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2021年8月13日 (金)

均等侵害の成否の判断、特許法101条2号関係

大阪地裁R2.5.28

<事案>
クランプアーム、スイングクランプ、流量調整弁から構成され、名称を「クランプ装置」とする特許発明を有するXが、・・・「本件製品群1~8」 の製造販売等は本件特許権の間接侵害である⇒本件製品群1~8の製造販売等の差止め、同製品及びその半製品の廃棄並びに損害賠償を請求。

<説明>
スイングクランプとスピードコントロールバルブとのセット(「本件製品群1~3」)
リンククランプとスピードコントロールバルブとのセット(「同4~6」)
スピードコントロールバルブ(「同7、8」)

<争点>
①間接侵害の成否
②差止請求の成否
③特許法102条2項に基づく推定の覆滅

<解説>
●争点①について
◎本件製品群4~5について
〇特許権の均等侵害については、ボールスプライン軸受事件最高裁判決(H10.2.24)において、均等侵害が成立する5つの要件のうち、第5要件として、
「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」という要件が判示されている。

マキサカシトール事件最高裁判決(H29.3.24):
出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたもにに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。


①本件製品群4~6にクランプアームを組み合わせるとリンククランプを有するクランプ装置となる。
②本件発明に係る特許出願時の特許請求の範囲にはリンククランプを有するクランプ装置が含まれていた

マキサカルシトール事件最高裁が判示する「出願人が、特許出願時に・・・対象製品等に係る構成を・・・特許請求の犯にに記載しなかった場合」に該当するわけではない。
同判決以前から、本件におけるリンククランプを有するクランプ装置のように補正前は特許請求の範囲に含まれていたが補正により特許請求の範囲から除外されたものはボールスプライン軸判決にいう、「特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたもの」に当たる⇒そのものについては第5要件を充足しないとされる場合が多かった。
but
本判決は、マキサカルシトール判決の判示を引用した上、
その判示は特許請求の範囲につき複数回行なわれた前後の補正の経緯を検討する場合においても同様であるとして本件を処理。

特許請求の範囲に含まれていたものが補正により特許請求の範囲から除外された場合についても第5要件を客観的、外形的に判断すべき旨を強調。

◎本姓製品群7及び8について
非専用品形間接侵害の主観的要件のうち「その物が発明の実施に用いられること」:
A:著作権侵害幇助刑事事件であるWinny事件最高裁判決(H23.12.19)の判示を参考に、部品等の供給者において、その部品等が例外的とはいえない範囲の者によって特許発明に係る物の生産に用いられる蓋然性が高いことを認識していれば足りると緩やかに解する考え方
B:部品等の供給者において、その部品等が特定の者によって特許発明に係る物の生産に現実に用いられていることを認識していることを要すると厳格に考える考え方

本判決:
当該部品等の性質、その客観的利用状況、提供方法等に照らし、当該部品等を購入等する者のうち例外的とはいえない範囲の者が当該製品を特許権侵害に利用する蓋然性が高い状況が現に存在し、部品等の生産、譲渡等をする者において、そのことを認識、認容していることを要し、またそれで足りる

Winny事件最高裁判決と同様の判示。
幇助事件における考え方より緩やかなわけではないという意味で、同最高裁判決との不整合は来していない。

●争点②について
非専用品型間接侵害における非専用品の差止の範囲:
A:同部品を製造、販売する行為について間接侵害が成立するとみて、間接侵害行為と目される当該行為について限定なく差止めを認める
B:具体的な商品名を掲げて当該商品の製造販売の差止を命ずる判決や、当該部材等を専ら侵害用途に使用している顧客の名称を掲げた上で当該顧客への販売の差止めを命ずる判決は許されるが、無条件に当該部材を対象に掲げただけの差止判決を発することは許されない

学説は非専用品の差止めの範囲を適切に画することが必要であるとする考え方が多数派。
but
裁判所は、個々の範囲を限定しない差止請求を認めている。

●争点③について
◎特許法 第一〇二条(損害の額の推定等)
 
2特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。

◎特許法102条2項の損害の額の推定規定について:

紙おむつの処理容器事件知財高裁第合議判決(H25.2.1)
「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められる。」

二酸化炭素含有粘性組成物事件知財高裁第合議判決(R1.6.7)
「特許法102条2項・・・所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは、原則として、侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって、このような利益全額について同項による推定が及ぶ」

◎その推定の覆滅について:
二酸化炭素含有粘性組成物事件知財高裁第合議判決:
侵害者が主張立証責任を負うものであり、
侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たる。
例えば、
①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)
②市場における競合品の存在
③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)
④侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)
などの事情について、・・これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができる。

特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても、推定覆滅の事情として考慮することができる。
but
特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるでのではなく、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当。

◎間接侵害に特許法102条2項が適用されるか:
A:肯定説(多数派)
but
その要件については、
特許権者が特許発明を実施していることや間接侵害品と競合する製品を販売等していることは不要であると穏やかに解する考え方や、
特許権者が間接侵害品と競合する製品を販売等していることを要すると厳格に解する考え方

非専用品型間接侵害に特許法102条2項が適用される場合の推定の覆滅について:
非専用品のうち特許発明に係る物の生産以外の用途に用いられている分は推定を覆滅する事情であるとした裁判例
本件製品群7及び8のうち適法な用途に用いられている分が
「Xの損害の額=Yらが受けた利益の額」という推定を覆滅する事情とされた

適法な用途に用いられている分も含めた本件製品群7及び8の製造販売等の全体が侵害行為であることを前提としている。

◎紙おむつ処理容器事件知財高裁大合議判決において、
特許法102条2項を提供するための要件である
「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合」の「利益」は特許発明の実施による利益に限らない旨が判示。

一般的に特許権者の事業が侵害者の非専用品の製造販売等それ自体と競合することもあり得る

非専用品の製造販売等の全体が侵害行為であるとする場合、そのうち特許発明に係る物の生産以外の用途に用いられている分を常に同項に基づく推定を覆滅する事情としてよいかどうかについては、議論が生じよう。
学説には、事案によっては非専用品を個別具体的に把握して特許発明に係る物の生産に用いられる者の製造販売等のみを侵害行為であるとすべきとの考え方

前述の競合の有無にかかわらず、非専用品のうち特許発明に係る物の生産以外の用途に用いられる分はすいての覆滅の段階ではなく侵害行為により侵害者が受けた利益の額を算定する段階で考慮されることになる。

判例時報2481

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