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2021年8月30日 (月)

本訴・反訴の関係にある請負代金債権と目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の相殺

最高裁R2.9.11

<事案>
本件本訴:
Yから自宅建物の増築工事を請け負ったXが、Yに対し、請負代金及び遅延損害金の支払等を求めた事案。

本件反訴:
Yが、Xに対し、自宅建物の増築部分に瑕疵があるなどと主張し、瑕疵修補に代わる損害賠償金及び遅延損害金の支払等を求めた。
Xは、平成26年3月、本件本訴を提起
Yは、同年6月、本件反訴を提起。
Xは、同年8月の第1審口頭弁論期日において、Yに対し、本訴請求に係る請負代金債権を自働債権とし、反訴請求に係る瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示(「本件相殺」)。

<原審>
係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないところ、本訴原告が、反訴において、本訴における請求債権を自働債権として相殺の抗弁を主張する場合であっても、本訴と反訴の弁論を分離することは禁止されていないから同様に許されない。

本訴原告であるXが本件相殺の抗弁を主張することは、重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反し、許されない。

<判断>
請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし、他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に、本訴原告が、反訴において、前記本訴請求債権を自働債権とし、前記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許される。

<解説>
●重複起訴禁止と相殺の抗弁
抗弁先行型と抗弁後行型(本件)
抗弁後行型における相殺の抗弁
A:許容説
B:不許説
but
本件のように本訴反訴として審理されている場合や
別訴提起されたとしてもその後併合審理されているような場合
(同一手続型)の場合
審理及び判断が同一の受訴裁判所によって一体として行なわれる⇒審理の重複や判断の抵触のおそれがなく、重複訴訟の問題が生じない
⇒相殺の抗弁は許容されるとする見解が支配的。

●最高裁H3.12.17:
係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当である。

相殺の抗弁について旧民訴法231条(現行民訴法142条(重複する訴えの提起の禁止)に対応)を類推適用し、抗弁後行型における相殺の主張を許さないものとした。

控訴審段階で初めて別訴と本訴が併合され、相殺の抗弁が主張され、その後判決前に両事件が分離されるに至っていたというもの。
but
相殺の「抗弁が控訴審の段階で初めて主張され、両事件が併合審理された場合についても同様」に許されないと判示⇒その射程については、本件のような同一手続型にも及ぶとみる余地。
(高橋は同部分を傍論とする。)
同一手続型である本訴反訴の事案において、平成3年最判を引用しつつも、
「反訴原告において異なる意思表示をしない限り、反訴は、反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更されることになる」とし、「このように解すれば、重複起訴の問題は生じないことになる」として、相殺の抗弁を許容する判断(最高裁H18.4.14
vs.
①予備的反訴への変更という構成については、「平成3年最判を意識しすぎて、無益な技巧を凝らした」もの。
②反対の場面である本訴側からの相殺が認められないとすると「そのような帰結は不均衡」

●本件の本訴請求権と反訴請求権:
同一の請負契約に基づく請負代金債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権であって、
実体法上、同時履行の関係にある上、相殺により精算的調整を図ることが想定された特殊な関係にある。
前記両債権は同時履行の関係に立つ⇒相手方から履行の提供を受けるまでは履行遅滞の責任を負わないが、
相殺の意思表示がされれば、相殺後の残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。

このように相殺の担保的機能が強く発揮されるべき場面であるにもかかわらず、その一方からの相殺の抗弁の主張や許容されるも、他方からの主張が封じられ、結果として訴訟上の地位に差異が生じ、かつ、実体法上も履行遅滞責任を負わないという差異が生じることについては、著しく均衡を欠く。

本訴反訴として適法に併合されている請求について、弁論の分離を命ずるかどうかは裁判所の裁量に委ねられているが、その裁量も全くの自由裁量ではない。

学説上、特に関連性の強い本訴と反訴のような場合には弁論の分離が制限されるとする見解が有力
本件のように本訴請求債権と反訴請求債権とが特殊な関係にあり、
両者の相殺の抗弁が主張されている場合については、
本訴反訴を分離してしまうと、その結果、審理の重複や判決の矛盾抵触が生じてしまう
⇒1つの訴訟手続で審理・判決することが強く要さされている
⇒弁論の分離が禁止され、その反面として相殺の抗弁が許容されるとの解釈を採ることができる。

●本判決は本訴反訴の事案を前提

その直接の射程は、別訴が提起され、その後本訴と別訴の弁論が併合された場合には及ばない。
but
両債権の関係性を理由に相殺の抗弁を許容⇒少なくとも請負事案における前記両債権の相殺の抗弁については、弁論の併合場面においても同様の理由で許容されると解することができる。
本判決は、弁論の分離が許されないと判示するにとどまるが、
一部判決をすることも同様に許されないものと解される。

判例時報2485

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