認定には疑問があると指摘。
but
それらの発言が存在しなかったとの判断は示されておらず、最終判断に至らない程度の疑問を前提に原判決の認定を非難することの当否は問題。

捜査段階の鑑定等において、残された資料の廃棄など、鑑定結果の事後的検証可能性を失わせる手法。
原判決:それらを理由に鑑定等の信用性を否定することを示唆(原判決は、その判断は留保して、仮に信用性が肯定できるとしても、必要な高い証明力がないと判断。)。
本判決:科学的厳密さを損なうことにはなるが、直ちに鑑定等の信用性が失われるとはいえないとして、鑑定等の証明力を検討し、A証言の補強としての価値を認めた。

判例時報2490

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2021年10月24日 (日)

退職勧奨が不法行為とされた事例

宇都宮地裁R2.10.21

<事案>
バス会社Y1の正社員であるXが、上司であるY2ないしY5から退職強要等を受けた⇒Y2ないしY5に対し共同不法行為に基づき、Y1に対して使用者責任に基づき、慰謝料等の損害賠償を求めた。

<争点。
Y2らの発言が不法行為に当たるか

<判断>
Xが主張する退職強要行為のうち、途中で原告が辞めたくないと述べたにもかかわらず、Y2らが3日間にわたり、
①Y1には要らない
②他の会社に行け
③退職願を書け
等という発言をし、
その発言の態様は、複数人の上司であるY2らからX1人に対してされたもので、
その時間も長いものであった。

その後Xがうつ状態に至った。

Xの非難に値する接客態度が発覚したことを踏まえても、Xの自由な意思決定を促す行為として許される程度を逸脱する⇒不法行為に当たる。
その余の行為のうち、人格否定については、
Xの接客態度に問題があったことを踏まえ、社会通念上許容される範囲を超えた違法なもの。
Xを「チンピラ」「雑魚」と呼称した行為は、指導との関連性が希薄で、社会通念上許容される指導を超え、不法行為に当たる。
過小な要求については、同種の読書と文書の作成を1か月以上にわたり繰り返し指示

退職勧奨の違法性等の事情を総合して、不法行為に当たる。

<解説>
退職勧奨:
辞職を勧める使用者の行為、又は使用者による合意解約の申込みに対する承諾を勧める行為

それが労働者の退職の意思表示を促す事実行為に留まる限り、解雇とは性質が異なる⇒解雇権濫用法理の適用はない。
社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨⇒労働者は使用者に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求することができる。

違法性の一般的判断基準:
労働者が自発的な退職意思を形成するために社会通念上相当と認められる程度を超えたか否かという基準(東京高裁H24.10.31)。

具体例:
労働者が退職しない旨を表明しているにもかかわらず長時間・長期間にわたり退職勧奨を繰り返した事案(最高裁)
無意味な仕事の割当てによる孤立化等の嫌がらせを伴って退職勧奨が行われた事案(東京地裁)
その名誉感情を不当に害する屈辱的な言辞を用いて繰り返し執拗に退職勧奨が行われた事案

社会通念上相当と認められる範囲を超えた違法な退職勧奨がされたと認定。

本判決:
詳細な事実認定をした上で、
Xの自由な意思決定を促す行為として許される限度を逸脱するか
という判断基準に照らして検討。

判例時報2490

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2021年10月23日 (土)

労働条件の相違が労契法20条(平成30年改正前)の不合理とは認められなかった場合

最高裁R2.10.13

<①事件>
事案 Y1と機関の定める労働契約を締結して東京地下鉄㈱の駅構内の直営売店における販売業務に従事していたX1およびX2が、Y1と期間の定めのない労働契約を締結している労働者のうち売店業務に従事している者とX1らとの間で、退職金等に相違があったことは労契法20条に違反⇒Y1に対し、不法行為等に基づき、前記相違に係る退職金に相当する損害賠償等を求めた。

【原審】
X1らの締結した契約が原則として更新され、実際にX1らが10年前後の長期間にわたって勤務⇒少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金、具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理
⇒X1らのような長期間勤務を継続した「契約社員B」に全くの退職金の支給を認めない点において、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる⇒退職金に関する不法行為に基づく損害賠償請求の一部を認容。

【判断】
X1らの退職金に関する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない⇒棄却されるべき。

<②事件>
【事案】
Y2(学校法人大阪医科薬科大学)と有期労働契約を締結し、教室事務を担当するフルタイムのアルバイト職員として勤務したX3が、無機労働契約を締結している正社員とX3との間で、賞与等に相違があったことは労契法20条に違反⇒Y2に対し、不法行為に基づき、前記相違に係る賃金に相当する額等の損害賠償を求めた。
Y2において、正社員には年2回の賞与が支給され、その支給額は通年で基本給4.6か月分が一応の基準。
アルバイト職員には賞与なし。

【原審】
Y2の正社員に対する賞与は、正職員としてその算定期間に在籍し、就労していたことの対価としての性質を有する⇒同期間に在籍し、就労していたフルタイムのアルバイト職員に対し、賞与を全く支給しないことは不合理。
X3につき、同時期に新規採用された正社員と比較し、その支給基準の60%を下回る部分の相違は不合理⇒賞与に関する不法行為に基づく損害賠償請求の一部を認容。

【判断】
X3らの賞与に関する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない⇒棄却されるべき。

<解説>
● 労契法20条(平成30年改正前のもの):
有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者の無期契約労働者の労働条件と相違する場合において、
当該労働条件の相違は、
労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)
当該職務の内容及び配置の変更の範囲
その他の事情
を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

有期契約労働者と無期契約労働者との相違に応じた均衡のとれた処遇を求める規定(最高裁H30.6.1)

最高裁:
労契法20条に違反するか否かにかかる判断の枠組みについて、
労契法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。

労契法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう。

有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき

● ①事件判決:
①Y1における退職金につき、正社員に対する退職一時金制度によるもの
②退職金規定により支給基準等が定められ、本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされている
③支給対象となる正社員は、Y1の本社の各部署や事業本部が所管する事業者等に配置され、業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあった
④退職金の算定基礎となる本給は年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていた

前記退職金は、労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、
Y1は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたもの。

②事件判決:
Y2における賞与につき、その支給基準や支給実績に加え、正職員の基本給が職能給の性格を有するものといえることや、おおむね、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていた

前記賞与は、労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものであり、Y2は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から賞与を支給することとしたものと言える。

①事件判決と②事件判決は、
Yらにおいて退職金や賞与を無期契約労働者のみに支給することが、使用者の経営・人事制度条の施策として一定の合理性があることを含意しているものと考えられるが、
有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違について、長期雇用のインセンティブ論をもってその不合理を否定する事情とみることを一般的に肯定しているものではなく、
個別の事情を踏まえて判断された退職金や賞与の趣旨に照らし、前記のような制度設計をすること自体が合理性を欠くものとはいい難い。

①事件判決:
Y1における退職金の趣旨を踏まえて、売店業務に従事する正社員と「契約社員B」の職務の内容等を考慮し、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。

その検討に当たっては、
労契法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲につき、売店業務に従事する正社員と「契約社員B」との間に一定の相違があったことが否定できない。
同条所定の「その他の事情」として、
売店業務に従事する正社員と他の多数の正社員との間に職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲について相違があること
売店業務に従事する正社員は、過去に行われた関連会社等の再編成によりY1に採用されることとなった者と「契約社員B」から登用された者が約半数ずつでほぼ全体を占めるなど、
その採用の経緯や職務経験等に照らし、賃金水準を変更したり、他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があった
Y1において契約社員が正社員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたという事情のも指摘され、これらが総合的に考慮。

● 使用者は、労働条件を設定する際には、同一の労働条件を設定しようとする労働者全体の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲を考慮することが通常
比較の対象を有期契約労働者と同様の業務に従事する無期契約労働者のみに限定するとしても、当該無期契約労働者が、同じ労働条件の適用を受ける無期契約労働者全体においてどのように位置づけられるのかについて、労契法20条所定の「その他の事情」として考慮することができる。

● 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条に短時間労働者及び有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇について通常の労働者の待遇との間の不合理な相違を設けることを禁止する旨の定めを置く。

判例時報2490

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2021年10月22日 (金)

登録意匠の要部の認定と、出願後の公知意匠の参照

大阪高裁R2.7.31

<事案>
トレーニング機器の意匠(「本件意匠」)に係る意匠権を有するXが、Yによるトレーニング機器の製造・販売は本件意匠権の侵害⇒Y商品の製造・販売の差止め等を求めた。

<争点>
Y商品に係る意匠(「Y意匠」)との類否。

<原審>
Y意匠は本件意匠に類似しない⇒Xの請求を棄却。

<経緯>
Y意匠については、 Yにより意匠登録。
Y意匠は本件意匠に類似するから意匠法3条1項3号により意匠登録を受けることができないとしてXにより無効審判請求⇒Y意匠は本件意匠に類似しないとして請求不成立審決がされ、審決取消訴訟を経て確定。
原審判決において、Y意匠が本件意匠に類似しないことを理由に、被告意匠の登録の有効が確定。
Y意匠は、本件意匠又はこれに類似する意匠利用するものではなく(意匠法26条1項)、被告商品は、登録されたY意匠そのものの実施であって、Yが業としてY商品を製造等することは、Yが専有する登録意匠の実施権(同法23条)の範囲内の行為。

<判断>
原審判決は相当。

<解説>
●意匠の類似判断の枠組
意匠権侵害訴訟における意匠の類似判断の枠組について「意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、需要者の最も注意をひきやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠が、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要」(近時のほとんどの裁判例で採用されている)

公知意匠を参酌

意匠の新規性(意匠法3条1項)及び創作非容易性(同条2項)という創作性の登録要件を充足して登録された意匠の範囲については、その意匠の美感をもたらす意匠的形態の創作の実質的価値に相応するものとして考えなければならず、公知意匠を参酌して、登録意匠が備える創作性の幅を検討する必要がある

●要部を把握する意匠
ほとんどの裁判例は、被疑侵害意匠の要部のみを把握して両意匠の類否判断。

「登録意匠と被疑侵害意匠とが類似するか」という両意匠を等値した観点からではなく、
「被疑侵害意匠が登録意匠に類似するか」という観点、
すなわち登録された意匠の範囲内に被疑侵害意匠が含まれているかという観点からなされている。

●参酌する公知意匠について
前記枠組みにおいて参酌する公知意匠は登録意匠の出願前のもの。
but
本判決:登録意匠の要部を認定するに当たり、出願後の公知意匠を観察することによってもの、当該登録意匠に含まれる当該形態が、需要者の注意を引くかどうかを判断することができると考える

本件意匠に先行、後行する公知意匠を総合しても、本件意匠のパッド片の形状等がありふれたものであるとか、需要者の注意を引くものではない。

ヒット商品こそ往々にして模倣品が表れる⇒登録意匠を真似た後行意匠が多数出現したという出現後の事情を参酌することにより、その登録意匠のそれが出願された時点の要部が事後的に明確になることもあろう
登録意匠に先行、後行する意匠を参酌しても登録意匠に含まれる特定の形状等がありふれたものとはいえない⇒登録意匠に先行する意匠のみを参酌した場合は理論上なおさらその形状等はありふれたものとはいえない。

商標と同様、登録意匠と別の登録意匠が類似することは本来ないという考え方がある。

先行登録意匠Aと後行登録意匠Bについて、
Aを引用意匠とするBに係る意匠登録無効審判と
Bを被疑侵害意匠とするAに係る意匠権侵害訴訟
とで類否判断の結論が異なってはならない

前者でAの出願後かつBの出願前に公知となった意匠が参酌されるのであれば、その意匠はこの意匠権侵害訴訟においても参酌されることになる。
その場合、Aを真似た後行意匠を多数参酌することにより、Aのそれが出願された時点の要部が事後的にあり触れたものであるとされることがあり得る。

判例時報2490

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2021年10月21日 (木)

任意後見契約に関する法律10条1項の「本人の利益のために特に必要があると認めるとき」に該当するとされた事案

水戸家裁R2.3.9

<事案>
事件本人Cの養子Aから後見開始の申立て(甲事件)⇒成年後見人に選任。
その後、事件本人Cと任意後見契約を締結した弁護士Bから任意後見監督人選任の申立て(乙事件)がされた。
①CとE(Cの妻)はAと養子縁組。
②Cは、F(Cの弟)の子I・Gと養子縁組。
③乙事件申立人Bは、Cの申立代理人として、Eの後見開始の審判の申立て⇒Eの成年後見人に。
④CとBの間で任意後見契約締結⇒任意後見登記。
⑤Cは、Bと同じ事務所の弁護士に訴訟委任し、BはEの成年後見人として、Aを被告として離縁の訴え。
⑥Aは、水戸家裁に、BをEの後見人から解任するよう申し立てた⇒Bは水戸家裁の勧めにより辞任の申立て⇒水戸家裁はそれを許可し、J弁護士及びK社会福祉士をEの成年後見人に。
⑦Aは甲事件申立て、その後Bは乙事件の申立て。
乙事件での診断書では、Cについて「自己の財産を管理・処分することができない。(後見相当)」にチェック。
⑧Cは、F及びGとの間で、1000万円をGに、500万円をFに帰宅する契約を締結。
⑦の診断書の日付け以降、GはCの預金口座から1500万円を引き出しているほか、合計360万円を引き出す等している。

<規定>
任意後見法 第一〇条(後見、保佐及び補助との関係)
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。

<判断>
・・・

①Bが任意後見人になることにより、その権限を濫用される具体的ななおそれまではみとめられないものの、公平らしさという点で問題が残る。
②Cを保護するためには、同意権、取消権のない任意後見制度では、Cの保護の万全を期することができるかについて問題がある。

後見を開始することが「本人の利益のために特に必要がある」というべきであり、成年後見人としては中立的な第三者である弁護士を選任することが相当である。

甲事件の申立てを認容し、
乙事件は却下。

<解説>
任意後見法10条1項:

立法担当者:
特別養子縁組の要件に関する民法817条の7に規定する「子の利益のため特に必要があると認めるとき」と同様、特別の必要性を要件とする趣旨の規定。

具体例:
①本人が任意後見人に委託した代理権を行うべき事務の範囲が狭すぎる上、本人の精神の状況が任意の授権の困難な状態⇒他の法律行為について法定の代理権の付与が必要な場合
②本人についての同意見・取消権による保護が必要な場合

本審判:
任意後見制度優先の原則を厳格に考える立場を前提に、②の本人についての同意権・取消権による保護が必要な場合に該当。

判例時報2490

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2021年10月20日 (水)

船主責任制限法が問題となった事案

広島高裁R2.2.21

<事案>
Xが所有し、Xと裸傭船契約を締結したAが運航させていた船舶が、山口県大畠瀬戸海域を航行中、・・・大島大橋の下を通過し・・・損傷を与えた。
⇒Xが、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(「船主責任制限法」)の規定に基づき、責任制限手続開始の申立てをした。

<一審>
責任制限手続開始決定

傭船者らであるY1ないしY5は、即時抗告。

主張:
①本件事故による損害は、Xによる船主責任制限法3条3項所定の損害発生のおそれがあることを認識しながら自己の無謀な行為によって生じたもの⇒無謀な行為が存在しないことについてXが立証責任を負う。
②Y1(山口県)に生じた損害のうち橋梁復旧関連費用は、道路法58条1項所定の原因者負担金に該当する公法上の債権⇒船主責任制限法による責任制限の対象にならない⇒本件事故による制限債権の額が責任限度額を超えないことが明らかで、Xの申立てには船主責任制限法25条2号所定の棄却事由がある。

<判断>
船主責任制限法3条3項所定の責任制限阻却事由の存在の立証責任は債権者であるYらが負う。
Xに同項所定の無謀な行為があったとは認められない。
道路法58条1項に基づく公法上の債権にも船主責任制限法の適用がある。

<解説>
船主責任制限法:
海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約(「旧条約」)を国内法化したもの。
その後、1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約(「新条約」)の批准及び旧条約の廃棄⇒新条約に 依拠して改正。

責任制限阻却事由:
旧条約⇒船舶所有者についてんは、故意又は過失がある場合、その者に責任制限を認めない。
立証責任は、法廷地法の定めに委ねられた。

責任限度額の引き上げを伴う責任制限制度合理化⇒責任制限阻却事由を限定する必要。
新条約⇒船舶所有者の責任制限阻却事由を故意または無謀な行為によって損失が生じた場合に限定。
その立証責任は債権者が負う。

責任制限の主体は、船主責任制限法2条1項2号、2号の2,3号所定の船舶所有者等及び救助者並びにその被用者等。

船舶所有者等又はその被用者等のうち1人が船主責任制限法で定めるところによりその責任を制限すると、これらの責任制限の主体たりうる者全員につき責任制限の効果が生じる(6条1項)。
これらの者の責任制限阻却事由は共通であるが、阻却事由の有無は、個々の主体ごとに判断され、被用者等に阻却事由があることは、その使用者である船舶所有者等の責任制限の可否に影響を及ぼさない。
法3条所定の責任制限阻却事由の立証責任は、改正前から債権者にあるとされていた。

責任を制限することができる債権:
船主責任制限法3条1項及び2項の各号に掲げられ、各号中に反対の趣旨の明示がない限り、責任制限の対象になる。

判例時報2490

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心房細動の判断についての医療過誤(肯定)

東京高裁R2.12.10

<事案>
心房細動に対するカテーテルアブレーション手術を実施中に急性心タンポナーデを発症した結果、低酸素脳症を起こして遷延性意識障害⇒入院治療継続したものの死亡。

配偶者Xが、本件病院を開設する医療法人Yに対し、本件手術に適合性がないのに実施した過失あがるとして
主位的に不法行為に基づき
予備的に診療契約上の債務不履行に基づき
損害賠償請求を求めた。

<主たる争点>
Z医師が本件患者には心房細動と診断できる所見がないのもかかわらず、本件手術を実施した過失があるか?

<原審>
請求を棄却。

<判断>
心房細動の確定判断が不適切であったかどうかについて鑑定⇒Z医師が、本件患者には心房細動と診断できる所見がないにもかかわらず、本件手術を実施したことに過失が認められる⇒Xの請求を一部認容。

①心房細動診断について、平成22年当時の医療水準としては、自然に発生した発作時における心電図を記録して心房細動を確認することが原則であったのに、
②Z医師が、このような確認しないままに心房細動であるとの確定判断
平成22年当時の医療水準に反したものであって、過失があった。

<解説>
医師の注意義務の基準:
最高裁昭和36.2.16:「最善の注意義務」と指摘。

その後の多数の判例:
「最善の注意義務」として、診療当時の臨床医学の実践における医療水準であることが示された。

近時の判例:
新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情が存しない限り、右知見は右医療機関にとっての医療水準」(最高裁H7.6.9)

医師が医薬品を使用するに当たって右文書(能書)に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される。(最高裁H8.1.23)

判例時報2490

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2021年10月19日 (火)

債権仮差押えと債務者・第三債務者間の示談

最高裁R3.1.12

<事案>
XがYに対し、Yが起こした交通事故について損害賠償を求めた事案。
X:本件事故で死亡したBの相続人らに対して債権を有しており、これを請求債権として、本件相続人らが相続により取得した被害者BのYに対する損害賠償請求権を仮に差し押さえた上、その後に差押命令及び転付命令を得て、同損害賠償請求権を取得。
Y:仮差押えを受けた後、本件相続人らとの間で、
①Yが本件相続人らに対し、本件事故による一切の損害賠償金として4063万円余りの支払義務があることを認めること、
②Yと本件相続人らとの間には、本示談で定めるほか、何ら債権債務のないjことを相互に確認すること等を内容とする示談

XがYに対して、本件示談金額を超える額の請求をすることができるか?

<原審>
本件示談が仮差押えにより禁止される債権者(X)を害する処分であるということは認められない⇒XがYに対して本件示談金額を超える額の請求をすることはできない。

<判断>
債権仮差押命令の第三債務者であるYは、仮差押債権者であるXを害する限度において、本件示談にをもってXに対抗することはできないというべきであり、原判決の指摘する事情はこの判断を左右するものではない⇒原判決には法令解釈の誤りがある。

<解説>
債権仮差押命令:
仮差押債務者に対して債権の取立てその他の処分を禁ずる効力(処分禁止効)を有しており、
債権の仮差押えによって仮差押債権者を害する一切の処分が禁止され、
仮差押えの後に仮差押債務者がした処分は、仮差押債権者を害する限度において、仮差押債権者に対抗することができない

本件示談は、Xが仮に差し押さえた損害賠償請求権の金額が本件示談金額を超えないことを確認する趣旨を含む
⇒Xが仮に差し押さえた損害賠償請求権の実際の金額が本件示談金額を上回るときであっても、XがYに対して本件示談金額を超える額の支払を請求することはできない⇒本件示談がXを害し得るものであることは明らか。

判例時報2490

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2021年10月16日 (土)

覚せい剤使用につき、解離性同一性障害の影響による心神耗弱⇒再度の全部執行猶予の事例

大阪高裁H31.3.27

<事案>
覚せい剤事犯(自己使用と所持)のうちの使用について、解離性同一性障害の影響による心神耗弱⇒同種自判による執行猶予中(自己使用2回で、懲役2年、執行猶予4年)の犯行でありながら、再度の全部執行猶予を付した事案。

<一審>
被告人が解離性同一性障害に罹患していることは認めた。
but
①それが不完全型であって、別人格が出現しても元来の人格も併存
②動機が十分了解可能

完全責任能力を肯定。
懲役1年2月、その刑の一部である懲役4月の執行を2年間猶予。

<判断>
A医師の見解をより他覚的に検討し、
犯行の2か月前頃から、「おっちゃん」の人格が被告人に憑依し、覚醒剤を買えとか使えと指示し、また、「おっちゃん」に殴られたり蹴られたりという体感幻覚
もともとあった希死念慮も強くなり、
抵抗できなくなって覚醒剤使用に至ったという、A医師の見解を基本的に採用。

使用について心神耗弱を認めた。

<解説>
● 一審と控訴審の違い:
解離性同一性障害の症状が犯行時どの程度深刻であったかの認定の違いによる。
①被告人には以前から別人格が出現することがあったこと
②かつて交際相手から、覚醒剤の使用や暴力的性行為を強いられるなど相当辛い目に遭わされており、「おっちゃん」はその者の人格が影響したものと考えられる
③犯行当時は、「おっちゃん」に殴る蹴るなどされるという体感幻覚まであった
ことなど、
被告人や親族の供述とA医師の鑑定意見を基礎に認定

これが心神耗弱という判断に結びついた。

解離性同一性障害(多重人格)により、責任能力への影響が認められた例は極めて少ない
詐病と診断
鑑定が前提とした被告人の公判供述が信用できない⇒鑑定も信用できない
解離性同一性障害に罹患していると認められても、責任能力をどのように考えるか?
A:多重人格のうち、副人格の状態で行なった行為につき、行為時の人格を問題にし、完全な責任能力を問えるという立場(行為者人格アプローチ)
B:主人格と行為時の人格との関連を問題にするという立場(グローバルアプローチ)

本件:
憑依型という特殊性もあるが、元来の人格(主人格)と副人格が併存する中で、副人格の主人格への働きかけの内容、程度等を検討し、責任能力(行為制御能力)の著しく減退した状態であった疑いを排斥できないとしたもの。
また、弁護人の私的鑑定意見が判決に採用された例として参考に。

判例時報2488・2489

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2021年10月14日 (木)

特別養子の準拠法が問題となった事案

東京家裁R2.9.7

<事案>
カナダ国籍の申立人と日本国籍の申立人妻が、日本国籍の未成年者との特別養子縁組を申し立てた事案。

<判断>
申立てを認容し、未成年者を申立人らの特別養子とする旨の審判。

<解説>
● 特別養子縁組制度について、民法の一部を改正する法律(令和1年法律第34号)で改正。
施行期日:令和2年4月1日。
but
施行時に裁判所に係属している事件には適用されない。

本件は改正前の法律が適用。

●隠れた反致について
養子縁組における準拠法:
養親となるべき者の本国法(法適用通則法31条1項前段)

同項後段:
養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分(「保護要件」)があることが養子縁組の成立要件⇒その要件も備えなければならない。


カナダ国籍の申立人夫との関係では、カナダ法及び子の本国法である日本法における保護要件が、
日本国籍である申立人妻との関係では、日本法が
それぞれ適用。
法適用通則法41条本文:
「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。」という反致についての規定。

反致については、本国の国際私法に直接の抵触規定がなくとも、その国際私法全体から総合的に判断して日本法に準拠すべきものと認められる場合には、成立を認めるべきとされている。

その外国では国際民事訴訟法上自国に裁判管轄権のある場合には常に自国実質法を適用しているという場合に、その外国の国際私法全体として、もし日本の裁判所に管轄権があれば日本法を準拠法にするという態度をとっているものとして反致を認めるという考え方がある。(=隠れた反致)

●カナダ法における隠れた反致
カナダについては、
カナダ一般の国際私法の明文の規定は見当たらず、一般にケベック州を除くカナダの諸州の法大系は英国のコモンローを継受⇒人の身分に関する国際私法についても英国の国際私法と同様の原則がとられているものと解される。

養子縁組は養親のドミサイルがありかつ養親と養子が居住している地の法律によるべきもの
という裁判例あり。

養親となるべき者のドミサイルの認定が必要。
ドミサイル(=そこを本拠とする意思(永住意思)をもって居住する地域)
法域ごとに異なるところがある。

カナダ:
まず、出生により、ドミサイルを取得が、
当事者の選択によって新たにドミサイルを取得することができる。

選択によるドミサイル取得:
①現実に居住をしていること
②そこに永住する意思
の2つの要件が必要。

●本件
①申立人夫が平成30年から日本で生活し、今後も相当期間にわたって日本に居住する予定
②申立人夫が日本への永住も希望

申立人夫のドミサイルが日本にある⇒反致の適用を肯定。

判例時報2488・2489

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2021年10月13日 (水)

行手法14条1項本文の理由提示の要件を満たさない⇒運転免許取消処分を取り消し

札幌地裁R2.8.24


<事案>
北海道公安委員会から、運転免許を取り消し、取消しの日から1年間を免許を受けることができない期間として指定する処分を受けた⇒本件処分の理由とされた交通事故についてXに安全配慮義務違反はなく、また、本件処分には理由提示の不備の違法がある⇒Y(北海道)を相手方に本件処分の取消しを求めた。

<争点>
①本件事故に係るXの過失の有無
②本件処分に係る理由提示の違法性

<判断>
●争点①
①本件道路に歩行者が存在することは予見可能
本件事故時の視界の状況⇒Xには、歩行者と安全にすれ違うために徐行するか、徐行によっても歩行者の安全を確保できない場合には、一時停止して視界の回復を待つ義務があった

Xが本件車両を一時停止又は直ちに停止することができる速度まで減速させることなく進行させ、本件事故を発生させたことについて、進路の安全を十分に確認することなく、道路及び交通の状況に応じて、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転することを怠ったとうい安全配慮義務違反があった。

●争点②
最高裁H23.6.7を引用し、
行手法14条1項本文の理由提示の適法性は、
当該処分の根拠法令の規定内容、
当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、
当該処分の性質及び内容、
当該処分尾原因となる事実関係の内容
等を総合考慮してこれを決定すべき。

本件処分書は、
原告の運転行為に安全運転義務違反(道交法70条違反)があるとした場合の処分の根拠法令とその適用関係は網羅している
but
同条が同法各条に規定する具体的な義務規定を補う趣旨で設けられた抽象的な規定であり、安全運転義務違反となる場合を定める具体的基準等が見当たらない

個別具体的な事実関係によっては、同条違反であることが示されるだけでは、処分の名宛人である運転者において、自己にどのような運転をすべき義務が生じており、又は、どのような運転行為が安全運転義務違反とされるのかを認識することが困難な場合があり、
そのような場合に処分理由が同条違反であるとのみ示されたとしても、処分の名宛人に対して不服申立ての便宜が与えられたとはいい難く、
また、処分をする行政庁においても、具体的な義務内容とその義務違反に当たる行為を認識しないまま処分に至るおそれがあり、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制する趣旨に反することにもなる

前記の場合において、処分理由として、同条違反であるとしか示されなかったときは、行手法14条1項本分が定める理由の提示としては不足する。
本件事故に係る事実関係の下においては、処分理由とされ得る具体的な安全運転義務違反行為が複数あり得、しかも、それら複数の義務違反行為は両立し得ない
⇒前記の場合に当たる

処分理由として、道交法70条違反であるとしか示さなかった本件処分における理由の提示には行手法14条1項本分に反する違法がある。

本件処分を取り消した。

<規定>
行政手続法 第一四条(不利益処分の理由の提示)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。

道路交通法 第七〇条(安全運転の義務)
車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

<解説>
●行手法14条1項本文の理由提示の適法性:
上記平成23年最判
その判断の前提となる理由提示の趣旨及び理由提示が備えるべき要件:
①不利益処分に理由提示を要するのは、行政庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせることにより、相手方の不服申立てに便宜を与えることにある。
その理由の記載を欠く⇒当該処分自体がい違法となり、原則として取消事由となる。
②理由提示の程度:
処分の性質、理由提示を命じた法律の趣旨・目的に照らして決せられる。
③処分理由:
その記載自体から明らかでなければならなず、単なる根拠法規(根拠法条)の摘示は、理由記載には当たらない。
④理由提示:
相手方がその理由を推知できるか否かにかかわらず、その記載自体からその処分理由が明らかとなるものでなければならない。

●本件処分の根拠法条とされている道交法70条:
車両、道路等の状況によって、運転者に課される運転義務には様々な形態があり、同法各条が規定する具体的な義務規定のみではまかないきれない⇒それを補う趣旨で設けられた抽象的な規定。

個別具体的な事実関係に照らし、安全運転義務違反と記載するのみでは、処分の名宛人が負っていた義務の内容や義務違反行為の内容を認識することが困難な場合があり、このような場合には、前記③④の観点から理由提示としては不十分

本件事故の態様
名宛人であるXにとって、安全運転義務違反と記載されるのみでは、Xの負っていた義務の内容や義務違反行為の内容を一義的に特定することは困難

本件の事実関係の下では、本件処分における理由提示が不適法と判断。

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2021年10月12日 (火)

高額での土地購入が市長の裁量権の範囲を逸脱したもので、違法とされた事例

奈良地裁R2.7.21

<事案>
奈良市の住民であるXら及びZら(共同訴訟参加人)が、
奈良市長であるAが新たな火葬場を建設するために、地権者であるBらとの間で、土地の売買契約を締結したことについて、
代金額が高額に過ぎるなどの違法
火葬場の建設工事契約の中に本件買収地に投棄されている産業廃棄物の撤去費用等を含めて奈良市が負担することは違法

奈良市の執行機関であるYに対し、
(1)
①主位的に、本件売買契約を締結したA及びBらに対して、民法709条及び719条に基づく損害賠償請求として、本件売買契約の代金額相当額の返還を請求することを求め
②予備的に、本件売買契約が無効である旨主張して、民法703条に基づく不当利得返還請求として、本件売買契約の代金額相当額の返還を請求することを求めるとともに、
(2)
本件請負契約の代金のうち、産業廃棄物の撤去費用等の支出の差止めを求めた。

<判断>
①・・・・本件売買を締結する必要性や交渉の経緯を踏まえても、産業廃棄物の処理費用を考慮すると、本件買収地は実質的には無価値
②産業廃棄物の存在を価格形成要因から除外した鑑定額の3倍以上である本件売買契約の代金額は余りにも高額に過ぎる
③奈良市において、土地収用法に基づく用地取得について検討した形跡が窺われない

本件売買契約の締結行為は、Aの市長としての裁量権の範囲を逸脱したものであり、違法
本件買収地は実質的に無価値⇒本件売買契約の締結により、本件売買契約における代金額相当額の損害が奈良市に生じた。

Bらについては、一般に契約締結の過程で、一方当事者が自己に有利な条件を提示、要望するのは当然というべき⇒不法行為は成立しない。

本件売買契約の締結は、Aの市長としての裁量権を著しく逸脱し、又は濫用したものとまでは認め難い⇒本件売買契約が私法上無効であると認めることはできない。

Aの不法行為責任を肯定し、Aに対して、本件売買契約の代金額と同額の支払を請求sるうよう求める限度で、Xら及びZらの請求を認容

<解説>
地方公共団体の長がその代表者として不動産の売買契約を締結することは、当該不動産を取得する目的やその必要性、契約の締結に至る経緯、契約内容に影響を及ぼす社会的、経済的要因やその他諸般の事情を総合考慮した合理的な裁量に委ねられている。

当該契約に定められた売買代金額が鑑定評価等において適正とされた売買代金額を超える場合であっても、前記のような諸般の事情を考慮した上でなお、地方公共団体の長の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものと評価されるときでなければ、当該契約に定められた売買代金額をもって直ちに当該契約の締結が地自法2条14項等に反し違法となるものではないと解されている。
(最高裁H25.3.28)

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2021年10月 9日 (土)

「黒い雨」訴訟1審判決

広島地裁R2.7.29

<事案>
Xらが、原爆投下後に降ったいわゆる「黒い雨」に遭った⇒原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当
被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消し及び同交付の義務付け等を求めた。

<判断>
●承継人らにおける訴訟承継の成否

最高裁H29.12.18:
申請者が被爆者健康手帳行為付及び健康管理手当認定の各申請をしている場合に、各申請却下処分の取消しを求めるとともに、被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める事案:
健康管理手当の受給権が、当該申請者の一身に専属する権利ではなく、相続の対象となるもの⇒訴訟係属中に申請者が死亡した場合には、その相続人が当該訴訟を承継。
本件:健康管理手当認定申請却下処分の取消し等を求めていない
but
被爆者健康手帳の交付処分の効力を申請日に遡らせる取扱いが既に確立した行政実務となっている。

被爆者健康手帳交付の法的効果は、広く被爆者援護法が規定する諸手当の受給権等との関係で、交付申請日に遡って生じるのが相当
②被爆者健康手帳が交付された場合に遡って発生しる一般疾病医療費(被爆者援護法18条)の受給権が、当該申請者の一身に専属する権利ではなく、相続の対象となる
③申請者が被爆者であるとすれば、葬祭料(被爆者援護法32条)の支給を受け得る者について、行政処分の効力を排除するために訴訟承継を肯定すべき

承継人らによる訴訟承継を認めた。

被爆者援護法1条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」ことの意義
①被爆者援護法の制定に至る経緯等
②原爆医療法が、原爆投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害(被爆による健康上の障害の特異性と重大性)に着目して、国家補償的配慮等に基づき被爆者援護のための諸制度を規定(最高裁)

「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の基にあった」とは原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったことをいう。

●Xらが、被爆者援護法1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するか

◎「黒い雨」降雨域について
「黒い雨」降雨域を的確に示す気象記録や残留放射能の調査結果などの客観的証拠はないない。
but
本判決:
各研究結果の調査手法や基礎資料の数、内容等に加え、その他資料との整合性を詳細に検討⇒多数の住民が揃って内容虚偽の回答をしたとは考え難い⇒「黒い雨」降雨域は宇田雨域にとどまるものでなく、より広範囲に「黒い雨」が降った事実を確実に認めることができる。
⇒増田雨域は有力な資料として位置付けられ、大瀧雨域も相応に斟酌すべき。
「黒い雨」降雨域の全体像を明らかにすることは困難。
Xらが所在した場所と宇田雨域、増田雨域及び大瀧雨域が位置関係を手掛かりに、「黒い雨」が降った蓋然性について検討し、Xらの「黒い雨」に遭ったという供述等の内容が合理的であるかを吟味すべき。

◎「黒い雨」体験者の被爆者援護法1条3号該当性(総論)について

①原爆が投下された際及びその後において、「黒い雨」を直接浴びるなどしたり、「黒い雨」降雨域で生活したりしていたこと、
②健康管理手当の支給対象となる11種類の障害を伴う疾病に罹患したこと
を要件として、
「黒い雨」体験者は、被爆者援護法1条3号の「被爆者」と認定すべき
⇒第1種健康診断特例区域の外に所在した者についても「被爆者」と認定され得る。

<解説>
402号通達の取扱いの被爆者援護法に照らした合理性を是認した上で、これを一歩進め、「黒い雨」体験者を同様の枠組みで被爆者と認定すべきと判断。

通達による取扱いが通達の取扱いが、直ちに法律の解釈に結び付くわけではない。
but
①被爆者援護法に照らした402号通達の合理性を検討の上、これが確固たる制度として永年にわたり整備、拡充が続けられてきたもので、法令上の根拠等に係る疑義が指摘されるなどしたことはないなどといった事情
②法律による行政の原理

402号通達による取扱いを被爆者援護法1条3号の解釈に取り入れている。

十分な科学的根拠なく、第1種健康診断特例区域内外で「被爆者」の認定を別にしてきた被爆者援護行政の不合理を指摘。
内部被ばくの危険性は、既に確立した判断となっている。

第1種健康診断特例区域指定の適法性等についても争点
but
被爆者健康手帳に関するXらの請求を全部認容⇒Xらが予備的請求と位置付けたこの点の判断はしていない。

判例時報2488・2489

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2021年10月 6日 (水)

那覇孔子廟訴訟上告審判決

最高裁R3.2.24

<事案>
那覇市の管理する都市公園内に儒教の祖である孔子などを祀った施設を設置することをZに許可した上で、その敷地の使用料の全額を免除した当時の市長の行為は、憲法の定める政教分離原則に違反し、無効⇒YがZに対して平成26年4月1日から同年7月24日までの間の公園使用料181万7063円を請求しないことが違法に財産の管理を怠るもの⇒市の住民であるXが、Yを相手に、地自法242条の2第1項3号に基づき前記怠る事実の違法確認を求めた住民訴訟。

<判断>
最高裁H22.1.20と同様の判断枠組みに依拠した上で、本件免除を違憲と判断。
地自法231条の3第1項、240条、地方自治法施行令171条の2から171条の7まで等の規定⇒客観的に存在する使用料に係る債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず、YがZに対して本件使用料の全額を請求しないことは違法。
市長が市の管理する都市公園内の国公有地上に孔子等を祀った施設を所有する一般社団法人に対して前記施設の敷地の使用料の全額を免除した行為は、次の(1)~(5)など判示の事情の下では、前記施設の観光資源等としての意義や歴史的価値を考慮しても、一般人の目から見て、市が前記法人の前記施設における活動に係る特定の宗教に対して特別の便益を提供し、これを援助していると評価されたもやむを得ない⇒憲法20条3項に違反する。
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)

<規定>
憲法 第20条〔信教の自由、国の宗教活動の禁止〕
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
②何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない

憲法 第89条〔公の財産の支出利用の制限〕
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

<解説>
判例:
政教分離原則の基礎となり、その解釈の指導原理となる政教分離原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教との関わり合い持つことをを全く許されないとするものではなく、
宗教との関わり合いをもたらす行為の目的及び効果に鑑み、
その関わり合いが社会的、文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするもの。

目的効果基準。

ある行為が憲法20条3項により禁止される「宗教的活動」に該当するか否かを検討するに当たっては、当該行為の主催者が宗教家であるかどうか、その順序作法(式次第)が宗教の定める方式にのっとったものであるかどうかなど、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行なわれる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行なうについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならないとされ、
憲法89条により禁止される「公金その他の公の財産・・・を支出し、又はその利用に供し」(「公金支出行為等」)に該当するか否かについても、
前記の政教分離原則の意義に照らして、当該公金支出行為等による国家と宗教との関わり合いが前記の相当とされる限度を超えるものをいうものと解すべきであり、これに該当するかどうかを検討するに当たっては、憲法20条3項と同様の基準によって判断しなければならないとされていた。

判例時報2488・2489

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2021年10月 5日 (火)

少年の複数での民家に侵入しての強盗致傷の事案

<原決定>
・・・
少年を一定期間少年院に収容して矯正教育を施す必要⇒第1種少年院に送致するのが相当
少年に強い自律性を身につけさせる必要がある⇒その処遇については、相応の時間をかけて行なうべきであり、短期の処遇勧告を付することは相当でない。

<判断>
原決定の収容処遇の判断を是認し、抗告を棄却。
but
収容期間については、その判断は合理性に欠けるとして、一般短期処遇が相当

①少年の保護処分歴
②少年の非行性の程度
③少年緒反省、更生への意欲
④保護環境(両親との関係、両親の監護意欲)

<解説>
● 原決定: 少年に強い自律性を身につけさせる必要がある⇒その処遇については、相応の時間をかけて行なうべきであり、短期の処遇勧告を付することは相当でない。
vs.
長期処遇が相当であることの根拠としては若干抽象的で説得力に欠け
鑑別結果の処遇意見と異なる処遇選択をする場合には、鑑別結果の根拠が不十分であることを相応に示す必要がある

処遇選択に当たっては、少年の健全育成を図るため少年の可塑性を踏まえた将来予測を伴うものであり、収容処遇の場合には少年の自由を拘束する側面があることは否定できない
実務上、謙抑的な運用が行なわれている。

社会内処遇か収容処遇かの選択・判断に当たっては、事案の重大性や態様の悪質性等の非行事実の評価、資質、能力、性格・行動傾向等少年の資質上の問題のほか、
保護処分歴の有無・内容、
少年の反省・更生の意欲、
保護環境、
社会的資源等の中に、少年の改善更生に結び付く要素がある場合には、直ちに収容処遇とはせずに、そうした要素を生かすことができないか
家裁調査官による試験観察を始め、関係諸機関による指導監督等に期待することが可能かを十分に考慮すべきである
という基本的な発想があるように思われる。

● 家庭裁判所が一般短期の処遇勧告を付さなかったことが「処分の著しい不当」(少年法32条)に当たるかについては争いがある。

A:肯定し、少年院の指定に準じるものとして抗告を認める
B:否定(多数説)

短期処遇は運用上の処遇過程にすぎない
②矯正機関が処遇勧告に従うといっても、それは事実上のものにすぎず、分類権限は矯正機関にある
but
実務上は、少年院送致自体に対する不服申立てを解釈した上で、それを適法として扱い、審理の結果、短期処遇が相当との判断に達した場合には、抗告を棄却した上で、理由中で短期処遇が相当である旨の判断を示す。

抗告審が審査の結果、抗告に理由があると判断⇒決定をもって、原決定を取り消して、事件を原審裁判所に差し戻さなければならない。(少年法33条2項)

少年に対して最終的にいかなる処分をすべきかは、家庭裁判所がその専門的判断に基づいて決定すべき。
処遇勧告についても同様であり、実務上は、抗告審が直接収容先に処遇勧告をするのではなく、短期処遇が相当と判断した旨の少年院長宛ての通知書を発するとともに、その旨の通知を行なったことを原裁判所にも通知し、原裁判所はこれを受けて改めて処遇勧告を行なう例が多い。

判例時報2487

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2021年10月 3日 (日)

無期転換後の労働者に適用される就業規則が別途定められている場合

大阪地裁R2.11.25

<事案>
Xらは、Yと有期労働契約を締結し、トラック運転手として配送業務に従事しながら、以後更新を重ねた。
前訴で、無事故手当、作業手当、給食手当て、皆勤手当及び平成25年12月以前の通勤手当の支給の相違は労契法20条に違反し不法行為を構成するとの判決⇒Yは、平成30年10月1日以降、無事故手当、作業手当、食事手当て及び皆勤手当(同手当は同年12月1日以降)を月間所定時間で女子て時給換算した金額を処遇改善費としてXらの賃金に組み入れ。

Xらは、平成30年4月1日、Yに対し、労契法18条1項に基づき、Xらが締結している有期労働契約の契約機関が満了する同年9月30日の翌日である同年10月1日を始期とする無期労働契約の締結を申し込み、Yは、同項に基づき、これを承諾したものとみなされた。
Yには、正社員就業規則とは別に、有期労働契約を締結している労働者に適用される就業規則があったところ、Yは、平成29年10月1日付けで、契約社員就業規則に無期転換に関する規定を追加し、
「無期転換後の労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件とする。」と規定。

<主張>
Xら:
労契法18条1項に基づき無期転換した後の労働条件について、雇用当初から無期労働刑悪を締結している正社員に適用される就業規則によるべき

Yに対し、
①正社員就業規則に基づく権利を有する地位にあることの確認を求める
②労働契約に基づく賃金請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権として、無期転換後の平成30年10月分の賃金について正社員との賃金差額の支払を求めた。

<判断>
無期転換後の労働条件に関し、正社員就業規則を適用することはできない⇒請求を棄却。
● Yにおいて、有期労働契約者と正社員とで、職務の内容に違いはないものの、職務の内容及び配置の変更の範囲に関して違いがあり、無期転換後のxらと正社員との間にも同様の違いがあるところ、
無期転換後のXらと正社員との労働条件の相違も、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲等の就業の実態に応じた均衡が保たれている限り、労契法7条の合理性の要件を満たす。

仮に、無期転換後のXらと正社員との労働条件の相違が両者の就業実態と均衡を欠き労契法7条に違反⇒契約社員就業規則の該当部分がXらに適用されないというにすぎず正社員就業規則と契約社員就業規則が別個独立のものとして作成されている以上、労契法7条の効力としてXらに正社員就業規則が適用されることになるものではない。

労契法18条は、有期労働契約者の雇用の安定化を図るべく、無期転換により契約期間の定めをなくすることができる旨を定めたものであって、無期転換後の契約内容を正社員と同一にすることを当然に想定したものではない

無期転換規定は、労契法18条1項第2文と同旨であり、無期転換後のxらに契約社員就業規則が適用されることによって、無期転換の前後を通じて期間の定めを除きXらの労働条件に変わりはない⇒無期転換規定の追加は不利益変更に当たらない

<解説>
無期転換後の労働条件(期間の定めを除く)は、別段の定めがない限り、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一(労契法18条1項第2文)。
①無期転換後の労働者に適用される就業規則が存在しない場合に、正社員用の就業規則が適用されるか、
②無期転換後の労働者に適用される就業規則が整備された結果、労働条件が転換前後で変更される場合について、変更後の労働条件を定める新就業規則の規定が「別段の定め」として労働契約を規律するにあたっての労契法上の適用条文は7条か、9条か、10条かという問題。

判例時報2487

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2021年10月 1日 (金)

執行役員退任⇒賃金減額が争われた事例

東京地裁R2.8.28

<事案>
Xは、株式会社Yの常務執行役員で月額120万円の報酬⇒執行役員退任で、基本給月額34万1000円、役職を部長として、役職手当11万円を支給する旨の人事上の措置(本件措置①)⇒専任部長とされ、役職手当11万円をなくす措置(本件措置②)

Xは、本件各措置は不当な降格・降給であって無効⇒雇用契約上の地位として、本件各措置前の労働条件の確認を求めるとともに、差額賃金と遅延損害金の支払を求めた。

<判断>
執行役員としてのXの地位が雇用契約に基づくものであることは当事者間に争いがない。
Yにおける就業規則や給与規程及び執行役員規程の内容を子細に検討⇒
Yにおいては、従業員に対し、広く就業規則や給与規程が適用されるものとされており、その直接的な適用を受けない者は執行役員ほか就業規則所定の者に限られ、これらの者については別途規定が設けられることとされている。
執行役員規程が執行役委員に係る前記別途規程に該当し、同規程は、執行役員に就任した場合における、その間の労働条件を規程したもの。

①各規定間の位置付け
②執行役員規程が執行役員の就業条件(報酬を含む。)について別途の規定を置いた趣旨

執行役員在任中になされた特別対偶も退任に伴い終了し、執行役員就任時における旧来の労働条件に復することとなるとみるのがこれらの規程の趣旨に叶う。

● Xに対して支払われていた常務執行役員当時の月額120万円は、Xが役付執行役員に就任していたことに基づくもの⇒このような待遇は執行役員の退任により終了し、旧来の労働条件が復することとなったとみるべき。

本件措置①:
①復することとなるべき旧来の労働条件よりも多額の給与による労働条件を保障
執行役員退任後は、執行役員就任前における旧来の労働条件に復することとなる旨が各規定により根拠付けられている⇒Xにおいてもその旨予見すべきもの

人事上の濫用があったとはいえず、有効。

本件措置②:
役職定年制度規程に基づき、Xが役職定年となって選任部長とされたことにより役職定年の支給がなくなった⇒有効。

<解説>
● 執行役員制度:一般的に取締役会が決定した基本方針に従ってその監督の下で業務執行にあたる代表取締役以下の業務執行機能を強化するために、取締役会によって選任される執行役員が、代表取締役から権限委譲を受けて業務執行を分担し、それぞれが担当する領域において代表取締役を補佐する制度。
執行役員は、会社法によって設けられた執行役とは異なり、会社の機関ではなく、その法的性質については、委任契約説、雇用契約説、両者の混合契約説。

本件:Xの執行役員としての地位が雇用契約に基づくものであることは争いのない事実とされている。

● 人事上の措置としての役職・職位の降格に伴い賃金減額が行なわれた場合、
これが労働契約上予定されているもの
就業規則に定められた賃金体系や基準に従っている限り、賃金減額も認めることができ、その場合、労働者の不利益の程度等によっては権利濫用となる場合もある。

● 執行役員についての、裁判例・文献等。

判例時報2487

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別れさせ工作委託契約と公序良俗違反(否定)

大阪地裁H30.8.29

<事案>
本訴:
別れさせ工作委託契約に基づき、残金70万円及び遅延損害金支払を求めた。

反訴:
本件契約及びこれに附随する調査委託契約が公序良俗に反し無効⇒不当利得返還請求権に基づき、本件契約等に基づいてYが支払った60万8000円及び遅延損害金の支払を求めた。
本件契約の関係者は、いずれも独身で、本件契約の目的を達成するために関係者の意思に反して肉体関係を持つことが提示されたことはなく、実際に肉体関係が結ばれたこともなかった。

<判断>
本件契約等が公序良俗に反するか否かについて、本件契約等の目的達成のために想定されていた方法は、人倫に反し関係者らの人格、尊厳を傷付ける方法や、関係者の意思に反してでも接触を図るような方法であったとは認められず、また、
実際に実行された方法も、工作員女性が対象男性と食事をするなどというものであった

本件契約等においては、関係者らの自由な意思決定の範囲で行うことが想定されていたといえ、契約締結時の状況に照らしても、本件契約等が公序良俗に反するとまではいえない。

<解説>
●判例:
人倫に反する行為、例えば、婚姻秩序・性道徳に反する行為は無効。
but
個別事案に無効か否かの線引きは微妙な場合もある。
ex.
配偶者のある者の婚姻予約及びその維持を目的とする扶養料給付の契約無効とされた事例。
不倫関係にある女性に対する包括遺贈一定の事情の下で無効でないとされた事例。

近時の学説:
憲法の規定の趣旨を踏まえながら、公序の内容を類型的に考察する傾向にある。

●本件:委任契約の目的となっている「別れさせ工作」が、交際に関する個人の自由(人格的自由、生命・身体の自由等)を不当に害しないかが問題。

個々の契約内容・契約締結過程に即して具体的に検討されるべき問題。

●改正後の民法90条:
「事項を目的とする」が削除。

法律行為の内容だけでなく法律行為が行われる過程その他の事情も広く考慮して無効とするか否かが判断されるという裁判実務の判断枠組みを明らかにしたもの。

判例時報2487

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