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2021年8月

2021年8月31日 (火)

別居親の面会交流を実質的に保障する立法をしなかったことが違法であると主張して、国に対して国家賠償を求めた事案。

東京高裁R2.8.13

<規定>
民法 第七六六条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
 
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

<原審>
●別居親の面会交流権を保障する立法をしなかったという立法不作為の違法性について
立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、
国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国家が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、
例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべき。

●憲法26条に基づく主張について
旭川学テ最高裁判決:
子どもの教育は、その最も始源的かつ基本的な形態としては、親が子との自然的関係に基づいて子に対して行う養育、監護としてあらわれる」と判示する部分があることを指摘。
but
同部分は子の教育の最も基本的な形態が親の監護としてあらわれるという社会的事実を指摘しているにすぎず、それ以上に憲法上の権利として監護権や面会交流権を保障されていることを判示する趣旨とは認められない。

●児童の権利に関する条約及び憲法98条2項に基づく主張について
最高裁H17判決の趣旨⇒仮に立法不作為が条約の規定に違反するものであるとしても、それゆえに国会議員の立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。
but
条約が、直接締約国の個々の国民に対し具体的な権利を保障するものである場合に、その権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠るときには、例外的に国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものと解する余地もある。
特定の条約が、国内法による補完ないし具体化といった措置を執ることなく、直接個人の所属国にン対する権利を保障するものとして、国内の裁判所において適用可能であるというためには、当該条約によって保障される個人の権利内容が条約上具体的で明白かつ確定的に定められており、かつ、条文の文言及び趣旨等から解釈して、個人の権利を定めようという締約国の意思が確認できることが必要。

条約9条3項:
「・・・・直接の接触を維持する権利を尊重する。」と規定

あくまで児童の別居親との面会交流の権利を尊重する旨を定めているにすぎず、
別居親に対して直接権利を保障する旨の文言はなく
児童に与えられる権利の内容も具体的で明白とはいえない

同条約が、国内法による補完ないし具体化といった措置を執ることなく国内において適用可能なものとはいえず、あくまで子の面会交流の権利を尊重する旨約したものにすぎない。

児童の権利に関する条約が、我が国の個々の国民に対し、面会交流について直接権利を付与するものとはいえず、面会交流権を保障するものであるともいえない

児童の権利に関する条約及び憲法98条2項を根拠として、別居親の面会交流権が憲法上保障された権利であるということはできない

●憲法14条1項に基づく主張について
法14条1項:
事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のもの(最高裁)。

原告ら:
「平穏な婚姻関係状態にある父母の下で育つ子」と比較して、
「別居あるいは離婚した父母の下で育つ子」
が父母の双方と日常的に交流する機会が少なくなっていることが憲法14条1項に違反。
vs.
交流機会の差異は、本質的には、社会的事象としての両親の別居により生じるものであり、面会交流に関する立法の不作為によって親子の交流の機会に不平等が生じたものとみることはできない
⇒その差異を法的な差別的取扱いとみることは困難。

憲法14条1項が実質的平等までを直接保障した規定とは解することはできない(最高裁)。
⇒別居親の面会交流権における現行法の規定が、憲法14条1高に違反するものとはいえない。

●憲法13条に基づく主張について
二宮教授:
面会交流を子の権利として捉えるとともに親の権利であるともとらえる複合的権利説を前提として、別居親の面会交流も、親としてのアイデンティティを確立するという人格的利益を保障するものであり、面会交流の権利は別居親の人格的生存にとって不可欠のこと⇒憲法で保障される人格権と解釈することができる可能性を指摘。
vs.
他の学説。
①面会交流の問題は、・・・・問題であり、現行法・・・の規定が、別居親による面会交流を直接阻害するという関係にあるとはいえない。
②・・・当該子及び両親の具体的な状況等によって異なり、特に、子の利益(民法766条1項)又は福祉が優先して検討されるべきであり、その観点から、面会交流を全面的に制限すべき場合も存する・・・。

別居親において、面会交流について人格的な利益を有することを前提として、その具体的な内容を特定することは困難。

別居親において、子の養育に関して人格的な利益を有するとしても、これを憲法13条により保障された権利と解することは困難なものというほかない。

●憲法24条2項に基づく主張について
憲法24条2項は、離婚や家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第1次的に国会の合理的な立法裁量にゆだねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したもの(最高裁)。

<判断>
●別居親の面会交流権が憲法上保障されており、その権利行使のために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であって、それが明白であるとは認められない⇒別居親の面会交流権についての立法不作為は、国賠法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものとはいえない。

婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法13条、14条1項に違反しない場合に、更に憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべき(最高裁H27.12.16)。
別居親と子の面会交流については、民法766条により、子の監護に関する事項として、子の利益を最も優先して考慮して父母の協議で定めるものとされる一方で、
協議により定めることができないときは、家庭裁判所がこれを定めることとされており、・・・・間接強制をすることができるものとされている

面会交流に関する以上の法制度は、別居親と子との面会交流が不当に制約されることがないようにされているものといえ、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠くものとはいえない。

判例時報2485

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温泉権

東京高裁R1.10.30

<事案>
Yが所有する本件土地には、2つの温泉が存在。
これらの温泉について温泉権を有していると主張するXが、Yに対し、Xが本件各温泉権を有することの確認を求めるとともに、Yによる温泉の無断使用を理由とする不法行為に基づき、損害賠償を求めた。

<原審>
Xの本件各温泉権取得の対抗要件(明認方法)とYの本件土地所有権取得の対抗要件(移転登記)の具備の有無及び先後の問題から検討⇒Xの対抗要件具備の事実が認められない(併せてYは配信的悪意者には当たらない)⇒Xの請求を棄却。

<判断>
Xが主張する温泉権は、土地所有権とは別の独立した物権として成立していない
⇒対抗要件の具備の有無及びその先後の争点については判断するまでもなく、Xの請求は全部棄却。

<解説>
● 温泉権(温泉を支配する権利):
①温泉を湯口から直接採取する場合~温泉専用権、湯口権、源泉権
②湯口から引湯する場合~分湯権、引湯権

温泉権:民法典に規定がなく、慣習を法源とする慣習法上の権利。
湯口権が温泉地所有権とは独立した地方慣習法による物権的権利(最高裁)

● 本判決:
温泉権が慣習法上の物権として認められる場合があることは肯定しつつ、
そのような慣習法上の物権が認められてきたのは、明治時代の民法施行前から利用されてきた歴史の古い温泉について、社会経済の実態に即した紛争解決を図るための緊急避難的な措置であったと位置付け。

近代的な高度技術を用いて何十メートルも地下を掘削して新たに湧出させた温泉については、原則として慣習法上の物権としての温泉権が成立することを否定。

←債権的法律関係として構成すれば足りる。

● 温泉権については、土地所有権とは別個独立の物権であるとするが、
人工掘削によって成立する近代法的な温泉権に関しては、その権利性を認める根拠について、慣習法ではなく、温泉掘削に多額の資本が投下され、温泉自体に高額の商品価値が認められることなど、その経済的価値から必然的に発生する物権であるとする見解(川島等)。

判例時報2485

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2021年8月30日 (月)

本訴・反訴の関係にある請負代金債権と目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の相殺

最高裁R2.9.11

<事案>
本件本訴:
Yから自宅建物の増築工事を請け負ったXが、Yに対し、請負代金及び遅延損害金の支払等を求めた事案。

本件反訴:
Yが、Xに対し、自宅建物の増築部分に瑕疵があるなどと主張し、瑕疵修補に代わる損害賠償金及び遅延損害金の支払等を求めた。
Xは、平成26年3月、本件本訴を提起
Yは、同年6月、本件反訴を提起。
Xは、同年8月の第1審口頭弁論期日において、Yに対し、本訴請求に係る請負代金債権を自働債権とし、反訴請求に係る瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示(「本件相殺」)。

<原審>
係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないところ、本訴原告が、反訴において、本訴における請求債権を自働債権として相殺の抗弁を主張する場合であっても、本訴と反訴の弁論を分離することは禁止されていないから同様に許されない。

本訴原告であるXが本件相殺の抗弁を主張することは、重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反し、許されない。

<判断>
請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし、他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に、本訴原告が、反訴において、前記本訴請求債権を自働債権とし、前記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許される。

<解説>
●重複起訴禁止と相殺の抗弁
抗弁先行型と抗弁後行型(本件)
抗弁後行型における相殺の抗弁
A:許容説
B:不許説
but
本件のように本訴反訴として審理されている場合や
別訴提起されたとしてもその後併合審理されているような場合
(同一手続型)の場合
審理及び判断が同一の受訴裁判所によって一体として行なわれる⇒審理の重複や判断の抵触のおそれがなく、重複訴訟の問題が生じない
⇒相殺の抗弁は許容されるとする見解が支配的。

●最高裁H3.12.17:
係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当である。

相殺の抗弁について旧民訴法231条(現行民訴法142条(重複する訴えの提起の禁止)に対応)を類推適用し、抗弁後行型における相殺の主張を許さないものとした。

控訴審段階で初めて別訴と本訴が併合され、相殺の抗弁が主張され、その後判決前に両事件が分離されるに至っていたというもの。
but
相殺の「抗弁が控訴審の段階で初めて主張され、両事件が併合審理された場合についても同様」に許されないと判示⇒その射程については、本件のような同一手続型にも及ぶとみる余地。
(高橋は同部分を傍論とする。)
同一手続型である本訴反訴の事案において、平成3年最判を引用しつつも、
「反訴原告において異なる意思表示をしない限り、反訴は、反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更されることになる」とし、「このように解すれば、重複起訴の問題は生じないことになる」として、相殺の抗弁を許容する判断(最高裁H18.4.14
vs.
①予備的反訴への変更という構成については、「平成3年最判を意識しすぎて、無益な技巧を凝らした」もの。
②反対の場面である本訴側からの相殺が認められないとすると「そのような帰結は不均衡」

●本件の本訴請求権と反訴請求権:
同一の請負契約に基づく請負代金債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権であって、
実体法上、同時履行の関係にある上、相殺により精算的調整を図ることが想定された特殊な関係にある。
前記両債権は同時履行の関係に立つ⇒相手方から履行の提供を受けるまでは履行遅滞の責任を負わないが、
相殺の意思表示がされれば、相殺後の残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。

このように相殺の担保的機能が強く発揮されるべき場面であるにもかかわらず、その一方からの相殺の抗弁の主張や許容されるも、他方からの主張が封じられ、結果として訴訟上の地位に差異が生じ、かつ、実体法上も履行遅滞責任を負わないという差異が生じることについては、著しく均衡を欠く。

本訴反訴として適法に併合されている請求について、弁論の分離を命ずるかどうかは裁判所の裁量に委ねられているが、その裁量も全くの自由裁量ではない。

学説上、特に関連性の強い本訴と反訴のような場合には弁論の分離が制限されるとする見解が有力
本件のように本訴請求債権と反訴請求債権とが特殊な関係にあり、
両者の相殺の抗弁が主張されている場合については、
本訴反訴を分離してしまうと、その結果、審理の重複や判決の矛盾抵触が生じてしまう
⇒1つの訴訟手続で審理・判決することが強く要さされている
⇒弁論の分離が禁止され、その反面として相殺の抗弁が許容されるとの解釈を採ることができる。

●本判決は本訴反訴の事案を前提

その直接の射程は、別訴が提起され、その後本訴と別訴の弁論が併合された場合には及ばない。
but
両債権の関係性を理由に相殺の抗弁を許容⇒少なくとも請負事案における前記両債権の相殺の抗弁については、弁論の併合場面においても同様の理由で許容されると解することができる。
本判決は、弁論の分離が許されないと判示するにとどまるが、
一部判決をすることも同様に許されないものと解される。

判例時報2485

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2021年8月28日 (土)

東電福島第一原発事故避難者訴訟(福島県・隣接県)

仙台高裁R2.9.30

判例特報

◆1 事案の概要
◆2 原判決の要旨
◆3 本判決の概要
◇(1) 現状回復請求
◇(2) 東電の損害賠償責任
◇(3) 国の損害賠償責任
■(ア) 規制権限不行使の違法性
■(イ) 国の損害賠償責任の範囲
◇(4) 損害
■(ア) 本判決の判断手法
■(イ) 損害判断の在り方。考慮要素

地域的に9つのグループに分類した上で、
(i) 本件事故により侵害された事柄(基本的な社会インフラ・生活の糧を取得する手段、家庭・地域コミュニティを育む物理的・社会的諸要素、周囲の環境・自然、帰るべき地・心の拠り所となる地・想い出の地等としのて「ふるさと」等)、
(ii) 侵害態様(本件における1審被告東電の義務違反の程度は決して軽微とはいえない程度であったこと)・程度(前記(i)に掲げた事柄が、本件事故により、どの程度放射能汚染されたか(空間線量率等)又は侵害されたか)、
(iii) 本件事故後の経緯・現状等
を考慮要素とし、
放射線に関する知見、本件事故と放射線物質の放出、低線量被ばくに関する知見等に係る認定事実に加えて、1審原告らの旧居住地なしい居住地の状況等に係る認定事実等を基にして、
①~⑨のグループごとに本件事故と相当因果関係のある損害の有無及び額を判断することとし、
それぞれ認定した額が「中間指針等による損害額」を超える額が認容額の基本となる額とした。

◇(5) 最終的な認容額
◇(6) 相互の保証
◇(7) 二重訴訟1審原告らについて
◇(8) 結論

◆4 解説
◇(1) 本判決の位置付け
◇(2) 争点

責任論:
❶一般不法行為(民法709条)に基づく請求の可否(東電)
❷予見可能性の対象(東電及び国)
❸予見可能性の有無及びその時期(東電及び国)
❹規制権限(技術基準適合命令)不行使の違法性の判断枠組み(国)
❺結果回避可能性の主張立証責任(東電及び国)
❻結果回避可能性の有無(東電及び国)
❼国の責任の範囲(国)

損害論:
❽原賠審による中間指針の位置付け
❾損害の考え方(損害額)

特有のもの
❿原状回復請求の可否
⓫追加賠償項目に係る弁済の抗弁の成否
⓬世帯内融通に係る弁済の抗弁の可否
⓭精神的損害とそれ意外の損害との間の費目間融通と弁済の抗弁の成否
⓮相互保証の有無(韓国、中国、フィリピン、ウクライナ)
⓯二重訴訟と訴えの適法性

■(ア) 責任論
❶:否定
←特則である原賠法3条1項(無過失責任)が適用される。
but
①慰謝料の算定に際しての考慮要素として
②国の規制権限不行使と違法性を判断する前提として、
東電の義務違反(予見可能性等)についても検討し説示。

❷予見可能性の対象:
A:福島第一原発の主要建屋敷地高さ(10m)を超える津波
B:実際に到来した本件津波
Aを採用。

❸予見可能性の有無及びその時期:
予見可能性の有無:ほとんど全ての裁判例が東電(無過失責任のため判断していない裁判例もある)及び国の予見可能性を肯定。
予見可能性の時期:
裁判例によって結論がわかれる。

東電の予見可能性:
平成14年中(平成14年7月31日(長期評価の公表日)から数か月後、平成14年末頃又は「長期評価が公表された頃以降」とする裁判例)が大勢

国の予見可能性:
A:平成14年中
B:遅くとも平成18年5月
C:遅くとも平成18年末頃
C:平成21年9月(「平成21年報告」がされた頃)

「長期評価」に加えて、これに基づき東電が平成20年4月に行なった平成20年試算のようなシミュレーションをしなければ、福島第一原発の主要建屋敷地高さ(10m)を超える津波が到来することが具体的に分からなかったという事情をどのように評価するかについて、考え方が分かれている。
本判決:

上記Aの見解を採用して平成14年頃。

「長期評価」の見解が、国自らが文部科学省に設置した組織である地震本部から発表された見解⇒経済産業大臣としては、津波や津波地震に係る知見、溢水事故の危険性とその対策等に係る知見が積み重ねられていた中で「長期評価」の内容を認識した以上、これを踏まえたシミュレーションを、東電に対して指示するなり自らするなどしていりえば、平成20年試算と同様の結果が得られたはずであるとの理
but
違法と認められる時期については、総合考慮をして、遅くとも平成18年末。

❹規制権限(技術基準適合命令)不行使の違法性の判断枠組み(国):
本件で問題となっている技術基準適合命令は、経済産業大臣に専門技術的裁量が認められることを前提としたもの
⇒宅建業者訴訟上告審判決等を参照すべき。
(i)規制権限が定めた法が保護する利益の内容及び性質
(ii)被害の重大性及び切迫性
(iii)結果発生の予見可能性
(iv)結果回避可能性
(v)現実に実施された措置の合理性
(vi)規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による結果回避可能性)
(vii)規制権限行使における専門性、裁量性
などの諸事情を総合的に検討して、具体的な事情の下において、その不行使がその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに初めてその不行使が被害を受けた者との関係において国賠法1条1項の適用上違法となる。

❺結果回避可能性の主張立証責任(東電及び国):
同種事案に係る裁判例の大半:住民側に主張立証責任がある

本判決:
当事者間の衡平の観点⇒少なくとも住民側が一定程度具体的に特定して結果回避措置について主張立証した場合には、東電ないし国において、その措置が実施できなかったこと又はその措置を講じていても本件事故が回避不可能であったこと等の結果回避可能性を否定すべき事実を主張立証すべき。

主張立証責任の(事実上の)転換をいうのか、間接反証をいうものかなどについてはっきりとしないが、いずれにせよ、
福島第一原発の詳細構造及び本件事故の詳細な経緯等に係る資料は原子力事業者である東電及びその安全規制者である国が専らほじしている⇒結果回避措置の合理性ひいては結果回避可能性について、住民側が細部まで厳密に主張立証することはそもそも不可能に近いこと
②伊方原発訴訟上告審判決を参照して、原子力発電所という高度に専門性がある最先端の知見に基づいて管理運用されるべき設備の瑕疵により損害を被った者が、その賠償を設備の設置・管理者に対して求めるという訴訟類型における主張立証責任の分配については、当事者間の衡平の観点に特に留意する必要が高いこと
が重視されたものと思われる。
同様の判断は同種の裁判例では稀であるが、
国の予見可能性は認めつつも、結果回避可能性があることについての立証がされていないとして国の責任を否定する裁判例も散見される⇒高裁がこのような判断をしたことの影響はそれなりにある。

❻結果回避可能性の有無(東電及び国):
同種事案に係る裁判例:
結果回避措置としてはは、
(a)ドライサイトを維持するための防潮堤等の措置と
(b)ドライサイトが維持できない場合を想定した電源設備等の水密化や電源設備の高所配置等その他の措置の、
大きく分ければ2つが住民から主張され、それぞれについて判断がされている。
(a)の措置については、
①予見可能性の時期との関係で、防潮堤等の設備措置が本件津波に間に合うのか、
②仮に間に合ったとして、本件津波を防ぐことができたか
等が、
ドライサイトを維持できない場合を想定した(b)の各措置については、
防潮堤の設置ほど時間や費用がかからない可能性があるとしても、果たして、当時の知見からそのような措置が現実的であったといえるのか
等が争点となり、
最終的に、この点の考え方如何が、国の責任を認めるか否かの結論を左右している。

結果回避可能性の主張立証責任が住民側
この結果回避可能性が認められるハードルは高くなり、結果的に国の責任が否定されることとなりやすい。
当時としては、(a)のドライサイトを維持する方法しか考えられなかったとした上に、❸の予見可能氏について平成18年以降と判断
⇒平成23年の本件津波到来までに工事が間に合わないとの結論になりやすい。

他にも、東電の資源等は有限であり他に優先事項(地震対策)があったことも勘案して結果回避可能性を否定する裁判例や、
平成20年試算による想定津波と実際に到来した本件津波とでは方角や規模等が異なる⇒想定津波に合わせて防潮堤を設置したとしても本件津波を防ぐことはできなかった可能性あがるとして結果可能性を否定する裁判例。

本判決は、結果回避可能性の主張立証責任を、東電、国いずれの場合でも事実上転換⇒当時合理的に考えられた措置を講じても本件事故という結果を回避することが不可能であったことについて東電や国が具体的な主張立証をしていない⇒結果回避可能性を認めている。

❼国の責任の範囲(国):

一審被告国:仮に国が責任を負うとしても、国の規制権限不行使の責任は2次的かつ補完的なものにとどまる⇒1審被告国の損害賠償責任は1審被告東電のそれよりも限定されるべき。

原判決:
水俣病関西訴訟控訴審判決において国の賠償責任が企業の4分の1とされたこと(大阪高裁)、筑豊じん肺訴訟控訴審判決において国の賠償責任がじん肺による全損害の3分の1とされたこと(福岡高裁)等を参照し、1審被告国の賠償責任を1審被告東電の賠償額の2分の1程度とした。
vs.
いずれも、国による規制権限不行使が違法と判断された時点以前にも有害物質ないし粉じんによる被害が発生していた(この部分について企業には責任が認められた)事案であるのに対し、
本件では、国による規制権限不行使が違法と判断された時点よりも後の1回的な本件事故によって被害が発生した事案。


本判決:
損害を被った者との対外的な関係において1審被告国の立場が2次的・保管的であることを根拠としてその責任の範囲を一部に限定することは相当ではなく、1審被告東電及び1審被告国は1審原告らに係る損害全体につついての損害賠償義務を負う。

■(イ) 損害論
本件では精神的損害のみが請求されているところ(多くの同種の集団訴訟において同じ。)、
❽原賠審による中間指針の位置付けが問題となる。
裁判例:
中間指針は裁判規範ではないという前提に立つ点で共通。
but
中間指針等の位置付けを重く見て判断をしていると思われる裁判例
中間指針等の基準はあくまでも参考程度にとどめ、これを超える損害が認定できるとして中間指針等の基準よりも相当程度多額の賠償を命じる裁判例。

中間指針は、個々の損害及び額についての細目の主張・立証に関する被害者側のコストを考え、当時の事後予測を踏まえつつ、最低限間違いがないと思われる部分に限って控えめに損害及びその額を捉えて損害の填補を行うという観点から政策的に策定されたもの⇒仮にそれが訴訟の場にもスライドして実質的に参考にされると、私法の観点からの精査を受けることなく損害及びその額に対する評価がされてしまうおそれや、中間指針等策定時の将来予測と現実のズレが反映されないおそれ(現に一部の裁判例を除き反映されていないとされる。)があるとの指摘(潮見)

本判決:
中間指針が定められた議論の経緯等⇒指針で定められた額は、指針策定当時までの事情を基に、日常生活の阻害や故郷の喪失による精神的損害に対する損害賠償額を、簡易迅速な損害回復を旨とするため東電も納得し支払を拒否しないような金額として妥当な額を基準として打ち出したもの⇒本件で、口頭弁論終結時までの事情を基に本件事故と相当因果関係のある損害額を定める場合に、中間指針等の基準額よりも高い額となることはむしろ自然であるとして損害額を認定。

❾損害の考え方(損害額):
平穏生活権侵害が主張されているところ、これがどのような権利とみて、どのような要素を加味して損害額を算定するかについては、裁判例によって様々。
平穏生活権に支えられた「包括的生活利益」とう枠組みを基礎に据えていながら、損害論に至るや権利・法益レベルでの個別かを再度図った上でそれに対応sる損害とその額を判断⇒損害評価において一部の要素が落ち、平穏生活権侵害の損害が矮小化されている裁判例が散見されるとの指摘(潮見)。

本判決:
丙孫生活権侵害における損害を判断するに当たり、まず、損害論(総論)において、いわゆる「受忍限度論」による判断枠組みは妥当せず、端的に本件事故と相当因果関係がある損害の有無及び額を認定
損害の判断において考慮すべき要素として、前記3(4)(イ)の(i)~(iii)を挙げ、これらはそぞぞれが独立したものではなく有機的に一体の事柄を形成する関係にあることを前提に損害額を認定。

損害論(各論)においては、
①避難そのものに係る精神的損害
②避難生活に係る精神的損害
③一部の一審原告については、「ふるさと喪失」に係る損害
の3種類に分けて、グループごとに損害を評価するという手法。

前記損害論(総論)の記載や、損害論(各論)における一審原告らの旧居住地ないし居住地の状況等に係る子細な認定部分等
平穏生活権侵害という包括的な生活利益の喪失を損害賠償により填補するという視座をもって損害評価がされたものと思われる。

本件事故により侵害された権利又は法律上保護される利益の内実がどのようなものであると考えるべきなのか、
それについて受忍限度論が適用されるべき場面なのか否か
等については、なお議論の余地がある、。

■(ウ) その他、本件に特有の論点
◇(3) 結語

判例時報2484

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2021年8月26日 (木)

協議・合意に関して作成した文書の類型証拠開示(否定)

東京高裁R1.12.13

<事案>
当時会社の代表取締役であった被告人が、共犯者らと共謀の上、被告人の総報酬欄等に虚偽の記載(過少記載)のある有価証券報告書を関東財務局長に提出⇒金融商品取引法違反の罪に問われている事案。

<主張>
検察官:B・Cの供述調書等と、検察官B・C並びに同人らの弁護人を作成者とする刑訴法350条の2第1項の合意の内容を刑訴法350条の3第2項に従って記載した書面(「合意内容書面」)を証拠請求

弁護人:検察官、B・C又は同人らの弁護士が協議・合意に関して作成した一切の文書(「協議・合意関係文書」)は合意内容文書の証明力を判断するのに重要な証拠であり、刑訴法316条の15第1項5号ロ又は6号に該当するなどとして、類型証拠開示を求めた。

<判断>
合意内容書面の証拠請求は、犯罪事実を積極的に立証するためではなく、刑訴法350条の8前段の証拠請求義務を果たすためのもの
刑訴法が合意内容書面の証拠請求義務を定めている趣旨は、合意に基づく供述が、他人を巻き込んだ虚偽の供述であるおそれがある⇒その供述の信用性に関連し得る合意の存在及び内容を関係者に明らかにするためのもの
合意の存在や内容を踏まえた供述の信用性立証が実質的に行われる限り、合意の存在や内容それ自体についての詳細な立証が求められることはない。

事案によっては、合意の経緯等が、供述の信用性判断に影響する場合がないとはいえないが、それは被告人側の具体的主張等を踏まえて検討されるべき問題。

合意内容書面は、その内容の信用性判断が当然に予定されている証拠とはいえない⇒協議・合意関係文書は、合意内容書面の信用性判断のために重要な証拠といえず、
刑訴法316条の15第1項柱書の「特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要な証拠」に該当しない。

<解説>
●協議・合意制度
他人の刑事事件の捜査・公判に協力することを合意する捜査・公判協力が他の競技・合意制度。
当該被告人の弁護人の同意が必要(350条の3第1項)
←巻き込みの危険を防止。
合意の内容は、検察官、被疑者又は被告人及び弁護人が連署した合意内容書面によって明らかにしなければならず(同条2項)、
合意に基づく供述録取書等が他人の刑事事件において証拠とされる場合には、合意内容書面の取調べを請求することが義務付け(350条の8)
vs.
当該被告人の弁護人による信用性の担保には限界がある

当該他人(標的被告人)の弁護人による証拠開示及び反対尋問の重要性が指摘されている。

●協議・合意関係文書の類型証拠該当性
刑訴法316条の15の類型証拠開示は、特定の検察官証拠請求の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠開示を定めている。
本決定:類型証拠開示を否定

合意内容書面は、刑訴法350条の8に基づき合意の存在及び内容を明らかにするために請求されているものに過ぎず、その内容の信用性判断が予定されている証拠ではない。
but
「供述の信用性判断に影響する場合がないとはいえないが、それは被告人側の具体的主張等を踏まえて検討されるべき問題である」と指摘

類型証拠開示を一律に否定する趣旨ではないと思われる。

B・Cの供述証拠が証拠請求されている⇒供述調書の内容の信用性判断のための類型証拠開示が認められる余地はあると思われる。

判例時報2483

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銀行の行内通達等の情報漏えい⇒懲戒解雇・退職金不支給の事案

東京地裁R2.1.29

<事案>
原告は、対外秘である行内通達等を無断で多数持ち出し、出版社等に内容を漏えい⇒懲戒解雇処分を受け、退職金約1200万円を不支給とされた。
被告の退職金規定には「懲戒処分を受けた者に対する退職金は減額又は不支給となることがある」との規定。、

訴訟
本訴:
原告が被告に対し、
主位的に、
懲戒解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位確認並びに未払賃金及びこれに対する遅延損害金及びの支払を求め
予備的に
懲戒解雇が有効であったとしても退職金の不支給は不合理であるとして、退職金及びこれに対する遅延損害金の支払等を求め

反訴:
被告が原告に対し、原告の居住する社宅の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を求めた

<争点>
①懲戒解雇の有効性
②退職金支給の適法性

<判断>
●争点①
意図的な4件の情報資産の持ち出し及び15件の情報漏えいを認定
これらは被告の就業規則に定める懲戒事由に該当

懲戒解雇の相当性について、
①銀行として国内外における金融サービスを提供するという業務の性質上、情報資産の適切な保護と利用が極めて重要⇒被告は職員に対し情報セキュリティ対策の徹底を図っていた
but
原告は常習的に前記情報漏えい等を行なったもので、このような原告の行為は、情報資産の適切な保護と利用を重要視する被告の企業秩序に対する重大な違反行為である。

②原告の情報漏えいに基づき多数の記事が執筆されたことを推認され、これにより被告の情報管理体制に対する疑念を世間に生じさせ、被告の社会的評価を相応に低下させたといえる
③過去のけん責処分による反省もみられなかった

原告と被告との間の信頼関係の破壊の程度は著しく、将来的に信頼関係の回復を期待することができる状況もなく、懲戒解雇を選択することやむを得なかった。

懲戒解雇は客観的に合理的な理由があり社会通念上相当である。

●争点②
職員が懲戒処分を受けた場合に退職金を不支給とすることができるのは、労働者が使用者に採用されて以降の永年の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に限られると解するのが相当。

原告の行為は、被告の企業秩序に対する重大な違反行為であり、被告の社会的評価を相応に低下させたものといえる
but
被告のサービスに混乱を生じさせたり、被告に具体的な経済的損失を発生させたりするものではなかったこと等
被告の約30年にわたる勤続の功を完全に抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為であったとまでは評価することは困難
退職金の不支給は、7割を不支給とする限度で合理性を有する

<解説>
●懲戒解雇の有効性
懲戒解雇は懲戒として最も重い処分であり、被処分者の再就職の障害にもなる

当該行為の性質、態様、被処分者の勤務歴、その他の情状をしんしゃくし、解雇とするには重すぎるときは、懲戒解雇は無効とされている。

本件:
高度の情報管理が求められる銀行において意図的かつ常習的に情報を漏えいさせたという行為の性質⇒懲戒解雇の有効性。

●退職金不支給
退職金が賃金の後払い的性格を有しており、労基法上の賃金に該当
⇒退職金を不支給又は減額支給とすることができるのは、労働者の勤続の功を「抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られる。

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2021年8月25日 (水)

税理士法人の損害賠償責任が認められ、その責任制限条項が消費者契約法10条後段に反し無効とされた事案

横浜地裁R2.6.11

<事案>
亡Aの相続税申告に関する税務代理を税理士法人であるYに依頼したXらが、Yには、前記業務に際し、租特法69条の4に定める小規模宅地等の特例の適用の可否を検討せず、その適用をしなかった過失があり、その結果、本件特例適用時より相続税額が高額に⇒Yに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を求めた。
本件委任契約には、Yの委任事務処理上の過失によりXらに損害が生じた場合の賠償額を上限をXらの支払った報酬額(約350万円)とする旨の責任制限条項。

<争点>
①本件土地における特定同族会社事業用宅地等としての本件特例の適用対象該当性
➁本件責任制限条項の有効性
争点①については、本件特例の要件のうち、亡Aの死亡時、本件土地がいわゆる「準事業」、すなわち「事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」(租特法施行令40条の2第1項)の用に供されていたといえるか

<判断>
●争点①:
不動産の貸付け等が準事業に当たるためには、当該不動産の貸付けが、相当の対価が定められ、かつ、相当程度の期間継続することを予定した賃貸借契約に基づいて行なわれていることが必要であるが、相続の開始前に、賃料外支払われたことを必須の要件とするものではない

本件賃貸借契約:
相当な対価といえる賃料が定められ、
更新条項が定められるなど、相当の期間継続することを予定していたものと認められる

本件特例の適用を肯定

●争点②
判例(最高裁H23.7.15)を引用した上で、
①相続税申告の税務代理という本件委任契約の性質上、Xらにおいて契約締結前に本件責任制限条項によって生ずるリスクの程度を見積もるのが困難
➁一般の消費者と税理士法人との間の契約であり、契約締結過程における双方の情報料や交渉力には、大きな差がある
③実際の契約締結過程において、YがXらに対し、Xが負担することとなる具体的なリスクの程度を推測可能な情報を提供しなかった

本件責任制限条項は消費者契約法10条後段に反するものであり無効

慰謝料等を除いた損害全額の賠償を命じた

<解説>
●争点①
課税要件の明確性の要請⇒課税額の減少に係る特例の適用について、明文のない要件を設けることには慎重であるべき。

事業用土地について本件特例が設けられている趣旨:
事業が雇用の場であるとともに取引先等と密接に関連している等事業主以外の多くの者の社会的基盤としてその処分等に制約を受けることにj鑑み、これに課税上特別の配慮をしたもの。
かかるとち処分の制約は、継続的に行うことを予定した賃貸借契約等が締結され、土地の利用が開始された時点で生じ得るもので、相続開始時点で初回賃料が支払われていたか否かによって必ずしも左右されない。

●争点②
消費者契約法 第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

本件責任制限条項が法10条後段にいう
「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限」する条項に当たることは明らか

民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に当たるかが問題。

平成23年判例:
消費者契約法の趣旨、目的に照らし、
当該条項の性質契約が成立するに至った経緯
消費者と事業者との間に存する情報の質及び量
並びに
交渉力の格差
その他諸般の事情を総合考慮して判断すべき。

これらの事情のうち、消費者と事業者との間の情報及び交渉力の格差の有無並びにその程度に特に留意すべきとの指摘(最判解説)

判例時報2483

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2021年8月24日 (火)

既存障害と新たに生じた障害とが、日本スポーツ振興センターが行なう災害救済給付制度における「同一部位についての障害」に該当するとされ、障害見舞金の支払請求が棄却された事案

福岡高裁R2.7.6

<事案>
Y2:独立行政法人日本スポーツ振興センターであり、独立行政法人
X1は、先天性の脳性まひにより身体障碍者福祉法別表第1級の認定を受け、特別支援学校に在籍。
給食介助中、誤嚥窒息に陥り、低酸素脳症に由来する重篤な脳障害を後遺。
X1の母であるX2は、Y2に対し、障害見舞金の子宮を請求⇒Y2は本件省令21条5項を根拠に不支給決定をし、不服審査請求に対しても同様の回答。

X2は、
①本件省令21条5項が、第1級の既存障害を持つ者とそうでない者を合理的な理由なく差別するもの⇒憲法14条1項に違反し、また、センター法が定める障害見舞金の支給目的とも整合せず、センター法の委任の範囲を逸脱する違法なもの⇒本件省令21条5項の無効を主張
②その救済措置として、憲法13条及び29条の直接適用により、第1級相当の障害見舞金の支払を求め、

更に、本件省令21条5項が無効でないとしても、既存障害と本件事故による後遺障害は「同一の部位」の障害には当たらないと主張。

<解説>
独立行政法人日本スポーツ振興センター法16条2項は、災害共済給付の給付基準等の策定を政令に委任⇒施行令3条1項2号は、障害見舞金の額について文科省令で定める額⇒省令21条1項は、障害見舞金の額を別表で規定。
別表は、労基法施行規則別表第2及び労災法施行規則別表第1の身体傷害等級表(「労災別表」)に倣って策定

労災別表について:
既に身体障害がある者が、負傷又は疾病によって同一部位について障害の程度を加重した場合には、その加重された障害の該当する障害補償の金額より、既にあった障害の該当する障害補償の金額を差し引いた金額の障害補償が行なわれる(労基法施行規則40条5項、労災法施行規則14条5項も同様)。
「同一部位」とは「同一の系列」の範囲内をいうとされ、同一部位に新たな障害が加わったとしても、その結果、労災別表上、既存の障害よりも現存する障害が重くならなければ「加重」に該当しないとされている。

本件省令21条5項もまた、労基法施行規則40条5項等と同様、
「既に障害のある児童生徒等が・・・同一部位についての障害の程度を加重した場合の傷害見舞金の額は、加重後の障害の等級に応ずる障害見舞金の額から加重前の障害の等級に応ずる障害見舞金の額を差し引いた額」と規定。

既存障害として「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」(第1級3号)に該当する脳障害を有する児童生徒等が、学校事故により更に重篤な脳障害を負うに至ったとしても、既存障害と後遺障害は「同一の系列」の範囲内にある障害であり、かつ、既存障害である第1級より重い等級は存在しない⇒障害見舞金を受け得ない。

自賠責保険の分野では、労基法施行規則40条5項等と同様の規定である自賠法施行令2条2項の解釈について、同項の「同一の部位」とは、「損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位」をいうと解すべきであるとして、脊髄損傷により体幹と両下肢の機能を全廃する既存障害(中枢神経の障害)を有していた者が、交通事故により頚部痛及び両上肢の痛み・しびれの後遺障害(末梢神経の障害)の発生を主張した事案において、胸椎と頚椎とは異なる神経の支配領域を有し、それぞれ独自の運動機能、知覚機能に影響を与えるもの⇒既存障害と事故によって生じた障害は、「同一の部位」には当たらないとした裁判例(東京高裁)がある。

<判断>
災害救済給付制度が、被災児童生徒の迅速な救済を図るために、互助共済の理念に基づいて創設された、保険や損害賠償とは異なる特殊な制度
その具体的な給付内容は、制度の目的及び理念を踏まえながら、学校災害の傾向や状況、給付財源、他の社会保障制度との関係等をも考慮した上で、最終的には立法者による政策的な判断によって定めざるを得ない

本件施行令や本件省令が委任の趣旨を逸脱して違法となり得るのは、その内容が著しく合理性を欠き、およそ被害児童生徒の迅速な救済に資するものでないと認められる場合に限られるというべきであり、憲法違反の問題も、基本的にはその限度で生じるにすぎない。
・・・・本件省令21条5項については、その趣旨が、障害のない状態から一定の障害を残存した場合と、既存障害が加重されて現在の障害に至った場合との均衡ないし公平を確保することにある⇒その調整方法として一定の合理性がある。

<解説>
自賠法の下では、保険会社が支払うべき保険金の額は後遺障害等級表によって定められているものの、自賠法16条1項に基づく被害者の保険会社に対する直接請求権は、損害賠償請求権であって保険金請求権ではない(最高裁)⇒「同一の部位」に当たるかどうかは、損害として一体性があるかどうかを基準とすべきであるという解釈が可能に。

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確定測量図の交付義務について争われた事例

名古屋高裁R1.8.30

<事案>
土地の売主であるXが買主であるYに対し、Yの残代金不払いの債務不履行によって売買契約が解除⇒違約金(既払いの手付金を控除した残額)の支払を求めた(本訴請求)。
YがXに対して、約定の確定測量図を交付しないXの債務不履行又は瑕疵担保責任によって売買契約が解除されたことを主張⇒契約解除による原状回復義務に基づき、手付金の返還を求めた(反訴請求)。

<事実>
「売主は、買主に対し、残代金支払日までにその責任と負担において、隣地所有者等の立ち合いを得て、資格ある者の測量によって作成された本物件の確定測量図を交付する」などの約定
南側の隣地所有者Aのにが境界立会図等への署名押印を拒んだ。

Xは、測量事務所から、
①本件土地の境界については、平成27年作成の確定測量図が市役所土木課に保管されている
②法務局担当者からAの署名押印を得られない状態でも分筆登記が可能であるとの確認が得られた
⇒Aの書面による承諾がない場合でも確定測量図として支障がないとの報告を受けたため、Yに対し、残代金の支払を求めた。

<争点>
境界についてAの書面による承諾がない状態で作成された確定測量図の交付によって、Xが本件約定の義務を履行したといえるか。

<判断>
①本件約定の文言
⇒本件約定における確定測量図は、実際に隣地所有者の立会いを経て作成されたものを指すと解すべき。
②買主が、隣地所有者の立会いやその結果境界を承認している事実を確認することは容易ではない。

「隣地所有者等の立会いを得て」とは、立合いの結果確定された境界につき、書面による承諾を得る義務を課す趣旨であると解すべき⇒Aからそのような書面の承諾を得ていないXは、本件約定の義務について履行の提供をしたとはいえない。

平成27年作成の確定測量図が存在しているため、分筆登記等が可能とのXの主張
but
Xが、売買契約時に特段の留保を付すことなく本件約定の義務をを負うことをYに約し、測量事務所からAの書面による承諾が得られないとしても確定測量図として支障がない旨の報告があるまで、Aの書面による承諾の取得に向けて行動し、Yとの間で確定測量図の交付期限とされた残代金支払日を延期する旨の合意
Xは、Yに対し、改めて、売買契約当時の隣地所有者の立ち合いを得て作成された確定測量図を交付する義務を負ったと解するのが当事者の合理的意思に合致。

過去に旧隣地所有者との間で境界を確定した経緯があっても、境界について現在の隣地所有者の書面による承諾を得た上で作成された確定測量図を交付できないという事態が、当該土地の減価要因となると考えられる
⇒価額低下のリスクを回避するために、買主において、改めて、現在の隣地所有者の立会いによる確定測量図の作成を求めることは必ずしも不合理ではない。

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2021年8月23日 (月)

県教育委員会による特別支援学校への就学通知の違法性が問題となった事例

横浜地裁R2.3.18

<事案>
人工呼吸器による呼吸管理等の医療的ケアが必要な児童である原告Aにつき、県教育委員会が、地域の小学校の特別支援学級への就学を求める父母の原告B及びCの意向に反して原告Aを就学させるべき学校として神奈川県立Z用語学校(特別支援学校)を指定して通知⇒原告A及び原告父母の3名が、被告県(神奈川県)に対し、
県教委の前記処分が違法である旨主張し、
①当該処分の取消しを求める訴訟を提起するとともに(行訴法3条2項)、
②被告市(川崎市)に対して、市教育委員会(「市教委」)において、原告Aを就学させるべき学校としてD小学校又はE小学校を指定するように求める非申請型義務付けの訴え(行訴法3条6項1号)を提起

<法令>
学校教育法:
16条
17条1項

学校法施行令:
5条1項
11条1項
14条1項、2項

18条の2j
障害者基本法
4条1項
2項

16条1項、2項、3項、4項
障害を理由とする差別の解消に関する法律
7条1項、2項

<判断>
●訴訟要件充足の有無
県教委が行なった本件就学通知(施行令14条)について、
県教委が行なう就学通知は、公権力の主体である県教委が、
施行令14条に基づき、
原告Aが就学すべき学校を指定し、その旨の通知を保護者にするもの

そのことによって、原告Aの教育を受ける権利を直接形成し、保護者である原告父母に原告Aに対する就学義務(法17条1項)を具体的に形成するもの
⇒処分性(行訴法3条2項)を認めた。
市教委が行なう就学先指定・・・・処分性を認めた。
原告適格も肯定。
義務付けの訴えの要件である「重大な損害を生ずるおそれ」及び「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」(行訴法37条の2第1項)についても、要件を具備していると判断。

●本件就学通知の適法性
①手続上の適法要件と
②実体上の適法要件
に分けて検討し、すべて充足。
③裁量権の逸脱濫用の有無を検討し、それも否定。

◎手続上の適法要件
本件就学通知が施行令14条1項で定める時期(翌学年の初めから2月前まで)より遅れたことについて、
本件就学通知に至るまでの一連の手続の中で、県教委は、三者の合意形成のため時間を要してその通知の時間の定めを遵守することができなかったものであると認められる⇒その期間不遵守にはやむを得ない理由があるものと認められ、このようなやむを得ない理由のある本件において、県教委が本件就学通知をするに当たって、施行令14条1項所定の期間を遵守していなかったとしても、そのことは、本件就学通知の手続的瑕疵とはならない。

◎実体上の適法要件

◎裁量権の逸脱濫用について
市町村の教育委員会は、その所管する教育行政に関して一定の裁量権を有しているものと認められる。
認定特別支援学校就学者の審査については、対象児童の基礎資料の収集・調査を経て、専門家で構成される支援会議の審議を経て最終的な決定に至るものと認められる⇒
①このような定型的な行政の判断過程において、考慮すべき事情を考慮しないことを含めて、基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、
事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと等により、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合
に限り、裁量権の範囲を逸脱又はこれを濫用したものとして違法となる。

①市教委は、県教委の関与の下、原告父母との間で合意形成に努め、結局合意形成に至らなかった⇒合意形成に対する手続に瑕疵があるとはまでは認められない。
②原告Aの主治医に病状を照会したり、通園していた幼稚園のその状況を照会したりしていないとしても、そのことは本件就学通知に至る判断過程の瑕疵を基礎付けるものではないし、そのことをもって障害者に対する合理的配慮を欠くということはできない。
③被告市が医療的ケア支援事業の適用範囲を人工呼吸器使用児にまで拡大しなかったとしても、被告市の運用が不合理であるとはいえない。

結論として、
①就学先指定の判断過程において考慮すべき事情を考慮しないこと、
②その基礎とされた重要な事実に誤認があること、
③事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと
等の看過し難い過誤や欠落があったとは認められず、また、その判断内容も著しく不当であるとは認められない
⇒裁量権の逸脱又は濫用の違法があるとはいえない。

<解説>
● 従前:障害児は原則として特別支援学校に入学
平成25年施行令改正:障害児も原則小学校または中学校に就学し、特別に認定された場合にのみ特別支援学校に在籍。

● わが国はは、平成19年に障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)に署名し、同条約批准に向け、国内の障害者に関する制度改革をを進めるべく、
障害者基本法の改正、障害者差別解消法の制定等、障害児・障害者をめぐる法を大きく転換。

障害者権利条約24条:
人間の尊厳や人権、多様性の尊重を強化させ、
障害者が精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること等の目的の下、
「学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること」
「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること」
等が求められる。

障害のある子どもが障害のない子どもとと共に教育を受けるというインクルーシブ教育の理念を打ち出したもの。

● 取消しを求める県教委の処分と義務付けを求める市教委の処分との関係:
県教委の処分が取り消されない以上、市教委の処分の義務付けは命じ得ないのではないか(矛盾する2つの処分の平地はありえない。市教委の処分の義務付けは、県教委の処分の取消しが前提となる。)?
県教委の処分の取消しが、市教委の認定特別支援学校就学者の認定が違法であるという理由で認められる⇒その理由の拘束力によって(行訴法33条)、市教委は、当然に施行令5条1項、2項の処分をすることになる⇒義務付けの訴えは訴えの利益がないのではないか?といった点の検討が必要では?

本判決:本件で原告が義務付けを求めている市教委の就学先指定処分を施行令5条2項、11条に基づくものであると捉えた上で処分性を論じている。
vs.
本件で義務付けを求めている処分は単純に施行令5条1項、2項に基づくものであり、処分性があることは明らかでは?
市教委が県教委に対して通知すr就学先指定(施行令11条)を、保護者には通知されず、内部的なものにすぎないのではないか?
これが行政処分⇒県教委のする就学先指定処分において、この市教委の就学先指定の違法が承継されるか否かの検討を要するのでは?

本判決:
「県教委は、県専門委員会の意見を踏まえ、・・・市教委に対し、原告Aを特別支援学校就学予定者として承認する旨の通知を発した」という事実を認定。
vs.
「県教委の承認」は法的根拠があるのか?
市教委の認定特別支援学校就学者の認定との関係はどうなるのか?

判例時報2483

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2021年8月19日 (木)

相模原殺傷事件

横浜地裁R2.3.16

<事案>
死亡した被害者:19名、負傷にとどまった被害者:24名

<争点>
責任能力の有無及び程度

争点に関し、
裁判所が選任した鑑定人(K医師。50条鑑定人)と
弁護人が請求した専門家証人(L医師。私的鑑定人)
の尋問が実施。

<判断>
証拠上、本件犯行に相応の影響を及ぼした可能性があるといえる精神障害は、L医師が指摘する動因逸脱症候群(持続した高揚気分あるいは意欲の異常亢進等能動性が逸脱した状態)を伴う大麻精神病のみ
主にL鑑定が排斥されるかどうかという観点から検討を加えている。

①犯行動機の中核である被告人の意思疎通ができないと自己が考える障害者に関する考えは、被告人自身の本件障害者施設での勤務経験を基礎とし、感心を持った世界情勢に関する話題を踏まえて生じたものとして思考の形成過程に病的な飛躍はなく、了解可能
②L鑑定が動因逸脱症候群の症状(能動性の逸脱)が元も顕著に表現された場面とした本件犯行において、被告人は、前記の犯行動機を逸脱した不合理な言動をとっておらず、その他の場面の含めて能動性が逸脱した状態は認められない
L鑑定は採用できない

犯行動機の形成過程に照らして動機が了解可能
本件犯行が計画的に敢行されたものであり、動機との関係で一貫した合目的的なものである
被告人が本件犯行を違法であると認識していた

結論として大麻又はこれに関係する何らかの精神障害が本件犯行に影響を与えたとは考えられない

完全責任能力を肯定

判例時報2482

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公務起因性が肯定された事案

盛岡地裁R2.6.5

<事案>
Xが、Xの夫であり市の設置運営する診療所所長を務めていた医師Aが双極性感情障害(「本件疾患」)を発症して自殺したことは、Aが唯一の常勤医師として休日出勤やほぼ毎日の宅直を伴う診療業務を行なったこと、診療所所長として入院患者虐待問題及び病床廃止計画への対処を迫られたことなどにより、強度の精神的及び肉体的負荷を受けたためであって、公務に起因するもの⇒
Y(地方公務員の災害補償基金)に対し、
①本件災害を公務外災害と認定した処分の取消し及び
②本件災害を公務災害と認定することの義務付けをそれぞれ求めた。

<判断>
公務起因性が認められるためには公務と災害との間に相当因果関係が必要であり、
精神疾患発症の公務起因性については、公務が他の原因と協働して精神疾患を発症させ又は増悪させただけでは足りず、当該公務自体に社会通念上客観的に当該精神疾患を発症させ若しくは増悪させる一定程度以上の危険性が内在し又は随伴し、当該危険性が点実化したことにより当該疾患を発症したこと、すなわち、当該公務がその精神疾患の主因又は有力な要因となりうる程度のものであることが必要。

精神疾患等の公務起因性についての判断方法や業務における強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象を列挙している「精神疾患等の公務災害の認定について」(平成24年3月16日地基補第61号)につき、裁判所の判断を限界付けるものではなく、複数の事象がそれぞれ単独では当該規定に該当しない場合であっても、裁判所は、各事象を個別的に捉えるのではなく、それらの相互作用も考慮して総合的にみて、公務起因性を判断すべき

①業務内容⇒強い精神的又は肉体的負荷をもたらすもの。
②診療所における入院患者虐待問題について一手に対応⇒精神的負荷は極めて大きかった。
③市当局の見解に従わない者に対する見せしめと捉えられても致し方ない対応を受ける⇒強い精神的負荷を受けた。
⇒平成25年1月以降、特に同年11月頃からの公務による精神的及び肉体的な負荷は本件疾患を発症させるほど客観的に過重であると認められる。

Aが以前抗うつ薬を服用していた⇒本件疾患の発症にAの個体側要因が全く影響しなかったと直ちにいうことはできない。
but
①前記の業務の客観的過重性に加え、
②それとAの様子に変化が生じた時期との関係を指摘

個体側要因によって発症したというよりは、過重な業務によって発症したと考えるのが自然⇒本件疾患の発症に個体側要因が作用したとのYの主張を排斥。

<解説>
本判決は、本件災害発生前の複数の事象を総合的に検討。

本件疾患発症前の6か月間におけるAのタイムカード上の時間外労働時間が約30時間から50時間弱の間で推移⇒個々の事象は「精神疾患等の公務災害の認定について」上、公務起因性を認めるに足りるものではない。
but
各事象相互関係が見受けられることを考慮
Aの時間外労働時間数そのものには重点を置いていない
業務の特徴に即した判断を行った結果。

判例時報2482

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2021年8月18日 (水)

使用者が開催条件に固執⇒団体交渉が開催されず⇒不当労働行為(労組法7条2号)の成立を肯定

東京地裁R2.1.30

<事案>
Xの従業員を組合員とする労働組合であるZが、Xが不合理な開催条件にう固執してZとの団体交渉を正当な理由なく拒否⇒都道府県労働委員会(埼玉県労働委員会)に対し救済を申し立てた⇒申立てを認容⇒Xが中央労働委員会に再審査の申立て⇒同委員会がこれを棄却する命令⇒Xが同命令の取消しを求めた。

Xは、
①団体交渉に関する一切の情報を正当な理由なく第三者に開示又は漏えいえしない
②団体交渉において録音及び撮影を行わない
③団対交渉当日はX代理人であるA弁護士の議事進行に従う
を団体交渉の開催条件として提示。

<争点>
Xが本件各団体交渉を「正当な理由」(労組法7条2号)なく拒否したか否か

<判断>
●団体交渉の開催条件等の労使間合意により決定するのが本来の在り方
but
一方当事者が自己の開催条件に固執した結果として団体交渉が解されなかった場合には、団体交渉を拒否したとみられることもあり得る
この場合の団体交渉拒否に「正当な理由」があるか否かは、従前の労使関係や団体交渉等の経過を踏まえ、労働条件等を含む労使関係について労使対等の立場で合意により形成するという団体交渉の目的に照らし、一方当事者が求める開催条件等の内容に必要性が認められるか否かその内容が円滑な団体交渉実施等の観点に照らして合理的か否か、他方当事者の利益を不当に害するものか否かなどの事情を総合して判断すべき。

●守秘義務条件:
①団体交渉の内容等は、労働組合の目的達成のため公表の必要な場合がある
②必ずしも秘密として保護すべき必要性がたかくないものも含まれる

労使の合意がないにもかかわらず団体交渉に関する一切の情報について守秘義務への同意を開催条件とすることが合理的であるということはできず、本件各団体交渉の議事事項をみても、守秘義務条件の必要性及び合理性は認められない

録音撮影禁止条件:
団体交渉の内容の正確な記録は労使双方にとって必要がある
企業秘密に当たる情報に言及する際は録音を停止するなどの個別対応も可能

少なくとも団体交渉の全過程における録音を一律に禁止することに当然に必要性及び合理性があるということはできない

本件においても、A弁護士が従前のやりとり記録していなかったとも思われる発言

録音撮影禁止条件の必要性及び合理性は認められない。

議事進行条件:
団体交渉における議事進行は、団体交渉の帰すうを左右し得るもの
労使対等の立場で行うべきであり、使用者代理人が一方的に議事進行を行うことが当然に合理的であるとまではいえない
・・・

議事進行条件の合理性を認めることはできない。



本件において団交3条件の具備を要求する必要性及び合理性を認めることはできず、団交3条件への不同意を理由とする団体交渉拒否には「正当な理由」がない

<解説>
使用者が開催条件に固執したことによる団体交渉の不実施が「正当な理由」のない団体交渉拒否に当たるか否か:
条件の合理性を中心として使用者の態度の妥当性が判定される(菅野 )

判例時報2482

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巨大児として出生した胎児の後遺障害が残った事故と医療過誤(否定)

大阪地裁R2.3.13

<事案>
平成25年に巨大児として出生し右上肢肩肘機能全廃の後遺障害が残ったXが、Yが開設・運営する病院(本件病院)の担当医師であるA医師に、帝王切開すべき注意義務違反、帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務違反があった⇒Yに対し、不法行為(使用者責任)に基づき、後遺障害逸失利益等の損害賠償金(4764万1018円)及び遅延損害金の支払を求めた。

<争点>
A医師が、
①帝王切開をすべき注意義務
②帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務
を負っていたか。

<判断>
●争点①:帝王切開すべき注意義務の有無






仮に、胎児(X)が巨大児で、かつ、肩甲難産が発生し得る可能性があり、この場合に胎児(X)に生じ得る後遺障害が重大なものとなり得ることを考慮しても、なお帝王切開をした場合の危険性が高かったと言わざるを得ない
A医師が、平成25年9月25日午前9時頃当時、帝王切開すべき注意義務を負っていたとまではいえない。

●争点②:帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務の有無




仮にCの出産において、肩甲難産が生じたとしても、帝王切開へと分娩術を変更すべきであったとはいえない。

本件において、選択的帝王切開と緊急帝王切開のいずれも実施することが想定されない状況であった以上、A医師が同年9月24日午前9時頃当時、帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務を負っていたとはいえない

<解説>
巨大児(奇景等の肉眼的異常がなく、出生体重4000グラム以上の児)について、産婦人科診療ガイドラインは、その診断方法、分娩の危険性、巨大児が疑われる児について記述しており、
巨大児が疑われる児について分娩遷延・停止となった場合、帝王切開術を考慮する(推奨レベルC:実施すること等が考慮される。)
児の方が娩出されない(肩甲難産)児には、人員を確保するとともに、会陰切開・マックロバーツ体位・恥骨上縁圧迫法等により娩出を図る、子宮底部の圧迫(クリステレル圧出法)は行なわない(推奨レベルC:実施すること等が考慮される。)などとしていた。

裁判例は、ガイドラインとほぼ同様の判断枠組みの下で個別事案に即して注意義務違反の有無を判断し、
その上で注意義務違反を肯定したものと
否定したものに分かれる。

判例時報2482

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2021年8月17日 (火)

区分所有建物の管理組合の理事会規則(理事排除条項)が無効とされた事案

大阪高裁R1.10.3

<事案>
Xらは大型商業用ビルである本件ビルの区分所有者で、
Y1は、本件ビルの区分所有者全員で構成された団体(区分所有法3条)である管理組合であり、
Y2は、本件ビルの区分所有者集会において区分所有法上の管理者に選任された者

Xらが、Yらに対し、
①「理事が管理組合に対し、原告又は被告になったとき」に理事の資格を失うことを定めた理事会規則の無効確認を求め、併せて、
本件ビルの改修工事の差止め、及び、
同工事に係る1審判決添付の別紙議案目録記載の議案を可決した区分所有者集会決議の無効確認を求めた。

Y1の理事会規則には、「理事が管理組合に対し、原告又は被告となったときは、その日をもって理事の資格を失い、理事会規則4条1項の任期中は復帰しないものとする」との理事排除条項が存在。
平成25年5月に開催された理事会で承認され、理事会規則の一部となった。

<主張>
本件理事排除条項について、Xらは、
①理事である区分所有者の選挙権及び被選挙権を制限し、又は、Y1の理事が有する裁判を受ける権利を侵害⇒公序良俗に反する
②本件管理規約による授権がなく、又は、授権の範囲を逸脱
③本件理事排除条項を定めたY1の理事会決議が決議要件を満たしていない⇒無効又は不存在
であるなどと主張し、無効確認を求めた。

<一審>
①理事の資格喪失事由については、本件管理規約において、「理事会について必要な事項」として、理事会の決議によって定められる理事会規則に委任しているものと解される。
⇒本件理事排除条項は本件管理規約に違反しない。
②本件理事排除条項の承認に係る議案の理事会決議においては、理事会規則によって委任状の提出により出席したものとみなされる理事らの議決権を賛成票に加算すべき。
⇒Y1に対する本件理事排除条項の無効確認請求を棄却。

<判断>

本件管理規約においては、原則として全ての区分所有者に理事となる被選挙権が与えられ、例外的に被選挙権が制限されることが定められており、本件管理規約に定める場合を超えて役員の資格喪失事由を定めることを理事会規則に委任する旨の規定は存在しない
理事の資格制限事由を理事会で決めるには、本件管理規約による明文の委任が必要であると解されるところ、「役員及び理事会について必要な事項」は理事会の決議に基づいて定めることを理事会に委任したものと解することはできない。

本件管理規約による委任の範囲を逸脱した無効なもの。

●Yらの主張:
本件理事排除条項の承認に係る議案を決議した理事会において、
理事会規則の規定により議決権を行使する権限を当日の議長に授与すること、及び代理による議決権の意思表示は「棄権」に限定することを記載した委任状を提出した理事らの意思は、理事会に現に出席した理事の過半数を得た決定に従うという趣旨。
vs.
委任状を提出した理事らが、本件理事排除条項の承認に係る議決案について「棄権」の意思表示⇒同議案の理事会決議は、出席理事の過半数という理事会規則の決議要件を満たしていないため無効


本件理事排除条項の無効確認を認容

判例時報2482

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実施法での常居所地国の判断

東京高裁R2.6.12

<事案>
子(C)の母である相手方(B)が父である抗告人(A)に対し、抗告人による留置によりCに対する監護の権利が侵害された⇒実施法に基づき、Cを常居所地国であるアメリカ合衆国に返還することを求めた。

<争点>
当事者が米国と日本の間を行き来⇒Cの常居所地国が米国であるかが主たる争点

<原決定>
常居所とは、人が常時居住する場所で、単なる居所とは異なり、相当長期間にわたって居住する場所をいう。
その認定に当たっては、居住年数、居住目的、居住状況等を総合的に考慮して判断するべきであるが、
子が5歳とまだ幼い⇒子の常居所の獲得については、当該居所の定住に向けた両親の意図を考慮して判断するのが相当




本件渡米は、米国で投資等の事業を成功させるまでの相当長期間にわたって居住する目的で行われていたものというべき。



Cは相当長期間米国で安定的に生活していたと認められ、その状況が2月来日やその後の抗告人と相手方との関係悪化に伴って失われたとは認められない。

Cの常居所地国は米国

<判断>
常居所地国は米国。

判例時報2482

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2021年8月16日 (月)

実施法が問題⇒重大な危険の返還拒否事由あり(原審)⇒同事由なし(控訴審)の事案


東京高裁R2.1.21

<事案>
子Cの父であるA(抗告人)が母であるB(相手方)に対し、Bによる留置によりCに対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関sるう法律(「実施法」)に基づき、Cを常居所地国であるアメリカ合衆国に返還することを求めた。

<原審>
Aの申立てを却下

Aが即時抗告

<争点>
いわゆる重大な危険の返還拒否事由の有無(実施法28条1項4号)

<主張>
重大な危険を基礎付ける事情として、Bは、
①Aによる大麻の使用
②Aによる過去の継続的・恒常的な暴力の事実
③Aは薬物依存等のため適切な監護を期待することができず、また、Bも常居所地国において刑事訴追を受けることが不可避の状況である⇒AもBも常居所地国において子を監護することは困難
本件子(C)の返還申立事件の継続中に、Bが睡眠改善薬等を過剰摂取する方法で自殺を企図⇒仮にCだけを常居所地国に返還した場合は、自殺再企図の可能性が高まり、Bが自殺した場合には、Cを耐え難い状態に置くことは明らか

<判断・解説>
●争点①

①AがCの面前において大麻を使用していたことを的確に認めるに足りる証拠はない
仮にAが違法に大麻を使用したとしても、それがCの心身に有害な影響を及ぼすに至ることを認めるに足りる具体的な証拠はない
③Aが今後、医療的な観点から大麻を使用する必要性があるとしても、適正に使用していく意向であることを示している

Aによる大麻の使用が、実施法28条2項1号に規定された「心身に有害な影響を及ぼす言動」に該当するとまではいえない。


実施法28条1項4号の返還拒否事由は、LBT(Left Behind Parent)とTP(Taking Parent)のいずれが監護者として適格であるかを問題とするものではない
仮にLBPに子の監護者として不適格な事情があったとしても、それによって子の監護に具体的な危険が生じていない以上は、返還拒否事由に該当することは困難

●争点②

かつてAがBに対して暴力を振るったことがあることが推認される
but
Bの供述によっても最後に暴力を受けたのは平成29年1月であり、その後、約2年間にわたって、AとBとには多数の接触の機会があったにもかかわらず暴力が振るわれたことはないといった経緯

BがAから心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれがあるとはいえないという原審の判断を維持。


過去に暴力があった場合であっても、暴力が継続的なものでない場合には、返還拒否事由としては認められない傾向にあるとされる。
but
単発の暴行であっても、その行為態様の悪質性及び結果の重大性などを総合考慮して、4号該当性を肯定した裁判例もある。

●争点③
◎ Bが本件E州内に立ち入った場合は、Cの監護ができなくなる可能性がある
but
①Aが実際に養育計画に沿って監護をしていた
②B自身、養育計画に応じている
③Bが日本に入国する前にはAにCの監護を依頼して勤務していた

AにおいてCの監護を行なうことができないということはない。

●争点④
◎原審:
①Cの米国への返還が命じられた場合には、Bにおいて再度自殺を企図する可能性が高い
②そのような事態は、Cを母親との死別という耐え難い状況に置くことになる

子を常居所地国に返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険がある。

◎ 判断:
原審での審理経過や原審第2回審尋期日後のBの行動等を詳細に認定

①Bの自殺未遂は発作的なものであり、救急搬送先の病院から退院した後のBの精神状態に不安定なところはみられず、再度入院することもなく、通院の頻度は2週間に1回程度にとどまっている
②Bの親族等が自殺予防の措置を講じている様子うかがわれず、B自身もネイルサロンで働き続けることが可能な状態にあること
などの爾後の経過

Bの希死念慮はさほど重大かつ切迫したものとは認め難い。

Bの自殺衝動や希死念慮の高まりは、一時的な現実検討能力及び判断力低下によるものであり、本来、精神科医による治療行為等や親族等による自殺予防の措置等により回避されるべきものであり、そのような自殺予防のために必要かつ有効な措置等が
高じられる限り、Cが米国への返還を命じられることによって、Bにおいて自殺をする可能性が高いとはいえない。


TPの自殺は、子とTPの永遠の別離を招く⇒「子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険」を生じさせるものということができる。
オーストラリアでも、子が返還された場合に母親が自殺をする重大な危険があり、それにより、子が精神的な害悪を被る重大な危険があるとして、返還拒否事由が認められた事案がある。

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①選挙の取消しを求める訴え+②後任理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えで①の訴えの利益

最高裁R2.9.3

<事案>
Y:中小企業等協同組合法に基づき設立された事業協同組合
平成28年5月のYの通常総会で理事を選出する選挙(「本件選挙1」)及び幹事を選出する選挙(「本件選挙2」)

本件選挙1で選出された理事によって構成される理事会がした招集決定に基づき、同理事会で選出された代表理事である理事長が招集して、平成30年5月、Yの通常総会が開催。同窓会で本件選挙1及び2で選出された理事及び幹事全員が任期満了で退任したとして理事を選出する選挙(「本件選挙3」)及び幹事を選出する選挙(「本件選挙4」)。

Yの組合員であるXが、Yに対し、
①本件選挙1及び2の各取消しを求めるとともに、
②本件選挙1を取り消す旨の判決の確定を条件に、本件選挙3及び4の各不存在確認を求めた。

<原審>
本件選挙1及び2の各取消しの訴えの係属中に、役員全員が任期の満了により退任し、その後に行なわれた本件選挙3及び4で役員が新たに選出⇒特別の事情のない限り、取消しの訴えの利益は消滅。
取消請求の認容判決確定まで本件選挙1は有効とされ、事実審の口頭弁論終結時において本件選挙3及び4は適法であった⇒本件選挙1の取消しの訴えの利益があるとはいえない。
前記特別の事情もない⇒本件選挙1及び2の各取消しの訴えは不適法。
本件選挙3及び4の各不存在確認の訴えは、過去の法律関係の不存在について停止条件付きで確認を求める訴え⇒不適法。

Xが上告受理申立て

<判断>
事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しを求める訴えに、同選挙が取り消されるべきものであることを理由として後任理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合には、後行の選挙がいわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、先行の選挙の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。

原判決を破棄し、本件選挙1の取消事由の存否等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻し。

<解説>
● 選挙の瑕疵を争う訴えには、会社法の株主総会決議の瑕疵を争う訴えの規定が準用されると解される。
役員選任の株主総会決議の瑕疵を争う訴えの利益にについて、
①事後的な事情の変化と役員選任の株主総会決議取消しの訴えの利益の存否に関する最高裁昭和45.4.2と
②株主総会決議の瑕疵の連鎖と役員選任の株主総会決議不存在確認の訴えの利益の存否に関する最高裁H11.3.25

昭和45年最判:
株主総会決議取消しの訴えのような形成の訴えについては、法律に規定する要件を充足する限り、訴えの利益を有するのが通常。
but
後の事情の変化によりその利益を欠く場合がある。

役員選任の株主総会決議取消しの訴えが係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会決議によって取締役ら役員が新たに選任され、その結果、取消しを求める選任決議に基づく取締役ら役員が現存しなくなった⇒特別の事情のない限り、決議取消しの訴えの実益がなくなり、訴えの利益を欠くに至る。

決議後の事情の変化と決議取消の訴えの利益の有無は、決議の取消しを求める「実益」があるか否かという観点から判断すべきとするもの。

平成11年最判:
先行の取締役選任の株主総会決議の不存在委の瑕疵が後行の取締役選任の株主総会担ぎの不存在の瑕疵をもたらす(瑕疵が連鎖する)との最高裁H2.4.17の考え方を踏襲しつつ、
役員選任の株主総会決議後の事情の返還と決議不存在確認の利益の有無について、
先行の取締役選任の株主総会決議の不存在の瑕疵が後行の役員選任の株主総会決議に継続する事情の下で、そのような瑕疵の継続が主張されている場合においては、後行決議の存否を決するためには、先行決議の存否が先決問題となり、先行決議の不存在確認を求める訴えに後行決議の不存在確認を求める訴えが併合されているときは、前者の訴えにも確認の利益がある。

● 先行の理事選挙の取消しの瑕疵が後行の役員選挙に連鎖するとして先行の理事選挙の取消しの訴えが提起⇒不存在確認の訴えと同様、先行選挙の取消しの訴えの利益が認められるか?
〇A:肯定説:
株主総会取消しの判決には遡及効がある(民法121条、なお、会社法839条参照)⇒判決の確定により決議は当初から無効⇒先行決議の取り消しの場合も、不存在の場合と同様、瑕疵の連鎖を認める。
B:否定説

肯定説でも、
対外的には、不実登記の効力に関する規定(会社法908条2項)や表見代理の規定(民法109条等)等により保護されると解することは可能であるし、
取消しの訴えの場合には裁量棄却の規定(会社法831条2項)もある。
⇒妥当な結論を導くことができる。

判例時報2482

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2021年8月14日 (土)

松橋事件再審無罪判決

熊本地裁H31.3.28

<事案>
平成24年、Xの成年後見人が、再審請求⇒平成28年6月30日、・・・新証拠によれば自白の重要部分に客観的事実との矛盾があるとの疑義が生じ、自白に有罪認定を維持し得るほどの信用性を認めることができなくなったとして再審開始決定⇒検察官即時抗告⇒福岡高裁が即時抗告を棄却⇒検察官の特別抗告も棄却⇒再審開始が確定。

<審理と判断>
平成31年2月に初公判、即日結審、第2回公判で判決が言い渡された。
検察官:Xの自白を含め、確定審で取調べ済みの証拠及び再審請求審で提出された証拠から数多くの証拠を、本件再審公判でも請求。
but
Xの自白については、
再審請求審における数年にわたる審理の中で、確定審が認めた自白の任意性、信用性の弾劾を目的とする詳細な弁護人の主張を踏まえ、多くの事実取調べの結果、自白の重要部分に客観的事実との矛盾があるとの疑義が生じた⇒その信用性が否定。

検察官:本件につきXが有罪である旨の新たな立証は行わないと宣言。
Xの自白を、他の証拠等と共に採用し、相当の時間をかけてその信用性を検討したとしても、検察官による新たな立証がされない⇒客観的事実と矛盾する疑いがあることを根拠とする再審請求審の判断と異なる結論に至ることは想定し得ない。
Xの自白等を採用して改めて検討を加える必要性があるとは考えられず、可能な限り速やかに判決を言い渡すことが最も適当⇒検察官が請求したXの自白などを却下。
犯罪の証明がない⇒Xを無罪に。
本件と併合罪関係にあるため形式的に審理の対象となった別件(けん銃と実包所持)につき、確定判決が認定した事実を前提として、懲役1年(未決勾留日数を満つるまで算入)、けん銃等の没収を言い渡した。

<解説>
●刑訴法:再審公判について、基本的に審級に従った審理を行うとしか規定していない(同法451条1項)。
確定審で取り調べた証拠をどう取り扱うかとうい問題を中心にその性質が議論

A:覆審説:確定審とは全く別個のものとして新たにやり直す
B:続審説:上訴審による破棄差戻しの手続に準じて公判手続の更新と同様の手続による
近時の著名再審事件では、②続審的に運用されたものが多いと分析。
but
いずれの見解によるとしても、確定審で取り調べた証拠、さらに再審請求審で提出された証拠をどのように取り扱うかという点を中心として、再審開始に至った経緯に十分考慮しながら、再審公判の目的に沿って合理的な審理を行なう必要。

●本件再審公判は、検察官が確定審で取調べ済みの証拠を再度証拠請求⇒①覆審説に沿った運用。

●松橋事件:確定判決が依拠したXの自白と矛盾することが明らかな証拠(布切れ)が、検察官手持ちの未提出証拠の中にあることが発見⇒再審開始、無罪判決につながった。
~再審における証拠開示の重要性。

判例時報2481

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弁護人の裁定請求が棄却された事例

名古屋高裁R1.10.24

<事案>
基本事件:自動車内にけん銃1丁を適合実包12発とともに保管して所持したというもの。

弁護人:警察官に対し、前回事件の捜査の端緒となった、本件とも前回事件とも異なる被疑事実(Aに対する銃刀法違反、前々回事件)でのB方等に対する捜索差押許可状の発付に係る各捜索差押許可状請求書及びその疎明資料(本件各証拠)につき、刑訴法316条の20に基づき開示請求⇒検察官は、開示対象該当性、関連性、必要性及び開示の弊害を争い、これを開示しなかった⇒裁定請求

<規定>
刑訴法 第三一六条の二〇[主張関連証拠の開示]
1 検察官は、第三百十六条の十四第一項並びに第三百十六条の十五第一項及び第二項の規定による開示をした証拠以外の証拠であつて、第三百十六条の十七第一項の主張に関連すると認められるものについて、被告人又は弁護人から開示の請求があつた場合において、その関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに、第三百十六条の十四第一項第一号に定める方法による開示をしなければならない。この場合において、検察官は、必要と認めるときは、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。

<原審>
弁護人に対する非開示条件(A又は第三者に対し、本件各証拠の内容を明らかにしてはならない)を付して、検察官に各証拠の開示を命じた。

双方、即時抗告

<判断>
原決定を取り消し、弁護人の本件裁定請求を棄却。
①刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は、必ずしも検察官が現に保管している証拠に限らないものの、当該事件の捜査の過程で作成・入手した書面等であって、公務員が職務上現に保管し、かつ、検察官において入手が容易なものを含むと解されているところ(最高裁H19.12.25)
実質的に考えても、原決定の解釈によれば、当該事件の捜査の過程で作成・入手した証拠でなくとも、弁護人の主張次第で開示対象はいかようにでも広げられることになるが、このような帰結を法が想定しているとは思われない。

検察官の即時抗告は理由がある。

<解説>
最高裁H19.12.25:
検察官が現に保管するものに限られず、捜査官が作成した取調べメモや捜査メモも証拠開示の対象となり得る。
but
「当該事件の捜査の過程で」という文言
⇒別事件の捜査において作成・入手した証拠は開示対象に含まれないのかという問題
裁判例:積極に解するものが多い。

・「別事件の証拠であることから直ちに本件の証拠開示請求の対象にならないとされているわけではない」
・検察官が、別事件の証拠が本件に関連すると考えた場合に行う、謄本を作成して本件の一件記録に編綴するという運用への言及
・「形式的に本件の捜査過程で作成されたものに当たらないとはいえ・・・その際に作成された文書に記載された内容が、捜査の端緒やその後の捜査に密接に関連する情報として捜査機関内で共有されることが想定される⇒当該文書の作成が捜査の開始前か後かという形式的な基準で証拠開示の対象に含まれるか否かを判断すべきではない」
本決定は、上記裁判例の中では、やや異質。

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2021年8月13日 (金)

個人面談における上司による従業員に対する退職勧奨が違法⇒慰謝料20万円の事例

横浜地裁R2.3.24

<事案>
総合電機メーカーであるYにおいて勤務しているXが、Yに対し、
Yから違法な退職勧奨及びパワーハラスメントを受けたと主張⇒不法行為に基づき、慰謝料100万円及び遅延損害金の支払を求め
YによりXに対する違法かつ無効な査定が行なわれ、賃金が減額⇒雇用契約に基づく賃金支払請求権又は不法行為に基づき、違法勝無効な査定がなかった場合との差額の賃金及び賞与並びに遅延損害金の支払を求めた

<争点>
①Xに対する違法な退職勧奨・パワハラの有無及び慰謝料額
②Xに対する査定の違法性

<判断>
●争点①
①Aが行なった退職勧奨は、Xが明確に退職を拒否した後も、複数回の面談の場で行なわれている、
②各面談における干渉の態様自体も相当程度執拗である
③Xの自尊心を殊更傷付け困惑させる言動に及んでいる

労働者であるXの意思を不当に抑圧して精神的苦痛を与えるものといわざるを得ず、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法なもの
⇒慰謝料20万円を認容。

X主張:面談による退職勧奨とは別に、Xの会議運営に関する叱責のメールをAが会議出席者約30名にも同時送信したことなどが、違法なパワハラに当たる。
vs.
本判決:
部下を多数人の面前で叱責することにも類し、部下に対する指導に際しての冷静さや配慮が十分でない。
but
この事実だけで、Xに対する慰謝料の支払を要するほどの精神的苦痛が生じたとまでは認められない

●争点②
①評価基準に主観的な要素が含まれているからといって、直ちにこれを不公正で違法なものということはできない。
②上長1名のみによる恣意的な評価を許容するものであるとも認められない。

GPM評価制度そのものを不公正かつ違法な制度であるということはできない。

Xに対するGPM評価:
Yの裁量権を逸脱した違法な点は見当たらず、基本的にこのGPM評価に基づいてなされたものと考えられるXに対する査定にも、違法性を認めることはできない。

<解説>
使用者が従業員に対し退職勧奨を行うこと
その手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、使用者による正当な業務行為であり、不法行為を構成するものではない。
一旦退職に応じない旨を示した従業員に対して説得を続けること自体もOK。
その際、使用者から見た当該従業員の能力に対する評価や、引き続き在職した場合の処遇の見通し等について言及することは、それが当該従業員にとって好ましくないものであったとしても、直ちには退職勧奨の違法性を基礎付けるものではない。
but
退職を説得する行為の態様や表現方法等によっては違法と判断されることもある

査定は、人事考課制度の枠内における使用者の裁量的判断に委ねられており、その裁量権を濫用したという場合でなければ、違法とはならないと解されている。

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均等侵害の成否の判断、特許法101条2号関係

大阪地裁R2.5.28

<事案>
クランプアーム、スイングクランプ、流量調整弁から構成され、名称を「クランプ装置」とする特許発明を有するXが、・・・「本件製品群1~8」 の製造販売等は本件特許権の間接侵害である⇒本件製品群1~8の製造販売等の差止め、同製品及びその半製品の廃棄並びに損害賠償を請求。

<説明>
スイングクランプとスピードコントロールバルブとのセット(「本件製品群1~3」)
リンククランプとスピードコントロールバルブとのセット(「同4~6」)
スピードコントロールバルブ(「同7、8」)

<争点>
①間接侵害の成否
②差止請求の成否
③特許法102条2項に基づく推定の覆滅

<解説>
●争点①について
◎本件製品群4~5について
〇特許権の均等侵害については、ボールスプライン軸受事件最高裁判決(H10.2.24)において、均等侵害が成立する5つの要件のうち、第5要件として、
「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」という要件が判示されている。

マキサカシトール事件最高裁判決(H29.3.24):
出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたもにに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。


①本件製品群4~6にクランプアームを組み合わせるとリンククランプを有するクランプ装置となる。
②本件発明に係る特許出願時の特許請求の範囲にはリンククランプを有するクランプ装置が含まれていた

マキサカルシトール事件最高裁が判示する「出願人が、特許出願時に・・・対象製品等に係る構成を・・・特許請求の犯にに記載しなかった場合」に該当するわけではない。
同判決以前から、本件におけるリンククランプを有するクランプ装置のように補正前は特許請求の範囲に含まれていたが補正により特許請求の範囲から除外されたものはボールスプライン軸判決にいう、「特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたもの」に当たる⇒そのものについては第5要件を充足しないとされる場合が多かった。
but
本判決は、マキサカルシトール判決の判示を引用した上、
その判示は特許請求の範囲につき複数回行なわれた前後の補正の経緯を検討する場合においても同様であるとして本件を処理。

特許請求の範囲に含まれていたものが補正により特許請求の範囲から除外された場合についても第5要件を客観的、外形的に判断すべき旨を強調。

◎本姓製品群7及び8について
非専用品形間接侵害の主観的要件のうち「その物が発明の実施に用いられること」:
A:著作権侵害幇助刑事事件であるWinny事件最高裁判決(H23.12.19)の判示を参考に、部品等の供給者において、その部品等が例外的とはいえない範囲の者によって特許発明に係る物の生産に用いられる蓋然性が高いことを認識していれば足りると緩やかに解する考え方
B:部品等の供給者において、その部品等が特定の者によって特許発明に係る物の生産に現実に用いられていることを認識していることを要すると厳格に考える考え方

本判決:
当該部品等の性質、その客観的利用状況、提供方法等に照らし、当該部品等を購入等する者のうち例外的とはいえない範囲の者が当該製品を特許権侵害に利用する蓋然性が高い状況が現に存在し、部品等の生産、譲渡等をする者において、そのことを認識、認容していることを要し、またそれで足りる

Winny事件最高裁判決と同様の判示。
幇助事件における考え方より緩やかなわけではないという意味で、同最高裁判決との不整合は来していない。

●争点②について
非専用品型間接侵害における非専用品の差止の範囲:
A:同部品を製造、販売する行為について間接侵害が成立するとみて、間接侵害行為と目される当該行為について限定なく差止めを認める
B:具体的な商品名を掲げて当該商品の製造販売の差止を命ずる判決や、当該部材等を専ら侵害用途に使用している顧客の名称を掲げた上で当該顧客への販売の差止めを命ずる判決は許されるが、無条件に当該部材を対象に掲げただけの差止判決を発することは許されない

学説は非専用品の差止めの範囲を適切に画することが必要であるとする考え方が多数派。
but
裁判所は、個々の範囲を限定しない差止請求を認めている。

●争点③について
◎特許法 第一〇二条(損害の額の推定等)
 
2特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。

◎特許法102条2項の損害の額の推定規定について:

紙おむつの処理容器事件知財高裁第合議判決(H25.2.1)
「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められる。」

二酸化炭素含有粘性組成物事件知財高裁第合議判決(R1.6.7)
「特許法102条2項・・・所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは、原則として、侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって、このような利益全額について同項による推定が及ぶ」

◎その推定の覆滅について:
二酸化炭素含有粘性組成物事件知財高裁第合議判決:
侵害者が主張立証責任を負うものであり、
侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たる。
例えば、
①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)
②市場における競合品の存在
③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)
④侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)
などの事情について、・・これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができる。

特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても、推定覆滅の事情として考慮することができる。
but
特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるでのではなく、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当。

◎間接侵害に特許法102条2項が適用されるか:
A:肯定説(多数派)
but
その要件については、
特許権者が特許発明を実施していることや間接侵害品と競合する製品を販売等していることは不要であると穏やかに解する考え方や、
特許権者が間接侵害品と競合する製品を販売等していることを要すると厳格に解する考え方

非専用品型間接侵害に特許法102条2項が適用される場合の推定の覆滅について:
非専用品のうち特許発明に係る物の生産以外の用途に用いられている分は推定を覆滅する事情であるとした裁判例
本件製品群7及び8のうち適法な用途に用いられている分が
「Xの損害の額=Yらが受けた利益の額」という推定を覆滅する事情とされた

適法な用途に用いられている分も含めた本件製品群7及び8の製造販売等の全体が侵害行為であることを前提としている。

◎紙おむつ処理容器事件知財高裁大合議判決において、
特許法102条2項を提供するための要件である
「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合」の「利益」は特許発明の実施による利益に限らない旨が判示。

一般的に特許権者の事業が侵害者の非専用品の製造販売等それ自体と競合することもあり得る

非専用品の製造販売等の全体が侵害行為であるとする場合、そのうち特許発明に係る物の生産以外の用途に用いられている分を常に同項に基づく推定を覆滅する事情としてよいかどうかについては、議論が生じよう。
学説には、事案によっては非専用品を個別具体的に把握して特許発明に係る物の生産に用いられる者の製造販売等のみを侵害行為であるとすべきとの考え方

前述の競合の有無にかかわらず、非専用品のうち特許発明に係る物の生産以外の用途に用いられる分はすいての覆滅の段階ではなく侵害行為により侵害者が受けた利益の額を算定する段階で考慮されることになる。

判例時報2481

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特許権の通常実施権者による訴訟が確認の利益を欠くとされた事例

最高裁R2.9.7

<事案>
本件各特許(日本特許と米国特許)の通常実施権者であったXが、特許権者であったYを相手取り、YのA(補助参加人)に対する本件各特許権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権が存在しないことの確認を求めた。

<争点>
本件確認訴訟に確認の利益があるか

<原審>
確認の利益を肯定

①YのAに対する本件損害賠償請求権の行使によりAが損害を被った場合、
XはAに対し本件補償合意に基づき同損害を補償しなければならず、
Xはその補償額についてYに対し本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をすることになるところ、
②この請求権の存否の判断に要する主要事実に係る認定判断は、本件損害賠償請求権の存否の判断に要する主要事実に係る認定判断と重なる。

<判断>
原審が指摘する事実があるとしても、
Xが、Yを被告として、YのAに対する前記不法行為に基づく損害賠償請求権が存在しないことの確認を求める訴えは、確認の利益を欠く

原判決中本件確認請求に関する部分を破棄し、同部分に関するXの控訴を棄却。

<解説>
● 確認の訴え:
給付の訴えと異なり、確認の対象となり得るものが形式的には無限定訴えの利益(確認の利益)によってそれが許容される場合を限定する必要が大きい。

確認の利益:
確認判決を求める法律上の利益であり、原告の権利又は法的地位に危険・不安が現存し、かつ、これを除去する方法として原・被告間で当該訴訟物について確認する判決をすることが有効適切である場合に認められる。

確認の利益は、
①方法選択の適否(給付訴訟や形成訴訟でなく確認訴訟による必要性)、
②確認対象の適否、
③即時確定の利益
の各観点から判断されるところ、
即時確定の利益とは、原告の権利又は法的地位に現実的な危険・不安が生じており、これを除去するために確認判決を得ることが必要かつ適切であること。

● 本件確認請求:Y(被告)とA(第三者)との間の権利関係の確認を求める訴訟。
即時確定の利益があれば、第三者との間の権利関係の確認を求める訴えも適法

当事者の一方と第三者との間の権利関係の確認の訴えで確認の利益が認められる例:
①第三者のためにする契約について、当該第三者が当事者となった、契約の存在又は不存在を前提とする権利又は法律関係の確認の訴え、
②2番抵当権者が、1番抵当権者に対し、1番抵当権又はその被担保債権の不存在の確認を求める訴え
③債権者代位訴訟において第三債務者(被告)が債権者(原告)の債務者に対する被保全債権を争う場合に債権者が提起した、同債権の存在確認の訴え
④土地の転借人が、土地所有者から別個に当該土地の使用権を取得したと主張する者に対し、自己の土地使用権の確認を求める訴え
⑤自称債権者同士の争いで、自己が第三者(債務者)に対する債権を有することの確認を求める訴え
①~⑤の類型は、
原告の権利と被告の権利が競合していたり、原告の権利の直接の発生原因である基本的な法律関係に係る確認を求めているなどのケース

● 本件:A(第三者)のY(被告)に対する債務の不存在確認を求めるもの⇒どのような意味で「原告の権利又は法的地位に危険・不安」が基礎付けられるか?
XがAに対し本件補償合意に基づき保障債務を負う危険
vs.
本件確認請求を認容する判決が確定したとしても、その既判力がY・A間には及ばない⇒YのAに対する本件損害賠償請求権の行使を法的に抑制することはできず、XがAに対する補償債務を負う危険を除去できない。
Yによる本件損害賠償請求権の行使を事実上抑制することができ、かつ、これをもって即時確定の利益を基礎付けられるといえるかも疑問。(Y・A間には別件米国判決のような本件損害賠償請求権の認容判決がある)

原審:XのYに対する本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権に係る紛争が生じる可能性があることにより基礎付けようとした。

別件米国判決のようなYのAに対する本件損害賠償請求権の認容する判決が確定した場合にXがAにその損害賠償請求金を補償しなければならない分についての将来のXのYに対する前記債務不履行に基づく損害賠償請求権を念頭に置いている
vs.
YがAに対して本件損害賠償請求権を行使したとしても、X自身同請求権が存在しないといっていたこともあり、
(1)それを認容する判決が確定するか否かは全く不確実
(2)そのよう認容判決が確定したとしても、
①AがYに対し同判決どおりの損害賠償金を支払わない(Aに対する強制執行も奏功しない)可能性や、
②XがAに対し同判決通りの損害賠償金を支払わない可能性がある
Xに損害が発生するか否かは、なおも不確実。

以上:
実際にAが損害を被り、これに対する補償を通じてXに損害が発生するかは、事前には(損害が発生する前の段階では)不確実⇒Xが事実上の期待のレベルを超えて保護に値するほど具体化された権利又は法的地位を有するとはいえない。
②他方で、Xに現実に損害が発生した段階では、Xは、Yに対して前記債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を提起すれば足りる。

本件確認請求が、Xの権利又は法的地位への危険又は不安を除去するために必要かつ適切であるということはできない。

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2021年8月10日 (火)

市が、土地を売却する際の、浸水被害状況等について情報開示・説明義務違反(肯定)


京都地裁R2.6.17

<事案>
被告(京都府福知山市)を事業主体とする土地区画整理事業又は非農用地造成事業により造成された土地を購入し、地上建物を建築等⇒台風の影響による降雨により自宅の床上浸水等の被害⇒被告に対し、土地の売主としての説明義務違反、地方公共団体としての情報提供義務違反があった⇒損害賠償を請求。

<判断>
被告から直接土地を買い受けた3名の原告らについて、
被告が当該土地を売却する際に、本件各土地に関するハザードマップの内容について説明し、被告が把握していた本件各土地に関する近時の浸水被害状況や今後浸水被害が発生する可能性に関する情報について開示し、説明すべき義務を怠った⇒請求を一部認容。

①宅地を購入しようとする者にとっては100年単位の情報だけではなく、近接した時期に発生した浸水被害の状況に関する情報も契約締結の可否を決定する上で重要な情報であるということができる
②買主の原告らは、いずれも自宅を建築する目的で本件各土地の購入を検討していた⇒本件各土地の安全性には強い関心を有しており、そのことは被告においても十分認識可能
原告らが過去の水害の際の本件各土地の浸水状況を認識していれば、本件各土地を購入しない選択をした可能性も相当程度あったといえる上、購入するにしても、土地のかさ上げや水害に対応する保険への加入など、相応の浸水被害対策を高じる可能性が高かった

本件各土地の売主である被告には、本件各土地の売買契約に附随する信義則上の義務として、本件各土地を売却する際に、本件各土地に関する本件ハザードマップの内容について説明するのみならず、被告において把握していた本件各土地に関する近時の浸水被害状況や今後浸水被害が発生する可能性に関する情報について開示し、説明すべき義務を負っていた。

平成16年の台風による浸水被害の状況や、平成16年の台風と同程度の降雨の際に本件各土地で浸水被害が発生する可能性について原告らに説明しなかった被告に、本件各土地の売買契約に附随する信義則上の義務違反があった。
but
X4については、被告の担当者から本件ハザードマップを示され、3~5メートルの浸水被害が生じる恐れがあるとされる地区にあることを認識しながら、それ以上、質問をしたり、自ら調査したりすることなく売買契約を締結したことなどの落ち度が認められる。
3割の過失相殺

<解説>
最高裁:契約事者の一方当事者が当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かの判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、前記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことによって被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがある。(最高裁H23.4.22等)

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2021年8月 2日 (月)

預金口座に対する差押命令の一部取消しが認められた事例

大阪地裁R2.9.17

<事案>
YがXの第三債務者に対する預金債権(本件預金債権)を差し押さえた

XがYに対し、本件預金債権は、
Xが社会福祉法人法坂府社会福祉協議会から貸付けを受けた生活福祉資金及び勤務先からの給与を原資とするもの⇒民執法152条1項1号及び2号所定ないし性質上の差押禁止債権異当たる

本件預金債権が差し押さえられると申立人の生活が著しく困窮する

民執法153条1項に基づいて、本件預金債権に係る債権差押命令(本件差押命令)の取消しを求めた

<判断>
本件預金債権のうち1万6897円を超える部分に対する差押命令を取り消した。
差押え当時の本件預金債権の原資が、本件貸付金と債務者に支払われた給与であると認定した上で、債務者が学習塾に支払った金額を控除して、差押禁止部分を特定

<解説>
● 差押禁止債権である年金や労災保険金が受給者の預金口座に振り込まれると、受給者の金融機関に対する預金債権に転化してその一般財産となり、もはや差押禁止債権としての属性は失われ、年金や労災保険金が入金された預金債権に対する差押えは可能。

● 一方、民執法153条1項は、執行裁判所は、「債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して」差押命令の全部若しくは一部を取り消すことを認めている

裁判所:差押禁止債権が認められる趣旨が債務者の生活保障を確保するため⇒債務者側と債権者側の個別事情のバランスを考慮して範囲変更の可否を決する

差押禁止制度が債務者の生活保障、生活維持のための保護規定民執法153条1項において考慮されるべき債務者の生活状況とは、
現在の一般的な生活水準に比較して、債務者が差押えによって著しい支障を生じない程度の生活水準を確保し得るか否か」ということ。


認めた裁判例:
・債務者の生計費が統計上の生計費よりかなり低額⇒債務者が生計費を浪費しているとはいえない
・ 請求債権が債務者の父親の負った債務であり、相続放棄の効力について係争中であること、差押えが禁止される範囲が拡張された後も、債権者は債務者の給与から高額の返済を受けることができる
・年金を原資とするものと認めるのが相当

棄却した裁判例:
・扶養義務を負う子らがあり、債務者が年金と長男の援助により生計を立てているbut債権者の債権回収の前に債務者が預金口座から230万円を引出している⇒債務者に誠実性や任意履行の意思が欠如している。
債務者が差押え時の約2週間前に預金口座から100万円を引き出し、生計に関係しない費用に相当額を支出した


令和2年4月1日に施行された令和1年法律第2号による改正後の民執法:
・裁判所書記官が、差押命令を送達する際に、債務者に、差押金歳債権の範囲変更の申立てをすることができること等を教示(145条4項)
・差押債権が給与等の債権⇒取立権の発生までの期間が、債務者に差押命令が送達されてから原則4週間に伸長(155条2項)

本件:
前記改正後の民執法が施行された後に申し立てられた差押禁止債権の範囲変更(取消)事件について、合議体でされた決定

判例時報2481

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