協議・合意に関して作成した文書の類型証拠開示(否定)
東京高裁R1.12.13
<事案>
当時会社の代表取締役であった被告人が、共犯者らと共謀の上、被告人の総報酬欄等に虚偽の記載(過少記載)のある有価証券報告書を関東財務局長に提出⇒金融商品取引法違反の罪に問われている事案。
<主張>
検察官:B・Cの供述調書等と、検察官B・C並びに同人らの弁護人を作成者とする刑訴法350条の2第1項の合意の内容を刑訴法350条の3第2項に従って記載した書面(「合意内容書面」)を証拠請求
弁護人:検察官、B・C又は同人らの弁護士が協議・合意に関して作成した一切の文書(「協議・合意関係文書」)は合意内容文書の証明力を判断するのに重要な証拠であり、刑訴法316条の15第1項5号ロ又は6号に該当するなどとして、類型証拠開示を求めた。
<判断>
合意内容書面の証拠請求は、犯罪事実を積極的に立証するためではなく、刑訴法350条の8前段の証拠請求義務を果たすためのもの。
刑訴法が合意内容書面の証拠請求義務を定めている趣旨は、合意に基づく供述が、他人を巻き込んだ虚偽の供述であるおそれがある⇒その供述の信用性に関連し得る合意の存在及び内容を関係者に明らかにするためのもの。
合意の存在や内容を踏まえた供述の信用性立証が実質的に行われる限り、合意の存在や内容それ自体についての詳細な立証が求められることはない。
事案によっては、合意の経緯等が、供述の信用性判断に影響する場合がないとはいえないが、それは被告人側の具体的主張等を踏まえて検討されるべき問題。
合意内容書面は、その内容の信用性判断が当然に予定されている証拠とはいえない⇒協議・合意関係文書は、合意内容書面の信用性判断のために重要な証拠といえず、
刑訴法316条の15第1項柱書の「特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要な証拠」に該当しない。
<解説>
●協議・合意制度
他人の刑事事件の捜査・公判に協力することを合意する捜査・公判協力が他の競技・合意制度。
当該被告人の弁護人の同意が必要(350条の3第1項)
←巻き込みの危険を防止。
合意の内容は、検察官、被疑者又は被告人及び弁護人が連署した合意内容書面によって明らかにしなければならず(同条2項)、
合意に基づく供述録取書等が他人の刑事事件において証拠とされる場合には、合意内容書面の取調べを請求することが義務付け(350条の8)
vs.
当該被告人の弁護人による信用性の担保には限界がある
←
当該他人(標的被告人)の弁護人による証拠開示及び反対尋問の重要性が指摘されている。
●協議・合意関係文書の類型証拠該当性
刑訴法316条の15の類型証拠開示は、特定の検察官証拠請求の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠開示を定めている。
本決定:類型証拠開示を否定
←
合意内容書面は、刑訴法350条の8に基づき合意の存在及び内容を明らかにするために請求されているものに過ぎず、その内容の信用性判断が予定されている証拠ではない。
but
「供述の信用性判断に影響する場合がないとはいえないが、それは被告人側の具体的主張等を踏まえて検討されるべき問題である」と指摘
←
類型証拠開示を一律に否定する趣旨ではないと思われる。
B・Cの供述証拠が証拠請求されている⇒供述調書の内容の信用性判断のための類型証拠開示が認められる余地はあると思われる。
判例時報2483
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