弁護人の裁定請求が棄却された事例
名古屋高裁R1.10.24
<事案>
基本事件:自動車内にけん銃1丁を適合実包12発とともに保管して所持したというもの。
弁護人:警察官に対し、前回事件の捜査の端緒となった、本件とも前回事件とも異なる被疑事実(Aに対する銃刀法違反、前々回事件)でのB方等に対する捜索差押許可状の発付に係る各捜索差押許可状請求書及びその疎明資料(本件各証拠)につき、刑訴法316条の20に基づき開示請求⇒検察官は、開示対象該当性、関連性、必要性及び開示の弊害を争い、これを開示しなかった⇒裁定請求
<規定>
刑訴法 第三一六条の二〇[主張関連証拠の開示]
1 検察官は、第三百十六条の十四第一項並びに第三百十六条の十五第一項及び第二項の規定による開示をした証拠以外の証拠であつて、第三百十六条の十七第一項の主張に関連すると認められるものについて、被告人又は弁護人から開示の請求があつた場合において、その関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに、第三百十六条の十四第一項第一号に定める方法による開示をしなければならない。この場合において、検察官は、必要と認めるときは、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。
<原審>
弁護人に対する非開示条件(A又は第三者に対し、本件各証拠の内容を明らかにしてはならない)を付して、検察官に各証拠の開示を命じた。
双方、即時抗告
<判断>
原決定を取り消し、弁護人の本件裁定請求を棄却。
①刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は、必ずしも検察官が現に保管している証拠に限らないものの、当該事件の捜査の過程で作成・入手した書面等であって、公務員が職務上現に保管し、かつ、検察官において入手が容易なものを含むと解されているところ(最高裁H19.12.25)
②実質的に考えても、原決定の解釈によれば、当該事件の捜査の過程で作成・入手した証拠でなくとも、弁護人の主張次第で開示対象はいかようにでも広げられることになるが、このような帰結を法が想定しているとは思われない。
⇒
検察官の即時抗告は理由がある。
<解説>
最高裁H19.12.25:
検察官が現に保管するものに限られず、捜査官が作成した取調べメモや捜査メモも証拠開示の対象となり得る。
but
「当該事件の捜査の過程で」という文言
⇒別事件の捜査において作成・入手した証拠は開示対象に含まれないのかという問題。
裁判例:積極に解するものが多い。
・「別事件の証拠であることから直ちに本件の証拠開示請求の対象にならないとされているわけではない」
・検察官が、別事件の証拠が本件に関連すると考えた場合に行う、謄本を作成して本件の一件記録に編綴するという運用への言及
・「形式的に本件の捜査過程で作成されたものに当たらないとはいえ・・・その際に作成された文書に記載された内容が、捜査の端緒やその後の捜査に密接に関連する情報として捜査機関内で共有されることが想定される⇒当該文書の作成が捜査の開始前か後かという形式的な基準で証拠開示の対象に含まれるか否かを判断すべきではない」
本決定は、上記裁判例の中では、やや異質。
判例時報2481
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