取締役の従業員(労働者)該当性
東京地裁R2.3.11
<事案>
原告は、原告の祖父が創業した被告に平成6年に入社し、平成20年に被告の取締役に就任し、平成25年10月18日、取締役を退任。
原告は、
主位的に、
取締役就任後も従業員としての地位を失っていないことを前提として、雇用契約に基づき、入社から平成25年11月26日までを在籍期間とする退職金規定による退職金及びこれに対する遅延損害金を、
予備的に、
取締役就任時に従業員としての地位を失ったとしても、平成20年4月頃、被告との間で従業員退職金の支払期日を取締役退任日とする合意をしたと主張して、
入社から取締役就任時までを在籍期間とする退職金規定による退職金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
<争点>
①取締役就任後も従業員としての地位を有していたか
②平成20年3月の退職金支払期日の合意の有無
③退職金額算定の前提となる基本給額等
<判断>
●従業員該当性
①被告の就業規則に取締役就任に当たり従業員の地位を失う旨の定めがない
②原告の取締役就任時に退職届の提出や退職金の支払といった従業員の地位の清算に関する手続が行なわれなかった
③原告の業務内容は取締役就任の前後で変わることがなく、当時の代表取締役であった原告の父の指揮監督の下で業務を行っていた
⇒
取締役就任後も従業員としての地位を失っていなかったことが強く推認される。
報酬の増額:原告が取締役就任時に事業部長に就任⇒従業員と役員を兼ねることに対する増額と考えても矛盾はない。
雇用保険加入の有無:それのみで従業員性が決定づけられるものではない。
●退職金額の算定
取締役就任直前の給与の基本給である45万5560円を基本給と認めるのが相当。
原告が取締役退任後、従業員としての地位を被告に主張し、
被告がこれを否定する通知を送付
が解雇と同視できる
⇒
退職事由のうち「やむを得ない業務上の都合による解雇」と認め、退職金額を算定。
支払時期についても退職金規定により認定。
<解説>
●合資会社の有限責任社員の職務を代行していた者について従業員性を認めたもの(最高裁H7.2.9)はあるが、考慮要素等について具体的に判示したものはない。
下級審裁判例:
取締役への就任経緯、
取締役としての権限や業務執行の状況(法令や定款上の定め、代表取締役の指揮監督の有無、提供する労務内容等)、
社会保険上の取扱い等
が考慮要素とされていると言われる。
●本件:
特に、
①取締役就任に当たり退職届の提出や退職金支払等の従業員の地位の清算が行われなかったこと、
②取締役就任前後で業務内容がかわらなかったこと
が重視され、
③取締役会が開催されないなど、原告が会社の意思決定に参加していないことをうかがわせる事情も考慮して、
原告の従業員性を肯定。
税務処理方法の違いが従業員性を決定づけるものと考えることは不相当であることや、
雇用保険の被保険者資格は当事者の思惑で操作されることも多い
⇒重視すべき要素ではないと判断されたものと考えられる。
従業員部分の賃金額:
従業員兼務取締役が役員報酬のみ支給されている場合には、
取締役就任直前の賃金額が目安とされることが多い。
本件もそう。
判例時報2486
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