特許権の通常実施権者による訴訟が確認の利益を欠くとされた事例
最高裁R2.9.7
<事案>
本件各特許(日本特許と米国特許)の通常実施権者であったXが、特許権者であったYを相手取り、YのA(補助参加人)に対する本件各特許権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権が存在しないことの確認を求めた。
<争点>
本件確認訴訟に確認の利益があるか
<原審>
確認の利益を肯定
←
①YのAに対する本件損害賠償請求権の行使によりAが損害を被った場合、
XはAに対し本件補償合意に基づき同損害を補償しなければならず、
Xはその補償額についてYに対し本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をすることになるところ、
②この請求権の存否の判断に要する主要事実に係る認定判断は、本件損害賠償請求権の存否の判断に要する主要事実に係る認定判断と重なる。
<判断>
原審が指摘する事実があるとしても、
Xが、Yを被告として、YのAに対する前記不法行為に基づく損害賠償請求権が存在しないことの確認を求める訴えは、確認の利益を欠く
⇒
原判決中本件確認請求に関する部分を破棄し、同部分に関するXの控訴を棄却。
<解説>
● 確認の訴え:
給付の訴えと異なり、確認の対象となり得るものが形式的には無限定⇒訴えの利益(確認の利益)によってそれが許容される場合を限定する必要が大きい。
確認の利益:
確認判決を求める法律上の利益であり、原告の権利又は法的地位に危険・不安が現存し、かつ、これを除去する方法として原・被告間で当該訴訟物について確認する判決をすることが有効適切である場合に認められる。
確認の利益は、
①方法選択の適否(給付訴訟や形成訴訟でなく確認訴訟による必要性)、
②確認対象の適否、
③即時確定の利益
の各観点から判断されるところ、
③即時確定の利益とは、原告の権利又は法的地位に現実的な危険・不安が生じており、これを除去するために確認判決を得ることが必要かつ適切であること。
● 本件確認請求:Y(被告)とA(第三者)との間の権利関係の確認を求める訴訟。
即時確定の利益があれば、第三者との間の権利関係の確認を求める訴えも適法。
当事者の一方と第三者との間の権利関係の確認の訴えで確認の利益が認められる例:
①第三者のためにする契約について、当該第三者が当事者となった、契約の存在又は不存在を前提とする権利又は法律関係の確認の訴え、
②2番抵当権者が、1番抵当権者に対し、1番抵当権又はその被担保債権の不存在の確認を求める訴え
③債権者代位訴訟において第三債務者(被告)が債権者(原告)の債務者に対する被保全債権を争う場合に債権者が提起した、同債権の存在確認の訴え
④土地の転借人が、土地所有者から別個に当該土地の使用権を取得したと主張する者に対し、自己の土地使用権の確認を求める訴え
⑤自称債権者同士の争いで、自己が第三者(債務者)に対する債権を有することの確認を求める訴え
①~⑤の類型は、
原告の権利と被告の権利が競合していたり、原告の権利の直接の発生原因である基本的な法律関係に係る確認を求めているなどのケース。
● 本件:A(第三者)のY(被告)に対する債務の不存在確認を求めるもの⇒どのような意味で「原告の権利又は法的地位に危険・不安」が基礎付けられるか?
XがAに対し本件補償合意に基づき保障債務を負う危険
vs.
本件確認請求を認容する判決が確定したとしても、その既判力がY・A間には及ばない⇒YのAに対する本件損害賠償請求権の行使を法的に抑制することはできず、XがAに対する補償債務を負う危険を除去できない。
Yによる本件損害賠償請求権の行使を事実上抑制することができ、かつ、これをもって即時確定の利益を基礎付けられるといえるかも疑問。(Y・A間には別件米国判決のような本件損害賠償請求権の認容判決がある)
原審:XのYに対する本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権に係る紛争が生じる可能性があることにより基礎付けようとした。
別件米国判決のようなYのAに対する本件損害賠償請求権の認容する判決が確定した場合にXがAにその損害賠償請求金を補償しなければならない分についての将来のXのYに対する前記債務不履行に基づく損害賠償請求権を念頭に置いている
vs.
YがAに対して本件損害賠償請求権を行使したとしても、X自身同請求権が存在しないといっていたこともあり、
(1)それを認容する判決が確定するか否かは全く不確実
(2)そのよう認容判決が確定したとしても、
①AがYに対し同判決どおりの損害賠償金を支払わない(Aに対する強制執行も奏功しない)可能性や、
②XがAに対し同判決通りの損害賠償金を支払わない可能性がある
⇒Xに損害が発生するか否かは、なおも不確実。
以上:
①実際にAが損害を被り、これに対する補償を通じてXに損害が発生するかは、事前には(損害が発生する前の段階では)不確実⇒Xが事実上の期待のレベルを超えて保護に値するほど具体化された権利又は法的地位を有するとはいえない。
②他方で、Xに現実に損害が発生した段階では、Xは、Yに対して前記債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を提起すれば足りる。
⇒
本件確認請求が、Xの権利又は法的地位への危険又は不安を除去するために必要かつ適切であるということはできない。
判例時報2481
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