長女を包丁で突き刺した行為について、原審殺人未遂⇒控訴審で心身喪失で無罪
広島高裁R2.9.1
<原審>
殺意をもって本件刺突行為に及んだとする被告人の捜査段階の供述の信用性に疑いを入れる余地はない⇒作為体験の存在を否定。
行為当時に作為体験が出現していたとする精神鑑定は前提条件を異にするものであって採用できない。
⇒
完全責任能力状態での殺人未遂
懲役2年6月(執行猶予4年)
<判断>
● 公判前整理手続の経過⇒本件の実質的争点は行為当時に作為体験が出現していたかどうか。
この点が(裁判員法)50条鑑定の鑑定事項において検討されるべき主題となっていたことは明らか。
● 行為当時の主観面(作為体験の存否)について、捜査段階と起訴後とで供述に変遷があり、鑑定にあたり、その信用性をどう評価するかは、事実認定における証拠評価と実質的に共通する作業。
but
その場合、鑑定人としては、対象者が精神症状があったかのように装う供述をする可能性が在ることも考慮し、一件資料のほか、鑑定面接、諸検査等により得られた幅広い情報を基礎にし、専門的知見に基づき、対象者の供述する内心等の状態が精神症状の現れと見て精神医学的に矛盾はないか等の観点から供述の信用性を慎重に吟味する必要があり、その検討作業は正に鑑定の本分に属することである。
その際に、鑑定人が検討の基礎に置くべき資料を考慮せず、供述の信用性評価の前提となる事実関係の認識に誤りがあったというようなj場合には、鑑定の合理性が否定されることはあり得るが、そのような事情がなく、判断過程に不合理な点がない限り、鑑定は基本的に尊重されるべきもの。
本件の精神鑑定の判断過程に不合理な点は見当たらない。
・・・・行為時に作為体験があったとする精神鑑定及び起訴後の供述の信用性を排斥できない。
<解説>
責任能力判断の前提となる精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について、精神医学者の鑑定意見等が証拠となっている場合における裁判所の判断の在り方:最高裁H20.4.25:
生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については、その診断が臨床精神医学の本分であることにかんがみれば、専門家たる精神医学者の違憲が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正や能力に疑いが生じたり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分に尊重して認定すべきものというべきである。
「その意見を十分に尊重して認定すべき」事項の範囲については、
①被告人の精神障害の有無・内容
②精神障害が犯行に与えた影響の有無・程度、影響の仕方(機序)
とされている。
判例時報2477
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