確定測量図の交付義務について争われた事例
名古屋高裁R1.8.30
<事案>
土地の売主であるXが買主であるYに対し、Yの残代金不払いの債務不履行によって売買契約が解除⇒違約金(既払いの手付金を控除した残額)の支払を求めた(本訴請求)。
YがXに対して、約定の確定測量図を交付しないXの債務不履行又は瑕疵担保責任によって売買契約が解除されたことを主張⇒契約解除による原状回復義務に基づき、手付金の返還を求めた(反訴請求)。
<事実>
「売主は、買主に対し、残代金支払日までにその責任と負担において、隣地所有者等の立ち合いを得て、資格ある者の測量によって作成された本物件の確定測量図を交付する」などの約定
南側の隣地所有者Aのにが境界立会図等への署名押印を拒んだ。
Xは、測量事務所から、
①本件土地の境界については、平成27年作成の確定測量図が市役所土木課に保管されている
②法務局担当者からAの署名押印を得られない状態でも分筆登記が可能であるとの確認が得られた
⇒Aの書面による承諾がない場合でも確定測量図として支障がないとの報告を受けたため、Yに対し、残代金の支払を求めた。
<争点>
境界についてAの書面による承諾がない状態で作成された確定測量図の交付によって、Xが本件約定の義務を履行したといえるか。
<判断>
①本件約定の文言
⇒本件約定における確定測量図は、実際に隣地所有者の立会いを経て作成されたものを指すと解すべき。
②買主が、隣地所有者の立会いやその結果境界を承認している事実を確認することは容易ではない。
⇒
「隣地所有者等の立会いを得て」とは、立合いの結果確定された境界につき、書面による承諾を得る義務を課す趣旨であると解すべき⇒Aからそのような書面の承諾を得ていないXは、本件約定の義務について履行の提供をしたとはいえない。
平成27年作成の確定測量図が存在しているため、分筆登記等が可能とのXの主張
but
Xが、売買契約時に特段の留保を付すことなく本件約定の義務をを負うことをYに約し、測量事務所からAの書面による承諾が得られないとしても確定測量図として支障がない旨の報告があるまで、Aの書面による承諾の取得に向けて行動し、Yとの間で確定測量図の交付期限とされた残代金支払日を延期する旨の合意
⇒Xは、Yに対し、改めて、売買契約当時の隣地所有者の立ち合いを得て作成された確定測量図を交付する義務を負ったと解するのが当事者の合理的意思に合致。
過去に旧隣地所有者との間で境界を確定した経緯があっても、境界について現在の隣地所有者の書面による承諾を得た上で作成された確定測量図を交付できないという事態が、当該土地の減価要因となると考えられる
⇒価額低下のリスクを回避するために、買主において、改めて、現在の隣地所有者の立会いによる確定測量図の作成を求めることは必ずしも不合理ではない。
判例時報2483
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