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2021年8月23日 (月)

県教育委員会による特別支援学校への就学通知の違法性が問題となった事例

横浜地裁R2.3.18

<事案>
人工呼吸器による呼吸管理等の医療的ケアが必要な児童である原告Aにつき、県教育委員会が、地域の小学校の特別支援学級への就学を求める父母の原告B及びCの意向に反して原告Aを就学させるべき学校として神奈川県立Z用語学校(特別支援学校)を指定して通知⇒原告A及び原告父母の3名が、被告県(神奈川県)に対し、
県教委の前記処分が違法である旨主張し、
①当該処分の取消しを求める訴訟を提起するとともに(行訴法3条2項)、
②被告市(川崎市)に対して、市教育委員会(「市教委」)において、原告Aを就学させるべき学校としてD小学校又はE小学校を指定するように求める非申請型義務付けの訴え(行訴法3条6項1号)を提起

<法令>
学校教育法:
16条
17条1項

学校法施行令:
5条1項
11条1項
14条1項、2項

18条の2j
障害者基本法
4条1項
2項

16条1項、2項、3項、4項
障害を理由とする差別の解消に関する法律
7条1項、2項

<判断>
●訴訟要件充足の有無
県教委が行なった本件就学通知(施行令14条)について、
県教委が行なう就学通知は、公権力の主体である県教委が、
施行令14条に基づき、
原告Aが就学すべき学校を指定し、その旨の通知を保護者にするもの

そのことによって、原告Aの教育を受ける権利を直接形成し、保護者である原告父母に原告Aに対する就学義務(法17条1項)を具体的に形成するもの
⇒処分性(行訴法3条2項)を認めた。
市教委が行なう就学先指定・・・・処分性を認めた。
原告適格も肯定。
義務付けの訴えの要件である「重大な損害を生ずるおそれ」及び「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」(行訴法37条の2第1項)についても、要件を具備していると判断。

●本件就学通知の適法性
①手続上の適法要件と
②実体上の適法要件
に分けて検討し、すべて充足。
③裁量権の逸脱濫用の有無を検討し、それも否定。

◎手続上の適法要件
本件就学通知が施行令14条1項で定める時期(翌学年の初めから2月前まで)より遅れたことについて、
本件就学通知に至るまでの一連の手続の中で、県教委は、三者の合意形成のため時間を要してその通知の時間の定めを遵守することができなかったものであると認められる⇒その期間不遵守にはやむを得ない理由があるものと認められ、このようなやむを得ない理由のある本件において、県教委が本件就学通知をするに当たって、施行令14条1項所定の期間を遵守していなかったとしても、そのことは、本件就学通知の手続的瑕疵とはならない。

◎実体上の適法要件

◎裁量権の逸脱濫用について
市町村の教育委員会は、その所管する教育行政に関して一定の裁量権を有しているものと認められる。
認定特別支援学校就学者の審査については、対象児童の基礎資料の収集・調査を経て、専門家で構成される支援会議の審議を経て最終的な決定に至るものと認められる⇒
①このような定型的な行政の判断過程において、考慮すべき事情を考慮しないことを含めて、基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、
事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと等により、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合
に限り、裁量権の範囲を逸脱又はこれを濫用したものとして違法となる。

①市教委は、県教委の関与の下、原告父母との間で合意形成に努め、結局合意形成に至らなかった⇒合意形成に対する手続に瑕疵があるとはまでは認められない。
②原告Aの主治医に病状を照会したり、通園していた幼稚園のその状況を照会したりしていないとしても、そのことは本件就学通知に至る判断過程の瑕疵を基礎付けるものではないし、そのことをもって障害者に対する合理的配慮を欠くということはできない。
③被告市が医療的ケア支援事業の適用範囲を人工呼吸器使用児にまで拡大しなかったとしても、被告市の運用が不合理であるとはいえない。

結論として、
①就学先指定の判断過程において考慮すべき事情を考慮しないこと、
②その基礎とされた重要な事実に誤認があること、
③事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと
等の看過し難い過誤や欠落があったとは認められず、また、その判断内容も著しく不当であるとは認められない
⇒裁量権の逸脱又は濫用の違法があるとはいえない。

<解説>
● 従前:障害児は原則として特別支援学校に入学
平成25年施行令改正:障害児も原則小学校または中学校に就学し、特別に認定された場合にのみ特別支援学校に在籍。

● わが国はは、平成19年に障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)に署名し、同条約批准に向け、国内の障害者に関する制度改革をを進めるべく、
障害者基本法の改正、障害者差別解消法の制定等、障害児・障害者をめぐる法を大きく転換。

障害者権利条約24条:
人間の尊厳や人権、多様性の尊重を強化させ、
障害者が精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること等の目的の下、
「学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること」
「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること」
等が求められる。

障害のある子どもが障害のない子どもとと共に教育を受けるというインクルーシブ教育の理念を打ち出したもの。

● 取消しを求める県教委の処分と義務付けを求める市教委の処分との関係:
県教委の処分が取り消されない以上、市教委の処分の義務付けは命じ得ないのではないか(矛盾する2つの処分の平地はありえない。市教委の処分の義務付けは、県教委の処分の取消しが前提となる。)?
県教委の処分の取消しが、市教委の認定特別支援学校就学者の認定が違法であるという理由で認められる⇒その理由の拘束力によって(行訴法33条)、市教委は、当然に施行令5条1項、2項の処分をすることになる⇒義務付けの訴えは訴えの利益がないのではないか?といった点の検討が必要では?

本判決:本件で原告が義務付けを求めている市教委の就学先指定処分を施行令5条2項、11条に基づくものであると捉えた上で処分性を論じている。
vs.
本件で義務付けを求めている処分は単純に施行令5条1項、2項に基づくものであり、処分性があることは明らかでは?
市教委が県教委に対して通知すr就学先指定(施行令11条)を、保護者には通知されず、内部的なものにすぎないのではないか?
これが行政処分⇒県教委のする就学先指定処分において、この市教委の就学先指定の違法が承継されるか否かの検討を要するのでは?

本判決:
「県教委は、県専門委員会の意見を踏まえ、・・・市教委に対し、原告Aを特別支援学校就学予定者として承認する旨の通知を発した」という事実を認定。
vs.
「県教委の承認」は法的根拠があるのか?
市教委の認定特別支援学校就学者の認定との関係はどうなるのか?

判例時報2483

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