①選挙の取消しを求める訴え+②後任理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えで①の訴えの利益
最高裁R2.9.3
<事案>
Y:中小企業等協同組合法に基づき設立された事業協同組合
平成28年5月のYの通常総会で理事を選出する選挙(「本件選挙1」)及び幹事を選出する選挙(「本件選挙2」)
⇒
本件選挙1で選出された理事によって構成される理事会がした招集決定に基づき、同理事会で選出された代表理事である理事長が招集して、平成30年5月、Yの通常総会が開催。同窓会で本件選挙1及び2で選出された理事及び幹事全員が任期満了で退任したとして理事を選出する選挙(「本件選挙3」)及び幹事を選出する選挙(「本件選挙4」)。
Yの組合員であるXが、Yに対し、
①本件選挙1及び2の各取消しを求めるとともに、
②本件選挙1を取り消す旨の判決の確定を条件に、本件選挙3及び4の各不存在確認を求めた。
<原審>
本件選挙1及び2の各取消しの訴えの係属中に、役員全員が任期の満了により退任し、その後に行なわれた本件選挙3及び4で役員が新たに選出⇒特別の事情のない限り、取消しの訴えの利益は消滅。
取消請求の認容判決確定まで本件選挙1は有効とされ、事実審の口頭弁論終結時において本件選挙3及び4は適法であった⇒本件選挙1の取消しの訴えの利益があるとはいえない。
前記特別の事情もない⇒本件選挙1及び2の各取消しの訴えは不適法。
本件選挙3及び4の各不存在確認の訴えは、過去の法律関係の不存在について停止条件付きで確認を求める訴え⇒不適法。
Xが上告受理申立て
<判断>
事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しを求める訴えに、同選挙が取り消されるべきものであることを理由として後任理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合には、後行の選挙がいわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、先行の選挙の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。
⇒
原判決を破棄し、本件選挙1の取消事由の存否等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻し。
<解説>
● 選挙の瑕疵を争う訴えには、会社法の株主総会決議の瑕疵を争う訴えの規定が準用されると解される。
役員選任の株主総会決議の瑕疵を争う訴えの利益にについて、
①事後的な事情の変化と役員選任の株主総会決議取消しの訴えの利益の存否に関する最高裁昭和45.4.2と
②株主総会決議の瑕疵の連鎖と役員選任の株主総会決議不存在確認の訴えの利益の存否に関する最高裁H11.3.25
昭和45年最判:
株主総会決議取消しの訴えのような形成の訴えについては、法律に規定する要件を充足する限り、訴えの利益を有するのが通常。
but
後の事情の変化によりその利益を欠く場合がある。
役員選任の株主総会決議取消しの訴えが係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会決議によって取締役ら役員が新たに選任され、その結果、取消しを求める選任決議に基づく取締役ら役員が現存しなくなった⇒特別の事情のない限り、決議取消しの訴えの実益がなくなり、訴えの利益を欠くに至る。
~
決議後の事情の変化と決議取消の訴えの利益の有無は、決議の取消しを求める「実益」があるか否かという観点から判断すべきとするもの。
平成11年最判:
先行の取締役選任の株主総会決議の不存在委の瑕疵が後行の取締役選任の株主総会担ぎの不存在の瑕疵をもたらす(瑕疵が連鎖する)との最高裁H2.4.17の考え方を踏襲しつつ、
役員選任の株主総会決議後の事情の返還と決議不存在確認の利益の有無について、
先行の取締役選任の株主総会決議の不存在の瑕疵が後行の役員選任の株主総会決議に継続する事情の下で、そのような瑕疵の継続が主張されている場合においては、後行決議の存否を決するためには、先行決議の存否が先決問題となり、先行決議の不存在確認を求める訴えに後行決議の不存在確認を求める訴えが併合されているときは、前者の訴えにも確認の利益がある。
● 先行の理事選挙の取消しの瑕疵が後行の役員選挙に連鎖するとして先行の理事選挙の取消しの訴えが提起⇒不存在確認の訴えと同様、先行選挙の取消しの訴えの利益が認められるか?
〇A:肯定説:
株主総会取消しの判決には遡及効がある(民法121条、なお、会社法839条参照)⇒判決の確定により決議は当初から無効⇒先行決議の取り消しの場合も、不存在の場合と同様、瑕疵の連鎖を認める。
B:否定説
肯定説でも、
対外的には、不実登記の効力に関する規定(会社法908条2項)や表見代理の規定(民法109条等)等により保護されると解することは可能であるし、
取消しの訴えの場合には裁量棄却の規定(会社法831条2項)もある。
⇒妥当な結論を導くことができる。
判例時報2482
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