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2021年9月

2021年9月29日 (水)

宗教法人に対する訴訟と「法律上の訴訟」

新潟地裁R2.4.9

<事案>
宗教法人であるY3会衆の前身団体に所属していたxが、平成18年7月にY3会衆から排斥の決定を受け約10年間にわたり復帰嘆願や排斥措置取消しの申出が認められなかったことにより精神的苦痛を被った

排斥措置に関与したY2,Y4、Y5に対して民法709条に基づき、
宗教法人であるY1協会及びY3会衆に対して民法715条に基づき、
損害金の支払を求めるとともに、
Yらに対し、人格権に基づき、本件排斥措置の中止(差止め)措置として、本件排斥措置がなされた信者として扱うことを禁止するよう求めた

<争点>
Xの各請求が法律上の争訟に当たるか

<解説>
宗教法人等に関する「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)について

最高裁H1.9.8:
「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係に関する争訟であっても、
宗教団体内部においてされた懲戒処分の効力が請求の当否を決する前提問題となっており、
その効力の有無が当事者間の紛争の本質的争点をなすとともに
それが宗教上の教義、信仰の内容に深くかかわっているため、右教義、信仰の内容
に立ち入ることなくしてその効力の有無を判断することができず、 しかも
その判断が訴訟の帰趨を左右する必要不可欠なもの

右訴訟は、その実質において法令の適用による終局的解決に適しないものとして、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらない

<判断>
本件排除措置の当否を判断するに当たり、
①「重大な罪」を犯したこと
②その罪を「悔い改め」ないこと
という排斥措置の実体的な要件の充足を検討する必要。
これらの要件の充足については正に教義、信仰の内容に立ち入ることなく判断することはできない
本件における「重大な罪」の内容としてYらが主張した「意図的に悪意のある嘘をつくこと」及び「中傷」についても、同様の理由から教義、信仰の内容に立ち入ることなく判断することはできない

Xがかかる罪を犯したかどうか
さらに、排斥措置に相当するほどの「重大な罪」に当たるか(罪の重さ)の判断のいずれについても、やはり教義、信仰の内容に立ち入ることなく判断することはできない。

X:本件排斥措置の理由の説明もなく、適切な弁明の機会も与えられなかった⇒本件排斥措置は手続的にも違法
vs.
本件排斥措置の前後の事情を検討し、
本件排斥措置の実体的な要件に関する判断が不要であるといえるほどに重大な手続上の瑕疵あったとは認められない

本件排斥措置の当否については、宗教上の教義、信仰の内容に立ち入らなければ判断ができない⇒Xの請求はいずれも「法律上の争訟」に当たらない。

判例時報2487

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2021年9月24日 (金)

公認会計士協会による決定の開示の差止請求の事例

最高裁R2.11.27

<事案>
公認会計士であるXらは、新たにン当時上場会社であったZと監査契約を締結⇒Y(日本公認会計士協会)の設置する品質管理委員会(「本件委員会」)に対して上場会社監査事務所名簿への登録を申請⇒本件委員会は、Xらに対して品質管理レビューを実施し、XらがZについて実施した監査につき、
「・・・財務諸表を作成することの適切性に関する監査証拠が十分に入手されていない」との限定事項を付した結論を表明した上で、前記限定時効はXらの表明した監査意見妥当性 に重大な疑念の商事させる⇒前記登録を認めない旨の決定(「本件決定」)

X等が、本件決定がYのウェブサイトで開示されるとX等の名誉又は信用が毀損されるなどと主張し、Yに対し、人格権に基づき前記の開示の差止め等を求めた。

<1審>
請求棄却

<原審>
Yの表明した限定事項付き結論はXらにつき監査の基準に適合しない事実がないのに当該事実が見受けられるとしてされたもの⇒本件決定はその前提となる事実を欠く⇒請求認容。

<判断>
原判決中の敗訴部分を破棄し、同部分を原審に差し戻した

<解説>
● Yは、その会則等において、品質管理レビュー制度を設けるとともに、上場会社と監査契約を締結している公認会計士又は監査法人の監査の品質管理の充実強化を図るため、上場会社監査事務所登録制度を導入し、品質管理レビュー制度に組み込んで運用。

● 品質管理レビューで、
XらがZの平成26年3月期の監査で現金勘定の出入金記録の確認のための現金元帳と通帳及び領収書等との突合を監査対象期間の一部につき実施しないまま無限定適正意見を表明⇒基準不適合事実が見つけられる⇒限定事項付き結論。
but
原審:
前記突合を監査対象期間の全部につき実施すること等が「品質管理の基準」において必要とされているものではなく、Xらに基準不適合事実に該当する事実はない⇒本件決定は前提となる事実を欠く判断。

● 監査の基準においては、いわゆるリスク・アプローチの考え方が採用:
重要な虚偽の表示が行なわれる可能性が高い事項につき重点的に監査の人員等を充てることで監査を効果的かつ効率的なものとする監査手法。
①Zには、Xらによる前記の監査の以前から、営業損失の連続計上等の財政状態の悪化、多額の現金保有の状態かといった事象。
②同監査において、Zが期末の現金実査を拒否したため、実査の遅延が生じていた。

Yの公表する監査実施指針(監査基準委員会報告書等)において、
不正な財務報告若しくは資産の流用につながり得るもの(不正な財務報告の動機・プレッシャーないし資産流用の機会)又はこれらの兆候を示すもの(不正な財務報告の姿勢・正当化)として、典型的なリスク要因として位置付けられている。

Zの監査におけるリスク(とりわけ、現金預金に関して財務諸表における重要な虚偽表示が生ずるリスク)は相当高いものであった

Xらは、Zの監査人として、前記リスクを適切に評価した上で、これに個別に対応した監査手続を実施し、監査意見の形成に足りる十分かつ適切な監査証拠を入手することが求められていた。
現金元帳と通帳及び領収書等との突合は、口座から出金された金員の現金勘定への入金記録を、当該出入金に係る証ひょう類と現金元帳との突合により網羅的に確かめることのできる実証手続⇒現金預金についての前記リスクに対応した監査証拠を入手し得る。

Xらが前記突合を監査対象期間の一部に限定して実施したこと等が前記リスクとの関係で十分かつ適切なものであったといえるか否かの点を、
前記の限定の理由や、Zの内部統制の整備状況の調査結果等を勘案して検討しなければ、Xらにつき基準不適合事実がないとはいい難い。

● 三浦補足意見:
・・・上場会社監査事務所登録制度が、公認会計士の監査業務の専門性及び独立性を踏まえ、公認会計士等によって組織される上告人の制度として運用される趣旨等⇒上記事実があるとした場合はには、これを前提としてされた品質管理委員会の決定については、その専門性、独立性を踏まえた知見に基づく判断として、その合理的な裁量が尊重されるべき。

判例時報2487

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2021年9月23日 (木)

一部弁済と債務の承認による時効中断

最高裁R2.12.15

<事案>
Xが、Yに対し、平成16年(貸付け①)、平成17年(貸付け②)及び平成18年(貸付け③)に貸し付けられた貸金の返還を求めた事案。
Yは、平成20年に弁済を充当すべき債務を指定することなく一部弁済⇒この一部弁済により、平成17年及び平成18年の各貸付について、消滅時効が中断するか。

<原審>
本件弁済は法定充当(民法489条)により本件貸付①に係る債務に充当⇒Yは、本件弁済により、本件弁済が充当される債務についてのみ承認をした⇒本件債務②及び③について消滅時効は中断せず、時効消滅。

<判断>
同一の当事者間に数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務が存在する場合において、借主が弁済を充当すべき債務を指定することなく前債務を完済にするのに足りない額の弁済⇒当該弁済は特段の事情のない限り、上記各元本債務の承認(民法147条3号)として消滅時効を中断する効力を有する。
本件弁済が、本件債務②③の承認としての効力を有しないと解すべき特段の事情はうかがわれず、本件弁済は、本件債務②③の承認として消滅時効を中断する効力を有する。

<解説>
時効中断事由である「承認」とは、
時効の利益を受ける当事者が、時効によって権利を失う者に対して、その権利の存在することを知っている旨を表示すること。

承認が時効中断とされた理由:
①相手方が権利存在の認識を表示したことを信頼⇒権利行使を怠ったことにならない(実体法的見方)。
②時効利益を受けるべき者が権利存在の認識を表示したことは権利存在の証拠になる(訴訟法的見方)。

承認の法律上の性質は、いわゆる観念の通知であって法律行為ではなく、中断しようとする効果意思は必要ない
法律上方式は要求されていない⇒法律行為の解釈に準じて、債務者の一定の態度が承認なるかどうかが決せられるべきことになる

大判昭和13.6.25
借主の態度をどのように評価するか(各元本債務の存在することを知っている旨を表示するものといえるか。)という問題であり、弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも弁済の充当の指定をしないときに、どの債務に弁済を充当するかという法定充当の問題とは別個の事柄
債務の承認が認められる債務と法定充当により充当される債務とは当然に一致するものとはいえず、本件の原審にように、法定充当により充当される債務についてのみ承認するものと解することはできない。

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2021年9月21日 (火)

同性婚と国賠請求

札幌地裁R3.3.17

<事案>
米国最高裁:2015年6月26日、5対4の評決で、同性のカップルの婚姻を認めない州法(州憲法を含む。)の規定は合衆国憲法のデュー・プロセス条項及び平等保護条項(いずれも修正14条)に違反すると判断。
ドイツでも、立法により、2017年10月1日から同性カップルの婚姻が認められる。
日本でも、平成27年10月以降、同性のカップルの関係を公的に認めるパートナーシップ制度を導入する自治体が次第に増加。

平成31年2月に、同性カップル13組26人が、各地裁に、同性婚を認めない民法、戸籍法は、憲法13条、14条1項、24条に違反⇒国が必要な立法措置を講じていないことは国賠法1条1項の適用上違法⇒国賠請求訴訟。

<争点>
①同性婚を認めていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定が憲法13条、14条1項、24条に違反するか否か
②同性婚を認めていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定を改廃しないことが国賠法上違法の評価を受けるか否か

<判断>
●憲法24条、13条と同性婚
憲法24条の制定経緯に加え、同条が「両性」、「夫婦」という異性同士である男女を想起させる文言を用いている⇒同条は、異性婚について定めたもので、同性婚について定めるものではない民法及び戸籍法の諸規定が同性婚を認めていないことが、憲法24条に違反すると解することはできない。

具体的な制度の構築を国会の合理的な立法措置に委ねる憲法24条2項や、包括的な人権規定である憲法13条によって、同性婚を含む同性間の婚姻及び家族に関する特定の制度を求める権利が保障されていると解するのは困難。

●憲法14条と同性婚
・・・・
⇒民法及び戸籍法の諸規定が、異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず、同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは、立法府の裁量権の範囲を超えたもの⇒合理的根拠を欠く差別的取扱いに当たる。

●争点②
・・・・
民法や戸籍法の諸規定が憲法14条1項に反する状態に至っていたことについて国会において直ちに認識することは容易ではない。

現在まで国会が同性婚を制約する民法及び戸籍法の諸規定を改廃していないことが国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。

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2021年9月20日 (月)

殺人被告事件について、心神耗弱(原審)⇒心神喪失による無罪(控訴審)の事案

東京高裁H31.4.24

<解説>
精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力(=事理弁識能力)がなく、又はその弁識に従って行動する能力(=制御能力)がない状態⇒心神喪失
その能力を欠如するには至らないが著しく減退した状態⇒心神耗弱

<判決>
● 行動制御能力の意味を明確に指摘し、その意味に従って検討すると、原判決の判断に疑問がある⇒心神耗弱を認定した原判決を破棄し、自判(心身喪失による無罪)した。

● 原判決:
犯行発覚防止行為⇒
①被害者の返り血を浴びないように毛染め用のガウンを羽織る
②被害者の血が付いたり自分の指紋が付いたりするのを防ぐために両手にビニール手袋をはめる
③足跡を残さないように靴の上からビニール袋を履きゴムで留める
などの行動をとったと公判廷で供述

正常心理に基づいて自己の保身に思いを巡らせた上、その判断に基づいてそれなりに合理的な反抗発覚防止のための行動を的確にとることができた。
vs.
行動制御能力の本質は、自らが行なおうとする行為(犯行)が悪であることは判断できている場合に、その行為を行わないでいることができる能力であって、犯行ないしその準備行為を行うに当たって合理的に行動を制御する能力ではない

犯行や準備行為の行動の合理性を、行動制御能力や事理弁識能力を判断するに当たって判断要素とすることができるのは当然。
but
行動制御能力の判断においては、前記本質を踏まえつつ判断の一要素にとどめる必要がある。
②本件においては、犯行発覚防止行為が幻聴の命令に従って犯行を決意した後に行われている反抗発覚防止行為の合理性を、行為制御能力を肯定する方向で評価することには慎重でなければならない。

行動制御能力≠犯行遂行能力
一見、犯行遂行の過程が合理的であっても、たとえば、犯行の動機において、妄想や幻聴の影響を強く受けている⇒犯行遂行過程の行為はその影響の下にある行為として評価すべき。

vs.
そのような身なりは、はたからみれば極めて異様で、その姿で廊下を歩けば、人目に付きやすい。

原判決は、被告人との供述から、犯行発覚防止のための行為として、その目的との関係だけに目を奪われ、その行為自体が、当時の状況、朝の7時半頃に、アパートの廊下を歩いて隣室に行く状況からみて、客観的には異様ないでたちであったことを看過したもの。

<解説>
本件の被告人の精神疾患:覚醒剤精神病
心神喪失や心神上津役が認められやすいのは、統合失調症や双極性障害の事例で、
本件のような物質関連障害の事例ではあまり認められていない。

しかし、最近では、変化あり(8ステップの考え方)。

責任能力を判断する上では、精神障害が犯行に与えた影響の機序が重視される⇒疾病診断(病名の特定)の持つ意味が相対的に低下

統合失調症にり患していても、完全責任能力との判断や
これまであまり責任能力に大きな影響を及ぼすとは判断されていなかった物質関連障害(覚醒剤精神病)や、窃盗症(クレプトマニア)などについても責任能力の減免を認めた裁判例も散見。

判例時報2486

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2021年9月16日 (木)

取締役の従業員(労働者)該当性

東京地裁R2.3.11

<事案>
原告は、原告の祖父が創業した被告に平成6年に入社し、平成20年に被告の取締役に就任し、平成25年10月18日、取締役を退任。

原告は、
主位的に、
取締役就任後も従業員としての地位を失っていないことを前提として、雇用契約に基づき、入社から平成25年11月26日までを在籍期間とする退職金規定による退職金及びこれに対する遅延損害金を、

予備的に、
取締役就任時に従業員としての地位を失ったとしても、平成20年4月頃、被告との間で従業員退職金の支払期日を取締役退任日とする合意をしたと主張して、
入社から取締役就任時までを在籍期間とする退職金規定による退職金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

<争点>
①取締役就任後も従業員としての地位を有していたか
②平成20年3月の退職金支払期日の合意の有無
③退職金額算定の前提となる基本給額等

<判断>
●従業員該当性
①被告の就業規則に取締役就任に当たり従業員の地位を失う旨の定めがない
②原告の取締役就任時に退職届の提出や退職金の支払といった従業員の地位の清算に関する手続が行なわれなかった
③原告の業務内容は取締役就任の前後で変わることがなく、当時の代表取締役であった原告の父の指揮監督の下で業務を行っていた

取締役就任後も従業員としての地位を失っていなかったことが強く推認される。

報酬の増額:原告が取締役就任時に事業部長に就任⇒従業員と役員を兼ねることに対する増額と考えても矛盾はない。
雇用保険加入の有無:それのみで従業員性が決定づけられるものではない。

●退職金額の算定
取締役就任直前の給与の基本給である45万5560円を基本給と認めるのが相当。
原告が取締役退任後、従業員としての地位を被告に主張し、

被告がこれを否定する通知を送付
が解雇と同視できる

退職事由のうち「やむを得ない業務上の都合による解雇」と認め、退職金額を算定。
支払時期についても退職金規定により認定。

<解説>
●合資会社の有限責任社員の職務を代行していた者について従業員性を認めたもの(最高裁H7.2.9)はあるが、考慮要素等について具体的に判示したものはない。

下級審裁判例:
取締役への就任経緯、
取締役としての権限や業務執行の状況(法令や定款上の定め、代表取締役の指揮監督の有無、提供する労務内容等)、
社会保険上の取扱い等
が考慮要素とされていると言われる。

●本件:
特に、
①取締役就任に当たり退職届の提出や退職金支払等の従業員の地位の清算が行われなかったこと、
②取締役就任前後で業務内容がかわらなかったこと
が重視され、
③取締役会が開催されないなど、原告が会社の意思決定に参加していないことをうかがわせる事情も考慮して、
原告の従業員性を肯定。

税務処理方法の違いが従業員性を決定づけるものと考えることは不相当であることや、
雇用保険の被保険者資格は当事者の思惑で操作されることも多い
⇒重視すべき要素ではないと判断されたものと考えられる。

従業員部分の賃金額:
従業員兼務取締役が役員報酬のみ支給されている場合には、
取締役就任直前の賃金額が目安とされることが多い。
本件もそう。

判例時報2486

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2021年9月15日 (水)

看護師の過失(生体情報モニタのアラーム設定の確認不十分)が肯定された事案

東京地裁R2.6.4

<主張>
亡Aの相続人であるX1及びX2が、亡Aがいわゆる植物状態となり死亡するに至ったのは、本件病院の医療従事者(医師又は看護師)に
①生体情報モニタのアラーム設定を誤り、これを見落とした過失
②鎮静剤を不適切かつ過剰に投与した過失

生体情報モニタ及び管理システムの製造・販売したY2及びY3に、
③製造物責任法における試用設計上の欠陥ないし不法行為における過失、
④製造物責任法における指示・警告上の欠陥ないし不法行為における過失
があった


Y1に対しては債務不履行又は不法行為に基づき、
Y2及びY3に対しては製造物責任又は不法行為に基づき
損害賠償を求めた。

<判断>
●生体情報のモニタのアラーム設定を誤り、これを見落とした過失(前記①)
①亡Aの病態自体、再出血をきたすなどして容体が急変する危険性があった
②投与されていた鎮静剤の副作用として呼吸抑制などが挙げられている

本件病院の医療従事者には亡Aの血圧同項のみならず、呼吸状態にも気を配り、それらの急激な悪化がみられたときには、それを察知できるよう監視をすべき義務があった。
バイタルサインの把握について、
看護師による見回りや目視による確認には限界⇒医療機器に頼らざるを得ない場合がある
but
その設定がきちんと維持されているかについては継続的に確認すべき注意義務
①・・・その後の電子カルテ上の転床操作によって再度それらのアラーム設定がオフになったことを看過し、
②・・・亡Aの容体が急変するまでの約5日間にわたって誰もアラーム設定がオフになっていたことに気が付かなかった

本件病院の看護師には前記義務に違反した過失がある

●鎮静剤を不適切かつ過剰に投与した過失(前記②)
・・・・
鎮静剤の投与方法には過失はない。

●管理システム及びセントラルモニタの機能が、製造物責任法における仕様設計上又は指示・警告上の欠陥ないしは不法行為における過失に当たるか(前記③④)
・・・そのような設計思想に不合理な点はなく、安全性を欠くと認めるべき点もない
管理システム及びセントラルモニタの取扱説明書を併せて読めば、前記機能を読み取ることはさして難解ではない

仕様設計上及び指示・警告上の欠陥ないし不法行為上の過失いずれも認められない。

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2021年9月10日 (金)

夫婦別姓と国賠請求

広島高裁R2.9.16

<事案>
控訴人は、夫と共に、夫婦それぞれの氏を称する旨を記載した婚姻届を提出したが、民法750条及び戸籍法74条1号(以下「本件各規定」)に違反することを理由に受理されなかった。

本件各規定は憲法14条1項、24条、人権B規約(自由権規約)、女子差別撤廃条約に違反しており、
これを改廃して夫婦別氏制という選択肢を新たに設けない立法不作為は国賠法の適用上違法の評価を受ける。
⇒被控訴人(国)に対し、慰謝料50万円の支払を求めた。

民法750条については、最高裁H27.12.16が憲法14条1項及び24条に違反しないとの判断。
but
控訴人:平成27年最高裁判例において考慮されていない観点や同判決後の事情がある旨主張。

<規定>
民法 第750条(夫婦の氏)
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

戸籍法 第74条〔婚姻届〕
婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
一 夫婦が称する氏
二 その他法務省令で定める事項

憲法 第24条〔家族生活における個人の尊厳と両性の平等〕
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。.

<主張>
控訴人は、平成27年最高裁判決に現れていない新たな観点として、
①本件各規定が憲法14条1に違反しないというためには、
夫婦同氏制を原則とすることに合理性が認められるだけでは足りず、、さらに進んで、夫婦同氏に例外を許容せず、夫婦同氏を一律に強制することの合理性が認められなければならない。
②本件各規定は、夫婦同氏を希望する考え方を有するか夫婦別氏を希望する考え方を有するかにより、法的な差別的取り扱いをするもの⇒憲法14条1項に違反

<判断>
●主張①について
憲法24条2項が婚姻及び家族に関する具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ね、具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定が国会の多方面にわたる検討と判断に委ねられている

婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法24条に適合するといえるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人緒尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものと見ざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべき。
本件各規定が憲法24条や14条1項に違反するか否かについても、このような観点から判断すべき⇒控訴人の主張は採らない。

●主張②について
①夫婦同氏制が長く我が国の社会に定着してきたものであり、選択的夫婦別氏制度を導入するに当たっては、子の氏の問題等多方面にわたる慎重な検討が必要であって、夫婦同氏制を個々の当事者の多様な意思に沿って変容させることに対しては慎重に考える必要がある
②氏には家族という1つの集団を構成する一員であることを対外的に公示し、識別する機能を有しており、嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組を確保することにも一定の意義がある
③本件各規定の定める夫婦同氏制それ事態には男女間の形式的な不平等が存在せず、夫婦がいずれの氏を称するかは、夫婦となろうとする者の間の教義による自由な選択に委ねられている

本件各規定が、婚姻を事実上不当に制約するものであるとまではいえず、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であると認めることはできない。

憲法24条に違反するとはいえない。
夫婦別氏を希望する夫婦が法律婚をすることができない結果として、夫婦同氏を選択肢法律婚をした夫婦と比較して様々な利益を教授できないとしても、憲法14条1項に違反するものということもできあに。

●女子差別撤廃委員会が我が国に対し本件各規定の改廃を行うよう度々勧告していることは重く受け止めるべきであり、憲法24条2甲によって婚姻及び家族に関する法制度の構築を国民から委ねられている国会には、選択的夫婦別氏制の導入等について真摯な議論を行うことが期待されている。

判例時報2486

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2021年9月 9日 (木)

事故の偶然性の要件

東京高裁R2.7.15

<事案>
株式会社Xの代表取締役を務めていたA(当時79歳)が、自家用車ごと岸壁から海中に転落した事故で死亡。
Xが、保険会社Y1に対し、Aを被保険者として締結した保険契約(本件保険契約)に基づく死亡保険金1億5000万円及びAが本家事故に遭ったと推定される平成25年8月1日以降の商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求。
一般財団法人Y2に対し、Aを被共済者として締結した共済契約(本件共済契約)に基づく死亡保障費2000万円及び前同日以降の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
本件保険契約の保険約款(本件保険契約約款)には、被保険者が就業中に急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して保険金を支払う旨の、

本件共済契約に適用される規約(本件規約)には、会員の定めた被共済者に災害が発生したときは、当該会員に補償費を支払うとした上で、この規約の災害とは、「急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたもの」という旨の定め

本件保険契約約款には「故意または重大な過失」によって、本件規約は「故意」によって生じた傷害をそれぞれ免責事由と定める規定が存在
争点 本件事故の偶然性
これとの関連で、本件車両の損傷状況やXの経営状態をどう見るかが激しく争われた

<主張>
X:
擦過痕は本件車両の後方から前方に向けて印象
海中から引き揚げられた際に本件車両のシフトレバーがR(後退)に入っていた

本件車両はハンドル角度を左約30度に切った状態で交替して海中に転落。

Xの経営状態に問題はなく、Aに自殺の原因となるほどの事実が見当たらない。

本件事故の態様は、日中に瑕疵愛された同窓会でカメラを忘れて現場へ探しに行ったAが本件岸壁をUターンするため、ハンドルを左に切り返して本件車両を後退させて発進するに当たって運転操作を誤った結果、海中に転落

本件事故は偶然に生じた。

Yら:
本件車両の擦過痕は前方から後方に向けて印象⇒本件車両は海に向かって真っすぐ前進して転落
シフトレバーは転落後に動いた可能性
本件事故当時、Xは経営状態が苦しく、Aはこれを立て直すため保険金等を入手しようとして本件事故を起こす動機があった
深夜に真っ暗な本件岸壁にカメラを探しに行くこと事態が不自然不合理

本件事故は偶然性の要件を満たさない

<一審>
Xの請求をいずれも棄却

<予備的主張>
Xは、新たに本件車両と同型の車両を実際に本件岸壁から前進及び後退させて転落させる実験を実施⇒それによってX主張の事故態様が裏付けられた
仮に本件車両が前進して転落したものであったとしても、転落時の時速は約10キロメートルと推認されてアクセルを踏まない状態で転落
but
故意に自殺するのであれば確実に界面に転落する速度を出すはず
⇒何らかの過失で転落した。

<判断>
一審維持

<解説>
●最高裁H13.4.20:
生命保険契約に付加された災害割増特約における災害死亡保険金の支払事由を不慮の事故による死亡とする約款に基づき、保険者に対して災害死亡保険金の支払を請求する者は、発生した事故が偶発的な事故であることについて主張、立証する責任を負う。
前記約款中の被保険者の故意により支払事由に該当したときは災害死亡保険金を支払わない旨の定め災害死亡保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどまる。

最高裁H13.4.30は、普通傷害保険契約における死亡保険金の支払事由を急激かつ偶然な外来の事故による死亡とする約款に基づく死亡保険金の支払請求についても同旨。

約款において保険事故に偶発性が取り込まれた傷害保険については、保険事故そのものが不慮の事故とされていることやモラルリスクの特に高い保険類型で不正請求の防止の必要性が強いといった実際的見地
保険金請求者が保険事故の偶発性の主張立証責任を負うことを明らかにしたもの。

●but
保険金請求者が側で事故が被保険者の意思に基づかない偶然なものであるといった消極的事実を立証することは困難
平成13年判決は、立証の程度の問題について保険金請求者側の負担を軽減する判断手法を用いることを否定するものではない

具体的には、保険金請求者側が外形的に見て事故であることを立証事故が偶然であることが事実上推定保険者において事故の偶然性を真に疑わせる事情を立証する必要
保険者がその立証⇒保険金請求者側でこの疑念を反駁するに足りる程度の立証ができなければ偶然性の立証がされなかったことになる
という見解。
(1審、本判決もこのような見解に立っている。)

●平成22年4月1日保険法施行:
傷害や疾病に基づいて保険給付を行う保険につき、
A:生じた損害を填補する傷害疾病損害保険契約(2条7号)
B:生じた損害に関係なく一定額の保険給付を行なう障害疾病定額保険契約(2条9号)
という契約類型。

Aについて:
損害保険契約の一種

保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって生じた損害を填補する責任を負わないとする損害保険一般に関する規定(17条)を基本的に準用しつつ、
被保険者の死亡による損害を填補するものにつき、同法17条に被保険者の相続人の故意又は重大な過失を加える旨の読替規定を置いた(35条)。

Bについて:
損害保険とも生命保険とも異なる契約類型として新たに独立の章(第4章)を設け、
被保険者、保険蹴薬者又は保険金受取人が故意又は重大な過失により給付事由を発生させたときを免責事由として定めた(同法80条1号)。
保険法の免責事由に関する定めは任意規定(26条、82条参照)⇒約款で保険法の規定と異なる免責事由が定められた場合には、事故の偶発性に関する立証責任は、保険法の規定を踏まえつつも当該約款の規定の解釈によって判断される。

●従前の裁判例で事故の偶然性が争点となった事案で検討された項目:
事故の客観的状況(事故態様、事故現場の状況など)
②被保険者等の動機、属性等(被保険者の経済状態、同種の事故歴など)
③被保険者等の事故前後の言動等(事故直前の不断と異なる不審な行動、事故の発生ないし死をほのめかすような言動など)
保険契約に関する事情(保険契約締結の経緯や時期、保険契約締結時の経済状況、保険料や保険金額と被保険者等の収入の均衡その他の保険契約の内容)
が上げられている。

判例時報2486

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2021年9月 8日 (水)

人格権に基づくパブリシティ権の事案

東京高裁R2.7.10

<事案>
音楽事務所であるYとの間でマネージメント専属契約を締結した上で、本件専属契約に定められたグループ名で実演活動を行なっていたXらが、Yは、本件専属契約の終了後、本件グループ名を使用することを妨害する言動をしていると主張し、本件グループ名を使用する権利に基づき、Yに対して使用妨害行為の禁止を求めて仮処分命令を申し立てた。

<規定>
本専属契約:
「Yは、本件契約期間中、広告・宣言及び販売促進のため、Xらの芸名・・・その他の人格的利益を、Yの判断により自由に無償で利用開発することができる。」
「本契約期間内に制作された原盤及び原版等に係るXらの著作権上の一切の権利・・・ならびに、Xらに関する商標権、知的財産権、及び商品化権を含む一切の権利はすべてYに帰属する。」

<原審>
本件専属契約の条項について、本件グループ名の使用に関する権利の帰属に直接言及していないものの、一切の権利がYに帰属すると定めている⇒本件グループ名の使用権も同条項の対象となっている⇒Xらの申立てを却下。

<判断>
Xらは、本件グループ名の使用権を有する⇒使用妨害行為の禁止を認めた。

理由は以下のとおり。
実演活動上のグループ名についても、人物の集合体の識別情報としてその構成員を容易に想定し得るような場合には、当該グループの構成員各人に人格権に基づくパブリシティ権が認められる
②Xらは、各自が個別に実演活動をするだけでなく、グループとして共同して、実演活動を継続し、本件グループ名には一定の顧客吸引力が生じ、本件グループ名を通じてその構成員であるXら各自をも想起させ、識別させるものとなっている。
本件専属契約において定められた条項には、芸名や本件グループ名等についての記載はなく、人格的権利についての制約はない
本件専属契約が終了した時点では、Yにおいて本件グループ名を利用する権利はなく、Xらは本件グループ名を使用する人格的厭離を制約なく行使することができる
④本件専属契約の終了にあたりYに損害が発生していたとしても、Xらが本件グループ名の使用を妨げることを正当化できない。

<解説>
パブリシティ権について、ピンク・レディー事件において、
肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくもの⇒上記人格権に由来する一内容を構成する。

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2021年9月 7日 (火)

障害等級の認定

大阪地裁R2.6.3

<事案>
Xは、平成17年4月19日にメンタルクリニックにおいて適応障害(抑うつ病)の診断(本件初診日)
初診日の1年6月後である障害認定日(国年法30条1項、厚年法47条1項)は平成18年10月19日(本件障害認定日)
Xは、平成17年11月5日に現住建造物放火の被疑事実で逮捕⇒平成24年5月24日の仮釈放まで、刑事施設に収容。
Xは、厚生労働大臣に対し、本件障害認定日を受給権の発生日とする障害基礎年金及び障害厚生年金の給付の裁定の請求⇒厚生労働大臣は、3級の障害厚生年金を支給する処分・一部の期間の年金につき時効消滅

Xは、社会保険審査官に審査請求。

社会保険審査官は、年金の時効消滅は否定したが、その余の原告の請求を棄却。

本件訴訟を提起。

<争点>
本件障害認定日におけるXの障害の状態が障害等級2級に当たるか

<判断>
Xの本件障害認定日における障害の程度が障害等級2級に該当。
・・・
Xの日常生活能力の判定を検討し、
①適切な食事、②身辺の清潔保持、③金銭管理と買い物、④通院と服薬、⑤他人との意思伝達及び対人関係、⑥身辺の安全保持及び危機対応、⑦社会性
を考慮すると、Xの障害の状態は障害等級2急に該当。

<解説>
国民年金・厚生年金保険精神の障害に係る等級判定ガイドラインは、
精神障害及び知的障害の認定において地域さによる不公平が生じないよう、
障害等級の判定時に用いる目安や考慮すべき事項の例等を示し、
これによって当該認定が「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」に基づき適正に行なわれるよう改善を図ることを目的として、公正労働省により策定されたもので、平成28年9月1日から実施。

Xの本件障害認定日及び裁定請求の後に同ガイドラインが定められた
but
同ガイドラインが新規請求時のみならず、
再認定時及び請求者から額の改定請求がなされたとき等にも用いられる

同ガイドラインに沿って総合的認定をするのが相当。

精神鑑定書、医師Nの意見書等をもとに同ガイドラインに沿って、「日常生活能力の判定」及び「日常生活能力の程度」を判定
⇒Xの障害等級を2級と判断。

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障害等級の認定

大阪地裁R2.6.3

<事案>
Xは、平成17年4月19日にメンタルクリニックにおいて適応障害(抑うつ病)の診断(本件初診日)
初診日の1年6月後である障害認定日(国年法30条1項、厚年法47条1項)は平成18年10月19日(本件障害認定日)
Xは、平成17年11月5日に現住建造物放火の被疑事実で逮捕⇒平成24年5月24日の仮釈放まで、刑事施設に収容。
Xは、厚生労働大臣に対し、本件障害認定日を受給権の発生日とする障害基礎年金及び障害厚生年金の給付の裁定の請求⇒厚生労働大臣は、3級の障害厚生年金を支給する処分・一部の期間の年金につき時効消滅

Xは、社会保険審査官に審査請求。

社会保険審査官は、年金の時効消滅は否定したが、その余の原告の請求を棄却。

本件訴訟を提起。

<争点>
本件障害認定日におけるXの障害の状態が障害等級2級に当たるか

<判断>
Xの本件障害認定日における障害の程度が障害等級2級に該当。
・・・
Xの日常生活能力の判定を検討し、
①適切な食事、②身辺の清潔保持、③金銭管理と買い物、④通院と服薬、⑤他人との意思伝達及び対人関係、⑥身辺の安全保持及び危機対応、⑦社会性
を考慮すると、Xの障害の状態は障害等級2急に該当。

<解説>
国民年金・厚生年金保険精神の障害に係る等級判定ガイドラインは、
精神障害及び知的障害の認定において地域さによる不公平が生じないよう、
障害等級の判定時に用いる目安や考慮すべき事項の例等を示し、
これによって当該認定が「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」に基づき適正に行なわれるよう改善を図ることを目的として、公正労働省により策定されたもので、平成28年9月1日から実施。

Xの本件障害認定日及び裁定請求の後に同ガイドラインが定められた
but
同ガイドラインが新規請求時のみならず、
再認定時及び請求者から額の改定請求がなされたとき等にも用いられる

同ガイドラインに沿って総合的認定をするのが相当。

精神鑑定書、医師Nの意見書等をもとに同ガイドラインに沿って、「日常生活能力の判定」及び「日常生活能力の程度」を判定
⇒Xの障害等級を2級と判断。

判例時報2486

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2021年9月 6日 (月)

電力会社からの工事竣功期間伸長等の許可申請に対する許否の留保の違法性

広島高裁R2.1.22

<事案>
原子力発電所(R原発)の建設を計画し、公有水面の埋立て等により発電所の敷地を確保するために、山口県知事から公有水面埋立法(「公水法」)2条1項に基づく埋立免許を受けたZ(中国電力)は、同免許において、埋立工事に着手した日から3年以内に工事を竣工しなければならないとの指定 ⇒24年10月、当時の山口県知事Eに対し、公水法13条の2第1項に基づいて、同免許に係る工事竣功期間を平成27年10月6日まで伸長することなどの許可を求める許可申請⇒E及びその後任の山口県知事であるYは、Zに対し、7回にわたり補足説明を求め、審査を継続して判断を留保し、Yは、平成28年8月に本件許可申請を許可。

山口県の住民Xらが、住民訴訟により、
①Eが本件許可申請に対する許否の判断を、審査に要する合理的期間が経過するまでにすべきであったにもかかわらず、これを行なわなかったことは違法⇒前記の判断留保中に、これを前提として行なわれた公金の支出も違法であり、そのため、山口県が損害を被った⇒Eの相続人であるAらに対する損害賠償の支払を請求することなどを求め
②Yが本件許可申請についての判断を直ちにできる状態にあったのに、これを行なわなかったことは違法⇒前記の判断留保中にされた公金の支出も違法であり、山口県が損害を被った⇒Yに対する損害賠償の支払を請求することなどを求めた

Yの主張 ①竣功期間は再度伸長することもできる、
②本件許可申請を行ったZ自身が、政府の検討結果を松必要があるという姿勢を公表して、E及びYからの求説明に対応し、判断留保に異議を唱えていない
③標準処理期間の定めは訓示規定に過ぎない

E及びYによる判断留保は違法ではない。

<一審>
Eが平成25年3月に、Zに対し約1年後を回答期限とする補足説明を求めた(第5回目の補足説明の依頼)時点で、本件許可申請に係る期間の終期までに埋立が竣功する可能性があることが合理的に認められるとはいえない
⇒これ以降の、Zに補足説明を求めるために支出した郵送費は違法な公金の支出に当たる⇒請求を一部認容。

<判断>
以下のとおり、公金の各支出は、その前提となる本件許可申請に対する判断留保の違法性が認められず、また、他にこれを違法とする事情も認められない
違法な財務会計上の行為であるということはできない⇒Yの敗訴部分を取り消し、Xらの請求をいずれも棄却

①公水面埋立工事に係る竣功期間尾伸長の要件である「正当の自由」(公水法13条の2)の存否について、都道府県知事がこれを審査すべき期間についての規定はなく、また、その判断には専門的・技術的知見が必要
⇒都道府県知事に裁量が認められ、その審査期間についてもその裁量が及ぶ。
②Xらの指摘する標準処理期間は、申請者の利益を主に考慮したもの
申請者が処分の留保につき任意に同意している場合には、その同意が継続している限りにおいては、特段の事情が認められる場合を除き、処分の留保は裁量権緒範囲の逸脱、濫用にあたらず、違法ではない。
Zは、判断留保に任意に同意していた。
③福島第一原子力発電の事後の事情・・・

R原発についてなされた重要電源開発地点指定が解除される可能性を考えて、Zに対し、同視邸に関する情報提供を求めること、
これに影響を及ぼすと思われるR原発の位置付け等について説明を求めることは「正当の事由」の存否を判断する上で重要な事項。
回答期間の約1年はやや長すぎるが、
①Zが判断留保に任意に同意している
②前記の政治・社会情勢の変化
③指定期間の再度の伸長が禁じられていない
⇒前記の特段の事情に該当するとまではいえない。

<解説>
公水法13条の2第1項に基づく埋立期間の伸長等の許可申請がなされた場合に、
免許権者が合理的な期間内に許否の判断を行うべき義務を負うこと
標準処理期間を経過した場合に直ちに判断の留保が違法となるものではないこと
は1審も本判決も共通。

行政処分の申請があった場合に、これを受けた行政機関は、
合理的な期間内に当該申請に対する判断を行うことが要請され(行手法7条)
行政庁は、これを担保するための標準処理期間を定めるべきこととされている(行手法6条)

当該申請を行なった者において、速やかに許可・認可等の処分をしてくれることを期待し、また、仮に申請に対する許否処分であっても、今後の対応を考える必要性等から、そのことを早く知ることを期待するという、申請者の利益を主に考慮したもの。

行手法の前記規定が直接適用されない地方公共団体の機関の処分についても、同様に当てはまるものと解される。

申請者が処分の留保につき任意に同意している場合には、その同意が継続している限りにおいて、当該申請に対する判断を留保することが正当化されるというべき。(行手法32条、33条参照)

これらの規定は、判断留保及び行政指導に関する判例法理をもとに立法化
⇒その趣旨は、行手法の規定が直接適用されない地方公共団体の機関の処分にも当てはまる。

判例時報2486

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2021年9月 4日 (土)

窃盗未遂の被害者の名前を別の者に変更する訴因変更が問題となった事案

東京高裁R2.2.5

<事案>
「被告人は、Aが右肩から掛けていたショルダーバッグ内に左手を差し入れ、在中品を抜き取ろうとした」との公訴事実で起訴
⇒AとBは、被害人物を入れ替えて捜査に応じていた
⇒「被告人は、Bが右肩から掛けていたショルダーバッグ内に左手を差し入れ、在中品を抜き取ろうとした」との公訴事実(新訴因)に変更することとし、第1回公判期日でその許可を求めた。

弁護人:
防犯カメラの映像では被告人がAとBの両方のバッグに手を伸ばしているように見える⇒Aに対する窃盗未遂とBに対する窃盗未遂は両立し得る⇒訴因変更に反対

<1審>
訴因変更の許否を判断するため、防犯カメラ映像について事実取調べを行なった上で、公訴事実の同一性を害する⇒訴因変更を許さず、旧訴因について審理を続け、犯罪の証明がないとして無罪。

公訴事実の同一性のうち、とりわけ単一性の判断は各訴因のみを基準として比較対照して行なうべきであるところ、本件の旧訴因と新訴因の記載を比較対照すると、被告人が同一の場所にいたAとBに対しそれぞれのショルダーバッグに順次手を入れて各在中品を摂取しようとしたことが成り立ちうる⇒旧訴因と新訴因とは両立する関係にある。

<判断>
公訴事実の同一性については、新旧両訴因の記載を比較し、基本的事実関係の同一性、新旧両訴因の非両立性を判断すべき。
その比較だけで判断できない⇒検察官釈明した内容、証拠調べによって認定できる事実も加えて判断できる。
本件では新旧両訴因の日時場所等がほぼ同一⇒訴因のみを比較しても公訴事実の同一性は判断できず、検察官の釈明や関係証拠も加えた判断すべき。

本件は、両立する事実について、一罪として1回で処理すべきか、数罪として別々に処理すべきかといった、公訴事実の単一性が問題となる事案ではない。
検察官は、「被告人が(自分の隣にいた女性)が肩から掛けていたショルダーバッグに手を入れて在中品を抜き取ろうとした行為」を訴追する趣旨で、旧訴因を特定して起訴したものの、起訴後に、その人物の特定を誤ったことに気づき、新訴因に変更しようとした。

新旧両訴因は基本的事実関係が同一。
検察官は、旧訴因で、前記ショルダーバッグとは別の「Aが所持していたバッグ」に手を差し入れた行為を起訴したのではない。旧訴因と新訴因は、ショルダーバッグを肩に掛けていた者の特定に誤りがあったにすぎず、両立しない。

原審が訴因変更を許可しなかったのは訴訟手続きの法令違反⇒原判決を破棄して差戻、差戻審において訴因変更を許可し、変更された新訴因について審理を行うことを指示。

<解説>
●公訴事実の同一性の判断
1つの犯罪事象については、1回の刑事手続きで、1個の刑罰権が発動されることが予定されている。
審理が進められて実体判決がなされ確定⇒その刑罰兼発動の範囲に含まれていた事実に対して別の刑罰権を発動することはできない。
その範囲を超える事実に対しては、別個の刑罰権の発動として、新たな公訴提起をすべき。

●公訴事実の単一性の判断
第1審:他院逸世の判断は各訴因のみを基準として比較対象することにより行なうべき
控訴審:本件は公訴事実の単一性が問題となる事案ではない

最高裁H15.10.7:
単純窃盗罪で起訴されて有罪が確定した後、余罪に当たる単純窃盗罪で起訴された事案について、
弁護人:両者を含めて常習特殊窃盗罪を構成する⇒前訴確定判決の一事不再理効が後訴に及ぶと主張。

判断:
常習特殊窃盗罪の性質⇒前訴の訴因と後訴の訴因との間の行使事実の単一性についての判断は、基本的には、前訴及び後訴の各訴因のみを基準としてこれらを比較対照することにより行なうのが相当。
前訴と後訴がいずれも単純窃盗罪であって、訴因には常習性の発露の面は出てこない⇒常習特殊窃盗罪による一罪であるという観点を持ち込むべきではない⇒一事不再理効が及ぶことを否定。
but
前訴が常習窃盗罪で後訴が単純窃盗罪の場合やその逆の場合には、訴因の記載の比較のみからでも両訴因が常習窃盗罪の一部であると窺われる⇒単純窃盗罪が常習性の発露として行なわれたかについて附随的に心証形成をし、公訴事実の単一性の判断をすべき。

最高裁H22.2.17:
前訴が建造物侵入・窃盗の訴因で有罪判決を受けて確定後、
後訴が同じ日に同じ建物に法かした非現住建造物等放火の訴因で起訴
弁護人:前訴の建造物侵入と後訴の放火とが牽連関係に立つ

判断:
公訴事実の単一性を判断するために証拠構造に踏み込み、
初回に浸入して現金等を持ち出し、施錠して退去した後、2回目に侵入して放火した事実を認定し、2回目の侵入は新たな範囲によるものである
⇒初回と2回目の各侵入行為を包括一罪と評価すべきものではなく、牽連関係は否定される
⇒一事不再理効は及ばない。

平成15年最高裁の事案は、常習窃盗罪という特殊な構成要件に関するものであって、一般に、公訴事実の単一性について訴因の記載のみに基づいて判断されるべきだということにはならないものと思われる。

判例時報2485

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2021年9月 2日 (木)

ドキュメンタリー映画の制作会社の報道の自由等

那覇地裁R2.8.5

<事案>
ドキュメンタリー映画の制作会社であるXが、平成29年7月14日開催の沖縄県議会本会議を傍聴する際に、同議会議長に対して本件本会議の撮影の許可を求めたところ、不許可とする処分

①沖縄県議会本会議の撮影につき許可制を定める沖縄県議会傍聴規則15条(本件規則)は、憲法94条、地自法115条に反し、報道の自由、取材の自由を侵害するもので憲法21条に違反⇒本件規則に基づく本件不許可処分は違法。
②本件規則が合憲であるとしても、本件不許可処分は、議長に与えられた裁量権を逸脱または裁量権を濫用するもの⇒憲法14条1項、21条1項に反する。
③沖縄県議会事務局がXに対し、撮影許可を得るために必要な資料等の教示をしなかったことは違法。

Y(沖縄県)に対し、50万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

<争点>
①Xが報道の自由・取材の自由を有するか
②本件規則の地自法115条違反の有無、憲法94条、21条適合性
③本件不許可処分の憲法14条、21条適合性
④Y(議会事務局)の教示による不法行為の成否

<規定>
地自法 第一一五条[議事公開の原則・秘密会]
普通地方公共団体の議会の会議は、これを公開する。但し、議長又は議員三人以上の発議により、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
②前項但書の議長又は議員の発議は、討論を行わないでその可否を決しなければならない。

地自法 第一三〇条[傍聴人の取締り]
傍聴人が公然と可否を表明し、又は騒ぎ立てる等会議を妨害するときは、普通地方公共団体の議会の議長は、これを制止し、その命令に従わないときは、これを退場させ、必要がある場合においては、これを当該警察官に引き渡すことができる。
②傍聴席が騒がしいときは、議長は、すべての傍聴人を退場させることができる。
③前二項に定めるものを除くほか、議長は、会議の傍聴に関し必要な規則を設けなければならない。

憲法 第94条〔地方公共団体の権能〕
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

<判断>
●争点①
ドキュメンタリーと報道を厳密に区別することは困難であって、ドキュメンタリーも事実に基づく表現手段である以上、報道の要素をも含み、国民の知る権利に奉仕する機能を有する
②Xの代表者のこれまでの取材活動
ドキュメンタリー映画を製作するXに対して、憲法21条により報道の自由が認められ、取材の自由も尊重されるべき

●争点②
地自法115条1項の「公開」の趣旨や報道の自由の重要性
⇒報道の正確性を担保する目的を達成するため、会議の撮影が尊重されるべき。
but
①地自法115条1項が会議の撮影について定めず、
②地自法130条の定め
地方議会の会議における撮影につき、各地方公共団体の実情に応じて、各地方議会の議長が会議の撮影の在り方を定めることが許容されていると解される

本件規則が地自法115条1項に反せず、また、憲法94条、地自法14条1項に違反しない。

本件規則の目的:
議会の秩序維持、公正かつ十分な審議の確保、議会の議事内容の正確な伝達の確保。
これらは合理的なものといえ、目的達成のための手段につき、傍聴人による会議の撮影を一律禁止とし、合理的な理由に基づき、傍聴人による会議の撮影を認めたとしても各要請を満たすとの判断ができる場合において、議長の許可により撮影を認めることは、前記目的を達成するために合理的かつ必要な措置
憲法21条に違反しない

●争点③
違反しない。

●争点④
議会事務局が行うべき教示内容について、
①本会議の撮影のために議長の許可が必要であること(Xが求めるのであればさらにその根拠となる本件規則の存在・内容)
②許可申請書作成に必要な記載事項
にとどまり、それ以上の個別具体的な事項について、議会事務局に教示義務があると解する格別の根拠はない。
⇒不法行為には当たらない。

判例時報2485

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石綿粉じんばく露による死亡と雇用主のビルメンテナンス会社の責任(肯定)

福岡地裁R2.9.16

<事案>
Aは・・・北九州市立総合体育館の設備の管理業務に従事⇒平成17年に肺がんにり患して肺の一部を切除し、平成25年に細菌性肺炎を原因とするARDSにより死亡。

Aの相続人であるXらが、Aは本件体育館の石綿含有建材から発生した石綿粉じんにばく露し、じん肺(石綿肺)及び肺がんにり患したことにyり死亡

Y1(北九州市)に対しては国賠法1条1項又は2条1項に基づき
Y2(会社)に対しては民法415条又は709条に基づき
損害賠償を請求。

<主張>
石綿粉じんばく露とAの死亡との間の因果関係を争うほか、
Y1:本件体育館に営造物の設置又は管理の瑕疵がない
Y2: 安全配慮義務違反がない

<判断>
●本件体育館の設置又は管理に係る瑕疵
国賠法2条1項における営造物の設置又は管理の瑕疵:
民法717条1項の土地工作物責任に係る最高裁H25.7.12を引用し、
吹付石綿を含む石綿の粉じんにばく露することによる健康被害の危険性に関する科学的な知見及び一般人の認識並びに様々な場面に応じた法令上の規制の在り方を含む行政的な対応等は時と共に変化⇒Y1が本件体育館の所有者又は管理者として国賠法2条1項に基づく営造物責任を負うか否かは、人がその中で勤務する本件体育館のような建築物の壁面に石綿含有吹付け材が露出していることをもって、当該建築物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった時点からであると解するのが相当。
①新聞報道
②石綿の除去工事
③文部省が発出した通知
④建設省の通知
⑤建設省による
⑥環境庁・厚生省が
⑦Y1が
⑧北九州市アスベスト対策連絡会議

遅くともAが本件体育館における勤務を開始した平成2年5月頃までには、建築物の石綿含有吹付け材(石綿含有率5%以上の吹付けロックウールを含む。)のばく露による健康被害の危険性及びそのような石綿の除去等の対策の必要性が広く世間一般に認識されるようになり、同時点で、本件体育館は通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった。

Y1の国賠法2条1項に基づく責任を認めた。

●Y2の安全配慮義務違反の有無
安全配慮義務(民法709条)に係る予見可能性について、
使用者が認識すべき予見義務の内容は、
生命、健康という被害法益の重大性⇒安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命・健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はない。
少なくとも同月(平成2年5月)頃までには、上記吹付けロックウールが使用されている建築物の保守・管理等を依頼されている建築物の保守・管理等を依頼されたビルメンテナンス業者は、石綿粉じんにばく露することにより、そこで作業に従事する従業員の安全性に疑念を抱かせる程度の危険性を認識することは十分可能であった。

Y2の安全配慮義務違反の前提となる予見可能性を肯定し、Y2の安全配慮義務違反を肯定。

<解説>
国賠法2条にいう設置・保存の瑕疵とは、民法717条に定める設置・保存の瑕疵と同義とされている。
最高裁H25.7.12の差戻審である大阪高裁H26.2.27では、遅くとも昭和63年2月の時点では、吹付け石綿が施された建物について、通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった旨判示。

判例時報2485

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2021年9月 1日 (水)

刑事事件におけるあおり運転による殺人罪での損害賠償命令に対する異議申立て⇒民事事件でも未必の故意認定

大阪地裁堺支部R2.7.30

<事案>
Yの運転する自動車がAの運転する自動二輪車に衝突し、Aが死亡
Yは、Aに対する殺人を公訴事実として起訴された。

Aの相続人であるXが、本件刑事事件の第1審において、Yを相手方として、不法行為に基づく損害賠償等の支払を求める損害賠償命令の申立て(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に不随する措置に関する法律23条)をし、同第1審が、Xの同申立てを認容する旨の裁判⇒Yが意義の申立て⇒同法34条1項より、訴えの提起があったものとみなされた事案

Xは、本件刑事損害賠償命令後に、自賠責保険金の支払を受けた⇒本件訴訟において請求額を一部減縮。

刑事事件 Yは、Aに対する殺人の公訴事実により起訴。
Yは、過失運転致死罪が成立するにとどまる旨主張して殺意を争ったが、
YのAに対する殺人の未必の故意を認定し、懲役16年の有罪判決。
その後、控訴棄却、上告棄却。

民事事件
● 争点は、本件衝突についてYに未必の故意が認められるか?
Xは、Yの過失による不法行為は主張しなかった。

● 判断:
不法行為における故意とは、自己の行為により一定の結果が発生すべきことを認識しながら、その結果の発生を認容し、その行為をあえて行なうことをいう。

本件衝突に係るYの走行態様等、
①Yが、後方から進路前方にA車両が割り込んできた後、ハイビームを複数回照射し、立て続けにクラクションを鳴らしたこと
②Yが、A車両が急加速した後にそれを追跡するように急加速し、A車両と同様のルートで車線変更したこと、
③A車両との車間距離が約10メートルになった地点に至って初めてブレーキをかけたが、ブレーキの程度は緩やかであったこと、
④本件衝突後、Yが軽い口調で「はい、終わりー。」と言ったこと

Yは、A車両に後方から追い抜かれてY車両の前方に割り込まれたことなどに立腹してA車両を高速で追跡し、Y車両をA車両と衝突させることを意図していたと認定し、本件衝突及びAの死亡の結果に対する未必の故意が認められると判断。

判例時報2485

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遺言書と条件不成就

東京地裁R2.7.13

<事案>
被相続人Aは、平成31年3月に死亡。
Aの妻Bは、Aの生前である平成30年9月に死亡。
AB夫婦には、長女X及びその兄Zがいる。
Aの遺言書の封筒の裏面に、
「◎私がBより先に死亡した場合の遺言書」との記載(「本件封筒文言」)

<判断>
①本件封筒文言はAにより本件封筒の裏面に記載されていたこと、本件封筒は遺言書本分が封かんされ、Aによる表題記載等がなされ、封印がされたもの
封筒と遺言書本分は一体のものとして作成されたと認められ、本件封筒文言は遺言本体の記載と同様に本件遺言に含まれる

Aは、自身の死後においてもBが生存してしている場合に限って、XからBに対する生活援助を継続してもらう必要性があるために、遺言書本分は、Xに一方的に有利な内容⇒本件封筒文言は、Aが死亡した際にBが生存していることを本件遺言全部の停止条件とする趣旨の条項であると認めるのが相当。

BがAの生前に死亡したことにより条件が成就しないことが確定したことによって、本件遺言は効力を失った。

判例時報2485

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