ドキュメンタリー映画の制作会社の報道の自由等
那覇地裁R2.8.5
<事案>
ドキュメンタリー映画の制作会社であるXが、平成29年7月14日開催の沖縄県議会本会議を傍聴する際に、同議会議長に対して本件本会議の撮影の許可を求めたところ、不許可とする処分
⇒
①沖縄県議会本会議の撮影につき許可制を定める沖縄県議会傍聴規則15条(本件規則)は、憲法94条、地自法115条に反し、報道の自由、取材の自由を侵害するもので憲法21条に違反⇒本件規則に基づく本件不許可処分は違法。
②本件規則が合憲であるとしても、本件不許可処分は、議長に与えられた裁量権を逸脱または裁量権を濫用するもの⇒憲法14条1項、21条1項に反する。
③沖縄県議会事務局がXに対し、撮影許可を得るために必要な資料等の教示をしなかったことは違法。
⇒
Y(沖縄県)に対し、50万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
<争点>
①Xが報道の自由・取材の自由を有するか
②本件規則の地自法115条違反の有無、憲法94条、21条適合性
③本件不許可処分の憲法14条、21条適合性
④Y(議会事務局)の教示による不法行為の成否
<規定>
地自法 第一一五条[議事公開の原則・秘密会]
普通地方公共団体の議会の会議は、これを公開する。但し、議長又は議員三人以上の発議により、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
②前項但書の議長又は議員の発議は、討論を行わないでその可否を決しなければならない。
地自法 第一三〇条[傍聴人の取締り]
傍聴人が公然と可否を表明し、又は騒ぎ立てる等会議を妨害するときは、普通地方公共団体の議会の議長は、これを制止し、その命令に従わないときは、これを退場させ、必要がある場合においては、これを当該警察官に引き渡すことができる。
②傍聴席が騒がしいときは、議長は、すべての傍聴人を退場させることができる。
③前二項に定めるものを除くほか、議長は、会議の傍聴に関し必要な規則を設けなければならない。
憲法 第94条〔地方公共団体の権能〕
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
<判断>
●争点①
①ドキュメンタリーと報道を厳密に区別することは困難であって、ドキュメンタリーも事実に基づく表現手段である以上、報道の要素をも含み、国民の知る権利に奉仕する機能を有する
②Xの代表者のこれまでの取材活動
⇒ドキュメンタリー映画を製作するXに対して、憲法21条により報道の自由が認められ、取材の自由も尊重されるべき。
●争点②
地自法115条1項の「公開」の趣旨や報道の自由の重要性
⇒報道の正確性を担保する目的を達成するため、会議の撮影が尊重されるべき。
but
①地自法115条1項が会議の撮影について定めず、
②地自法130条の定め
⇒地方議会の会議における撮影につき、各地方公共団体の実情に応じて、各地方議会の議長が会議の撮影の在り方を定めることが許容されていると解される
⇒
本件規則が地自法115条1項に反せず、また、憲法94条、地自法14条1項に違反しない。
本件規則の目的:
議会の秩序維持、公正かつ十分な審議の確保、議会の議事内容の正確な伝達の確保。
これらは合理的なものといえ、目的達成のための手段につき、傍聴人による会議の撮影を一律禁止とし、合理的な理由に基づき、傍聴人による会議の撮影を認めたとしても各要請を満たすとの判断ができる場合において、議長の許可により撮影を認めることは、前記目的を達成するために合理的かつ必要な措置
⇒憲法21条に違反しない。
●争点③
違反しない。
●争点④
議会事務局が行うべき教示内容について、
①本会議の撮影のために議長の許可が必要であること(Xが求めるのであればさらにその根拠となる本件規則の存在・内容)
②許可申請書作成に必要な記載事項
にとどまり、それ以上の個別具体的な事項について、議会事務局に教示義務があると解する格別の根拠はない。
⇒不法行為には当たらない。
判例時報2485
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