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2021年9月 9日 (木)

事故の偶然性の要件

東京高裁R2.7.15

<事案>
株式会社Xの代表取締役を務めていたA(当時79歳)が、自家用車ごと岸壁から海中に転落した事故で死亡。
Xが、保険会社Y1に対し、Aを被保険者として締結した保険契約(本件保険契約)に基づく死亡保険金1億5000万円及びAが本家事故に遭ったと推定される平成25年8月1日以降の商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求。
一般財団法人Y2に対し、Aを被共済者として締結した共済契約(本件共済契約)に基づく死亡保障費2000万円及び前同日以降の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
本件保険契約の保険約款(本件保険契約約款)には、被保険者が就業中に急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して保険金を支払う旨の、

本件共済契約に適用される規約(本件規約)には、会員の定めた被共済者に災害が発生したときは、当該会員に補償費を支払うとした上で、この規約の災害とは、「急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたもの」という旨の定め

本件保険契約約款には「故意または重大な過失」によって、本件規約は「故意」によって生じた傷害をそれぞれ免責事由と定める規定が存在
争点 本件事故の偶然性
これとの関連で、本件車両の損傷状況やXの経営状態をどう見るかが激しく争われた

<主張>
X:
擦過痕は本件車両の後方から前方に向けて印象
海中から引き揚げられた際に本件車両のシフトレバーがR(後退)に入っていた

本件車両はハンドル角度を左約30度に切った状態で交替して海中に転落。

Xの経営状態に問題はなく、Aに自殺の原因となるほどの事実が見当たらない。

本件事故の態様は、日中に瑕疵愛された同窓会でカメラを忘れて現場へ探しに行ったAが本件岸壁をUターンするため、ハンドルを左に切り返して本件車両を後退させて発進するに当たって運転操作を誤った結果、海中に転落

本件事故は偶然に生じた。

Yら:
本件車両の擦過痕は前方から後方に向けて印象⇒本件車両は海に向かって真っすぐ前進して転落
シフトレバーは転落後に動いた可能性
本件事故当時、Xは経営状態が苦しく、Aはこれを立て直すため保険金等を入手しようとして本件事故を起こす動機があった
深夜に真っ暗な本件岸壁にカメラを探しに行くこと事態が不自然不合理

本件事故は偶然性の要件を満たさない

<一審>
Xの請求をいずれも棄却

<予備的主張>
Xは、新たに本件車両と同型の車両を実際に本件岸壁から前進及び後退させて転落させる実験を実施⇒それによってX主張の事故態様が裏付けられた
仮に本件車両が前進して転落したものであったとしても、転落時の時速は約10キロメートルと推認されてアクセルを踏まない状態で転落
but
故意に自殺するのであれば確実に界面に転落する速度を出すはず
⇒何らかの過失で転落した。

<判断>
一審維持

<解説>
●最高裁H13.4.20:
生命保険契約に付加された災害割増特約における災害死亡保険金の支払事由を不慮の事故による死亡とする約款に基づき、保険者に対して災害死亡保険金の支払を請求する者は、発生した事故が偶発的な事故であることについて主張、立証する責任を負う。
前記約款中の被保険者の故意により支払事由に該当したときは災害死亡保険金を支払わない旨の定め災害死亡保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどまる。

最高裁H13.4.30は、普通傷害保険契約における死亡保険金の支払事由を急激かつ偶然な外来の事故による死亡とする約款に基づく死亡保険金の支払請求についても同旨。

約款において保険事故に偶発性が取り込まれた傷害保険については、保険事故そのものが不慮の事故とされていることやモラルリスクの特に高い保険類型で不正請求の防止の必要性が強いといった実際的見地
保険金請求者が保険事故の偶発性の主張立証責任を負うことを明らかにしたもの。

●but
保険金請求者が側で事故が被保険者の意思に基づかない偶然なものであるといった消極的事実を立証することは困難
平成13年判決は、立証の程度の問題について保険金請求者側の負担を軽減する判断手法を用いることを否定するものではない

具体的には、保険金請求者側が外形的に見て事故であることを立証事故が偶然であることが事実上推定保険者において事故の偶然性を真に疑わせる事情を立証する必要
保険者がその立証⇒保険金請求者側でこの疑念を反駁するに足りる程度の立証ができなければ偶然性の立証がされなかったことになる
という見解。
(1審、本判決もこのような見解に立っている。)

●平成22年4月1日保険法施行:
傷害や疾病に基づいて保険給付を行う保険につき、
A:生じた損害を填補する傷害疾病損害保険契約(2条7号)
B:生じた損害に関係なく一定額の保険給付を行なう障害疾病定額保険契約(2条9号)
という契約類型。

Aについて:
損害保険契約の一種

保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって生じた損害を填補する責任を負わないとする損害保険一般に関する規定(17条)を基本的に準用しつつ、
被保険者の死亡による損害を填補するものにつき、同法17条に被保険者の相続人の故意又は重大な過失を加える旨の読替規定を置いた(35条)。

Bについて:
損害保険とも生命保険とも異なる契約類型として新たに独立の章(第4章)を設け、
被保険者、保険蹴薬者又は保険金受取人が故意又は重大な過失により給付事由を発生させたときを免責事由として定めた(同法80条1号)。
保険法の免責事由に関する定めは任意規定(26条、82条参照)⇒約款で保険法の規定と異なる免責事由が定められた場合には、事故の偶発性に関する立証責任は、保険法の規定を踏まえつつも当該約款の規定の解釈によって判断される。

●従前の裁判例で事故の偶然性が争点となった事案で検討された項目:
事故の客観的状況(事故態様、事故現場の状況など)
②被保険者等の動機、属性等(被保険者の経済状態、同種の事故歴など)
③被保険者等の事故前後の言動等(事故直前の不断と異なる不審な行動、事故の発生ないし死をほのめかすような言動など)
保険契約に関する事情(保険契約締結の経緯や時期、保険契約締結時の経済状況、保険料や保険金額と被保険者等の収入の均衡その他の保険契約の内容)
が上げられている。

判例時報2486

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