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2021年8月28日 (土)

東電福島第一原発事故避難者訴訟(福島県・隣接県)

仙台高裁R2.9.30

判例特報

◆1 事案の概要
◆2 原判決の要旨
◆3 本判決の概要
◇(1) 現状回復請求
◇(2) 東電の損害賠償責任
◇(3) 国の損害賠償責任
■(ア) 規制権限不行使の違法性
■(イ) 国の損害賠償責任の範囲
◇(4) 損害
■(ア) 本判決の判断手法
■(イ) 損害判断の在り方。考慮要素

地域的に9つのグループに分類した上で、
(i) 本件事故により侵害された事柄(基本的な社会インフラ・生活の糧を取得する手段、家庭・地域コミュニティを育む物理的・社会的諸要素、周囲の環境・自然、帰るべき地・心の拠り所となる地・想い出の地等としのて「ふるさと」等)、
(ii) 侵害態様(本件における1審被告東電の義務違反の程度は決して軽微とはいえない程度であったこと)・程度(前記(i)に掲げた事柄が、本件事故により、どの程度放射能汚染されたか(空間線量率等)又は侵害されたか)、
(iii) 本件事故後の経緯・現状等
を考慮要素とし、
放射線に関する知見、本件事故と放射線物質の放出、低線量被ばくに関する知見等に係る認定事実に加えて、1審原告らの旧居住地なしい居住地の状況等に係る認定事実等を基にして、
①~⑨のグループごとに本件事故と相当因果関係のある損害の有無及び額を判断することとし、
それぞれ認定した額が「中間指針等による損害額」を超える額が認容額の基本となる額とした。

◇(5) 最終的な認容額
◇(6) 相互の保証
◇(7) 二重訴訟1審原告らについて
◇(8) 結論

◆4 解説
◇(1) 本判決の位置付け
◇(2) 争点

責任論:
❶一般不法行為(民法709条)に基づく請求の可否(東電)
❷予見可能性の対象(東電及び国)
❸予見可能性の有無及びその時期(東電及び国)
❹規制権限(技術基準適合命令)不行使の違法性の判断枠組み(国)
❺結果回避可能性の主張立証責任(東電及び国)
❻結果回避可能性の有無(東電及び国)
❼国の責任の範囲(国)

損害論:
❽原賠審による中間指針の位置付け
❾損害の考え方(損害額)

特有のもの
❿原状回復請求の可否
⓫追加賠償項目に係る弁済の抗弁の成否
⓬世帯内融通に係る弁済の抗弁の可否
⓭精神的損害とそれ意外の損害との間の費目間融通と弁済の抗弁の成否
⓮相互保証の有無(韓国、中国、フィリピン、ウクライナ)
⓯二重訴訟と訴えの適法性

■(ア) 責任論
❶:否定
←特則である原賠法3条1項(無過失責任)が適用される。
but
①慰謝料の算定に際しての考慮要素として
②国の規制権限不行使と違法性を判断する前提として、
東電の義務違反(予見可能性等)についても検討し説示。

❷予見可能性の対象:
A:福島第一原発の主要建屋敷地高さ(10m)を超える津波
B:実際に到来した本件津波
Aを採用。

❸予見可能性の有無及びその時期:
予見可能性の有無:ほとんど全ての裁判例が東電(無過失責任のため判断していない裁判例もある)及び国の予見可能性を肯定。
予見可能性の時期:
裁判例によって結論がわかれる。

東電の予見可能性:
平成14年中(平成14年7月31日(長期評価の公表日)から数か月後、平成14年末頃又は「長期評価が公表された頃以降」とする裁判例)が大勢

国の予見可能性:
A:平成14年中
B:遅くとも平成18年5月
C:遅くとも平成18年末頃
C:平成21年9月(「平成21年報告」がされた頃)

「長期評価」に加えて、これに基づき東電が平成20年4月に行なった平成20年試算のようなシミュレーションをしなければ、福島第一原発の主要建屋敷地高さ(10m)を超える津波が到来することが具体的に分からなかったという事情をどのように評価するかについて、考え方が分かれている。
本判決:

上記Aの見解を採用して平成14年頃。

「長期評価」の見解が、国自らが文部科学省に設置した組織である地震本部から発表された見解⇒経済産業大臣としては、津波や津波地震に係る知見、溢水事故の危険性とその対策等に係る知見が積み重ねられていた中で「長期評価」の内容を認識した以上、これを踏まえたシミュレーションを、東電に対して指示するなり自らするなどしていりえば、平成20年試算と同様の結果が得られたはずであるとの理
but
違法と認められる時期については、総合考慮をして、遅くとも平成18年末。

❹規制権限(技術基準適合命令)不行使の違法性の判断枠組み(国):
本件で問題となっている技術基準適合命令は、経済産業大臣に専門技術的裁量が認められることを前提としたもの
⇒宅建業者訴訟上告審判決等を参照すべき。
(i)規制権限が定めた法が保護する利益の内容及び性質
(ii)被害の重大性及び切迫性
(iii)結果発生の予見可能性
(iv)結果回避可能性
(v)現実に実施された措置の合理性
(vi)規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による結果回避可能性)
(vii)規制権限行使における専門性、裁量性
などの諸事情を総合的に検討して、具体的な事情の下において、その不行使がその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに初めてその不行使が被害を受けた者との関係において国賠法1条1項の適用上違法となる。

❺結果回避可能性の主張立証責任(東電及び国):
同種事案に係る裁判例の大半:住民側に主張立証責任がある

本判決:
当事者間の衡平の観点⇒少なくとも住民側が一定程度具体的に特定して結果回避措置について主張立証した場合には、東電ないし国において、その措置が実施できなかったこと又はその措置を講じていても本件事故が回避不可能であったこと等の結果回避可能性を否定すべき事実を主張立証すべき。

主張立証責任の(事実上の)転換をいうのか、間接反証をいうものかなどについてはっきりとしないが、いずれにせよ、
福島第一原発の詳細構造及び本件事故の詳細な経緯等に係る資料は原子力事業者である東電及びその安全規制者である国が専らほじしている⇒結果回避措置の合理性ひいては結果回避可能性について、住民側が細部まで厳密に主張立証することはそもそも不可能に近いこと
②伊方原発訴訟上告審判決を参照して、原子力発電所という高度に専門性がある最先端の知見に基づいて管理運用されるべき設備の瑕疵により損害を被った者が、その賠償を設備の設置・管理者に対して求めるという訴訟類型における主張立証責任の分配については、当事者間の衡平の観点に特に留意する必要が高いこと
が重視されたものと思われる。
同様の判断は同種の裁判例では稀であるが、
国の予見可能性は認めつつも、結果回避可能性があることについての立証がされていないとして国の責任を否定する裁判例も散見される⇒高裁がこのような判断をしたことの影響はそれなりにある。

❻結果回避可能性の有無(東電及び国):
同種事案に係る裁判例:
結果回避措置としてはは、
(a)ドライサイトを維持するための防潮堤等の措置と
(b)ドライサイトが維持できない場合を想定した電源設備等の水密化や電源設備の高所配置等その他の措置の、
大きく分ければ2つが住民から主張され、それぞれについて判断がされている。
(a)の措置については、
①予見可能性の時期との関係で、防潮堤等の設備措置が本件津波に間に合うのか、
②仮に間に合ったとして、本件津波を防ぐことができたか
等が、
ドライサイトを維持できない場合を想定した(b)の各措置については、
防潮堤の設置ほど時間や費用がかからない可能性があるとしても、果たして、当時の知見からそのような措置が現実的であったといえるのか
等が争点となり、
最終的に、この点の考え方如何が、国の責任を認めるか否かの結論を左右している。

結果回避可能性の主張立証責任が住民側
この結果回避可能性が認められるハードルは高くなり、結果的に国の責任が否定されることとなりやすい。
当時としては、(a)のドライサイトを維持する方法しか考えられなかったとした上に、❸の予見可能氏について平成18年以降と判断
⇒平成23年の本件津波到来までに工事が間に合わないとの結論になりやすい。

他にも、東電の資源等は有限であり他に優先事項(地震対策)があったことも勘案して結果回避可能性を否定する裁判例や、
平成20年試算による想定津波と実際に到来した本件津波とでは方角や規模等が異なる⇒想定津波に合わせて防潮堤を設置したとしても本件津波を防ぐことはできなかった可能性あがるとして結果可能性を否定する裁判例。

本判決は、結果回避可能性の主張立証責任を、東電、国いずれの場合でも事実上転換⇒当時合理的に考えられた措置を講じても本件事故という結果を回避することが不可能であったことについて東電や国が具体的な主張立証をしていない⇒結果回避可能性を認めている。

❼国の責任の範囲(国):

一審被告国:仮に国が責任を負うとしても、国の規制権限不行使の責任は2次的かつ補完的なものにとどまる⇒1審被告国の損害賠償責任は1審被告東電のそれよりも限定されるべき。

原判決:
水俣病関西訴訟控訴審判決において国の賠償責任が企業の4分の1とされたこと(大阪高裁)、筑豊じん肺訴訟控訴審判決において国の賠償責任がじん肺による全損害の3分の1とされたこと(福岡高裁)等を参照し、1審被告国の賠償責任を1審被告東電の賠償額の2分の1程度とした。
vs.
いずれも、国による規制権限不行使が違法と判断された時点以前にも有害物質ないし粉じんによる被害が発生していた(この部分について企業には責任が認められた)事案であるのに対し、
本件では、国による規制権限不行使が違法と判断された時点よりも後の1回的な本件事故によって被害が発生した事案。


本判決:
損害を被った者との対外的な関係において1審被告国の立場が2次的・保管的であることを根拠としてその責任の範囲を一部に限定することは相当ではなく、1審被告東電及び1審被告国は1審原告らに係る損害全体につついての損害賠償義務を負う。

■(イ) 損害論
本件では精神的損害のみが請求されているところ(多くの同種の集団訴訟において同じ。)、
❽原賠審による中間指針の位置付けが問題となる。
裁判例:
中間指針は裁判規範ではないという前提に立つ点で共通。
but
中間指針等の位置付けを重く見て判断をしていると思われる裁判例
中間指針等の基準はあくまでも参考程度にとどめ、これを超える損害が認定できるとして中間指針等の基準よりも相当程度多額の賠償を命じる裁判例。

中間指針は、個々の損害及び額についての細目の主張・立証に関する被害者側のコストを考え、当時の事後予測を踏まえつつ、最低限間違いがないと思われる部分に限って控えめに損害及びその額を捉えて損害の填補を行うという観点から政策的に策定されたもの⇒仮にそれが訴訟の場にもスライドして実質的に参考にされると、私法の観点からの精査を受けることなく損害及びその額に対する評価がされてしまうおそれや、中間指針等策定時の将来予測と現実のズレが反映されないおそれ(現に一部の裁判例を除き反映されていないとされる。)があるとの指摘(潮見)

本判決:
中間指針が定められた議論の経緯等⇒指針で定められた額は、指針策定当時までの事情を基に、日常生活の阻害や故郷の喪失による精神的損害に対する損害賠償額を、簡易迅速な損害回復を旨とするため東電も納得し支払を拒否しないような金額として妥当な額を基準として打ち出したもの⇒本件で、口頭弁論終結時までの事情を基に本件事故と相当因果関係のある損害額を定める場合に、中間指針等の基準額よりも高い額となることはむしろ自然であるとして損害額を認定。

❾損害の考え方(損害額):
平穏生活権侵害が主張されているところ、これがどのような権利とみて、どのような要素を加味して損害額を算定するかについては、裁判例によって様々。
平穏生活権に支えられた「包括的生活利益」とう枠組みを基礎に据えていながら、損害論に至るや権利・法益レベルでの個別かを再度図った上でそれに対応sる損害とその額を判断⇒損害評価において一部の要素が落ち、平穏生活権侵害の損害が矮小化されている裁判例が散見されるとの指摘(潮見)。

本判決:
丙孫生活権侵害における損害を判断するに当たり、まず、損害論(総論)において、いわゆる「受忍限度論」による判断枠組みは妥当せず、端的に本件事故と相当因果関係がある損害の有無及び額を認定
損害の判断において考慮すべき要素として、前記3(4)(イ)の(i)~(iii)を挙げ、これらはそぞぞれが独立したものではなく有機的に一体の事柄を形成する関係にあることを前提に損害額を認定。

損害論(各論)においては、
①避難そのものに係る精神的損害
②避難生活に係る精神的損害
③一部の一審原告については、「ふるさと喪失」に係る損害
の3種類に分けて、グループごとに損害を評価するという手法。

前記損害論(総論)の記載や、損害論(各論)における一審原告らの旧居住地ないし居住地の状況等に係る子細な認定部分等
平穏生活権侵害という包括的な生活利益の喪失を損害賠償により填補するという視座をもって損害評価がされたものと思われる。

本件事故により侵害された権利又は法律上保護される利益の内実がどのようなものであると考えるべきなのか、
それについて受忍限度論が適用されるべき場面なのか否か
等については、なお議論の余地がある、。

■(ウ) その他、本件に特有の論点
◇(3) 結語

判例時報2484

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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