電力会社からの工事竣功期間伸長等の許可申請に対する許否の留保の違法性
広島高裁R2.1.22
<事案>
原子力発電所(R原発)の建設を計画し、公有水面の埋立て等により発電所の敷地を確保するために、山口県知事から公有水面埋立法(「公水法」)2条1項に基づく埋立免許を受けたZ(中国電力)は、同免許において、埋立工事に着手した日から3年以内に工事を竣工しなければならないとの指定 ⇒24年10月、当時の山口県知事Eに対し、公水法13条の2第1項に基づいて、同免許に係る工事竣功期間を平成27年10月6日まで伸長することなどの許可を求める許可申請⇒E及びその後任の山口県知事であるYは、Zに対し、7回にわたり補足説明を求め、審査を継続して判断を留保し、Yは、平成28年8月に本件許可申請を許可。
山口県の住民Xらが、住民訴訟により、
①Eが本件許可申請に対する許否の判断を、審査に要する合理的期間が経過するまでにすべきであったにもかかわらず、これを行なわなかったことは違法⇒前記の判断留保中に、これを前提として行なわれた公金の支出も違法であり、そのため、山口県が損害を被った⇒Eの相続人であるAらに対する損害賠償の支払を請求することなどを求め、
②Yが本件許可申請についての判断を直ちにできる状態にあったのに、これを行なわなかったことは違法⇒前記の判断留保中にされた公金の支出も違法であり、山口県が損害を被った⇒Yに対する損害賠償の支払を請求することなどを求めた。
Yの主張 ①竣功期間は再度伸長することもできる、
②本件許可申請を行ったZ自身が、政府の検討結果を松必要があるという姿勢を公表して、E及びYからの求説明に対応し、判断留保に異議を唱えていない
③標準処理期間の定めは訓示規定に過ぎない
⇒
E及びYによる判断留保は違法ではない。
<一審>
Eが平成25年3月に、Zに対し約1年後を回答期限とする補足説明を求めた(第5回目の補足説明の依頼)時点で、本件許可申請に係る期間の終期までに埋立が竣功する可能性があることが合理的に認められるとはいえない
⇒これ以降の、Zに補足説明を求めるために支出した郵送費は違法な公金の支出に当たる⇒請求を一部認容。
<判断>
以下のとおり、公金の各支出は、その前提となる本件許可申請に対する判断留保の違法性が認められず、また、他にこれを違法とする事情も認められない
⇒違法な財務会計上の行為であるということはできない⇒Yの敗訴部分を取り消し、Xらの請求をいずれも棄却。
①公水面埋立工事に係る竣功期間尾伸長の要件である「正当の自由」(公水法13条の2)の存否について、都道府県知事がこれを審査すべき期間についての規定はなく、また、その判断には専門的・技術的知見が必要
⇒都道府県知事に裁量が認められ、その審査期間についてもその裁量が及ぶ。
②Xらの指摘する標準処理期間は、申請者の利益を主に考慮したもの
⇒申請者が処分の留保につき任意に同意している場合には、その同意が継続している限りにおいては、特段の事情が認められる場合を除き、処分の留保は裁量権緒範囲の逸脱、濫用にあたらず、違法ではない。
Zは、判断留保に任意に同意していた。
③福島第一原子力発電の事後の事情・・・
⇒
R原発についてなされた重要電源開発地点指定が解除される可能性を考えて、Zに対し、同視邸に関する情報提供を求めること、
これに影響を及ぼすと思われるR原発の位置付け等について説明を求めることは「正当の事由」の存否を判断する上で重要な事項。
回答期間の約1年はやや長すぎるが、
①Zが判断留保に任意に同意している
②前記の政治・社会情勢の変化
③指定期間の再度の伸長が禁じられていない
⇒前記の特段の事情に該当するとまではいえない。
<解説>
公水法13条の2第1項に基づく埋立期間の伸長等の許可申請がなされた場合に、
①免許権者が合理的な期間内に許否の判断を行うべき義務を負うこと
②標準処理期間を経過した場合に直ちに判断の留保が違法となるものではないこと
は1審も本判決も共通。
行政処分の申請があった場合に、これを受けた行政機関は、
合理的な期間内に当該申請に対する判断を行うことが要請され(行手法7条)
行政庁は、これを担保するための標準処理期間を定めるべきこととされている(行手法6条)。
~
当該申請を行なった者において、速やかに許可・認可等の処分をしてくれることを期待し、また、仮に申請に対する許否処分であっても、今後の対応を考える必要性等から、そのことを早く知ることを期待するという、申請者の利益を主に考慮したもの。
~
行手法の前記規定が直接適用されない地方公共団体の機関の処分についても、同様に当てはまるものと解される。
⇒
申請者が処分の留保につき任意に同意している場合には、その同意が継続している限りにおいて、当該申請に対する判断を留保することが正当化されるというべき。(行手法32条、33条参照)
これらの規定は、判断留保及び行政指導に関する判例法理をもとに立法化
⇒その趣旨は、行手法の規定が直接適用されない地方公共団体の機関の処分にも当てはまる。
判例時報2486
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