« 取締役の従業員(労働者)該当性 | トップページ | 同性婚と国賠請求 »

2021年9月20日 (月)

殺人被告事件について、心神耗弱(原審)⇒心神喪失による無罪(控訴審)の事案

東京高裁H31.4.24

<解説>
精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力(=事理弁識能力)がなく、又はその弁識に従って行動する能力(=制御能力)がない状態⇒心神喪失
その能力を欠如するには至らないが著しく減退した状態⇒心神耗弱

<判決>
● 行動制御能力の意味を明確に指摘し、その意味に従って検討すると、原判決の判断に疑問がある⇒心神耗弱を認定した原判決を破棄し、自判(心身喪失による無罪)した。

● 原判決:
犯行発覚防止行為⇒
①被害者の返り血を浴びないように毛染め用のガウンを羽織る
②被害者の血が付いたり自分の指紋が付いたりするのを防ぐために両手にビニール手袋をはめる
③足跡を残さないように靴の上からビニール袋を履きゴムで留める
などの行動をとったと公判廷で供述

正常心理に基づいて自己の保身に思いを巡らせた上、その判断に基づいてそれなりに合理的な反抗発覚防止のための行動を的確にとることができた。
vs.
行動制御能力の本質は、自らが行なおうとする行為(犯行)が悪であることは判断できている場合に、その行為を行わないでいることができる能力であって、犯行ないしその準備行為を行うに当たって合理的に行動を制御する能力ではない

犯行や準備行為の行動の合理性を、行動制御能力や事理弁識能力を判断するに当たって判断要素とすることができるのは当然。
but
行動制御能力の判断においては、前記本質を踏まえつつ判断の一要素にとどめる必要がある。
②本件においては、犯行発覚防止行為が幻聴の命令に従って犯行を決意した後に行われている反抗発覚防止行為の合理性を、行為制御能力を肯定する方向で評価することには慎重でなければならない。

行動制御能力≠犯行遂行能力
一見、犯行遂行の過程が合理的であっても、たとえば、犯行の動機において、妄想や幻聴の影響を強く受けている⇒犯行遂行過程の行為はその影響の下にある行為として評価すべき。

vs.
そのような身なりは、はたからみれば極めて異様で、その姿で廊下を歩けば、人目に付きやすい。

原判決は、被告人との供述から、犯行発覚防止のための行為として、その目的との関係だけに目を奪われ、その行為自体が、当時の状況、朝の7時半頃に、アパートの廊下を歩いて隣室に行く状況からみて、客観的には異様ないでたちであったことを看過したもの。

<解説>
本件の被告人の精神疾患:覚醒剤精神病
心神喪失や心神上津役が認められやすいのは、統合失調症や双極性障害の事例で、
本件のような物質関連障害の事例ではあまり認められていない。

しかし、最近では、変化あり(8ステップの考え方)。

責任能力を判断する上では、精神障害が犯行に与えた影響の機序が重視される⇒疾病診断(病名の特定)の持つ意味が相対的に低下

統合失調症にり患していても、完全責任能力との判断や
これまであまり責任能力に大きな影響を及ぼすとは判断されていなかった物質関連障害(覚醒剤精神病)や、窃盗症(クレプトマニア)などについても責任能力の減免を認めた裁判例も散見。

判例時報2486

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 取締役の従業員(労働者)該当性 | トップページ | 同性婚と国賠請求 »

判例」カテゴリの記事

刑事」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 取締役の従業員(労働者)該当性 | トップページ | 同性婚と国賠請求 »