宗教法人に対する訴訟と「法律上の訴訟」
新潟地裁R2.4.9
<事案>
宗教法人であるY3会衆の前身団体に所属していたxが、平成18年7月にY3会衆から排斥の決定を受け約10年間にわたり復帰嘆願や排斥措置取消しの申出が認められなかったことにより精神的苦痛を被った
⇒
排斥措置に関与したY2,Y4、Y5に対して民法709条に基づき、
宗教法人であるY1協会及びY3会衆に対して民法715条に基づき、
損害金の支払を求めるとともに、
Yらに対し、人格権に基づき、本件排斥措置の中止(差止め)措置として、本件排斥措置がなされた信者として扱うことを禁止するよう求めた
<争点>
Xの各請求が法律上の争訟に当たるか
<解説>
宗教法人等に関する「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)について
最高裁H1.9.8:
「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係に関する争訟であっても、
①宗教団体内部においてされた懲戒処分の効力が請求の当否を決する前提問題となっており、
②その効力の有無が当事者間の紛争の本質的争点をなすとともに
③それが宗教上の教義、信仰の内容に深くかかわっているため、右教義、信仰の内容
に立ち入ることなくしてその効力の有無を判断することができず、 しかも
④その判断が訴訟の帰趨を左右する必要不可欠なもの
⇒
右訴訟は、その実質において法令の適用による終局的解決に適しないものとして、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらない。
<判断>
本件排除措置の当否を判断するに当たり、
①「重大な罪」を犯したこと
②その罪を「悔い改め」ないこと
という排斥措置の実体的な要件の充足を検討する必要。
これらの要件の充足については正に教義、信仰の内容に立ち入ることなく判断することはできない。
本件における「重大な罪」の内容としてYらが主張した「意図的に悪意のある嘘をつくこと」及び「中傷」についても、同様の理由から教義、信仰の内容に立ち入ることなく判断することはできない。
⇒
Xがかかる罪を犯したかどうか
さらに、排斥措置に相当するほどの「重大な罪」に当たるか(罪の重さ)の判断のいずれについても、やはり教義、信仰の内容に立ち入ることなく判断することはできない。
X:本件排斥措置の理由の説明もなく、適切な弁明の機会も与えられなかった⇒本件排斥措置は手続的にも違法
vs.
本件排斥措置の前後の事情を検討し、
本件排斥措置の実体的な要件に関する判断が不要であるといえるほどに重大な手続上の瑕疵あったとは認められない。
⇒
本件排斥措置の当否については、宗教上の教義、信仰の内容に立ち入らなければ判断ができない⇒Xの請求はいずれも「法律上の争訟」に当たらない。
判例時報2487
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