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2021年8月16日 (月)

実施法が問題⇒重大な危険の返還拒否事由あり(原審)⇒同事由なし(控訴審)の事案


東京高裁R2.1.21

<事案>
子Cの父であるA(抗告人)が母であるB(相手方)に対し、Bによる留置によりCに対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関sるう法律(「実施法」)に基づき、Cを常居所地国であるアメリカ合衆国に返還することを求めた。

<原審>
Aの申立てを却下

Aが即時抗告

<争点>
いわゆる重大な危険の返還拒否事由の有無(実施法28条1項4号)

<主張>
重大な危険を基礎付ける事情として、Bは、
①Aによる大麻の使用
②Aによる過去の継続的・恒常的な暴力の事実
③Aは薬物依存等のため適切な監護を期待することができず、また、Bも常居所地国において刑事訴追を受けることが不可避の状況である⇒AもBも常居所地国において子を監護することは困難
本件子(C)の返還申立事件の継続中に、Bが睡眠改善薬等を過剰摂取する方法で自殺を企図⇒仮にCだけを常居所地国に返還した場合は、自殺再企図の可能性が高まり、Bが自殺した場合には、Cを耐え難い状態に置くことは明らか

<判断・解説>
●争点①

①AがCの面前において大麻を使用していたことを的確に認めるに足りる証拠はない
仮にAが違法に大麻を使用したとしても、それがCの心身に有害な影響を及ぼすに至ることを認めるに足りる具体的な証拠はない
③Aが今後、医療的な観点から大麻を使用する必要性があるとしても、適正に使用していく意向であることを示している

Aによる大麻の使用が、実施法28条2項1号に規定された「心身に有害な影響を及ぼす言動」に該当するとまではいえない。


実施法28条1項4号の返還拒否事由は、LBT(Left Behind Parent)とTP(Taking Parent)のいずれが監護者として適格であるかを問題とするものではない
仮にLBPに子の監護者として不適格な事情があったとしても、それによって子の監護に具体的な危険が生じていない以上は、返還拒否事由に該当することは困難

●争点②

かつてAがBに対して暴力を振るったことがあることが推認される
but
Bの供述によっても最後に暴力を受けたのは平成29年1月であり、その後、約2年間にわたって、AとBとには多数の接触の機会があったにもかかわらず暴力が振るわれたことはないといった経緯

BがAから心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれがあるとはいえないという原審の判断を維持。


過去に暴力があった場合であっても、暴力が継続的なものでない場合には、返還拒否事由としては認められない傾向にあるとされる。
but
単発の暴行であっても、その行為態様の悪質性及び結果の重大性などを総合考慮して、4号該当性を肯定した裁判例もある。

●争点③
◎ Bが本件E州内に立ち入った場合は、Cの監護ができなくなる可能性がある
but
①Aが実際に養育計画に沿って監護をしていた
②B自身、養育計画に応じている
③Bが日本に入国する前にはAにCの監護を依頼して勤務していた

AにおいてCの監護を行なうことができないということはない。

●争点④
◎原審:
①Cの米国への返還が命じられた場合には、Bにおいて再度自殺を企図する可能性が高い
②そのような事態は、Cを母親との死別という耐え難い状況に置くことになる

子を常居所地国に返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険がある。

◎ 判断:
原審での審理経過や原審第2回審尋期日後のBの行動等を詳細に認定

①Bの自殺未遂は発作的なものであり、救急搬送先の病院から退院した後のBの精神状態に不安定なところはみられず、再度入院することもなく、通院の頻度は2週間に1回程度にとどまっている
②Bの親族等が自殺予防の措置を講じている様子うかがわれず、B自身もネイルサロンで働き続けることが可能な状態にあること
などの爾後の経過

Bの希死念慮はさほど重大かつ切迫したものとは認め難い。

Bの自殺衝動や希死念慮の高まりは、一時的な現実検討能力及び判断力低下によるものであり、本来、精神科医による治療行為等や親族等による自殺予防の措置等により回避されるべきものであり、そのような自殺予防のために必要かつ有効な措置等が
高じられる限り、Cが米国への返還を命じられることによって、Bにおいて自殺をする可能性が高いとはいえない。


TPの自殺は、子とTPの永遠の別離を招く⇒「子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険」を生じさせるものということができる。
オーストラリアでも、子が返還された場合に母親が自殺をする重大な危険があり、それにより、子が精神的な害悪を被る重大な危険があるとして、返還拒否事由が認められた事案がある。

判例時報2482

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