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2021年9月 4日 (土)

窃盗未遂の被害者の名前を別の者に変更する訴因変更が問題となった事案

東京高裁R2.2.5

<事案>
「被告人は、Aが右肩から掛けていたショルダーバッグ内に左手を差し入れ、在中品を抜き取ろうとした」との公訴事実で起訴
⇒AとBは、被害人物を入れ替えて捜査に応じていた
⇒「被告人は、Bが右肩から掛けていたショルダーバッグ内に左手を差し入れ、在中品を抜き取ろうとした」との公訴事実(新訴因)に変更することとし、第1回公判期日でその許可を求めた。

弁護人:
防犯カメラの映像では被告人がAとBの両方のバッグに手を伸ばしているように見える⇒Aに対する窃盗未遂とBに対する窃盗未遂は両立し得る⇒訴因変更に反対

<1審>
訴因変更の許否を判断するため、防犯カメラ映像について事実取調べを行なった上で、公訴事実の同一性を害する⇒訴因変更を許さず、旧訴因について審理を続け、犯罪の証明がないとして無罪。

公訴事実の同一性のうち、とりわけ単一性の判断は各訴因のみを基準として比較対照して行なうべきであるところ、本件の旧訴因と新訴因の記載を比較対照すると、被告人が同一の場所にいたAとBに対しそれぞれのショルダーバッグに順次手を入れて各在中品を摂取しようとしたことが成り立ちうる⇒旧訴因と新訴因とは両立する関係にある。

<判断>
公訴事実の同一性については、新旧両訴因の記載を比較し、基本的事実関係の同一性、新旧両訴因の非両立性を判断すべき。
その比較だけで判断できない⇒検察官釈明した内容、証拠調べによって認定できる事実も加えて判断できる。
本件では新旧両訴因の日時場所等がほぼ同一⇒訴因のみを比較しても公訴事実の同一性は判断できず、検察官の釈明や関係証拠も加えた判断すべき。

本件は、両立する事実について、一罪として1回で処理すべきか、数罪として別々に処理すべきかといった、公訴事実の単一性が問題となる事案ではない。
検察官は、「被告人が(自分の隣にいた女性)が肩から掛けていたショルダーバッグに手を入れて在中品を抜き取ろうとした行為」を訴追する趣旨で、旧訴因を特定して起訴したものの、起訴後に、その人物の特定を誤ったことに気づき、新訴因に変更しようとした。

新旧両訴因は基本的事実関係が同一。
検察官は、旧訴因で、前記ショルダーバッグとは別の「Aが所持していたバッグ」に手を差し入れた行為を起訴したのではない。旧訴因と新訴因は、ショルダーバッグを肩に掛けていた者の特定に誤りがあったにすぎず、両立しない。

原審が訴因変更を許可しなかったのは訴訟手続きの法令違反⇒原判決を破棄して差戻、差戻審において訴因変更を許可し、変更された新訴因について審理を行うことを指示。

<解説>
●公訴事実の同一性の判断
1つの犯罪事象については、1回の刑事手続きで、1個の刑罰権が発動されることが予定されている。
審理が進められて実体判決がなされ確定⇒その刑罰兼発動の範囲に含まれていた事実に対して別の刑罰権を発動することはできない。
その範囲を超える事実に対しては、別個の刑罰権の発動として、新たな公訴提起をすべき。

●公訴事実の単一性の判断
第1審:他院逸世の判断は各訴因のみを基準として比較対象することにより行なうべき
控訴審:本件は公訴事実の単一性が問題となる事案ではない

最高裁H15.10.7:
単純窃盗罪で起訴されて有罪が確定した後、余罪に当たる単純窃盗罪で起訴された事案について、
弁護人:両者を含めて常習特殊窃盗罪を構成する⇒前訴確定判決の一事不再理効が後訴に及ぶと主張。

判断:
常習特殊窃盗罪の性質⇒前訴の訴因と後訴の訴因との間の行使事実の単一性についての判断は、基本的には、前訴及び後訴の各訴因のみを基準としてこれらを比較対照することにより行なうのが相当。
前訴と後訴がいずれも単純窃盗罪であって、訴因には常習性の発露の面は出てこない⇒常習特殊窃盗罪による一罪であるという観点を持ち込むべきではない⇒一事不再理効が及ぶことを否定。
but
前訴が常習窃盗罪で後訴が単純窃盗罪の場合やその逆の場合には、訴因の記載の比較のみからでも両訴因が常習窃盗罪の一部であると窺われる⇒単純窃盗罪が常習性の発露として行なわれたかについて附随的に心証形成をし、公訴事実の単一性の判断をすべき。

最高裁H22.2.17:
前訴が建造物侵入・窃盗の訴因で有罪判決を受けて確定後、
後訴が同じ日に同じ建物に法かした非現住建造物等放火の訴因で起訴
弁護人:前訴の建造物侵入と後訴の放火とが牽連関係に立つ

判断:
公訴事実の単一性を判断するために証拠構造に踏み込み、
初回に浸入して現金等を持ち出し、施錠して退去した後、2回目に侵入して放火した事実を認定し、2回目の侵入は新たな範囲によるものである
⇒初回と2回目の各侵入行為を包括一罪と評価すべきものではなく、牽連関係は否定される
⇒一事不再理効は及ばない。

平成15年最高裁の事案は、常習窃盗罪という特殊な構成要件に関するものであって、一般に、公訴事実の単一性について訴因の記載のみに基づいて判断されるべきだということにはならないものと思われる。

判例時報2485

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