巨大児として出生した胎児の後遺障害が残った事故と医療過誤(否定)
大阪地裁R2.3.13
<事案>
平成25年に巨大児として出生し右上肢肩肘機能全廃の後遺障害が残ったXが、Yが開設・運営する病院(本件病院)の担当医師であるA医師に、帝王切開すべき注意義務違反、帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務違反があった⇒Yに対し、不法行為(使用者責任)に基づき、後遺障害逸失利益等の損害賠償金(4764万1018円)及び遅延損害金の支払を求めた。
<争点>
A医師が、
①帝王切開をすべき注意義務
②帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務
を負っていたか。
<判断>
●争点①:帝王切開すべき注意義務の有無
①
②
③
④
⑤
⇒
仮に、胎児(X)が巨大児で、かつ、肩甲難産が発生し得る可能性があり、この場合に胎児(X)に生じ得る後遺障害が重大なものとなり得ることを考慮しても、なお帝王切開をした場合の危険性が高かったと言わざるを得ない
⇒A医師が、平成25年9月25日午前9時頃当時、帝王切開すべき注意義務を負っていたとまではいえない。
●争点②:帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務の有無
①
②
③
⇒
仮にCの出産において、肩甲難産が生じたとしても、帝王切開へと分娩術を変更すべきであったとはいえない。
⇒
本件において、選択的帝王切開と緊急帝王切開のいずれも実施することが想定されない状況であった以上、A医師が同年9月24日午前9時頃当時、帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務を負っていたとはいえない。
<解説>
巨大児(奇景等の肉眼的異常がなく、出生体重4000グラム以上の児)について、産婦人科診療ガイドラインは、その診断方法、分娩の危険性、巨大児が疑われる児について記述しており、
巨大児が疑われる児について分娩遷延・停止となった場合、帝王切開術を考慮する(推奨レベルC:実施すること等が考慮される。)
児の方が娩出されない(肩甲難産)児には、人員を確保するとともに、会陰切開・マックロバーツ体位・恥骨上縁圧迫法等により娩出を図る、子宮底部の圧迫(クリステレル圧出法)は行なわない(推奨レベルC:実施すること等が考慮される。)などとしていた。
裁判例は、ガイドラインとほぼ同様の判断枠組みの下で個別事案に即して注意義務違反の有無を判断し、
その上で注意義務違反を肯定したものと
否定したものに分かれる。
判例時報2482
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